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ノーリグレット!  作者: 田中一義
#41 避けられぬ戦い
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レオンの正義は






 レストの背に乗って、フィリアとともにジョアバナーサへ戻っている。

 急ぐことのないゆっくり飛行で、風が気持ちいい。夜になって少し冷えてきたが、フィリアとくっついていれば寒さなんて何のそのだ。いっそのこと吹雪いてくれたっていい。それだけ密着できるだろう。


「ねえ、お父さん」

「んー……?」


 やけに疲れ、あまり言葉はなかった。

 ずっと、夜がやってきて空をオレンジから濃紺に染め上げていくのを眺めていた。


「……剣精アイナと、お母さんのことだけど」

「ああ……。何だ?」

「ディーに悪戯して叱られた時に……言われたことがある」

「…………」

「お姉ちゃんなら、意地悪しちゃダメだ……って」

「そんで?」

「『お母さんのお姉ちゃんは、憧れだった』って言ってた。強くて、教えをちゃんと守って、お母さんはお母さんのお姉ちゃんをマネしていた……って。だからわたしも、ディーにちゃんと憧れられるような、立派なお姉ちゃんになりなさいって」

「フィリアは充分、立派なお姉ちゃんだって」

「そこじゃない」

「あらら……」

「お母さん……自分のこと、あたし、って言ってた」

「そうだな」

「でも……その砕けた感じが、ちょっと、いつもの口調とは違ってるような、気もしてた」

「そう……かもな」

「昔は髪の毛も、短くしてたって」

「まあ、短めではあったよな」

「そういうのも……マネ、していたのかなって、思った」

「……どうだか」


 でも確かに、憧れだったといつかエノラは言っていた。

 巫女として正しくあったのだと。その姿に憧れていた、とも。しかし道は違えた。アイナには狂気があって、エノラはそれを直視することを怖れていた。そしてクライテの民が泉を守るためだけに殺されてしまった。



 アイナはアクティブなクレイジービッチだった。

 しかし髪は長く、一人称はわたしだった。


 エノラはもの静かで賢くて少しせこい女だった。

 しかしかつては髪は短くしていたし、一人称はあたしだった。


 アイナは泉を守るために剣を取った。

 エノラは泉を守るために魔法を取った。


 2人は姉妹であり、双子であった。

 決別をした日まではずっと、きっと仲睦まじい双子だった。



「……ザラタンヤで、リュカが家出した時の話をしただろ?」

「うん」

「リュカが俺に反発してて、俺はリュカのこと分かってやれてなくてさ、その齟齬で飛び出していっちゃったわけだけど……エノラは、今にして思うとけっこう親身に俺にアドバイスしてくれてた。あの時はそれほど仲良くなかったのに。エノラは多分……アイナから逃げ続けなくちゃならないことになってても、どっかでまだ信じたかったのかもな。でも、そうなるはずもないって分かってた。だから俺とリュカのことも、放っておけなかったんだと思う」

「けれど……こういう終わり方しか、できなかった」

「ああ……。悲しいけどな」


 暗かった。

 前なんてろくに見えやしない。

 それでも背中にフィリアを感じられている。



「分かり合える方法も、あったのかな」

「あったかも知れないけど、なかったかも知れない。

 どっちにせよ……何もかもを、過去に遡って変えちまうわけにはいかない。

 世の中なんて思い通りにいかないことだらけだ、それを自分の思うように正しちまおうなんておこがましい」

「わたしも、そう思う。でも……そうしたら、今やってることはいいこと?」

「ちょっとくらい、いいさ。例え世界中の神様にダメだって言われても、俺はフィリアの味方だからな。前向いていこうぜ」

「……おこがましいんじゃないの?」

「おこがましかろうが、俺は許す。最強の言葉を教えてやろう」

「最強の、言葉……?」

「かわいいは正義、だ。お前ほどかわいいもんはない。だから、俺の正義はフィリアだ」


 ばか、と頭を後ろから軽く叩かれた。


「照れたか?」

「照れてない……」

「おっ、照れてるな」

「っ……どうしてそう言い切るのか、理由を求める」

「エノラにそっくりな反応だからな、顔なんか見なくても分か――痛って」


 地上へ降りて眠った。

 レストを枕に、親子揃ってりの字で。短い方は、生憎と俺だった。




 翌日にジョアバナーサへ辿り着いた。

 一晩帰ってこなかったことで心配をかけていたらしいが、レストと飛んできたと言えばリュカにはパンチ一発で勘弁してもらえた。殴ることねえと思うのに。ファビオは特に反応しなかった。メーシャは尻尾を振りながら喜んでくれた。メーシャは癒し。



 まだナターシャの拠点への殴り込みには時間がある。

 アイナとの因縁には一旦のケリをつけられたから、今度はアイフィゲーラへ向かうこととなった。どうしてもフィリアは聖女が気になるらしい。



「聖女は執拗にナターシャから狙われたと聞いた。

 お父さんもソロン王子がそそのかされたりしてナターシャに間接的に狙われていた。何か共通点があって、それがナターシャの目的にも関係しているかも知れない。それを探るためにも、元ライゼル王国に行って少しでも情報を集めておきたい」


 反対する理由はなかった。何にせよ、時間があったのだ。

 情報収集程度ならば危険ということもないと思われる。ついでにアイフィゲーラ大陸にも行ってみたかった。そこへ行けば俺は5大陸を歩いたことになるのだ。ヴェッカースターム大陸はダイアンシア・ポートをちょろっととしか歩いたことがないけど、ともかく、5大陸を渡り歩いたやつなんてそうそういないはずなのだ。



 あと聖女とやらが、どれだけのことをしたのかっていうのもちょっと興味があった。もうライゼル王国とやらはなくなってしまったそうだが、そこで生まれた革新的な技術とやらまでは消えていないはずだ。一体、どんな技術を革新的だなんて言っちゃうのか、ちょっと見物だ。


 ファビオはジョアバナーサへ残ることになった。クセリニア大陸は多人種が闊歩しているから、エルフであってもディオニスメリアほど奇異の目では見られないから居心地が悪くないらしい。アイフィゲーラがどうかは分からないから、ここに残るとのことだ。

 どうせ、ナターシャのところへ殴り込む時には一旦戻るから問題もない。



 そういうわけで、俺とフィリアとリュカの3人で向かうことになった。レストも、もちろん一緒。

 メーシャはそんなすぐに俺達がまたどこかへ行くなんて思っていなかったようで、冒険者ギルドで依頼を受けてしまっていたらしい。手伝ってもらうつもりだったのに、とかぶうたれられた。

 お詫びに尻尾をもふろうかと提案したが張り手を食らわされてしまった。

 残念無念である。



「んじゃ、行ってくるわ」

「期日までに戻ってこなくとも、勝手にこちらは始めるぞ」

「ああ、そうしてくれ」

「アイフィゲーラってどんなとこだろ?」

「気候的には過ごしやすいと聞いたことがある」

「へえー……」

「百聞は一見に如かず、だ。行こうぜ」



 レストに乗って向かうことにした。

 この30年でレストが一回り大きくなったことと、俺の体が小さいこともあって3人乗りができた。海を越えることになるからその間は降りられないが、そこは気合いと根性で乗り越える。


 世界地図を見た限りでの見立てでは、片道10日も見れば恐らくは余裕があるという距離。

 笛を吹こうか、吹くまいかと悩んでいたのがアホらしいほどに、レストは快調に飛んでくれた。食い殺されるなんてとんでもない話だった。ロベルタとユベールの後押しが、今になってかなり嬉しく感じた。

 ワイバーンは最高だ。もふもふの毛はないけれど愛情深くて、空へ連れていってくれる。


 が。



「リュカの手、大きい」

「そう? 普通じゃん?」

「サイズもそうだけれど、逞しさを感じる」

「ふうん……。フィリアもそうなりたいの?」

「そ、そういうわけではない……」


 俺の後ろでいちゃつこうとするのは、よしてもらいたい。

 から。



「レスト、ロール!!」

「クォォォォォッ!」

「うああああっ!?」

「お、お父さん……っ!」



 お父さんの目が黒い内はいちゃいちゃさせません。

 ハーッハッハッハ。

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