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ノーリグレット!  作者: 田中一義
#40 30年後と再会と
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ナターシャの居所





 ソロンのところを引き上げ、ジョアバナーサの宿屋へ来た。

 30年――いや40年くらい前に、初めてここへ来た時にも泊まった宿屋だ。そっくりそのまま残っていたので、縁を感じてここに泊まることにした。



「じゃじゃーん! 適当にもらってきた! いいっしょ?」

「長っが」


 刀匠ダモンとやらのところから帰ってきたリュカはアホみたいにデカい剣を背負っていた。まるで板きれだ。細長い板きれのような剣。その剣幅は20センチほどで、長さは俺のニゲルコルヌと同じくらいある。鞘なんてものもなくて、剥き出しのまま背中にマウントするらしい。



「格好良かったから、これにしてって言ってもらってきた」

「もらってきた?」

「買い手がいなくて余ってたんだって」

「リュカ、似合ってる」

「ほんと? へっへーん、フィリアに誉められると何かエノラに誉められたみたいで嬉しいかも」

「正気か疑う武器だな……」

「だよな……」


 まあ、でもリュカっぽい。



「ナターシャの目的は、実験とカルディアの収集か……。わたしにはそれだけには思えぬな」


 神妙な顔でファビオが呟いた。

 実験というのはキメラだとか、カルディアで操る魔物のことだ。あと不死者も。



 実験と聞いた時、ヴラスウォーレンでのことを思い出していた。

 ナターシャ言っていた。


『実験はもう充分、良い結果が得られました。感謝いたします、ニコラス・ムーア・クラクソン』


 マディナの胸から転がり出たカルディアを取り上げながらナターシャは言っていた。ソロンが推測しているところの、実験とカルディア収集という2つの行動を同時にやっていたことになる。マディナにシャノンの加護の力を集めさせて、ニコラスは神とやらにしていた。あれが実験なんだろうか。


 だが、一体、何の実験だ。

 キメラを放ったり、魔物を操って襲わせたりすることで、何を実験していたんだ。ファビオが言うように、ただそれだけだとは到底思えない。まだ掴めていない何かがあるはずだ。



「……聖女の話を聞いた時に」

「ん?」


 リュカ以外、それぞれ考えていた。

 その沈黙をフィリアが破り、俺へ視線を向けた。


「お父さんのような人かも知れないと、思った」

「俺? 何で? 俺、聖女っつーくらい神聖な人間のつもりねえぜ?」

「呼び名ではなく、聖女が次々と新たなものを作り出していった、というところで」

「ああ……。何かすげえらしいな。弱小国を大国にまで発展させちまったなんて」

「フィリが言いたいことはそこではないだろう。聖女というのも凄まじい人物なのだろうが、レオンハルト、お前とて革新的なものを閃いてきていた」

「よせやい、照れるだろ」

「これは真面目な話。お父さんは様々なものを発想し、形にしてきた。ウドンもそう、トウフ、ピアノ、ギター……。エンセーラム王国にしかなかったもののほとんどは、お父さんが考案をしたものだったはず。聖女が具体的にどんなことをしたかはまだ聞けていないけれど、わたしが30年を費やして色々と渡り歩いてきて、似たようなものに出会うことはあってもエンセーラムにあったものの方がより……完成していたように思える。まるで、道具の進化の先を知っていたかのように」



 そりゃあ知ってたもの。

 なんて言えない。


「偶然、偶然……」

「聖女について、詳しく知りたい」


 お前は天使なんだからいいじゃんか。

 とか言ったら怒られるんだろうな。にしても、これは真面目な話、なんてエノラそのものだ。エノラが恋しくなってきた。何としてでも30年前に帰って、戦略魔法を阻止しねえと。



「腹減った」

「……メシ、行くか」


 空気を読まない相変わらずの発言が、今は何となく嬉しい。

 リュカは死ななかった。どうして不死者なんかになっちまったのかは分からないが、生き残ってくれていた。


 宿を出て行く。

 部屋を出る時、先にフィリアとファビオを行かせた。貴重品をしっかり持ったことを確認してから部屋のドアを閉め、リュカを見る。俺が過去へ帰っても、きっとエンセーラム滅亡を辿った時間軸のこの世界は消えないのだろう。


「なあリュカ。……フィリアのこと、頼むからな。絶対に悲しませたりしないでくれよ」

「するはずないじゃん。何言ってんの?」

「……いや、ただの念押し」

「は?」


 リュカの背へ回って、飛びついてみた。

 おんぶだ。怪訝な顔をされたが、無視しておく。


「進め、リュカ号!」

「……レオンってそんなことするやつだったっけ?」

「いいんだよ」




 翌朝、ソロンのところを訪ねると馬車がその前に停まっていた。けっこう立派な馬車で、見慣れない紋章があった。


「何だ、この馬車?」

「……テアスロニカ王国の紋章」


 どっかで聞いたことがあるような国名だな。


「おーい、ソロン。来たぞ」

「レオンハルト王……」

「……本当に縮んでいる」


 中にソロンと同じ年ごろの男がいた。

 偉っそうな格好だ。それでも旅試用なんだろうが、刺繍ギラギラのマントと言い、何といい……。でも何か見覚えが、あるような、ないような……。



「覚えているか? テアスロニカの……今はもう国王だが、俺と同じで、百国会議には王子の時に参加をしていた」

「……あっ、お前と女の取り合いしてた、あの!?」


 一瞬、ソロンの顔が苦くなった。

 そうだ、そう言えばいたっけな、もうひとり。けっこう険悪な感じに見えた。確か幼馴染だっけか、ソロンの。


「テアスロニカ王、テレス・テアスロニカだ」

「へえ……。立派になっちゃって。でもどうしてお前が……?」

「手伝ってくれているんだ。カティアも。それで、今日も来てくれた」

「ああ……」


 ソロンひとりで何もかもやるのはさすがに難しかったか。

 美しきかな、友情。けどあのいがみ合い方は険悪ってよか、ガキの見栄の張り合いにも見えたしな。



「テレスが、前々から頼んでいた調査の結果を今、教えてくれたんだ」

「前々からの調査?」

「ナターシャの居所を突き止められた」


 思いも寄らない情報に耳を疑った。


「本当かっ!?」

「……ええ、確かです」

「それはどこ?」

「アイフィゲーラより、北東にある孤島です」



 言いながらテレスが従えていた部下らしい女に目配せをした。長い巻物のようなものを従者の女が広げると、今まで見たことのない巨大な地図が姿を現す。一部描かれていないが、けっこうしっかりしている。


「これは何だ?」

「世界の地図です」

「世界地図……」

「この中央に位置しているのがクセリニア大陸。その東が、ディオニスメリア王国。クセリニアの西にはラサグード大陸。そして、クセリニアとラサグードの南部に位置しているのが、アイフィゲーラ大陸です」


 すっげえ。

 ちゃんと地図って形で見るとハッキリするもんだ。ちゃんとヴェッカースタームも載ってるし。エンセーラムも、バルドポルメも載ってないけど、大陸は全部って感じなのか。



「ナターシャの拠点と判明したのは、この地点にあります」


 テレスが地図の一部を差した。

 説明にもあった通り、アイフィゲーラの北東部分だ。それでハッとする。


「……フィリア、俺はあんま頭良くねえから、思い違ってるかも知れねえんだけど」

「何?」

「ここらがナターシャの拠点だろ? でもって、そっからさらに北東へ行ったら……」

「エンセーラム諸島」

「合ってるよな?」

「合っている」


 そしてエンセーラムの主要な4つの島で、南西に面しているのはベリル島だ。

 シオンはベリル島の浜辺に流れ着いた。ナターシャの拠点と思しき島の方角だ。何かがあって潮にでも流されて辿り着いたんだろうか。だが、距離がありすぎる。溺れ死ぬ――のが普通でも、そうだ。シオンは不死者だったから、溺れ死ぬということはない。



「意外と近えところにいたんじゃねえか……」

「乗り込んで、殺すぞ」

「俺も連れて行ってくれ、レオンハルト王」

「ソロン……」

「……ならば、わたしも同行をさせてほしい」

「はっ? お前、もう王様なんだろ?」

「友が30年にも渡る長い任をようやく終えられる。それをわたしも、見届けたい」


 ちと大人数になっちまうのはいただけない――が。


「……従者はなしでもいいんなら、来い。あと自分の身は自分で守れ。死んだって責任も取らねえ」

「ありがたい」


 ナターシャから真実を吐かせられれば――。

 だが、一筋縄ではいかないはずだ。キメラや、カルディアで操る魔物もいる。不死者も従えているし、まだ生きているかは知らないがシモンだってナターシャについて行った。危険な戦いが予想される。


 相手の力は未知数。

 勝てるのだろうかという疑問が浮かぶと、クライテの森で負った傷がズキンと痛んだ気がした。

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