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ノーリグレット!  作者: 田中一義
#33 悲嘆のシスコンと赤髪のこぶつき
373/522

6人の酒宴





 エンセーラム王国ベリル島、礼拝堂。

 リュカが管理する、雷神ソアを奉っているところ。


 僕らはそこに、久しぶりに6人で集まった。

 ジョアバナーサを最後にしていた6人、全員がまた集まることができた。



「ここでお酒飲まないでよ……。そういう場所じゃないのに……」


 リュカはあまりお酒を好まないからか、ちょっと乗り気じゃなさそうだった。いくつになっても、お酒より食べものの方が嬉しいんだと思う。


「まあまあバカ騒ぎをするわけではありませんから」


 そんなリュカをリアンが宥めるけれど、運び込まれたお酒はけっこうな量だ。

 葡萄酒1樽、清酒というお米から作られたエンセーラムのお酒が2壷。これでバカ騒ぎをしないと言ってもあんまり説得力はない。


「いいだろ、たまにゃあ。お前は食ってろ」


 レオンがエノラの茹でたエダマメをいっぱいリュカの前へ置いた。不満そうな顔でリュカはぱくぱくとまだ湯気の立っているそれを食べ始める。食べものさえ出ておけばリュカは黙るんだってことをレオンはよく分かってる。


「食べものはそれなりに持ってきてるから、安心して食べていい」


 そう言いながらエノラは、さらにリュカの前へ魚を粕漬けにして焼いたものを出していた。素早くリュカはそれも口に運ぶ。もぐもぐと咀嚼するリュカの口はいっぱいに詰められている。


「最初に聞いた時は壮大な野望だとも思ったが……まさか、ここまでにしていたとはな。良いところだ」


 マティアスくんは清酒が気に入ったみたいで、レオンと一緒にけっこう早いペースで飲んでいる。僕も清酒はけっこう好き。葡萄酒やエールは、渋みや苦味が強いけれど、清酒はスッキリしていておいしい。



 マティアスくんが、エンセーラム王国にやって来た。

 あらかじめ届いた手紙には、僕を迎えに来ると書いてあった。いよいよ、マティアスくんのところで魔法士として働く時がきたのだ。


 最初に誘われたのは、いつだったろう。

 学院の……2年生になってからすぐにあった、魔法士養成科と騎士養成科の合同授業の時だったろうか。獣人族だからという理由で虐められていた僕を、レオンとマティアスくんが支えてくれた。あの時の模擬戦でマティアスくんと一緒に戦って勝利した。


 あの時に僕は、誇りというものの本当の意味を知った。

 懐かしい。



 酒盛りは、最初こそ静かだった。

 でもお酒が回ってくるとレオンとマティアスくんが愉快になり始めた。いつも2人は張り合おうとする。友達であって、同時に2人は実力に過不足ない競争相手でもある。

 何度も試合で戦い、勝っては負けてを繰り返してきたからなんだろうか。どちらも、互いに相手に負けられないと思っているのだ。そこまで張り合おうとする理由は分からないけれど、それが2人の友情の形なんだろう。



「うちのフィリアなんかなあ、すっげえかわいいんだぞっ!? あれは天使だぞ!?」

「マオライアスだって負けてはいないさ。賢い子だ、あれは」

「うちのフィリアのが賢いですぅ〜、俺とそうじゃないのは完璧に区別して、俺にばっかつんけんしときながら他にはめちゃくちゃ愛想振りまいたかと思えば籠絡して言うことを聞かせられる小悪魔なんですぅ〜」

「レオンハルト、それはあんまり誇れないところ……」

「ふっ、親に似るというやつだろう? レオンに似たのでは将来が不安だな?」

「ああんっ? だったら何かあ? お前は自分に似りゃあ完璧だとか思っちゃってたりするってかあ?」

「無論だ。僕に似れば――」

「神経質で損な役回りについて最後に泣き見ることになんのか、可哀想に」

「何だとレオンっ!? もう一度言ってみろ!」

「何遍だって言ってやらあっ!」

「2人とも親バカなんですねえ……」

「リアン、笑ってないでとめないと……」

「止めなくていい。労力のムダ」

「ええええ……? いいの……?」

「いい」


 酔っ払った足取りでレオンとマティアスくんが木の枝を拾って、チャンバラを始めた。すぐにお酒に足元をすくわれて2人は転倒し、何故か笑い転げ出す。けっこう酔ってる感じだ。


 まあ、2人だけでいっぱい用意したお酒を飲んでるようなものだし、当然かな。僕はあんまり飲んじゃうと記憶がなくなるからセーブしてるし、リアンはどれだけ飲んでもけろっとしてて酔うことはないし。エノラはおっぱいをあげなきゃいけないからお酒は飲んでない。リュカはお酒より食べもの派で、手をつけてもいない。



「賑やかですね」

「……そうだね」

「やっぱり、ここに残りましょう」

「ダメだよ、そんなの……」

「そうですか?」

「うん……。だってこれから、マティアスくんも大変なことに身を投じていくんだし、それを助けるのが約束だよ」



 リアンのことは、好きだ。最初は驚いちゃったけど。

 マレドミナ商会を辞め、島に戻ってきてからは僕のところに転がり込んできた。作ってくれるご飯はおいしいし、家のこともいつも綺麗にやってくれている。それでいて正式にエンセーラム王国の宰相と任命されて――いや、任命させて?――からは、その仕事にも精を出している。


 ちょっと腹黒いところは見え隠れするけれど、他人の幸せを喜び、他人の不幸に同情する。

 他人のために尽くして働くことが彼女の活力になっている。



 いつも絶やさないほほえみは安心させてくれるし、どんな話にもつきあってくれる広い知識を持っている。素敵な女性だと思う。惜しむらくは、耳も尻尾もないことだけれど……。


 リアンと一緒になれたらいいなと思う。

 でも、僕はマティアスくんに仕える。リアンはこの国に仕えている。


 離ればなれで暮らす夫婦なんて僕は認められない。

 だから、結婚するならリアンには僕について来てもらわないといけない。けれどリアンはリアンで、僕にここへ残れと言うしで、ずっとどうなるかが決まっていない。




 6人での酒宴がお開きになった。リュカはそのまま礼拝堂内の寝室へ引っ込んだ。エノラは王宮へ欠伸をしながら歩いて帰っていく。レオンとマティアスくんはすっかりできあがって、朝まで飲むぞと肩を組んでへらへら笑い合っている。

 僕も帰ろうかと思ったけど、レオンとマティアスくんに絡まれてつき合うことにした。リアンはささっといつの間にか帰ってしまっていた。こういう行動は本当に迅速だと思う。



 移動して次の酒宴をするのは作業所となった。ここでレオンは島で採れた食材を使った新しい料理を作ったり、何かの工作をしたり、色々とやる場所だ。

 3人で飲み始めると何だか学院を卒業した日を思い出した。あの日にやっと2人はリアンが女だっていうことを知って――そうだ、スキヤキも食べたっけ。その後にこうやって3人で明け方までお酒を飲んだ。2人とも朝になったら二日酔いで、またねって別れたらレオンだけ先に出発しちゃって……。


 あれから10年だっけ?

 あれがもう、10年前のことなのか。時間が経つのは早い。



「マティアースくぅぅ〜ん……もぉぉぉ、お前さあー……」

「キミだってもう僕が何言おうが、ああだこうだと……」


 2人とももうへべれけ状態。それでもお酒を飲む手を止めていない。きっと明日になってから後悔するパターンだ。僕が文句言われたりするのかな、何で止めなかったんだ、とか。ヤダな。


「ロビィーン!! ロビンっ!」

「あ、はいはい。何? どうしたの、レオン?」

「尻尾さーわらしてっ」

「だーめーです」

「いいじゃんかよー! なああ〜、ロビィーン……」


 レオンが肩を組んでくる。お酒臭いし、汗臭い。


「ロビン、じゃあ僕はいいだろ……? 一度だけ、触ってみたかったんだ」

「ダメだよっ、何でマティアスくんまで……」

「興味本位だ、ちょっとだけ……なあ、ロビン? いいだろう?」

「ずりーぞマティアスっ! ロビンがダメーって言ってんだから、てめーも触んな!」

「僕はロビンの主だぞっ! それくらいの権利はあるっ!」

「ないってば! 2人ともお酒飲みすぎだよ、それくらいにしなって」


 2人から杯を取り上げて、飲み干しておいた。そこに水を張って返すと2人して飲み干してから、顔を見合わせる。



「これ水じゃんかよぉ……」

「酒だ、ロビンっ! 酒を飲め!」

「もうおしまいにしよ。ね?」

「やだっ!」

「酒を持ってこぉぉーい!」


 2人して子どもみたいになっちゃって……。

 無視して片づけを始めると、揃ってブーイングしてきた。でもお酒を取り上げる。作業所の中へお酒を持っていってから戻ると、さっきまでのテンションが嘘みたいに落ち着いていた。



「ロビーン……」

「どうしたの、今度は?」

「話があるんだ……座ってくれ、ロビン……」

「うん? うん……」


 神妙な顔をしてる。

 でも酔っ払いだしなあ……。



「……ロビン」

「どうしたの、マティアスくん」

「お前……リアンと結婚しちまえ」

「でも……それは……ほら……」

「いいんだ、ロビン」

「マティアスくん?」

「僕は……僕はっ、僕だってミシェーラと結婚したい! ロビン、キミは僕ほど難しい条件じゃあないんだ、僕のところへ来なければそれで全て済む! だから、キミは幸せになれ!」

「えっ? あ、そ……そんなこと、急に言われたって……」

「いいんだ、もう決めたぞ! いや、言うな、キミは何も言わなくたっていい! 僕だって自分のことで手一杯さ、でもな、だからこそ、分かるんだ、もどかしさが! 分かってるつもりだ、だからっ……だからキミは……ミシェラアアアアアアアア!!」


 僕はミシェーラじゃないんだけど……。

 何故かレオンまでテーブルをガンガン叩きながら突っ伏して号泣してるし……。



「ロビィーン……ロビンよぉぉ……」

「ロビン……キミは……っ……キミも、僕も……一緒に幸せに……なろうじゃないか……」

「はいはい、そうだね。もう休もうね。遅い時間だから。レオンも、ほらっ、ちゃんとして。酔い潰れてるところ見られたら示しがつかないでしょ」


 レオンとマティアスくんに肩を貸しながら小屋の中へ連れていって寝かしつけた。それから後片付けをし、ようやく一息つく。横にさせたらすぐに2人とも寝入ってしまった。




 僕が、マティアスくんのところに行かなければ……。ううん、お酒に酔って口走っちゃっただけのことだ。明日になったらきっと忘れちゃってる。

 今さら約束をなしにしたって、そんなの僕がまた困っちゃう。島に残ることになったって……なったら、何をすればいいんだろう? リアンの仕事を手伝うのは、ちょっと僕の領分じゃないし。魔法士としてやれることなら、そりゃあたくさんあるだろうけど……。



 …………。

 ううん、ダメ、ダメ。


 1回決めた約束を後になってからなし、なんて。そんなのって、何だか良くない。決めたんなら、ちゃんとそうしなきゃ。



 それにマティアスくんだって、自分のことがあるんだ。

 僕を優先したばかりにマティアスくんの予定が狂っちゃうのは見逃せない。アーバインの兄弟剣を持つ者同士としても、僕らは特別な友達なんだ。

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