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ノーリグレット!  作者: 田中一義
#45 ナターシャ
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魔技対魔技




 岩壁に引き戸のドアが取りつけられていた。

 黒髪の不死者を5人がかりで襲撃してふん縛り、いつか俺もロビンにつけられた魔法封じの魔法(ガシュフォース)の腕輪をはめてやった。不死者は殺したって死なない。だから無力化が面倒極まりなく、こんな措置をしなければならなかった。

 単独だったから良かったものの、こんなのがわらわらと出てきてしまったら同じことをすることはできない。


「こんなとこに入口があったのは知らなかったけど……まあ、どうにかなるだろ」

「適当だな、キミは」

「中はきっと繋がってるって。こっからが本番だ、行こうぜ」


 不死者を転がしておいて中に入る。

 やはり細い通路だ。コンクリートめいた密度が高い上に、硬くて冷たい素材で形成されている。天井には一定間隔で光源がついている。あやしい雰囲気を漂わせる緑色の光を発する、よく分からない苔みたいなものに見える。あるいは苔じゃないのかも知れないが、ほんのりと緑に光って照らしている。正直暗いし、窓も何もないコンクリもどきを打ちっぱなしの壁と床と天井が続いて閉塞感がある。



「おや、分かれ道になりましたか」

「どっちだ……?」


 通路をひた歩いていくと左右に分かれた。魔影を広げていくが途中で何かに遮られてしまい、先のことは分からない。ロビンの鼻でも怪しいのがどちらかなどは分からないようだ。


「二手に別れるか」

「僕とレオン、それにロビンとリアンとリュカでいいだろう」

「お前とかよ」

「じゃあキミが振り分けろ」

「……まあ、それでいいけど」


 マティアスなりに考えがあっての振り分けだろう。

 俺とリュカにはそれなりに魔法が得意なやつがいてくれた方が助かるし、ナターシャと合えばガシュフォースが有効だと伝えている。マティアスもリアンも、もちろんロビンもガシュフォースを使えるから、俺とリュカだけにならなければオーケーというような分け方になるのだ。


「それじゃあな」

「気をつけてくださいね」

「分かっているさ」

「ねえ、腹減った」

「一応持ってきてるから、これ食べていいよ」


 リュカとロビンにちょっと緊張感が足りない気がしたが、信用しておくことにした。

 マティアスと2人で通路を歩き出す。再び一本道で、何度か角を曲がると閉ざされているドアに出た。目配せをしてからドアノブに手をかける。マティアスも獲物に手を伸ばし、いつでも抜けるようにしている。ゆっくりとドアノブを回して開けた。



「やあ、久しぶりだね」


 室内を確認するより早く声がした。

 開け放ったドアの向こうに男の姿が見える。――シモンだ。いくぶん大人びたように見えたが顔つきも雰囲気も、そう変わったようには思えない。


「分かってたのかよ、来てるの」

「ナターシャが作った魔法道具でね、離れた場所が見えるんだ。すごいだろう? 暇潰しに見てたら見つけたのさ」

「転信版のようなものか……」


 シモンが石の板みたいなものをこちらへ見せた。映像がそこに映し出されている。監視カメラのような使い方でもしていたのだろうか。あんまり画質は良くなさそうだが、こんなもんまで作り出せるとは恐れ入る。


「レオン、こいつは……」

「ああ、魔技を使うだろうな」


 マティアスに小声で確認されて応える。こいつと出会った時はこうなるなんて思ってもいなかった。乗合馬車で俺の歌が好きになったとか言って、だから目をかけてやった――ってのはちと上から目線すぎるかも知れないが、とにかく、何の因果でこうなるもんだか。


「どうして、ここが分かったんだい?」

「秘密だ」

「そう……。でもナターシャをやりに来てるんだろう?」

「ああ」

「だったら……悲しいけど敵同士にならなくちゃいけなくなるね」


 シモンが腰から剣を引き抜いた。さらに腰の裏へ左手を回すと、円盾を持つ。剣と盾。オーソドックスな組み合わせだ。ディオニスメリアの騎士どもは魔法の使い手でもあるから盾は持たないのが一般的だ。盾で身を守るよりも、魔法で補助したり守ったりした方が楽ということなんだろう。

 ちなみに俺は魔法なんか使えないけど盾を持とうなんて考えたこともない。だって魔鎧で充分なんだもん。同様に、恐らく魔鎧なんてすでに習得しているであろうシモンが盾を持っているのは……何でだ? まあいいか。


「こちらに惜しむつもりはない。まかり通る」


 マティアスが剣を抜いて言い放つ。俺もニゲルコルヌを構えた。

 扉を開けたこの空間も、やたらに広い。槍を振り回したって余裕のゆとり空間だ。


「レオン、僕は彼女に協力する中で色々なことを知ったんだ。教えてもらった……って言った方がいいかも知れないけど」

「興味がねえな!」


 悠長に話し出そうとしたシモンを突き放し、飛び出す。ニゲルコルヌの一突きをシモンは円盾で受けた。俺もシモンも、魔鎧と魔纏を併用している。だが、魔鎧は元々の身体能力をさらに増強させられるものだ。魔鎧なしだろうがアホみたいに重い槍(ニゲルコルヌ)を振り回せるようになっている俺のパワーをそう簡単に受け止められるはずがない。


 力ずくでシモンを押し込み、吹っ飛ばす。

 俺の頭上をマティアスが跳び、シモンに剣を振り下ろした。体勢を戻しながらシモンは剣でそれを受けたが、同時にシモンの足元が盛り上がった。かと思うと巨大な岩の棘がシモンを突き飛ばし、まともにマティアスの剣が入る。


「ぐっ――」

「悪く思うな」


 穂先をシモンに向け、アンチマテリアル魔弾を放つ。

 舞い散っているシモンの鮮血を魔弾が吹っ飛ばしたのが目に見えた。腕を引いてシモンは円盾で魔弾を防いだ。魔纏をかけていたにも関わらず、円盾は木っ端みじんに吹き飛ばされ、同時にシモンも後方へと激しく飛んでいった。


 もうちょいだったのに、盾で防ぎやがるとは。

 だが、こいつは俺とマティアスを止められるほどの実力じゃない。焦らず確実に、次で仕留めればそれで済む。



「やっぱり……強いなあ」

「大人しくした方が痛くねえと思うぞ」

「ところでさ……誰が魔技を考えたか知ってるかい?」

「あ?」


 誰が魔技を考えたか?

 本には著者名が載ってなかったはずだ。


「耳を貸すな、レオン」

「へいへい、分かってますよ」

「驚かないで聞いておくれ、ナターシャだったのさ」

「は?」


 嘘だろ。いや、あながち嘘とも言いづらい。

 何せ、やつは元の世界に帰る方法まで見つけたほどだ。それでいてキメラだの、不死者だのも作ってて、転移の扉なんかも知ってて。だが、それが今さら何だということだろう。


「関係ねえな」

「元々は別の研究をしている時に編み出したそうだよ。けれど、彼女は魔技が魔力容量を増大させることに気がついて、それを普及させようとして本にしたらしい。魔技が使えれば、それは常人を凌ぐ魔力容量を持つことになる。そこからカルディアを作れる……ってね」


 筋は通る――気がする。

 リュカも、未来のフィリアもとんでもない魔力の持ち主になって、そのせいで心臓を狙われた。


「まあ……それはいいんだけど、カルディアにする時、あまり抵抗をされても面倒だっていうんで本に載せなかったような魔技もそこそこあるんだ。僕はそれを教えてもらったんだ」

「俺だって、本にはねえのを多少は自分で編み出したっての」

「じゃあさ、どっちが上か試してみないかい? 教わったのはいいけれど、あまり使う機会ってなかったのさ。まあ――嫌って言っても、勝手にやらせてもらうだけなんだけれどね!」


 シモンが手にしていた剣を床に突き刺した。瞬間、足元から何かが飛び出てきて俺とマティアスに浴びせられる。(つぶて)のような、しかし鋭い、無数の矢尻のようだった。それも魔力で形成されて目には見えないというオマケつきの。



「ぐおおっ!?」

「マティアス!?」


 魔鎧で俺はやり過ごせたが、マティアスはまともに食らった。体の正面を食い破られたかのように血を噴き出しながら倒れていく。


「――よそ見してていいのかい?」


 シモンの声。距離があるのに、剣を振るっている。ニゲルコルヌを持ち上げれば、やはり衝撃がぶつかってくる。魔伸か。払いのけようとしたが、ニゲルコルヌに何かが引っかかっているような感覚がした。シモンが床を蹴ると一気に迫ってくる。魔伸で攻撃したように見せかけて、かぎ爪のようなものを魔力で形成してニゲルコルヌに引っかけた。それを俺が魔縛でよくやるように短くして、自分を引っ張らせて移動する。


 そこまでは分かったが、そうしたという理解に精一杯で行動が遅れる。

 指を開いたシモンの左手が振られ、それが俺の魔鎧を切り裂く。魔鉤か。体感ではついこの前、俺が編み出したと思っている新技なのに。


「クソっ!」


 すれ違う。ニゲルコルヌを振るって距離を取らせる。

 魔鉤で右肩をやられたが、幸い、まだ傷は浅い。今さらだが、魔技ってズルじゃねえかと思う。今までは俺がやってきたことだし、その分魔法は使えないんだからいいだろうと開き直ってきたが――やっぱ、ズルかったのかも知れない。


 マティアスは傷を負ったが、まだ大丈夫そうに見える。目で下がってろと指示する。ナターシャの前哨戦には丁度いい。もし、本当にナターシャが魔技を編み出したんなら、やつ自身も使えるんだろう。加えて魔法もめちゃくちゃに使える。そりゃあちょっと最強ってもんじゃないかとも思える。――が、負けてやるつもりは毛頭ない。正面からシモンを倒すことができなきゃ、ナターシャにも勝てないってことだ。



「手加減してやらねえぞ?」

「望むところさ」


 一呼吸し、シモンを見据える。

 ゆっくりと、少しだけ、腰を落とす。手の中でニゲルコルヌを握り直す。床を蹴り、足を踏み出す。シモンも同時に動き出していた。

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