表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノーリグレット!  作者: 田中一義
#30 クルセイダーと記憶と愛と
336/522

レオンの覚え書き






 3つのことを語ろう。

 1つ、ニコラスの企みについての推測。

 2つ、フェオドールの魔剣の特性についての推測。

 3つ、押しかけ弟子2号ことシモンのその後について。



 ニコラス・ムーア・クラクソン。

 クラクソン聖教会の元大司教にして、ヴラスウォーレン帝国とも強い繋がりを持っていた腐った聖職者。


 こいつも若いころはシャノンの加護を受けたというだけあって、立派な聖職者だったらしい。生きた聖人とさえこの国では言われていたようで、身を粉にしながらシャノンの教えに従って、人々を導いていた。


 逆算される限り、その聖人時代は約40年前には終わっていた。

 女神の剣の隊長の存在から確認される。この隊長さんはニコラスに続いて現れた、シャノンの加護を持った人物だった。質実剛健を地でいく、堅物。加えて卓越した剣の使い手でもあったというのだが、こいつもニコラスからの洗脳を受けていたことが判明した。


 洗脳という言葉を使っているが、実態はニコラスがシャノンの祈術で人の記憶を操っていたというだけのことだ。それによって事実とは異なる記憶を頭に植えつけられて、事実を徐々に忘れ、虚実を真と思い込んでいった。クルセイダー最年長であった、この女神の剣隊長が洗脳をされていた。その洗脳が始まったのが、約40年前だったということだ。


 それからニコラスは40年に渡って、次々とクルセイダーを増やしてきた。

 クルセイダーは祈術を扱うことのできる戦士であり、教会の兵隊、ひいてはシャノン教信者の憧れの存在であるとも言える。どうやってか、ニコラスは次々と孤児院に引き取った子どもの中に、加護を受けられる者を見つけて囲っていたのだ。

 そして洗脳をして自分に忠実な(しもべ)にしていた。


 事件があった時、クルセイダーは帝都にいない者も含めて322人いたらしい。だが、ニコラスがマディナに全ての加護を集めさせたことで失われた。322人に分け与えられていた加護を一身に集めたマディナは考えられないほどのバケモノじみた力を発揮した。

 そういう、マディナみたいな存在の完成形があったようで、マディナはまだ実験途中の未完成状態だった。最終的にどうなるかは分からないが、ニコラスの死亡に伴って、もう二度と完成状態が日の目を見ることはなくなっただろう。



 そして。

 このニコラス・ムーア・クラクソンには協力者のような相手がいた。


 それはナターシャとか呼ばれていたエルフの女だ。恐らく、あの美貌はエルフだろうと思う。

 ナターシャとニコラスは協力関係にあり、一緒にこの実験(、、)をしていた。が、マディナを用いた実験の結果を見届けるなり、謎の赤い玉を回収して行方を暗ました――はずだった。このことについては後で改めて。


 ナターシャは変なものを手に入れていた。シャノンの加護を一身に集めていたマディナの胸から抉り出された赤い玉だ。最初に胸を抉られた時は心臓だったように思える。だが、体外に出るなり、それは赤い玉に変じた。産まれたての赤ちゃんの頭くらいの大きさをした、赤い玉。

 ヤマハミの目から取れる赤魔晶にそっくりのものだった。体外に出た瞬間に玉になるというのも、赤魔晶と同じようなものだろう。


 俺はこれによく似たものを以前、見たことがある。ディオニスメリア、外洋の港町ジェニスーザ・ポートに現れた海賊が連れていた海の巨大な魔物ジャルを操っていた、不思議な玉だ。あれはカルディナとか言うらしい。カルディナを用いることでジャルを自在に操ることができた。

 カルディナを傷つけようとすればジャルは苦しむらしかった。

 カルディナを使って命令をする度にジャルは少なからぬ苦痛を与えられ、そのために命令を聞いているらしかった。


 カルディナと、マディナの心臓が変じた謎の赤い玉の関係は分からないが、俺はカルディナを即座に思い出した。

 ナターシャの目的は、あのカルディナのような赤い玉だったのかも知れない。


 だが、現時点では判明のしようがないことだ。



 2つ目。

 フェオドールの魔剣の性質についての推測。

 フェオドールの魔剣は俺が10年ほど前に手に入れた剣だ。火天フェオドールという元大盗賊の奴隷商が愛用していた獲物で、剣を一振りするだけで灼熱の火炎が放たれる。長らく、そういうだけのものと思っていたが、こいつはどうやら、俺をえらく気に入ったようで、ここぞという時にあらゆる力を喰らい尽くそうとしてくることが判明した。


 俺は魔技を使う際、自前の魔力がないために大気中に満ちている魔力を取り込んで利用している。フェオドールの魔剣は、俺が取り込んだ魔力を自分のところに集めて無尽蔵に喰らう。最初にそれが分かったのは剣精アイナとの戦いの時だった。

 最初はアイナの得ていた泉の神の加護を喰らった。それによって剣身が赤かったものが赤黒くなった。意識を失っても俺の手からは離れようとせず、俺の体を利用して魔力を喰らい続けていた。どころか、俺はその時に酷い衰弱に見舞われたとも聞いている。生命力――のようなものまで、あの時に喰らわれていたのかも知れない。


 そして今回も、俺はフェオドールの魔剣を使った。

 ただ普通に武器としても使っていたが、加護を集めたマディナとの戦いの最後に、思い出したので意識的に魔剣フェオドールの特性を発動させることにした。バカ弟子の小娘がマディナは俺に惚れてただとかのたまったから、童話の王子様がごとく――俺は王子じゃなくて王様だが――キスしてやった。それと同時にマディナから魔力をもらおうとしたら、魔力ではなく膨大な加護の力が流れ込んできた。体が破裂するかとも思ったが、フェオドールの魔剣は俺の体を介して次々と喰らい尽くしていた。


 それでようやくマディナの加護が少しだろうが減少し、意識を取り戻させることに成功した。

 もっとも、全ての加護を喰らい尽くす前にナターシャが赤い玉を抉り出し、それで加護ではなく魔力を喰い尽くしにかかってきたが――つまり、どこの神様の加護だろうが、フェオドールの魔剣は喰らおうとするのだ。しかも、一度喰い始めればすぐに収まろうとはせず、俺を介して魔力さえも喰らい尽くそうとする。


 力ずくで放そうとしても、手放せなかった。リュカにツバを握らせて引っ張らせたがそれでもダメで、肩が外れかけたがソルヤに施してもらった魔力制御の指輪をはめることで、ようやく手放すことができた。今も俺の指にこの銀の指輪ははまっている。


 フェオドールの魔剣の正しい名前は知らないが、とにかくこれは危険な剣だと再認識させられた。しかも俺が記憶をいじくられている真っ最中であっても、最後まで取り上げられることがなかった。こいつが近くになかったことが起因して、記憶を取り戻しかけたことがあったせいだ。

 つまり、俺はこの魔剣に魅入られてしまっている。全くの無意識で、俺の生活範囲内にないとダメになっているのだ。使わずとも、傍に置かないといけない。


 全くもって恐ろしい。




 3点目。

 シモンの、その後について。

 俺とリュカは騒動の後、ヴラスウォーレン城に軟禁された。その間、ずっとシモンのことは忘れていた。我ながら薄情だとは思うが、完璧に俺も忘れてたし、リュカもずっと忘れていた。


 思い出したのは少し落ち着いてきたころだった。いきなり思い出して、ずっと放ったらかしにしていたから城のやつを半ば脅すようにして様子見に行かせた。が、拠点にもいなかった。もしかして、とリュカが顔を青ざめさせて、待ってろと言いつけた場所まで城を抜け出して行った。そこで――リュカはナターシャとシモンを一緒に見かけたと言った。



『俺に気づいて、シモンが言ったんだ』


『お世話になったね。レオンにもありがとうって言っておいてよ。

 僕はもっと楽しそうなことを見つけたから、彼女と一緒に行くことに決めたんだ』



 リュカはナターシャを即座に、悪党と断じたらしい。俺も何も考えずに手を出そうとしただろうから、それは別にいい。

 が、ナターシャは風が吹いて砂が地面の小さな砂が舞い上がったかのように消えたと言う。シモンと一緒に。魔影を使っても移動をしているものはなく、そっくりそのまま、どこかへ消え去ったのだと言う。


 意味の分からない話だった。

 俺はリュカから聞いた話を、リュカは自分の目と耳を疑ったが、そういうことで、やっぱり意味が分からなかった。




 以上が、軟禁状態に考えたこと、起きたことだ。

 ぼちぼち、軟禁も飽きたと思ってきたころになって、城の偉いさんに会食へお呼ばれした。これまで毎日、部屋にメシを運んできてくれていた。それが、会食。


 リアンかエノラがいりゃあ頼もしいのに、と思いつつ襟だけ正してリュカとともに向かうことにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ