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ノーリグレット!  作者: 田中一義
#30 クルセイダーと記憶と愛と
320/522

謝肉祭






 どこの世界にも、仮装してはしゃぐっていうイベントがあるらしい。

 結局、小娘に騒がれまくって懇願され、ご近所の目もあって謝肉祭につきあってやることになってしまった。


 クルセイダーが出席しなきゃならない、っつーパーティーは謝肉祭の最終夜にやるそうだ。

 ちなみに謝肉祭は5日間もやるそうだ。


 祭りなんて、超久しぶりだ。

 カハール・ポートにリュカを迎えに行った時以来な気もする。7年ぶり、とかか?

 大勢で騒ぐようなイベントはちらほらあったし、直近だと俺の披露宴が盛大すぎた。けど、祭りって銘打たれてるのはやっぱり超久々だ。



 そして、この謝肉祭。クラクソン聖教会、とやらが主催のやつ。

 5日間、夜になる度に仮装して、それはそれは愉快に騒ぎ立てるらしい。


 仮装の内容はシャノン教の――いわゆる聖書めいた、そういう書物に登場するのの仮装がメインだそうだ。馴染みもねえし、さっぱり興味は湧かなかったのだが初日の夜に仮装したやつが下町へ登場し始めると、何だか面白くなってきてしまった。

 それに宗教の祭りだから、何か厳かな感じがあるのかなと苦手意識を持っていたのに、さっぱりそういうのがない。一応、昼間は教会が満員御礼状態になってえらーいお話とかを聞けるそうだが、俺はそんなの見てないから、馬鹿騒ぎをしているところしか目に見えないわけだ。



 けっこう愉快そうなもんだと思えば、気は乗った。



「シモン、行くぞ」

「どこへ? 謝肉祭を見て回るの?」

「いや、こんだけの祭りなら音楽家もいるだろ? こういう時はひたすら、音楽を使って交流だ」



 リュートを片手にもちろん繰り出した。

 この世界でも、全然知らない音楽がたくさんあった。曲調こそ似た感じのものはあったが、それでも違う。国が違えば、大陸が違えば、やっぱり音楽も変化をする。


 俺の知ってる、ディオニスメリアでの音楽も披露をしてやったら、ウケが良かった。

 シモンは近くでずっと聴き入っていた。ものは試しで、混じれと無理やり命じてみたら、歌詞が分からないなりに、なんとなーくの旋律を辿るように歌い出した。

 まあ、そうなるよな、と思ってやっぱりやめていいぞと言っておいた。の



 ともかく楽しい夜が続いた。

 初日の夜はひたすら、違う国同士、違う大陸同士で、音楽の交換会めいたものになった。

 2日目の夜は気の早い音楽家が、昨日、俺が教えたのをアレンジして奏でているのを耳にできた。

 3日目の夜にようやく、俺はこの世界の音楽ではないものを披露し始めた。だが、十全な再現ができなかった。

 そこで4日目の日中を使ってカホンを作り、シモンに簡単にだが、拍を取って叩かせるように命じ、それでビートを生み出したものと、俺のリュートと歌を合わせた。手応えはあった。


 さあ、最終夜はこれまで以上に騒ぎ立ててやるぜと――意気込んで繰り出そうとしたら、小娘が迎えに来てしまった。



「パーティー、行こ」

「完璧に忘れてた」

「ちょっと!」

「行く、行く、シモン、お前は好きに楽しんでろ」



 ちなみに俺は、2日目の夜からマディナがわざわざ繕ったとかいうので仮装をしていた。その姿で、小娘に連れて行かれた。

 仮装はシャノン教の聖書に出てくるという怪人のものだ。シャノンの使徒が、何やかんやで退治したんだとか何とか。何でそんなコスプレを持ってきたんだと問いつめたが、人型で、それっぽく格好いいのはこの怪人くらいなんだとか言い返された。


 赤と黒の継ぎ接ぎだらけのローブを纏ったのがその怪人だそうで。

 顔にもペイントをされ、目の下に縦にちょろーんっと紫色の線が引かれている。



 ちなみに、俺のこの仮装を見た小娘の感想はと言えば。



「似合いすぎてていっそ怖いよ。退治されちゃえば?」



 色々と言いたくなったが黙っておいた。

 パーティーの会場は教会だそうで、用心のためにニゲルコルヌを持っていこうとしたのだがダメだと言われた。長過ぎ、らしい。邪魔になるから、ダメと。

 仕方なく安物の剣を――と思ったがシモンに貸し出し中なのを思い出し、超久しぶりにフェオドールの魔剣を背負うことにした。ローブの下だから、外からは見えないはずだ。



「パーティーって、何すんだ?」

「別に大したことはしないよ。ニコラス大司教がシャノンに祈祷を捧げて、その後に立食パーティーして」

「ふーん……?」


 祈祷を捧げる……ねえ。

 やだやだ、なーんか、やだ。アレルギー出そう。


 リュカが色々やってたのは全然そういうのなかったけど、どうもシャノン教ってのは肌に合わねえ感じなんだよなあ。何でだろ。レオンハルトとして生まれたとこじゃあ、国教でもあったのに。



 つーか……ニコラス?

 マディナが俺のとこに通いまくってるのって、そのニコラスに俺を合わせたいがため――だったっけ?


 もしかしたら向こうから何か接触とかしてきちゃうのか?

 見たこともないやつだから別にどうとも思わねえけど、あんまり人脈に入れられたくねえし、入れたくもねえなあ。けどマレドミナ商会を通じてレギルスと商売することになったら、この国は王様よか教会の方が権力あるっぽいし、顔くらいは見といた方が良かったりすんのかね? うーん、でもなあ……。



「……はぁ」


 悩んでる内に教会へ着き、小娘がため息をついた。


「何だよ?」

「……気乗りしない……」

「……俺も。サボろうぜ」

「そういうわけにいかないの」

「さいですか……」



 デッカい扉の入口でなく、脇の通用口から中へ入った。クルセイダーもこういう時は仮装するらしく、仮装したやつばっかりがいる。ちなみに小娘は聖書に出てくる、何とかの乙女の仮装とか言ってた。乙女ってガラかよとからかっておいたが、けっこうキツめに睨まれた。



「レーオンっ」

「うおっ……!?」


 色々と仮装があるもんだと見物してたら、小娘と同じ仮装をしてるビッチがいきなり飛びついてきた。思わずのけぞりかけ、体を戻してやや乱暴に突き放す。


「んだよ、邪魔くせえ」

「そんなのより、わたしと一緒に楽しみましょ?」

「っ……ねえ、マディナ、師匠はわたしが連れてきたんだけど」

「それがなあに? エスコートご苦労さま、じゃあもう一歩踏み込んだんだし、もう帰っちゃえば? さようなら〜」

「帰らない、師匠っ、ほら! 鼻の下伸ばさないで!」

「伸ばしてねえよ。どこが伸びてんだよ、コラ」

「レオン、あなたに是非会わせたい人がいるの。こっちへ来て」

「やだっつの」

「師匠っ、ほら、こっち!」

「引っ張るなって、行くから」



 どうにかマディナをやり過ごせた。


「どーしてあいつは、あんなにお前のこと目の敵にしてんだ?」

「知らないっ」

「元々仲悪いとか?」

「……それは、違うけど……」

「そうなのか?」

「孤児院に入る前は、ご近所さんで、仲も良かったし……毎日一緒に遊んでたよ」



 意外だな。それが、あんなに露骨にけなしてくるだなんて。

 ましてちっちゃいころの友達なんて、大事にしたくなっちゃうもんじゃねえか? 疎遠になった、ってわけでもない感じだろうに。つーか、同じクルセイダーなんだし。


 俺なんていまだにクララは夢に見ることがあるからな。

 ……もふもふ成分が著しく失調してるからだけど。もふもふしてえよぉ……。ロジオンが羨ましいぜ、あんのもふ充め。



 教会の礼拝室でしばらく待つと、祈祷とやらが始まった。

 ニコラス・ムーア・クラクソンという大司教にして、この帝都レギルスの実質的なトップが登場した。


 てっきり、首がぜい肉に埋もれたような太っちょを想像していたのだが、見事にそんな予想を裏切られた。長い髪の毛をオールバックにして油で固めていた。こいつだけは仮装もしてなかったし。年齢はけっこういっている感じだが、動きは若々しかった。小声で何歳か小娘に尋ねてみたら、70歳だとか返された。ひょええ、俺のじーじ並に若々しいじいさまだこと。



 そのニコラスが最前列で手を組んでシャノンに祈りをやたらを捧げ始める。と、クルセイダー連中も、クルセイダーに連れられてきた俺みたいのも、両手を組んで祈り出した。俺は1番後ろで、壁に寄りかかって見物しといた。

 シャノンには、あんま祈りたくない。

 十二柱神話の神さん達には一応で祈っといたこともあったけど。



 その祈祷が済むと、ニコラスがべらべらべらべらべらべらべらべらべらと……リュカにほんのちょびっとだけでいいから見習えと言いたくなるくらい長ーい話を始めた。リュカなんて、いっぱい喋らなきゃみたいな顔をしながら、長くても10分で終わるくらいしか話せない。なのに、このニコラスは平気で30分、朗々とシャノンの教えとやらを説いて、そのありがたーい(であろう)お説教は1時間くらいは続いた。


 それが済んでからようやく、歓談&お食事タイムとなった。


 食うだけ食ってずらかって、さっさと俺の音楽タイムに戻ろうと食べ始める。礼拝室に直接、大量の食事の並べられた台が運ばれてきたのだ。それを手づかみ、鷲掴みで食べる。

 いいもんを食ってやがるよ。

 シモンがこのメシを見たら感激しながら食べるんだろうなと思えるくらい、豪勢なのが多かった。



「ねえ、師匠……ちょっと恥ずかしいんだけど、そんなにガツガツされると」

「うるせー、お前も食え。体作れ、体」


 小娘の口に骨つきのチキンめいた肉を突っ込んで黙らせた。

 と、そこで。



「――あら、なんてあさましい食べ方。あればあるだけ食いつくそうなんて、豚と変わらないんじゃなくて?」

「っ……んぐっ……ごくん。――これは違うの、師匠が口に突っ込んできただけだから」

「ふぉーふぁふぉ、ふぉっふぃふぃふぉ」


 そうだぞ、こっち見ろ。

 と、言おうとしたが、口の中はいっぱいで言葉もどきが食べカスと一緒に飛び出すばかりだった。が、マディナは小娘ばかりにいちゃもんをつけたいようで。



「殿方はそれくらいの食べっぷりの方がそそられるものよ」



 調子のいいやつ。

 けっ、と舌を鳴らしたらマディナの後ろにいたやつに目がいった。



「あなたがレオンハルトさんですか」

「っ……お父様」

「そうよ、お父様。こちらがレオンハルト様。ずっと、お父様に会わせたかったの」



 ニコラス・ムーア・クラクソンがいた。

 マディナがやつの腕に絡みつくと、頭を撫でられる。そうしてるのはやさしそうだが。


 なんとなーく、俺には苦手な感じがするやつだった。



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