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ノーリグレット!  作者: 田中一義
#10 悪童レオン伝説
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マティアス対ロビン

「悪童のエピソードが、早速、追加されたようですよ。

 迸る炎の剣を操ってバッタバッタと人を焼き殺す――そうで」

「火天じゃあるめえし……」

「火天? 火天と言えば、火天フェオドール……でしたか? 盗賊の。

 火の魔法に長けた、とんでもない強さの人物と聞いていましたが、今流れている話だと確かに少々、似通うところがありますね」


 こいつはほんとに博識だな。

 


 無事に8回戦をも突破した。残すは準決勝と、決勝戦。

 下克上を果たそうとするやつや、俺への溜まった恨みを晴らそうとするやつがいっぱいいて、リアンの試合後からは魔力を拡散するガシュフォースを付け焼き刃で覚えようとするやつがいた。だが、そう簡単に覚えられるわけでもないらしく、不発したところを一撃で仕留めていった。

 ヘタに時間を与えて成功させないための立派な作戦だが、相変わらずブーイングは鳴り止まなかった。


 まだマティアスもロビンも勝ち残っているから、この調子なら決勝で2人のどっちかと戦うことになりそうだ。



「んで、リアンは自分を負かした俺とランチしながらあっさり喋ってても平気なのか?」

「おや、一体何を心配されているのでしょう?

 全力を尽くしても勝てなかっただけなんですから、悔しがるとしても筋違いの怒りなどを向けたりはしませんよ」

「……そうかよ。ま、そうだよな、リアンだし」

「ええ、わたしですから」



 フェオドールの長剣は、リアンが教えてくれた悪童の噂とは違ってまだ1回しか使っていない。

 どうやらリアンは俺が一度だけ魔法を使った、という話を聞いていたようで、その対策もして臨んだということだった。2年の時に一度だけしか使ってない――というか、使えていないのにそこまで計算に入れていたんだから恐れ入る。



「さて、いよいよ――マティアスとロビンの戦いになりそうですが、どう見ます?」

「どうだろうな。互いに手の内は知りつくしてるし……正直、どっちもどっちで、分かんねえや。リアンは?」

「わたしもどちら、とは言い難いですがロビンに分があるのではないかと思っています」

「へえ、何で?」

「勝敗を分けるポイントを3つに絞って考えました。

 第一点に魔法の実力、第二点に白兵戦闘能力の実力、第三に臨機応変な対応能力。

 魔法の実力は魔法士養成科にも在籍し、去年の魔法大会で準優勝したロビンに軍配が上がります。異論はないですね?」

「そりゃあな。マティアスは魔法もやるやつだけど、ロビンには劣る」

「第二点、白兵戦闘能力ですがこれでマティアスがリードするかと思いきや、ですよ。

 ロビンは獣人族ですし、観戦をしていても騎士養成科の相手に全く引けを取りませんでした」

「……確かに、あいつ、すげえんだよな。体のバネっつうか、瞬発力?」

「ええ。あれは驚異的です。さすがは獣人族と言えるでしょう。

 この種族的な運動能力はマティアスと白兵戦でも対等に渡り合えるのではないかと考えています。

 どころか、魔法と組み合わされば、これはグッと跳ね上がることになるでしょう。

 そして第三点、臨機応変に戦いに対応できるかどうか――ということですが、ここでマティアスはやっとロビンを上回ることができると思います。

 あくまでもロビンは魔法士として学院では学んできていますし、単なる戦闘経験だけならば飽きるほどわたし達はこなしてきました。

 ですから、三点挙げた内の二点でロビンが有利と判断し、彼の勝利に分があると考えました」

「……なるほど」



 魔法、接近戦、経験値。

 リアンの言うことももっともに聞こえる。



「でもリアン、そんなもんは小手先だろ」

「ほう? ではレオンは何が大切だと考えています?」

「ここだよ、ここ」


 握った拳で、その親指で自分の胸を叩いて見せる。



「意地だ」

「ふっ……ふふふ、なるほど!

 確かにそれは大切な要素でした、失念していましたが、そうなると……レオンはどっちだと思います?」



 マティアスは本気だ。

 ただただ、俺に勝つために剣闘大会へ臨んでいる。

 ギラギラした光がやつの瞳からは発せられているのを知っている。


 だがロビンだって、今回は自分から出場を決めた。

 争うことをあまり好まないロビンが、自分でそうしたいと思って参加しているのだ。

 一度そうと決めた以上、ロビンとて本気で臨んできているのは明白でもある。




「それこそ蓋を開けてみないと分かんねえよ。

 でも、どっちが勝ったっておかしくないとは思うぜ」

「それでは語り甲斐がないじゃないですか」

「まあ、そうなんだけど……」

「じゃあどっちに勝ってもらいたいですか?」

「ロビン」

「即答なんですね、そこは。その心は?」

「試合にかこつけてあいつの尻尾をもふり尽くす」

「……やってもいいですが、悪童レオン伝説にまた新たなエピソードが生まれますね。

 尻尾狂いの悪童、公衆の面前、権威ある剣闘大会の決勝の舞台で獣人族を辱める――とか」


 あ、ロビンにブチキレられるな、それ。

 半年くらいもふらせてくれなくなりそうなのは確実だ。



「つかそれじゃゴシップ記事だろ」

「あ、そうでしたね。まあでもレオンの逸話はほぼほぼゴシップじゃありませんか」

「そうかも知れないけど……でも何かそれは、ちょっとさあ? なあ?」

「気になりますよね」



 リアンが笑って、それから椅子を立った。


「では……そろそろ、見に行きましょうか。準決勝」

「おう」



 食堂を出て、修練場へ向かう。

 俺と歩くリアンは一緒に注目を集め、何やらひそひそ言われるのを面白がっていた。



「さてさて、わたしはどんな語り草になるのでしょうね」

「お前、もしかして……自分がそうなりたいからって俺と一緒にいる?」

「友達だからに決まっているじゃないですか、ハハハ」


 嘘つく時は分かりやすく言うんだよなあ、こいつ。




 修練場は超満員だ。座るところがないかと探したが、見つからなかったので最前列の欄干へ俺は腰掛けた。後ろから押されれば2、3メートルの高さを落ちることになるが、魔偽皮を使っておけばバカなことをするやつも引きずり降ろしてやれるだろう。


 やがて鐘が鳴る。予鈴だ。

 エジット教官が最初に出てきて、試合場に立つ。


 プロレスのような派手な登場パフォーマンスはない。

 教官が出てきてから、マティアスが静かに登場をしてきた。そして、ロビンも。



「マティアスー、ロビーン、がんばれよー!」



 手を上げて振って見せると、ロビンが俺を見て頷いた。

 一方のマティアスは一瞥して、それだけで終わりのようだ。気取りやがって。



「エールをもらってきましたが、飲みます?」


 ずいっと俺の前へリアンの手と、それに握られた樽ジョッキが出された。こぼれんばかりのエールが並々注がれている。


「サンキュ」

「では乾杯」


 軽く樽ジョッキをぶつけ合う。

 リアンは欄干に両腕を乗せ、身を乗り出すようにしながら観戦するようだ。



「マティアス・カノヴァス対ロビン・コルトーの試合を開始する。両者、構えろ」



 エジット教官が告げる。

 揃いで買ったアーバインの剣が構えられた。


 マティアスの剣は細身だ。

 一方のロビンは肉厚で幅も広い。



 小声で2人が何か言い合った。

 ガヤがうるさくて俺の耳には届かないが、ロビンの尻尾がピンと立ってからゆっくり弛緩していったのを見るに、思いがけない嬉しいことでも言われたんだろう。



「始めぇっ!!」



 エジット教官の合図。

 思いがけない光景が次の瞬間に広がった。


 突如としてロビンがアクアスフィアに飲み込まれたのだ。速攻。

 そして、マティアスが剣を振り下ろす。水球の中に囚われながらロビンは受けたが、同時に水球が弾けて強風がロビンを吹き飛ばす。舞台の端までロビンは転がっていき、身を持ち直す時にはマティアスが追いついていた。



 鈍い音がし、ロビンが蹴り飛ばされる。

 それで、試合は終わってしまった。



 ロビンの場外だ。

 ほんの30秒もなかった、あっという間の決着。



 誰もが目を疑っていたし、それが声にも漏れてどよめいていた。

 まだエールには乾杯した時の一口しか口をつけてもいないのに。



「試合終了、勝者、マティアス・カノヴァス!」



 その声で修練場が沸いた。

 マティアスが襟を正し、ロビンへ手を差し出して立ち上がらせる。


 それから、俺の方を向いて――剣を向けてきた。

 口元が動いている。



 ――決勝で待つ。



 そんなことを言っていそうな、自信に満ちあふれたマティアスの顔が目に焼き付いた。




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