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遺産相続したら魔界で爵位まで継承しちゃった件  作者: 桜
【第一章】 財政再建 編 
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マッカル高原

 『ダン様、お下がりください!』ロブストの野太い声が叫く。

 ロブストが巨大な戦斧を振り上げて前に飛び出すと同時に、アジリスがオレの前に体を入れ替えた。


 身の丈ほどもあろうかという巨大な戦斧を一気に振り下ろす。

 目の前に現れたエントマの幼体が押し潰されるように真っ二つに切り捨てられた。

 すぐそばの草陰からもう一匹。咆哮とともにロブストが横から凪払う。


 エントマの幼体の先端部分が吹き飛び通りに転がる。

 頭部を失ったエントマの幼体は緑色の液体を吹き出しすぐに動かなくなった。

 何と凄まじい攻撃だ。オレは初めて見るエントマではなくロブストの攻撃にビビった。

 やがて二つの残骸は形の崩れたゼリーのようにドロドロになり消え去った。


 エントマの幼体が姿を消した跡に何か輝くものが落ちている。

 魔生石だ。白色の魔生石ましょうせきがそれぞれの場所に一個ずつ。

 オレは白色の魔生石を拾い上げインフィニティーバッグに入れた。

 よし。とりあえずこれで討伐に参戦したという証を手に入れた。


 オレたちは再び隊列を組んで道を進んだ。

 そう言えば何気にアジリスのヤツはオレの前に出てきてたな。

 アイツのせいで迫力あるロブストの戦いっぷりが見にくかったじゃないか。まったく。

 

 しばらくすると道が開け一面に広がるアルベラ園地にたどり着いた。

 兵士たちの怒号とエントマたちの奇声。そこは園地と言うよりそこは戦場だ。

 そこかしこで兵士たちがエントマと戦っていた。


 「ロブストさん、とりあえずあまり危険じゃなさそうな位置まで移動しましょう」

 「中央のアルベラの林付近から右手は混戦となっているようですので、左端へ向かおうと思います」

 「わかりました。お願いします」


 隊列を保ちながら少しずつ左端へ向けて進む。

 『ダン様』後ろからアジリスがオレの名を呼ぶ。何だよまったく。

 振り返るといきなりアジリスがオレを押しのけるように前へ出る。

 コイツ、また。


 『ダン様、来ます!』ロブストが叫ぶのとほぼ同時に、前方の茂みからけたたましい羽音とともにエントマの成体が飛び立つ。出た。今度は成体だ。たしか斬翅きりばねを持ってるって図鑑に。でも、斬翅って何だ。エントマがそのままこちらへ向かって飛んで来る。


 『アジリス!』ロブストが叫ぶ。

 突然、アジリスがオレを押し倒した。

 な、何するんだコイツ。


 ブオォォォォンッ! 

 エントマが通り過ぎた跡に生えていた草が、まるで刃物で刈り取られたように宙に舞う。

 

 「な、何だありゃあ!?」

 「ダン様、エントマの飛行軌道上は危険です!」


 ロブストの重低音が響く。あれが斬翅なのか。


 『起動』

 「うっ」

 

 身の危険を感じたオレは咄嗟に殻魔装を起動させた。身の危険を感じていても思わず声が出る。

 エントマが空中を旋回し、まるでチェーンソーのエンジンのようなけたたましい音を立てながら、再びこちらへ向かって来る。ロブストが戦斧を両手で振りかぶる。しかし、巨大な斧で空中を飛び回るエントマを斬り付けるのは難しい。オレは左手を突き出し狙いを定める。


 エントマは上下左右に揺れながらもの凄い勢いで接近してくる。

 

 『魔法のマジックアロー


 しかし、魔法のマジックアローはエントマには掠りもせずに空へと消える。

 ダメだあんなに的が動いたら当たる気がしない。それでもエントマはいきなり放たれた魔法に警戒を強めるかのように、空高くに舞い上がりオレたちの戦力を見極めるかのように上空を旋回する。


 『魔法のマジックアロー

 『魔法のマジックアロー

 

 上空に向かって魔法を連射するが、これだけ離れているとまったく意味がない。 

 怒りを漲らせるエントマがオレに狙いを定め急降下して向かってきた。

 魔法の無駄打ちは意味がないどころかエントマの逆鱗に触れたようだ。

 

 もしくは単純に三人の中でオレが一番弱い獲物だと判断したのかも知れない。

 その時、アジリスがオレの前に立ち上がり両腕を交差するようにナイフを構えた。

 コイツもしかして。アジリスは少し腰を落としゆっくりと数歩前へと進む。


 エントマの鋭い斬翅は普段は頑丈な上翅の下に隠れている。

 飛び上がる際に鎧のような上翅が開くと、その下から刃物のよに鋭い斬翅が姿を現わす。

 その斬翅を高速で振動させることで触れる物をズタズタに切り裂くのだ。


 突然、アジリスがエントマへ向かって駆け出した。すれ違いざまに体をひねって斬翅の攻撃を片方のナイフでかわしながら、エントマの腹部にもう一方のナイフを突き立てた。


 上手い。硬い殻のない腹部ならあの小さなナイフでも何とかなる。エントマはそのままバランスを崩して落下し、バタバタと羽音を立てながら地上を暴れ回る。


 巨大な戦斧がその一瞬を捉える。

 ロブストの無慈悲な一撃がエントマの硬い装甲を打ち砕き頭部を粉砕した。

 ひっくり返り緑の液体を流すエントマの六本の足がピクピクと動く。

 だが、もはやエントマに意識はない。脊髄反射だ。

 

 やがて完全に動きが止まるとドロドロに溶けて消え去った。

 エントマが消え去った跡には黄色に輝く魔生石があった。魔生石は白色だけじゃないのか。

 オレはそれを拾い上げてインフィニティーバッグに入れる。

 魔生石集めならオレに任せておけ。


 「ダン様、おケガはありませんか?」

 「はい。アジリスのおかげで大丈夫でした。ありがとうアジリス」


 ロブストがオレを心配したように問いかけた。

 アジリスのお陰で助かった。礼を言うと小さく『いえ……』とだけ答えるとナイフについたエントマの体液を拭う。どうやらアジリスを見くびっていたようだ。あの動きは訓練された兵士のそれだ。

 

 「アジリスはまだ若いですがうちのエースであります」


 ロブストが笑顔でそう言うと、アジリスはバツが悪そうに背を向けた。

 無愛想なヤツだと思っていたが、ただの恥ずかしがり屋なのか。

 いずれにしろ腕はたしかだ。


 「よろしければ次の獲物を狩りに向かいますが?」

 「ああ。大丈夫です。行きましょう」


 『位置表示』


 オレは殻魔装の位置表示を使い園地の地形を割り出す。かなり広大なL字型の地形だ。

 その先に細い道があり再び広いエリアにつながっているようだ。

 隊列を整えてとりあえずL字型の直角部分を目指して左端に添って進む。


 オレの後をついてただ歩いているだけかと思われたアジリスは、よく見ると常に周囲に注意を払っているのがわかる。思い起こすと魔物が現れた際にはいち早くその存在に気付いていたようにも思える。

 コイツは見た目によらず何気にすごいヤツなのかも知れない。


 他の兵士たちに目をやると五人程度でひと固まりになって戦っている。

 いかに魔物相手とはいえ集団で取り囲めば何とかなるということか。


 それにしてもさっきのエントマの成体はヤバかった。

 動きが早くて魔法を命中させるのはかなり難しい。次に現れたらどう対処するべきか。

 ファイヤーブレードを使うにはかなり接近する必要がある。それはマズイ。

 一瞬でも動きを止めることができれば何とかなるのだが。


 考える間もなく草むらからエントマの幼体が姿を現す。

 幼体が一匹なら問題ない。オレは即座に狙いを定め魔法のマジックアローを放つ。

 今度は命中した。幼体は苦しそうに体をくねらせるがその動きは止まらない。どうやら魔法のマジックアロー一発では仕留めることができないようだ。すぐにロブストが戦斧の一撃でとどめをを刺す。

 倒した跡に白色の魔生石を見付けた。どうやら幼体は決まって白色の魔生石を出すようだ。


 その後オレたちはエントマに出会うことなく目的のL字型の直角部分まで到達した。

 

 「よう。あんたら今来たとこかい?」


 近くでエントマの幼体に細身の両手剣を突き立てる中背の男が話し掛けてきた。

 革製の帽子からはみ出した赤毛と大きめの瞳。少し尖った耳の先とやや長い腕に大きな手足。

 どことなく料理人のエッセンに似ている。

 

 「はい。そうです。そっちは?」

 「昨日の夕刻から参加してる。オレはジルコだ。今は一人だからこのへんでコツコツと狩ってんだ」


 たしか一人称は『オレ』だったはずだが、ジル子ってことは女子なのか。

 一人ということは賞金稼ぎだろうか。いずれにしろ腕には自信があるのだろう。

 兵士たちのほとんどが全身鎧に身を包む中でかなり軽装だ。


 『オレはダンです。それと、連れのロブストとアジリスです』答えながらジルコの内容を覗き見る。


 名称:ジルコ

 レベル:25

 性別:♂

 状態:良

 種族:ホビット

 職業:魔法剣士

 魔法属性:火


 なんだジルコか。男子じゃねえか。まぎらわしい名前だ。

 どことなくエッセンに似てると思ったらやはりホビットだ。

 それにしても『魔法剣士』なんて『職業』があるのか。

 名前に似合わず何てカッコイイんだ。うらやましい。


 「上の農園は気を付けたほうがいいぞ。今朝方に一度、朱色のが出たらしい」

 「何と!?」


 思わずロブストが声を上げる。朱色とは図鑑の中にあった変異体のことだろうか。

 図鑑にもヤバそうな説明が書かれていた気がするが、ロブストの驚きようからすると本当にヤバイ魔物なのだろう。これはあまり先へ進むのは避けるべきだ。


 「貴重な情報をありがとう、ジルコ。魔法剣士って始めて見るよ」

 「ダンって言ったな? よくオレが魔法剣士だてわかったな」

 「まあ、あれだ。その、装備とかで?」

 「なるほど。わりと見る目があるんだな」


 いや。オレに見る目はない。

 あるとすれば殻魔装の性能的ものだ。


 「ところで魔法剣士ってのはどんな戦い方をするの?」

 「ちょうどいい。特別に見せてやるよ。ちょっと下がってな」


 そう言うと、間もなく草むらからけたたましい音を立ててエントマの成体が現れた。

 ジルコはまったく怯むことなくエントマを眺めている。


 あんなに余裕かましてるけど、アイツ本当に大丈夫なのか。

 エントマは空中に静止しジルコとオレたちを物色するかのように見下ろす。

 

 『火球ファイヤーボール

 

 そこへいきなりジルコが魔法を放った。火球ファイヤーボールはギリギリのところで避けられ、エントマが明らかな敵意を向けるようにジルコに向き直り一段と翅音を大きくする。勢いをつけるかのようにわずかに体を空中で上昇したかと思うと一気にジルコに飛び掛かった。


 一瞬、ジルコの口元に笑みが浮かんだ気がした。

 こんな窮地にそんなはずはない。オレの見間違いだ。

 しかし、ジルコは取り乱すことなく細身の長剣を逆手に持つとそのまま地面に突き刺した。


 エントマの斬翅があと2メートルほどでジルコに届くかというところまで迫った矢先に、突然、見えない壁にでも弾き飛ばされたように空中で吹っ飛び地面に転がった。

 何が起きたんだ。ジルコはその一瞬を見逃さず、ひっくり返ったエントマに冷静に駆け寄って腹部に剣を突き立てた。次第にエントマのもがく脚が鈍くなり、やがて完全に動きが止まった。


 「こんな感じ。まあ、いつも上手くいくわけじゃないけど、今のは良かったろ?」


 笑みを浮かべながら事もなげにジルコが言う。


 「素晴らしい腕前でありますな、ダン様」

 「あ、ああ。なかなかのもんだ」


 ロブストに適当に合わせて答えたものの、正直なところオレには何が起こったのか理解できていない。いずれにしろ危なげなく一人でエントマの成体を討伐する腕前は本物だ。


 「何かの魔法効果が付与された剣とお見受けしましたが?」

 「一目でわかるなんて、おじさんもやるね。『風系魔法』の一種さ。父の形見の剣なんだ」

 

 あの両手剣に風系魔法の効果が付与されているのか。

 いきなりエントマが空中で吹き飛んだあれがそうなのだろうか。

 いいな。あの剣。欲しい。


 「オレは一旦、街まで降りて休憩するよ。それじゃダン、幸運を祈るよ」

 「ああ。ジルコ。また会おう」


 あれが魔法剣士の戦い方か。何かカッコイイな。

 あれ。さっきのジルコの動きって前にもどこかで見たような。

 気のせいか。

 

読んでいただきありがとうございます。


ルビが上手く使いこなせていないようです。

読み辛くてご迷惑をお掛けいたします。

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