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ノーリグレット!  作者: 田中一義
#43 未来を取り戻せ
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知ってた気持ち







「お父さ――ごほんっ……え、エンセーラム王、お帰りなさい」



 大人フィリアが、お父さんと呼んでくれない……だと!?

 アーチをくぐったところにフィリアがいて、絶句してしまった。


「レオン、本当に……そんなところから出てきたのか……?」

「あれ、マティアス? ……マティアス……」

「どうした?」

「マティアース!!」


 何でかマティアスごときに嬉しくなってしまって、抱き締めた。


「やめろ、気色が悪いぞっ!? 僕には尻尾などな――」

「コブラツイストォォッ!」

「痛たたたたっ! 痛いっ、レオンっ!? レオオオオオンッ!!!」


 途中で俺も気色悪くなったから、照れ隠しのコブラツイストに変更しておいた。

 気が済んだところで解放してから、何やら引いた目をしていた大人フィリアに向き直る。



「フィリ――もごっ」

「……フェーミナ」

「……何で?」


 口を塞がれて訂正されたので尋ねてみたが、ちらちらっとマティアスに目を向けている。


 ふむ……。

 あれか、未来から来たのは内緒っていう設定か?


 そうか、だから俺のことお父さんって言ってくれなかったわけか。

 なるほど、なるへそ、そうした方がいいのか。分かったぜ、娘よ。


「じゃあ改めて……」

「別に荒めなくても――」

「フェーミナっ!!」


 抱き締めた。

 もうチビな体じゃないから、すっぽり大人フィリアを抱き込める。若干抵抗されたが、放さないでおいたら抵抗の力も緩んだ。



「それよりもっ……」

「何だよ、それよりってぇ……俺もう、お前がいてくれただけで……やべ、泣きそう……」

「この祠を破壊すれば……ナターシャが、これを使ってここへ来ることを、防げる……」

「そうか、そうだな――って、どうなったんだ、ナターシャはっ?」

「それより破壊が先。……壊しても、いいんでしょ?」

「……そう、だな」


 祠を出ると、フィリアが魔法を使って盛大にぶっ壊した。

 それから中を見たが、アーチは全て砕けていて、水のように張っていたものもなくなっていた。試しに残骸に身をくぐらせてみたが、どこかへ出るということもなかった。



「エノラは無事か?」

「ああ、無事だ……」

「何でマティアスが?」

「僕が王宮に行ってやったんだ」


 若干イラつかれた。


「ありがとよ」

「彼女……フェーミナだったか。フェーミナによればナターシャはここからどこかへ逃げた、ということだ」

「ちっちゃいフィリアも、無事だよな?」

「ちっちゃい?」

「あ、や、ちっちゃくて天使なフィリアだよっ!」

「何故そこで怒るんだ……? 無事だ」

「ディーはっ?」

「僕が見た時は、まだ顔を赤くしていたが……。今は僕の家だ」


 大人フィリアと顔を見合わせるが早く、2人でマティアスを置き去りにして転移した。

 いきなり現れた俺達にイザークが剣を抜きかけたが、顔を見て剣から手を放した。



「エノラっ……!」

「レオンハルト……どうして、いきなり――むぐっ」


 抱き締めた。

 ああ、エノラだ。

 間違いなくエノラで、エノラだ。

 エノラって何だろうか。これは哲学だな。

 いや、答えはひとつ――俺の愛するお嫁様だ。


「フィリアっ……フィリアぁっ!!」

「っ……」


 ちっちゃいフィリアも見て、そのかわいらしさに思わず口元が緩んだ。抱き締めようとしたが、エノラを盾にするように逃げられる。寂しくなって大人フィリアを見たが、俺のことなどそっちのけでソファーに横たえられて毛布をかけられていたディーの傍でしゃがんでいた。



「ディーっ……ディーは、エノラ? ディーはどうなんだ?」

「少し前に、ちょっと楽そうになったように見えた。……アイナは?」

「倒した」

「……そう……ありがとう、レオンハルト……」


 エノラの方から、頭を俺につけてきた。腕を回して抱き締める。

 それから大人フィリアを見ると、ちっちゃい方のフィリアもディーの顔を覗き込んでいた。


「フィ――フェーミナ」


 呼びかける。

 だがこっちを向かなかった。

 不思議そうな顔をしてフィリアが大人フィリアを見た。



「……良かった……本当に……」


 やがてか細い声で、しゃくり上げながら大人フィリアが呟く。

 エノラが俺を見つめて、それから大人フィリアにそっと近づいた。



「あなたが何者かは知らないけれど、レオンハルトを助けてくれたのだと思う」

「っ……」

「どうもありがとう。感謝している」


 後ろから覆い被さるようにしてエノラが大人フィリアを抱き締めた。

 泣くのを我慢していたようにすすり上げていた大人フィリアが、とうとう本格的に泣き出してしまった。声は上げずに、ぽろぽろと涙をこぼしながらエノラにすがって泣いていた。変な顔もせずに、エノラは大人フィリアをやさしく抱き締めていた。


 何故かマノンがもらい泣きしていたが、触れずにおいた。



 これで戦略魔法によってエンセーラム王国が滅びるというのは回避できた。

 そう、ほっとした時に――奥の部屋がバタバタし始めたのが聞こえてきた。何かと思ってドアを開ける。


「ミシェーラっ……?」

「れっ……レオン、さ、産婆さん……産婆さん、呼んでぇっ……」

「えっ?」

「う、産まれる……と、思う……」

「……マノォォォォ――――――ンッ! ミシェーラの出産準備ィッ! イザーク、産婆さん呼んでこい! マティアスはどこ行った、あんにゃろうっ!? ミシェーラ、ミシェーラっ、大丈夫か? 手、握るか、なっ? そ、それから、それから何だっ? 何すりゃいいんだっ? お湯? お湯沸かすのかっ? お湯、お湯、お湯ぅっ? …………お湯よ、出ろぉぉぉっ!!」


 勢いで魔法が使えないもんかとやってみたが、一滴、ぴちょんとミシェーラの鼻の頭に落ちるだけだった。一滴くらいは出るもんなんだなと逆に関心していたら、頭を軽く叩かれ、振り返るとエノラがいる。



「男性陣は邪魔だから、出ていくこと。

 マノン、お湯をたくさん沸かして。

 あとマティアスを連れてきて」

「ハイ」

「フィリアとディーも、お願い」

「オーライ」

「あと……」

「まだあんのっ?」

「あの娘も、お願い」


 そう言ってエノラが目配せしたのは、いきなりの出産騒動に目を大きくしていた大人フィリアだった。




 置き去りにしていたマティアスをレストで迎えに行って連れてきて、別室で待機した。幸い、産婆はリアンの出産に立ち会ってからマティアスの家(ここ)に避難してきていたようで家の中にいた。

 大人フィリアが回復魔法をかけたロビンとリュカもいたが、リュカの胸は30年後(未来)と同じようにぽっかり抉れてなくなっていた。それでも呼吸をしていた。


 ロビンとリアンの子どもが気になったものの、今はそっとしておいて、まだ少し辛そうな顔をしているディーと、ちっちゃい方のフィリアと、あと大人フィリアと一緒に待機した。

 イザークは勝手に台所で何かを始めていた。



「フィリア、ちょっとディーのこと、みててくれな」


 ちっちゃいフィリアに声をかけて頭を撫でようとしたが、頭を振られて避けられた。落胆しつつ、大人フィリアを振り返る。意図を察したように頷いた。一緒に外へ出た。



「ディーは……多分、もう、大丈夫だと思う」

「ああ、そうだな」


 雨が小降りになっていた。


「……ナターシャは取り逃がしてしまった。けれどここの転移の扉はもう使えなくなったし、転移の魔法は海を超えることはできないから、また乗り込んできて戦略魔法を使うというのはできなくなったと見て問題ないと思われる」

「そうか」

「また、ナターシャのところへ行って、倒す」

「もうちょいだな」

「……だけど、ダメみたい」

「は? 何がっ?」

「多分、過去に長く留まることはできない」

「どうし――」


 大人フィリアの体から、見たことのない燐光が発していた。

 輪郭から溶けるようにして、消えかけている。


「フィリア……」

「大丈夫、死ぬものではない。多分……元いた時代に、帰るだけ」

「……もう、なのか? 俺はもっと長いこと、未来(むこう)にいられたのに」

「そうらしい。……お父さん、お願い。

 絶対に、今度こそ、守って」

「分かった、約束する」

「ディーをまた見られて……良かった。

 お母さんも綺麗だったし、暖かかった」

「ああ……」


 大人フィリアの目から、雫がこぼれた。

 それを恥ずかしがるように、はにかみながら俺を見てくる。


「戻ったら、ジョアバナーサの道具屋行って、俺の名前出せ」

「どうして……?」

「いいから、そうしろ」

「分かった」


 消えていっている。

 体が燐光になってほぐれていくように見えた。


「愛してるぞ、フィリア」

「……うん、知ってる」

「知ってるって……」

「知ってた」

「知ってた?」

「わたしも……お父さんのこと、好きだよ。ありがとう」



 フィリアが俺の頬に軽いキスをし、それを最後に完全に消えてしまった。



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