リュカの占い〜フィリア〜
「よく当たると評判になってると聞いた」
「……当たってるの?」
「おおむね」
エノラまでやって来た。
最近、1日に5人は占ってほしいって人がくる。多い時なんて10人近く来る。
占ってほしい内容もまちまちだった。探しものがあるとか、恋占いとか、仕事の悩みだとか、家庭の悩みだとか、漠然とした不安だとか、色々と相談されちゃって、占って、こうしたら、って言ってあげてる。
礼拝堂なのに、礼拝よりも占い目的で人が来てる。
これっていいのかなあ、ってちょっと思う。
「で、エノラも占うの?」
「あたしより、この子を占ってほしい。……ふと、どうなるか気になった」
エノラはフィリアも連れて来ていた。
レオンとエノラの赤ちゃん。女の子。
「将来とか……占いたいってこと?」
「そういうこと。ものは試しに」
「試しって……。別にいいけど」
絵札を用意する。最近、もうしまってない。
前はちゃんと、いちいち引き出しにしまってたけど最近は出したまんま。取り出すのが面倒になっちゃうくらいに人が来てるから。
将来を占うって言うんなら、オーソドックスなやつでいいと思う。
シルヴィアにやったのと同じ方式。4枚の絵札から占うやつ。
「上に置いたのが、今、望んでいること。
右に置かれたのが、今、乗り越えなきゃいけないこと。
下に置かれたのは、今後、降りかかってくる災難。
左に置かれたのが、これから大事にした方が良いこと」
「分かった」
絵札を選ばせるのがちょっと大変だったけど、ちゃんと選ばせられた。まあ、手を伸ばしてたのにしただけだけど。赤ちゃんを占うって初めてだ。
「最初の絵札は……天空神ウォーダンの、正位置……。
エノラは知ってると思うけどウォーダンは、十二柱神話の1番偉い神様、主神。太陽と雨の神様ね」
「知っている。占いの内容は?」
普通だったらウォーダンって恵みを意味する神様だから、満ち足りた暮らしをしたいってこと……なんだろうけど、フィリアはまだ赤ちゃんだし、普通にそう解釈するのは難しいから……。
となると、何だろう。
「……あっ」
「何?」
「レオンが行っちゃってから、何か変化あった?」
「……夜にぐずることが、多くなった気がする」
「ウォーダンが主神なのって、色んな偉い神様の父親だからなんだ。そのウォーダンがここで出てきたのって、レオンが行っちゃって寂しがってるってことなんじゃないかな?」
「……なるほど」
「お父さんのことが恋しいのかも。
じゃあ次ね」
続いてめくるのは、フィリアが今乗り越えなくてはいけないこと。
出てきたのはソアだった。
「雷神?」
「へえ……すごいね、フィリア」
「すごいの?」
「ソアってさ、寡黙な神様だし……こういう占いでも、なかなか出てきてくれることってないんだよ。
俺がこの島の皆に占いしてあげてからも……出てきたことなかったと思うし。そのソアが出てきたって、すごいよ」
「でも……」
「うん、逆位置」
「逆位置で雷神だと、どうなる?」
「いわゆる秩序を乱してる状態だから、このままだとソアの雷が落ちる」
「…………」
「て言うか、ソアって……赤ちゃんとか子どもはあんまり、好きじゃないから……。秩序がないし、言うことも聞かないしで。ある意味、相性が良くないのにソアを出しちゃったってことは、ワガママになるのかも」
「フィリアが、ワガママに……」
何だか、すごく想像がしやすかった。
悪い笑い方をしてるレオンと、夜な夜なお金を数えてたエノラの笑顔を足して2で割ったような――。
けっこうフィリアって、かわいいってよりふてぶてしい顔もしてるし、これがどっちに似たんだ、ってレオンとエノラが言い合ってたこともあったけど両方だと思うし。
「甘やかしてる?」
「あたしはあまり」
「……エノラ、は?」
「レオンも、チェスターさんも、キャスも……シオンも、かなり甘い。かまいすぎてると思うほど。味を占めなければいい……と思ってた」
「ちゃんと躾けて」
「分かってる」
「じゃあ次ね」
今度のは、今後フィリアに降りかかってくる災難について。
あんまり悪いのが出なければいいと思いつつめくったら、風神エルメィスの正位置が出た。
「うわあ……」
「風神?」
「うん……」
「また正位置。これはどういう意味になる?」
「風神は自由奔放で気まぐれで飽きやすい神様で、これが正位置で出ちゃったから……フィリアは、多分、すごく好奇心旺盛になると思う。器用貧乏になるか、本当に色々な才能を発揮できるかは分からないけど、端から見てるとすごく自由人になりそう」
「……それは、どこのレオンハルト?」
「……レオン似、なのかも……。前の2枚も鑑みて、つかみ所がなくて、ワガママで、後々、痛い目を見そうなこととか、あるかも知れない。そういう試練が、待ち受けてる」
「因果応報?」
「……うん」
不安になってくる。でも、深刻な問題ってわけでもなさそうだから、そこは良かったかも。シルヴィアとかシオンがやたらに重かったし。
「じゃあ、最後の絵札。こうした方がいいよ、っていうやつね」
最後の絵札をめくる。
出てきたのは、海神エナリオスの逆位置だった。
「海神……」
「海神は十二柱神話でとても厄介な神と記憶している」
「うん。めちゃめちゃな神様」
「……その、逆位置だと?」
「強い運命にさらされる。それにされるがままでいると、危険なことになっちゃう。だから、その時にどうやって抗えるかっていうのが、すごく大事なことになっていく。海神の逸話がいっぱいあるんだけど、人が海神に挑む時、ひとりだと絶対に負けちゃうんだ。仲間がいないといけない。だから、フィリアに大きな災難が訪れた時は友達や仲間や家族みたいな協力者と一緒に立ち向かわないとダメ」
「なるほど」
「あと、フィリア……もしかしたら、ワガママな上に好奇心旺盛で、人との関わりが苦手になるかも。海神の逆位置だから人同士の関係に何か難があるかもっていうことになるから。そうなると、友達とかって難しいかもだから、エノラとかレオンとか、家族が守ってあげなきゃダメ」
「……心得た」
「大体、こんな感じだけど……いい?」
「問題ない。ありがとう」
改めて、出ている絵札を眺める。
天空神、雷神、風神、海神。出てきた神様から総合的に考えると、フィリアはすごく強い運命を持ってるかも知れない。何たって、十二柱神話最強候補の神様が全部出てきてるし。それに加えて、風神と海神っていうめちゃめちゃな神様達と、威厳のある天空神と雷神っていう怒らせると超怖くて強い神様。
神様同士の対立が出てきてしまってる。こういうのは、ものすごく運命に翻弄されるっていうことだ。
ひとつずつを見ていくと、そこまでって感じだけど――4枚を見ればこれはこれで、異常かも知れない。
「フィリア……大丈夫かな……?」
「……リュカ、ぼそっと不安になりそうなことを言わないでほしい」
「うん、ごめん……。フィリア、大丈夫?」
「改めて言い直さないでもほしかった……」
じゃあどうすれば良かったの?
けっこう心配になる。今も興味なしって感じにしてるし。
「そう言えば……リュカは、自分で自分を占ったことは?」
「ないよ」
「やってみようとは思わないの?」
「神官って、占いをやる方法は教わるけど……自分ではやらない人の方が多いの」
「それはどうして?」
「……だって、信奉してる神様が出てきてくれなかったら、何かヘコみそうだし」
「…………そう」
「うん。……だから、俺もソアが出なかったらヤダから、やってない」
エノラはお金じゃないものをお礼に持ってきてくれていた。
獣人族もいっぱい島にはいるから控えてたっていう、スパイスの料理の準備だった。それで作ってもらったのは、最近、収穫ができたコメと合わせた料理。
カレーライスっていうらしい。
レオンがものすごく食べたがっていたやつっぽい。帰ってきた時に食べさせてやるための試食っていう感じらしいけど、めちゃくちゃおいしかった。俺もカレーはマオと一緒にジェニスーザ・ポートへついた時、ウドンで食べた。
だけどカレーライスは、それよりも何だかおいしかった。
何でもおいしいけど、特別においしかった。いっぱいエノラは、スパイスのはいごーっていうのを試してるらしくて、ちょっとずつ違うのを出してくれたけど、あんまり違いは分からなかった。けど、その試したいっぱいをめちゃくちゃ食べさせてくれた。
おいしかった。
お金もらうより、こうやって食べものでもらった方が嬉しい。
「ごちそうさま!」
多分、30食くらいは食べられた。
「……リュカはやっぱり、いい試食の相手……」
ぼそっとエノラに呟かれた。
別に普通なつもりなんだけど、何で皆、あんまり食べられないんだろうって思う。でもさすがにちょっと食べ過ぎた感じがあるから、休憩してからお祈りをしよう。
早くレオン、帰ってこないかなあ……。




