正義の味方、リュカ
「今だ!!」
「んっ?」
魔影で感知していた、明らかに隠れていた3人が姿を見せた。今倒したばかりのクルセイダーが使ってきた変な魔法を使ってくる。でも、速かった。
「う、あ、ええっ……?」
光っている帯みたいな無数のもの。それが体に絡みついてきて身動きを封じられた。力を込めても全然、自由が利かない。魔法じゃないかも知れない。――これが、シャノンの加護かも?
「リュカっ……!? 触っちゃダメって、言いかけたのに……」
「言いかけただけじゃダメじゃん、ちゃんと言ってよ!」
「リュカが聞かなかったの!」
魔鎧を使ってみても動けそうになかった。
力ずくじゃダメなやつだと分かる。俺を縛り上げている3人が近づいてきた。魔法を使おうともしたけど、何か変な感覚で使えそうにない。身動きと魔法をこれで封じてるのかも。良くない感じ。
「……ミリアム、やっつけられる?」
「ええっ!?」
「何でそんな驚くの?」
「だ、だって……」
「超弱くないんでしょ?」
「それは……」
「――そいつはザコだよ、異教徒」
言いよどんだミリアムに冷たい言葉が浴びせられた。
俺を拘束している内のひとりが口の端に歪んだ笑みをぶら下げている。口元だけならレオンに似てなくもないけど、目が全然違うから分かる。これは悪口だ。レオンの場合、口元は一緒でも目だけは余裕を持って笑ってる感じがあるから、意地悪そうに見えても、実際に意地悪でも、こいつと違って悪辣じゃない。
どうにか動く首を動かしてミリアムを見る。
半歩下がっていた。腰が引けてる。
「ふうん……」
「状況が分かってないのか? 余裕こいてるなあ? ああそうか、ハナっからミリアムなんか期待しちゃいなかったのか」
「何かミリアムに嫌なことされたの?」
「いるだけで目障りってえやつだ」
「……俺、お前みたいの嫌いだ」
「だったら何だよ!」
顔を殴られた。
痛みは感じるみたい。
でも、こんなのどうってことはない。顔を上げて、殴ってきたやつを見据える。
見据えながら、
「ミリアム、ここの連中って皆、こういうやつらばっかり? お前のこといじめてんの?」
「はっ? そ、そんな、こと……」
「そんなの気にしてどうなるんだよ、異教徒。お前の言う通りだぜ? ミリアムはクルセイダーの面汚しだ、どうしてシャノンに認められたかも分からない落ちこぼれだ。せいぜい、孤児院の加護も授かれねえようなガキども程度からしか好かれていやいねえよ」
「……分かった。じゃあ、全員、俺がぶっ飛ばす。ミリアム、レオンのこと頼んだから」
「な、何言ってんの?」
「状況分かってるのかよ、異教――」
ソア、力を借りるよ。
空から光の柱が俺へ落ち、轟音が鳴り響いた。
それでシャノンの加護の力だっていう拘束を打ち破る。
「っ――お、お前っ……!?」
「かかって来いよ、シャノンの加護持ち。
俺は厳正と秩序の神、雷神ソアの信奉者にして神官。
悪の心に突き動かされる全ての人を罰して裁く、正義の味方だ」
不当に人の心を傷つけるのは、悪だ。
「リュカっ――」
「行って、ミリアム。終わらせたら行くから、レオンのこと頼んだ」
目配せするとミリアムは何か言いかけて、でも頷いた。
「道は俺が切り拓くから」
「っ……やってみろ、今度はすぐに殺してやる!!」
「クリムゾン――」
火の魔法を放つ。
俺はまだこの目で見たことがないけど、レオンが唯一使える魔法だとマティアスやロビンやリアンから聞いた。莫大な魔力を放出し、それから炎へ変換をするという手順を踏むらしい。
それによって通常の魔法とは異なり、炎そのものが強い貫通力と火力を持ち、複数の魔法を組み合わせずとも高い威力を発揮するんだってロビンは言ってた。これをレオンは俺と出会う前――確か8歳だかとかの時にやったって聞いた。
「――ジャベリン!!」
レオンは槍の名手。
そして、この魔法は何者をも貫く炎の槍だったという。
魔技の感覚がないと使えない魔法。
一気に炎へ変換された魔力がレオンの投げる槍のように一直線に正面をぶち抜いていった。教会が丸ごと炎に呑まれたかと思ったが、目に見えない壁のようなものに阻まれていた。それでも行く手を遮っていたクルセイダーは炎に飲み込まれてダウンした。
魔影で確認すれば新手が来ている。
「行って、ミリアム!」
「リュカ、気をつけてよ!」
「分かってる」
ミリアムを見送ってから振り返ると、10人以上のクルセイダーがいた。
「異教徒を排除せよ――」
『ハッ!!』
次々とクルセイダーが俺に襲いかかってくる。
こういうの、ちょっと久しぶり。何だか腕が鳴る。
エンセーラム王国はいいところだ。平和で、住んでる人は皆、心優しい。たまにケンカはあるけど悪いやつはいない。だからこうして戦うのは――血が騒ぐ。
まずは、魔技なしで。
シールとか言ってた光の帯が放たれた。
それを土魔法で遮って止め、かいくぐりながら斬りかかる。剣と剣が交わる。軽く力を抜いて重心をズラすとまんまと引っかかって隙を見せた。そこを叩き斬り、蹴り倒す。
横からまた斬りかかってくる。それを受けようとしたら、いきなり動きが速くなった。危うく防御が間に合わないところだったけど、どうにか受け止められた。変に、早くなった。
レオンが魔力中毒に気をつけて、魔鎧を途中でいきなり使ったみたいな――そういう、唐突さだった。これもシャノンの加護かも。心なしか、力も強くなってるような気がする。
「はああああっ!」
ギチギチと刃が擦れ合う。
押し込まれてくる。そこで別のがまた切りかかってきた。引けば、押し切られる。一足で避けきることはできない。かと言って、このままだとそのまま切られる。
「チッ――使わないようにしてたのに」
魔鎧を発動し、切り結んでいた相手を吹っ飛ばした。素早く剣を翻して、向かってきていたのを切り裂く。鎧ごと力ずくに切り裂いてやった。
「シャノンの加護って、その程度?
世界一、信者が多いのにこれとか……祈りの質が悪いんじゃない?」
祈り方をバカにするのは、ものすごい侮辱なんだって神殿にいたころに教わった。
神様は信奉する人からの毎日のお祈りで人が住んでる地上のことを聞いたりもする。だからお祈りがヘタだとか、お祈りの質が悪い、っていうのは神様にちゃんと伝わってないじゃん、ってバカにするような意味合いになるらしい。加護を持っていないただの信奉者にはそこまで関係ないけど、仮にも神様に選ばれた神官に対して言うのは明らかなぶじょく行為だ。
そして、この文句はシャノンの信奉者にもよく効いたらしい。
俺が言ってやったら、まだ立てているクルセイダー達が一様に怒った顔をし、一斉に襲いかかってきた。光の帯が駆け巡る。光を体に宿して、切りかかってくる。
やっぱり、この人達は強くない。
いくらシャノンだとは言え、こんな大人数に加護を与えていたら1人ずつの力も弱くなる。それにここにいるのが全部っていうわけでもないはずだ。そりゃあ、シャノンの加護が与えられたやつが全部集まってこられたら絶対に勝てないけど、加護を分け与えすぎちゃってて、10人とか20人くらいなら同時に襲いかかられてきても対処ができちゃう。
だけどそれって、やっぱりおかしい。
シャノンが十二柱神話の神様じゃないからなのかも知れないけど、こんな大人数に加護を与えてるだなんて普通じゃない。しかも、このレギルスって都に、このヴラスウォーレンっていう国にばかり集中して。
神様は1つの国のものじゃないし、シャノンはディオニスメリアでも、クセリニアでも、信仰している人がいる。なのにここへ来るまでシャノンの加護を持った人を見たことがなかった。
どうして、シャノンの加護を持った人がこんなにもいるんだろう――?
一撃で相手の剣を叩き砕いて、殺さないよう手加減をしながら倒していく。
次々と教会の中からクルセイダーが出てきて、俺を包囲してくる。魔法で攻撃をされても、魔法でやり返した。加護の力を使われても凌げる。何人、何十人、もしかしたら、何百人も、加護を受けた人がいる。
何度考えても、こんなのはおかしい。
それともシャノンって、そこまで本当にすごい神様なのかな。




