ステラ・カノヴァス捜索網
ステラ・カノヴァスの居場所を探ることになった。またマティアスのところへ忍び込んで、居場所を尋ねはしたのだが、マティアスにもどこへいるかは分からないということだった。可能性があるとして、本邸のどこか、あるいはカノヴァス家が所有している別荘のどこか、あるいはボーデンフォーチュの所有している屋敷のどこか、ということだった。
このステラというのはガルニの1つ下らしい。ガルニが俺と同じ年だったはずだ。マティアスがガルニを可愛がっていたというような印象はあまりないが、ステラのことはけっこう可愛がっていたそうだ。年が離れているのもあるし、女の子だったからというのもあったからかも知れない。
マティアスに聞き出してきたロビン曰く、繊細で華奢で人見知りをする性格らしい。マティアスとは全く違う性格だなと思う。ともかく、探し出すしかなかった。
だが闇雲に探しても時間切れになりかねない。式が挙げられてしまえば、それでもう終わりなのだ。挙式を狙うという考えもあったが、それまでに内乱が始まっては収拾をつけられなくなる可能性があるから待てなかった。
こういう時にレストさえいれば、俺が飛び回って片っ端から探しまくったのだが――今ごろ、エンセーラム王国で悠々自適にやっているだろう。
マティアスもそれは承知で、協力してくれるであろう人物をピックアップしてくれた。使節団に参加していた知識人だとか、カノヴァスとボーデンフォーチュの婚約に反対をしているだろうとか、そういう人物のリストだった。
俺達4人だけで捜しまわることはできないから、貴族同士の繋がりを利用してステラを捜索してしまおうという人海戦術だ。
こういう時にお貴族様同士の繋がりってやつは活きるのか。
なるほどな。勉強させられたぜ。面倒臭いなりに役立つ時は役立つもんだな。
しかし、この時に関所なんかで意図的に人の流れを制限していた理由が分かった。関所の緩い方へと進んでいくと、どうやら婚約賛成派の領地ばかりをたらい回されているのだ。で、関所を袖の下だかを使って通過しない限りは、婚約賛成派のところへは行けない。
そういう風にボーデンフォーチュを始め、婚約賛成派貴族が示し合わせていたんだろう。入る分には問題ないが、出ていく時には金がかかる。ここを渡り歩くには金がわんさかいるし、そうなれば反対派の動きをある程度、抑制できてしまう。金をケチって抗議だとか、何とかのためにエレキアーラへ私兵を差し向けようとしたって、関所の通過がまたネックになってしまう。かと言って遠回りをするわけにもいかず――ということだ。
「めんっどくせえなあ……」
小娘とメーシャにマティアスを見守るのは任せ、俺とロビンは手分けをして協力者に会いに行くこととした。関所で毎度のように金をバラまくと、どんどん貧乏になっていってしまう。後でマティアスからはがっつり請求してやろうと決めた。そのためにも、どうにかマティアスを立ててやらなきゃいけないわけだが。
ほんと、レストに来てほしい。
リュカがレストらへんに乗って来てくれねえかな。地味に人手も欲しいし。でもあいつは空気を読まないからな。やって来ることもないだろう。シルヴィアに悶々としてやがれ。うん、俺もロビンもいないエンセーラムに何かあってもリュカがいりゃあ、っていう部分もあるし。
2人目の貴族にちゃんと会い、ステラ捜索を頼んでから屋敷を出た。ついでに昼飯でも食わせてもらえば良かったと、腹をさすりながら思う。でもまたのこのこ戻るのもみっともないし――と思ったら、嗅ぎ馴れているスパイスの香りがした。誘われるままに行くと食堂があり、行列もできていた。
エンセーラム商会の直営食堂だ。こんなとこまで出店してたとは。
腹ごしらえはここでしようと決めた。行列に並んで入り、飲み食いする。なかなか、ローカライズがされている。この辺りは海が遠いから、タンパク源は肉でまかなっている。スパイシーな衣をつけて焼き上げられた何かの肉はなかなか絶品だった。エンセーラム商会は安泰だな――と舌鼓を打ってから店を出ると馬車が店の前へ停まった。
「それでは視察に参りますので、あなた達はよく観察をして、それを忘れぬようメモを――」
「あ、レオン!」
「……おう」
セシリーと、エンセーラム商会のジェニスーザ・ポート支部に勤めることになった坊主が2人いた。
「こんなところで出会うなんて……どうされましたの?」
「いや、ちょっとな」
「追い出されたの?」
「シルヴィア先生元気?」
「うるせっ、ガキはすっこんでろ」
「ガキじゃないしー」
「セシリー、ちょいちょい。時間くれ」
セシリーを連れ出して少し離れたところで事情を話した。
エンセーラム商会はディオニスメリア国内のあちこちで商売をしている。その情報網を利用できればステラ捜索もうまくいくかも知れない。話を聞いたセシリーは神妙な顔で頷いた。
「分かりましたわ。リアン姉様のお友達であられる方のためならば、協力をさせていただきます」
「ああ、頼む」
「エレキアーラにはウドン2号店がありましたわね。あそこに情報を届けさせるようにいたしますわ」
「助かるよ、セシリー」
「これくらい、礼には及びませんことよ。それに……レオンハルトさんはわたくしに商いで大切なことを教えてくださったではありませんか。あなたの教えがなかったら、リアン姉様に認められ、こうして商会を任されることもなかったように思われます。その恩返しもしたいと考えておりましたのよ」
心強いことを言ってくれる。
最初こそ、小娘並みにぽんこつだったはずなのに立派になっちゃって……。
「ヤーゴとスハイツも意欲的に取り組んでくれておりますし、よろしければ、あなたが回っているというところへは2人を行かせましょうか?」
「は? まだ、子どもだぜ、あいつら……?」
「侮ってはいけませんわよ。あなたの教え子ではありませんか。それに、きちんと護衛もつけますから安心なさってください」
ヤーゴとスハイツというのは、リアンと一緒にウドンの視察へ来ていたジェニスーザ・ポート支部に勤めている坊主どもだ。ユーリエ学校の卒業1期生。多少の不安はあったが、セシリーを信じて頼んでおくことにした。
それにマレドミナ商会でも、関所の異常な通行料や、締め上げには参ってしまっているから、早くこの異常事態が終わってくれる方が良いらしい。ま、当然だよな。
エレキアーラへ戻った。
マティアスには動きなし、ロビンはまだ帰ってきていなかった。
俺が戻ってきてから2日が経って動きがあった。
噂が流れ出したのだ。ディオニスメリア北東の方の、クローテッドって貴族がカノヴァス卿が死んだっていうことを突き止め、ボーデンフォーチュ卿が権力拡大をはかるために全てを仕組んだと喧伝した、と。貴族は面子を重んじる。例え事実だろうが、事実と認めるわけにはいかないのだから、そのような流言を許してはおけない。
クローテッド卿は喧伝をしながら、ボーデンフォーチュ卿を討ち倒さなければならないと主張して私兵を動かし始めた。婚約賛成派がそれを制圧しにかかる動きと、反対派が加勢をする動きが、嘘か真か分からないレベルで次々と噂になってエレキアーラでも広まった。カノヴァス領の人々は、内乱の動きよりも、本当にマティアスの親父が――カノヴァス卿が死んでいるのか、ということに関心を持って、本邸には連日、大勢が押しかけていた。
内乱が始まろうとしている。
今までに感じたことのない、不穏な空気がエレキアーラには渦巻いていた。




