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ノーリグレット!  作者: 田中一義
#5  穴空きと獣人蔑視
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二度とけなすな


「ロビンからキミに、言いたいことがあるそうだ」

「…………」


 ぼりぼりとレオンは不機嫌そうな顔で頭をかく。

 マティアスくんは僕に視線を向ける。スキヤキだ、と告げている。


 でも。

 何を言えばいいんだろう。



 今さらだ。

 レオンは口を利いてくれないくらい怒っているのに。


 俯いた顔で、目だけを動かしてレオンを見る。

 じっと待っているような顔だ。ただ、イライラしてる感じもある。



「…………ごめん、レオン」

「何が?」



 間髪入れず、レオンは言い返してきた。

 ぶっきらぼうな言い方が怖い。謝っても、ダメみたいだ。


 二の句を継ごうとしても、何も浮かばない。

 そうしてまた沈黙が訪れると、はあーっとレオンが息を吐き出した。



「約束しろ、ロビン」

「……な、にを?」


 レオンが僕の方へ歩み寄ってくる。

 小さいのに、怖くなる。レオンには迫力がある。



「俺の大事な友達を、二度とけなすな」

「え……?」

「お前が自分を卑下するのは、俺の友達のロビンを卑下するってことだ。

 そんなの腹が立って仕方ねえだろ。だから……もう二度と、バカどもに吹き込まれたアホなこと抜かすな」


 言って、レオンが手をあげて、僕の頭をぽんと叩く。

 そうして僕の頭を撫でてからレオンは険のあった顔に、笑みを作った。


「約束な」

「……うん」

「よしよし……いい子だ」


 頭をちょっと下げると、嬉しそうにレオンは僕を撫でる。

 本当は逆だと思うけれど……レオンはこうするのが大好きだ。久しぶりに撫でてもらうと、何だか胸がくすぐったくなる。


 マティアスくんがようやく一息、という感じでため息を漏らしていた。




「俺はミシェーラね――ミシェーラとだけ会うつもりだった、ってのに……」

「いずれにせよ、模擬戦の時には顔を合わせるんだ。あらかじめ、顔合わせをした方が良い」


 正直なことを言えばまだためらう気持ちはある。

 けれどすでに2人は――いやミシェーラさんを含めた3人は決めてしまっていた。模擬戦で一緒に組もうと。けれどいつの間に、ミシェーラさんに話をしたんだろう。



「ちゃんとお話するのは初めてだよね、レオン……くん?」

「……レオンで、いいよ」

「よろしくね。前は落とし物を拾ってくれてありがとう、レオン」


 ミシェーラさんは明るい人だった。

 けれどレオンはどうしてだか、レオンの性格ならこういう人は好きなのかも知れないのに、距離を取っているように見える。不思議だ。レオンに物怖じする相手がいたなんて。



「模擬戦は3日後。ジェルマーニ、ネグロ、ブリアーズ、エンライト。

 この4人が僕らの相手となる。どんな組み合わせでくるのかはまだ分からないがな」


 場を仕切っているのはマティアスくんだ。

 よどみなく喋りながらマティアスくんは彼らについての情報を口にする。



「ジェルマーニとブリアーズ。

 この2人はレオンと僕ならば競り勝てる。

 だが問題は、ネグロとエンライトになるだろう。

 ネグロは火と風の魔法を得意にしていると掴んでいる。ロビン、どれほどだ?」


 振られると皆の視線が僕へ注がれる。

 つい癖で、自分を落ち着けるために尻尾を両手で握ってしまう。人に触られればこそばゆいけれど、自分で触る分にはどうともならない。



「得意とする魔法や、戦術などはあるのか?」

「えと……火は風に吹かれると猛るんだ。ネグロくんは、それを利用するのが得意だよ」

「防ぐ方法はあるか?」

「……火と風が得意ってマティアスくんは言ったけど、実際は風が得意なんだと、思う。火の魔法だけを単体で使うところは、あまり見ないから」

「なるほど……。その情報は大きいな。レオン、どう見る?」

「種火しか出せないんじゃ、それを消しちまえばあとは風を吹かせるだけの能無しってことだろ?」

「キミってやつは……」

「ううん、違うよ」


 レオンが投げやりなことを言ってマティアスくんが額を押さえると、ミシェーラさんが口を挟んできた。


「風の魔法は近接戦を得意にする騎士には天敵だよ」

「……そーなの?」

「風は砕くこともできないし、防ぐまでもなく当たってしまうものなの。風圧、っていうのがあるでしょう? あれで身動きを制限されてしまったら、騎士はどうできる?」


 そっか、そうだったんだ……。ミシェーラさんの言うことは正しい。

 火と風が得意で、風を使って火を大きくする派手さ。火力という面でもそれはすごいけれど、その派手さに真の風の扱い方を隠していたのだとすれば――。


 ぞっとする。

 本当は風が得意。そこまでは知っていたのに、その怖さが分かっていなかった。ミシェーラさんは、これを今、思いついたんだろうか?



「風か」

「斬る」

「ああ」




 え?

 平然とレオンとマティアスくんが即決している。


 風か、とマティアスくんが呟いて。

 斬る、とレオンがさも当然のように言って。

 ああ、とマティアスくんが同意をしていた。……ように思える。


 考えないようにしよう。

 本当に強い騎士は地形も変えるとか聞いたことがあるし、怖いから聞きたくない。



「エンライトについてだが、彼女は確か、土魔法を得意としているらしい」

「土魔法ね……。地味だな」

「ああ」



 今までこういうお話をしたことがなかったからかも知れないけど。

 もしかして、もしかしたら……レオンとマティアスくんは、僕の故郷にたくさんいるような、脳みそが筋肉でできている――タイプの人なのかも知れない。土魔法を地味と言うのは、そういう傾向が強い気がする。



「土魔法は怖いんだよ?」


 またミシェーラさんが言う。


「物理的に作用することができるから、究めれば騎士と同じ舞台で戦えちゃうくらいなの」

「騎士と同じとは?」

「有名所ならゴーレムとか、かなあ。

 いくら倒しても、土がある限りは無限に復活する大地の戦士ゴーレム。

 それと、足場の地面をボカンと割られちゃったらば、騎士はどうできる?」



 ミシェーラさんの問いかけに、ふむとマティアスくんが考える。


「地面が割れたら、か」

「ヒビが入った時点で斬る」

「それはいいな。それでいこう」



 …………深く考えないことにした。



 いつの間にか始まっていた会議はそれから1時間ほどして終わった。

 マティアスくんが出した議題については、あまり具体的とは言えない方策が打ち出されて処理されてしまう。それでも情報を知り、可能性について考えるというだけでも違うものがあるのかも知れない。もうすでに戦いが始まっているのだと、今さら降りるわけにもいかないのだと、卓を囲っていたら思い知らされた。



「明日と明後日は安息日……。でもって模擬戦、か」


 話し合いが終わるとレオンが座っている椅子の後ろの2本の足へ重心をかけ、ぐらぐらと体を揺らした。お行儀が悪く、テーブルの上へ足を投げ出している。こうしてると年相応の子に見える。


「こら、レオン、ダメでしょ。そういうのは。足はテーブルの下」

「…………へーい」


 ミシェーラさんが叱ると、渋々といった様子でレオンは座り直した。

 やっぱりどこか、レオンはミシェーラさんと接する様子がおかしく見える。


「遅くなってしまったな。もう解散としよう」

「あ、ルームメイトの子に何も言ってなかった……! ご、ごめんね、急いで帰らなきゃ! またね!」


 マティアスくんが解散を口にした瞬間に、ミシェーラさんが飛び上がって行ってしまった。それを見送ると、廊下の方から、きゃあっ、と声がする。レオンがものすごい早さで出ていこうとしかけ、でも教室の入口で止まる。後ろから僕とマティアスくんが続くと、ミシェーラさんが転んでしまっていたらしい。すぐに起き上がって走っていく。



 何というか、レオンが、何だか。

 ミシェーラさんを特別視しているような、感じがある。



「……ところでレオン、気になっていたんだが」

「あ、僕もひとつだけ……」

「ん? 何だよ?」


「ミス・ミシェーラに恋でもしたか?」

「ミシェーラさんのこと、好きなの?」


 マティアスくんは僕と同じことを考えていたらしい。

 ほぼ同じタイミングで、言葉は違えど揃って尋ねるとレオンは分かりやすくうろたえた。



「ちっげーよ、そんなはずあるか」

「この反応は、やはり……」

「……別に恥ずかしいことじゃないと思うけど」

「違うっつーの、ほんとに」

「なるほど、こういうところはウブか。いいだろう、レオン。僕に任せろ」

「ぼ、僕も、手伝えることがあれば――」


「だからっ、違うっつーの!」



 やっぱりレオンは、ミシェーラさんに恋してたんだ。

 その反応で僕らは確信した。




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