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ノーリグレット!  作者: 田中一義
#37 聖竜祭と天才王子
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空を翔る戦い





 赤、青、黄、緑、黒のバンダナをそれぞれつけ、ワイバーンに跨がったドラグナー。内ひとりは、俺。黒のバンダナである。俺はドラグナーではないが、今だけはそう名乗っても許される気がしている。


 赤のバンダナがユベールと、その相棒ウォークス。

 煌めく銀色の鎧と槍。同色の鱗と甲殻を持ったワイバーン。

 聖竜祭の優勝候補であり、カスタルディ王ロベルタのただひとりの息子。



 正直勝てるかどうかの予測をしても、難しいとしか言えない。

 ユベールには2日ほど練習につきあってもらったが、その時に思い知ったことだ。ただワイバーンを移動手段として乗ってきただけの俺とは何もかもが違う。



「今日はライバルとして、全力で戦う。練習じゃない」


 しっかりしてるよ、こいつ。


「まあがんばれよ」

「……俺の方が強いのに何でそういう……」

「年の功だ」


 ちょっと納得してない顔をしたユベールの頭を軽く叩いておいた。

 子ども扱いは嫌なようでむっとしたが、その顔は兜を被って隠して、ウォークスへまたがってしまった。視界があれじゃあ狭まるんじゃないかとも思うのだが、ウォークスとの特別な関係性によってユベールは周囲を見る必要などはない。ウォークスの動きに合わせるから、真正面だけを見ていればそこに敵の姿が入ってくるという寸法なのだ。



「レスト、思う存分飛べよ」

「クォォッ!」


 俺もレストにまたがる。

 裂け目の向こう側で係員が赤い旗を上げた。風にそよめいているあれが振り下ろされればスタートだ。


 とにかくレストの弱点は立ち上がり――ならぬ飛び上がりにある。

 そこさえ凌いでしまえば、最初の障害は突破だ。魔縛を裂け目の中に張り巡らせてしまえば蜘蛛の巣へ絡め取られた羽虫のように敵を一網打尽にできるかもしれないが、ワイバーンへの攻撃は許されていないからそうはできない。

 とにかく、出たとこ勝負で対処をするしかない。ユベールが最初から仕掛けてきたら、ちとヤバいが……。



「用意!」


 声が響く。

 風の音が鳴っている。


 角笛が吹き鳴らされ、旗がびゅっと振り下ろされた。



「行け、レスト!」


 助走をつけてレストが谷底へ飛び降りる。翼を広げていった時、影が差した。ウォークスの鋭いかぎ爪がいきなり俺を引き裂かんばかりに迫ってくる。まさか。まさかとしか言えない。飛び上がりの優位を取って上に被さって攻撃を仕掛けてくるなんて想定外だ。ニゲルコルヌでウォークスのかぎ爪を受けたが、そのままウォークスは体重をかけてくる。



「クォォッ!?」


 飛び上がれない。ヤバい。

 このままネットに直接沈められかねない。ウォークスの体が盾となって上のユベールを狙うこともできない。こうなったら、久しぶりの切り札だ。鞍を股でしっかり挟み、片手をポケットに忍ばせた。魔石を握り締める。



「ビッグホールゲイル!!」


 巨大なつむじ風が発生し、裂け目から上へとものすごい強風が巻き上がった。ワイバーンへの攻撃ではない。あくまで補佐として魔法を使ったのみ。そういう言い訳がこの聖竜祭では通用する。魔法の嵐で一気にドラグナー達は上空へ吹き上げられていった。同時にレストも危うかったがウォークスを振り切って舞い上がる。

 あらかじめロベルタに頼んで魔石に封じておいてもらっていた。魔法も達者なやつだった。ダテに300年以上も生きてないってこったな。



「危っぶなかったぁー……」


 ほっと一息つく、暇もなく。


「ウォォォッ!!」

「クォォッ!」


 ウォークスは尚も向かってきた。

 毛糸がほつれるようにして竜巻は消え去り、すかさずだ。


 ユベールが槍を突き出してきてニゲルコルヌで受ける。互いの得物が火花を散らし、レストとウォークスもつかず離れずぶつかり合う。ふんばりがきかないと俺は槍を振り回すのも一苦労だ。しかしユベールは大地を捕まえているかのように鋭い攻撃をこれでもかと放ってくる。捌くだけで精一杯だ。ちゃんと自分の足で立ってる状態なら余裕だけど、俺の下半身はレストに託してある。



 穂先がぶつかり合ったところで、絡めて抑え込みにかかった。しかしウォークスが強く羽撃きながら下がってしまって外れる。レストが旋回しながら離れようとしたが背後について追ってくる。スピード勝負は不利だが、振り切る必要はない。ニゲルコルヌの穂先を向け、魔弾を放つ。とユベールは素早く反応して槍を手で回転させた。プロペラのように回った槍で魔弾を弾いてしまう。


「嘘だろっ……!?」

「クォォォッ!」

「何――うおっ!?」


 レストが警告するように鳴き、爆発に襲われた。

 小さな種火のようなものを一気に燃焼させて爆発させながら燃やす魔法。割とオーソドックスな攻撃系の火の魔法だが、タイムラグがあるためにあまり魔法戦でも使われることがない。当てることが難しいのだ。だっていうのに、空を飛んでるこの状況で的確に俺だけを狙って使ってきた。


 種火に気づいたのであろうレストは旋回して避けてくれたが危うく落ちるところだった。レストの飛行速度を把握して通り道を設置するように魔法を放ってきたんだろう。だが、少し間違えば自分が食らって自爆しかねないはずだ。ロベルタはユベールのことを天才などではないと言ってたが――



「クォォォッ!!」


 次々と爆発が起きた。

 右に左に、上に下に、あちこちで連続して爆発が起きる。たまりかねてレストが飛翔しようとしたが、そこでウォークスが被さるようにして後ろから出てきた。ユベールが槍を大きく振りつけてくる。ニゲルコルヌで受けたが、そのままグンとウォークスが高度を下げると同時にさらに突き込んできた。逃げようとするレストにウォークスは貼りつくようにしてプレッシャーをかけてくる。


 ニゲルコルヌを捻りながら、ユベールに突き返す。それから魔弾を放つとユベールの兜に直撃した。それでようやくウォークスが離れるとへこんだ兜が上から降ってくる。



「しんどいなっ……!」


 すでにスタート地点からは離れていた。切れ目が遠くの方へ見える。奇妙に鋭く突き出ている岩山の付近まで来てしまっていた。レストがその山肌をなぞるように飛ぶ。魔影を使うと反対方向からウォークスも飛んできていた。出会い頭に攻撃しようって(はら)か。

 地面に落ちたらアウトということだが、こういう山とかにぶつかるのはどうなんだ? あくまで叩き落とされたらっていうことだろうし、抵触しねえよな、多分。きっとそうだ。レストを軽く叩いてから、鞍から飛んだ。岩肌にニゲルコルヌを突き立てる。


 これでユベールはレストに乗っているはずと思っている俺へ攻撃を仕掛けるだろう。だが、そこに俺はいない。案の定――


「何でっ……!?」


 ユベールがすぐに姿を現す。兜が外れてよく見えるようになった顔は驚愕に染まっている。ニゲルコルヌを振り下ろしながら迫った。ウォークスが先に気づいて避けようとしてくるが、ニゲルコルヌの重量はダテじゃない。落下速度は速い。避けさせやしない。


 強い衝撃が手応えになって届いた。

 ウォークスの背に足をつけ、さらにニゲルコルヌを振るう。レストが馴れるまでも時間がかかったんだ。いくらウォークスとて、2人とニゲルコルヌを乗せたとなればすぐに対応はできまい。ユベールも完全にウォークスへ身を預けているせいで、立った状態でいる俺への攻撃をうまく捌けない。



「自分のワイバーンから降りるなんてっ!」

「俺ぁ純粋培養のドラグナーじゃねえんでなぁっ!」


 ユベールの槍とニゲルコルヌがぶつかり合ったが、思いきり薙ぎ払った。片手を手綱に絡めてユベールは落下を免れたが、それをニゲルコルヌの穂先の刃で切り飛ばす。


「ウォォォォォッ!!!」


 いきなりウォークスが吼えて回転した。俺も振り落とされるが、レストがすでに近くまで来ている。魔縛でレストを捕まえ、巻き取りながら戻る。落ちていくユベールをウォークスは拾いに向かっている。


「させる、かぁぁっ!!」


 レストも急降下していく。俺の目前に種火が現れた。ユベールと目が合った気がした。瞬時に炎は膨らんで爆発する。


「クォォッ!?」

「レストっ……!」


 黒い煙。レストが落ちていく。落下寸前でユベールはウォークスに拾われていた。すれ違う。このまま落ちたら、負ける。手綱を握り、鞍を挟んだまま魔縛を放った。鋭く細く伸びている山へ。全身でレストを抱え込みながら、魔縛を巻き上げていく。ピンと糸が張った時、腕がもげそうな重量を感じた。魔鎧で身体を強化する。――いける。



「うっおおおおおおおっ!」


 重力に逆らった。

 上昇する。


「レストぉっ、飛べっ!」

「クォ……クォォォオオオオオオオオ―――――――――ッ!」


 一際高く鳴きながらレストがようやく翼を広げた。

 風を掴み、高く上がる。



「さあ、まだまだ終わりゃしねえぞ、ユベール!」


 見下ろしていたユベールが目を見開いていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 重量と落下速度は基本的にはあまり関係無いと思います。風を考えての表現でしょうか?
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