ロビンの婚活!
「ロビン、結婚しとけって」
「……酔った勢いで言い出したことじゃ、なかったの?」
学校がお休みになると、よくレオンは僕のところへ来る。今日はフィリアちゃんと一緒にやって来て、お茶を飲もうと言い出した。浜辺に出した椅子とテーブルに腰掛けてお茶をする。
フィリアちゃんはレオンに似ちゃったみたいで、僕の尻尾にじゃれついてくる。レオンが僕の尻尾を狙ってくる時はタイミングが読めるから止められる。だけどフィリアちゃんはそういうのが全くないから、ちょっと注意を払わなくなっただけで掴まれてしまう。今も、僕の椅子の後ろに回って尻尾をつけ狙ってきている。
「いやな、俺も正直……結婚なんてしない方がいいとか、聞いたことはあったよ。だけど、いいぜ? 実際のとこ。ほんと」
「誰からそういうの聞いたの?」
「まあ……色々だ。で、だよ。お前にもな、是非ともこの幸せは味わってもらった方がいいんじゃないかと思うわけだ」
「うん」
「だから結婚しとけって」
「でも相手がいないんだもの……」
「お前モテるんだろ? そん中から見繕えよ。何なら婚活パーティー開いてやろうか?」
「こんかつ……パーティー?」
「あ、いいかも、これ。やるか……やっちまうか? なあ? どう思うよ? 盛大に」
「よく分からないけど……」
「よし、やろう」
レオンに火が点いたかも知れない。
どういうものなんだろうと思って勘繰っていたら、フィリアちゃんに尻尾を握られた。慌てて放させるとレオンがすごくギラギラした目で僕を見ていた。……獲物になっちゃった気分。
翌日、壁新聞にその告知が出て、人を集めていた。
『エンセーラム王国主催、結婚したい独身男女へ朗報!』
そんな見出しだった。
内容を要約するとお見合いをパーティーみたいな形式にしたものらしい。
結婚したいと思っている男女を大勢集めて、次から次へと催し物をやりつつ交流をしていくらしい。それで最後に、この人となら一緒になりたいという希望を紙に書いて、両思いになったところだけ発表をするというもの。
成立したカップルがそのまま無事に結婚をしたら、お金じゃないもので生活を補助したりもするらしい。新居を建てる時に一部金額を負担するだとか、そういう形で。
これがレオンの言ってた、コンカツパーティーというものらしい。
参加条件は字が書ける15歳以上の独身男女というだけ。
字の読み書きを全国民ができるようにしたいレオンは、こういうイベントごとに文字の読み書きを条件として組み込むことで、生活上必要なこととして認知させていきたいらしい。
「ロビン、これ出るの?」
「……レオンに出ろって」
メーシャと一緒に壁新聞を眺めてたら尋ねられ、答えた。
「メーシャは……出たいの?」
「まだ出られないもん」
「そっか……」
「それにマティアスがいいっ」
「…………ふうん」
マティアスくんは……友達としてはいいけど、でも、メーシャが好きって言う度になんか、嫌いになりそうな感情が湧き出てくる。マティアスくんは女の子と不純な遊びをするのが多かったし、ディオニスメリアの貴族だし、メーシャにはちょっと合わないと思う。それにミシェーラのことが好きだろうし……。
今は僕がメーシャを預かってるんだし、マティアスくんに仕えることになる前にメーシャの結婚相手を探しておいた方がいいのかな。もしもこのまま、メーシャがマティアスくん一筋になっちゃって、それで結婚したくないとか、しないとか開き直っちゃったら、父さんに申し訳が立たないし、魔法をかじって行き遅れになっちゃったりすると、可哀想なことになっちゃったりとか……。
「うーん……」
「どうしたの、ロビン?」
「……何でも」
「ロビン、お嫁さん見つかるといいね」
「……そうだね……」
先に自分の心配した方が、いいのかな。
でも何だかこういうのって、ちょっと気が乗らない……。
「ようこそ、結婚希望者達よ! 今日は無礼講だ、でも最低限のマナーは守らねえと振られるかも知れないからほどほどにな! リラックスして、伴侶を見つけてくれ!」
レオンの挨拶でコンカツパーティーが始まった。
会場は何とベリル島の音楽ホール。男女合わせて130人が集まったらしい。僕もその中のひとりだ。
「後は任せた」
言うだけ言ってレオンはステージに置かれているピアノの前へ座り、弾き出した。レオン、実はあれを弾くのが楽しみになっちゃってたりするんじゃないかな。
後を任されたのはシオンだった。
「それでは皆さんに、まずはゲームをしていただきます。これからレオンハルト様が音楽を奏でられます。その音楽が止まった時に用意された椅子へ座るというだけのゲームです。音楽が鳴っている最中は円形に並べられている椅子の周りを列になって回っていただきます。そして椅子の数は常に、ひとり分が足りなくなっている状態です。素早く椅子に座らないとあぶれてしまいます」
どうして、ゲーム?
いくつかのグループに分けられ、ゲームが始まった。レオンが軽快にピアノを弾き始める。明るくて跳ねたくなるような曲だった。それが不意に、ぴたっと止まる。同時に椅子へ座る。ただそれだけだったけど、意外と盛り上がっていた。列が男女混合にされているから、女の人と1つの椅子を争うことになっちゃったりして、お尻がぶつかり合ったりしてしまうこともある。それが話したこともなかった人と言葉を交わしたりするきっかけにもなるみたい。
……ちょっと、僕は余裕すぎちゃってそういうハプニングもなかったけど……。
椅子取りゲームというのが終わると、しばしの歓談タイムということになった。その間にシオンとミリアムが次の準備を始め、レオンは相変わらずムーディーにピアノを弾いている。さっきのゲームでちょっと生まれた交流を、この歓談タイムで深めるというのが目的なのかも知れない。
「ロビン様、素敵でした」
「甘噛みさせてもらっても……いいですか……?」
「し、尻尾はないんですけど……お話してもらってもいいですか……?」
うっかり最後まで残っちゃって目立ち、女の人が寄ってきちゃった。何だか、こうして迫られてくるとちょっと逃げたくなる。作り笑いをしながらそっと会場を抜け出し、外で休憩しておいた。
何だか、合わない。
確かにレオンが幸せそうだっていうのは分かるし、結婚したくないわけじゃない。
だけど、大勢の女の子から選ぶとか、そういうのってどうなんだろうって思う。出会うべくして出会った女の人とじっくり仲を深めたい。こういう、パーティーみたいなので出会ったって、って少し思う。
レオンとかマティアスくんには笑われちゃいそうな考えだとは自覚してるけど……。
音楽ホールの外で石段に腰掛けて時間を潰す。次の催しは始まってるみたいで、賑やかな声がぼんやり聞こえてくる。このままサボっちゃおうかなと思う。折角レオンが開催してくれたけど、ちょっと乗り気になれない。僕にその気がないのに女の子が、自意識過剰かも知れないけど僕を目当てにしたら断るはめになっちゃうし、それは悪いと思う。だったらいない方が……。
「…………うーん……」
僕って、結婚なんてできるのかな……?




