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遺産相続したら魔界で爵位まで継承しちゃった件  作者: 桜
【第一章】 財政再建 編 
11/33

自己紹介

 「ダン様、そろそろ食堂に集合するお時間となりますが?」


 いけない。話に夢中になりすぎて集合時間のことを忘れていた。

 バランの言葉で話しを切り上げて皆で書斎をあとにする。

 ポルチにグロウスを迎えに行かせ、オレとバランは集合場所の食堂へと向かった。


 食堂に着くとまだ予定前だったが既に全員が集まっていた。

 オレは定位置のように大きく重厚な作りのお誕生日席へ座る。

 オレから見て右手の席にはメルとリリイ、エッセン、ポルチ。左手の席に兵士二名、そしてオレのすぐ近くにバラン。グロウスにはオレの斜め後ろに立って控えてもらう。こうして見るとまだオレも名前の知らない者がいる。ちょうど良い機会だ。グロウスへの紹介も兼ねて一人ずつ自己紹介をしてもらいことにした。

 

 ところが魔界には自己紹介という習慣がないらしく戸惑った様子を見せる。

 仕方がないここはオレがビシッと決めてやるか。


 「えーと、皆さんお疲れ様です。改めて自己紹介いたします。ロックランド領主の亜門ダンです。万年彼女募集中の二十歳です。このたび父の遺産を相続することでロックランドの領主となりました。まだまだ不慣れな領主ですがこれからもよろしくお願いします」


 反応なし。強烈な沈黙が訪れる。


 「あ、あの、言い忘れましたが各自が自己紹介をし終えたら、拍手をお願いします……」


 部屋の中に『なるほど』『そういうことか』などと納得の声が上がり、今更ながらまばらな拍手がおこる。皆も少なからずオレの挨拶後の沈黙には疑問を感じていたようだ。ああ怖かった。滑べりまくったと思った。右手の奥から『オイラもそうだと思ったんスよ』という声が聞こえた気がしたが無視しておこう。


 ここはまずバランから初めてもらうことで皆にも慣れてもらう。


 「皆さんご機嫌よう。執事のバランドルズでございます。先々代のご主人様よりお仕えし現在は121歳になります。あとはダン様のために種族もお伝えしておきましょうか、私は魔族でございます。ダン様とロックランドのために老体に鞭を打ちまだまだご奉公させていただきたいと思っております。皆さんこれからもよろしくお願いいたします」


 完璧な自己紹介だ。すんなりと拍手がおこる。まるでオレの自己紹介がなかったかのような手本となった。こんなことなら最初にバランにやってもらうんだった。それにしても121歳って。魔族の平均寿命はいったい何歳なんだろうか。


 続いてひと際体格が良く灰色のゴツゴツした肌が特徴的な兵士が立ち上がる。

 鼻と一体化するように顔の中央から立派な角が突き立つ。

 鎧についた細かな傷が歴戦の戦闘を物語る。

 

 「自分は兵士長のロブスト。37歳の獣人族であります。ダン様がお屋敷にいらした際には任務についていたためお初にお目にかかります。兵士たち一同、ダン様が領主となられるのを心待ちにしておりました。この命に代えてもロックランドとダン様をお守りする所存であります」


 名称:ロブスト

 レベル:37

 性別:♂

 状態:良

 種族:獣人族ライカンスロープ

 職業:兵士長

 魔法属性:防御・剣技


 ロブストの見た目通りのゴツイ重低音の声が食堂に響く。

 獣人族という種族は初めて見た。『魔法属性』が二つもある。流石は兵士長だ。


 続いてロブストの隣に座る兵士が立ち上がる。彼自身が小柄なわけではないのだが、岩のようなロブストの隣に座ると華奢に見えてしまう。


 「自分は兵士のレジンであります。18歳の魔族であります。自分もダン様にはお初にお目にかかります。この命、ダン様とロックランドに捧げる所存であります」


 名称:レジン

 レベル:18

 性別:♂

 状態:良

 種族:魔族

 職業:兵士

 魔法属性:剣技


 まだ若いのにしったりした印象がある。

 それにしても兵士たちの挨拶は堅苦しい。真面目に頑張ってくれているのは十分に伝わるのだが、『命に代えても』とか『命を捧げる』とかそんな物々しいことを言われると正直ちょっと重い。


 続いてオレの視線に気付き右手に座るにメルが慌てて立ち上がる。透き通るような肌にはほんのりと朱がさしている。少し緊張した様子でモジモジとうつむき加減の顔もまた可愛い。


 「あ、あの、皆さまご機嫌よう。メイドをさせていただいておりますメルティアでございます。19歳の魔族でございます。ダン様とお屋敷の中のお世話をさせていただいております。これからもよろしくお願いいたします」 


 名称:メルティア

 レベル:19

 性別:♀

 状態:良好

 種族:魔族

 職業:メイド

 魔法属性:裁縫


 メルも魔族なのか。裁縫が得意だと自ら言っていただけに『魔法属性』は『裁縫』になっている。こうして見ると魔界では魔族がもっとも人間に違い外見をしている気がする。このまま一つ屋根の下で過ごす時間が長くなればメルとの親密度も必然的に上がるはず。そして、ゆくゆくはあんなことやこんなことも。い、いかん。思わず妄想の国の旅人と化していた。


 続いてリリイが立ち上がる。スーパーモデルを思わせる長身のリリイが立ち上がると、メルとの身長差は頭ひとつぶん以上ある。たぶんオレよりも高いはずだ。


 「皆さまご機嫌よう。メイドをさせていただいておりますリリイでございます。17歳のダークエルフでございます。ご用があればいつでもお気軽にお声をおかけください。これからもよろしくお願いいたします」 


 名称:リリイ

 レベル:17

 性別:♀

 状態:良好

 種族:ダークエルフ

 職業:メイド

 魔法属性:火


 何よりもまずリリイが年下だということに驚いた。それもメルより年下だとは。しかも、ポルチと同い年とは信じられない。

 ダークエルフという種族も初めてだ。おまけに『魔法属性』が『火』というのも意外だった。メイドでも攻撃呪文を使うことがあるのだろうか。ミステリアスな魅力を持つリリイらしいミステリアスな内容だ。


 続いてエッセンが立ち上がる。エッセンの内容はついさっき覗いたばかりなので変化はないが、『状態』が『緊張』ではなく『良』になっていた。書斎に呼び出された時にはよほど緊張したのだろう。可愛そうなことをした。


 「皆さんお勤めお疲れ様でございます。料理人のエッセンでございます。29歳のホビットでございます。私は料理以外はあまりお役に立てることはないかと思いますが、これからもどうぞよろしくお願いいたします」


 エッセンは控え目な性格ながらオレが父の跡を継ぐまで、少ない食費をやり繰りしながらロックランドの食を守りぬいた陰の功労者陰だ。実際にオレがこれまで屋敷で口にした食事はどれも申し分のないものだった。少ない食費であれだけの料理を準備するには彼の『魔法属性』である『調理』が関わっているのかもしれないが、それ以上に工夫と料理の腕前によるところも大きいだろう。


 続いてポルチが勢いよく立ち上がる。立っているのに座っているリリイと身長が変わらない。


 「お疲れさまっス。このたび農園管理人に任命されましたポルチっス。15歳のオークっス。皆さんよろしくっス」


 名称:ポルチ

 レベル:17

 性別:♂

 状態:空腹

 種族:オーク

 職業:農園管理人

 魔法属性:食餌


 あの馬鹿。オレが皆に農園の計画を話す前にいきなり農園管理人なんて言い出すもんだから、バランとエッセン以外の者たちの頭の上にクエスチョンマークが浮かんでるじゃねえか。しかも、ご丁寧に『職業』まで既に『農園管理人』になっている。もう、こうなったら仕方ない。


 「えーと、今ポルチが言った農園というのはオレの案です。これからその案について説明したいと思います」


 皆の視線が一気にオレに向けられる。


 「近いうちにロックランドの東部地区に農園を作りたいと考えています。今のところ栽培予定は岩石芋とアルベラです。この計画の担当者にポルチを任命しました。これはまだ実験段階ですが成功すれば有効な食料調達手段となるはずです。」


 周囲から納得の声が漏れ聞こえる。

 この案に賛成の者が多いようでひとまず安心した。


 「順序が逆になってしまいましたが、皆さんにわざわざ集まってもらったのには二つ理由があります。まず、一つ目はオレが父の跡を継ぐまでこのロックランドを守り、苦しい経済状況の中でやり繰りしてくれたことに対する感謝の気持ちを伝えたかったからです。本当にありがとうございます。まだまだ頼りない領主ですが精一杯やってみます。これからもどうかよろしくお願いします!」


 皆に向かって深々と頭を下げるとどよめきが起こる。オレに対する非難ではなく、領主であるオレが皆に頭を下げたことに対する驚きのようだ。

 その後に一拍遅れて大きな拍手がおこった。

 


 「それと、もう一つ。突然なんですが今日からロックランドに新しい仲間が増えることになりました。サイクロプスのグロウスです」


 『皆に挨拶してくれ』グロウスに前へ出るように促す。


 「皆さんはずめまして。オデはグロウスと申します。このたびダン様に拾っていただきました。皆さんにご迷惑ばかけませんように一生懸命に働ぎます。よろすくおねげえします」


 歓迎の拍手がおこる。オレへ向けられたものと同等の大きな拍手だ。

 正直、ホッとした。グロウスの挨拶の瞬間は自分の挨拶よりも緊張した。

 食堂に入った瞬間から皆の目がグロウスに向いていたことは気付いていた。

 見知らぬ者が領主の後ろに控えているのだから無理もない。

 それに財政難だと知りながら人手を増やしたことへの矛先が、オレではなく新入りのグロウスに向くのではないかという心配があった。


 「グロウスには怪我がよくなり次第、しばらくはポルチと一緒に農園管理の業務をお願いしたいと思っている。皆どうか仲良くしてやってほしい」


読んでいただきありがとうございます。

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