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ノーリグレット!  作者: 田中一義
#14 王都と親子とオッサンと
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イアニスの忠告




「オッサンってすごかったんだ……」

「青天の霹靂だな」

「キミ達、ヴィクトルは尊敬すべき相手だ。

 気軽にオッサンなどと呼ぶものではない、改めろ」



 イアニス先輩にはヴィクトルという存在の何たるかを熱弁されたが、俺とリュカは「すごいオッサンだったんだな」程度の感想しか抱けない。


 だってアレだ。

 オッサンは、あんなだったんだ。


 自分で自分をオッサンとか自称するし、やたらに卑下するし、自虐的で哀愁漂わせてたんだ。

 でもって、そういう風に受け入れておくれ若人達よ、みたいな雰囲気だったんだからそう思っちゃうものだ。

 どうもイアニス先輩は誰かが名を騙ってるんじゃないかとか疑ったようだけど、案外、名前ばっかりが知られててオッサンの人柄みたいのは知られてないのかも知れない。



「でもイアニス先輩も、オッサンと接すれば俺らが馴れ馴れしくなるのも分かると思うぜ?」

「そーだよ、オッサンってオッサンだけどすごかったから!

 レオンがずっと寝込んでたのに薬で治してくれたし、一日で効果出たし!」

「寝込んでいた? レオンハルト、どこか悪かったのか?」

「あー、まあ……ちょっと」

「ちょっとじゃなくて、たくさん」

「たくさんってのもどうだよ……」

「キミが寝込むなんてことがあるのか……」

「おーい、先輩は俺を何だと思ってんですかー?」

「さては毒でも盛られたか?」

「なっ……何で分かった、イアニス先輩、エスパー?」

「なんてこともないか……」


 よし、迫真風ダイコン演技で切り抜けられた。

 いやでも鋭いな、さすがはイアニス先輩だ。剣技の方もさらに進化を遂げているかも知れない。



「だが、ヴィクトルとお会いしたのか……。キミは常に想像を上回るな」

「褒め言葉で受け取っても?」

「好きにしたまえ」

「いえーい、やったぜ! ハッハー、イアニス先輩に誉められちったー!」

「そういうところも相変わらず、か。少しは背も伸びたというのに。

 そうそう、クラシアくんに会いに来ているのだったな」

「へっへっへ、羨ましいか、羨ましいのか? んん?」

「ああ羨ましいよ」



 何と。


「とは言え、キミには勝てそうな気もしないから何もしないがね」

「えっ、イアニス先輩、ミシェーラのこと……」

「ん? 大抵の男は彼女にめろめろだっただろう。今さらか?」


 学年も違うイアニス先輩をして、大抵がメロメロだなんて。

 ミシェーラ姉ちゃんはさすがだな。けど何だろう、この気持ちは。またジェラってるかも、俺。


 つーか、まるで俺がツバつけてるみたいな言い方じゃねえか。

 何でこうも勘違いされるかね。俺のミシェーラ姉ちゃんへの愛は親愛だっちゅーに。……まあ、牽制になってるんなら上等だけどな。

 それでこそミシェーラ姉ちゃんを守れるってもんだ。



「まあ、そのことはいい。彼女は城に出入りしているようだが、城内も不穏な空気があるようだ。良からぬことに巻き込まれたりしなければ良いな」

「不穏な空気?」

「ああ。……大声では言えないが、血が流れるかも知れない」

「そりゃ、確かに穏やかじゃないな……。イアニス先輩はその辺のこと知ってんの?」

「僕は中立だ、ひとりの騎士として国のために尽くすのみだ」

「……ちなみにさ、それって権力争いみたいなもんでしょ?

 どことどこがバチバチやらかそうとしてんの?」

「第一王子のトビスレヴィ殿下と、第一王女のシグネアーダ殿下が対立されている」

「王子と、王女?」

「正統な後継者であるのはトビスレヴィ殿下だが、シグネアーダ殿下は自分こそが次の王にふさわしい、と」

「後継者争いか……」


 単純に現政権を握る、今の国王に対して何かするのかと思ってたけど、そっちだったか。


「でもそれがさ、第三王女の成人の儀を前に……ってのも、何かじゃねえ? タイミングっつーの?」

「このタイミングで、どこからかそういう話が漏れているんなら簡単な理由だ」

「って、言うと? 俺あんまそういうの回んないんだよね」

「……警備をかいくぐり、あるいは意図的に何者かが警備に甘いところを作り、暗殺でも企てているんだろう。

 第三王女リーゼリット殿下の」

「リーズ死ぬのっ!?」


 リュカが飛び上がりながら大声を出した。


「黙ってろ、リュカ」

「だって!」

「いいから、黙ってろ。……んで先輩、リーズが暗殺されちゃう理由は?」

「何者かに、濡れ衣でも着せて陥れるのではないか?」

「……くっだらね」



 王子様だろうが、王女様だろうが、リーズはてめえの妹だろうに。

 それを暗殺して後継者候補を陥れて、自分は富と権力を手に入れた安泰コースですか。胸くそ悪い話だ。




「いくらキミでも、首を突っ込まない方がいいと思うが?」



 不覚にもビクッとしてしまう。

 見透かしてきたようにイアニス先輩が冷ややかに言ってきたのだ。


「分かりやすいからな、キミは」

「……ははっ」


 目を逸らしておく。

 騎士団の一員のイアニス先輩は巻き込まないでおく方がいいはずだ。


 これはあくまで、俺の復讐。

 そうしなきゃ気が済まないからやるだけで、大層な道義を掲げているわけでもない。



「いいか、レオンハルト」

「ん……?」

「この国の暗部は、深いところで必ず繋がりがある。

 その全てを引っこ抜くようなマネはしない方がいい。

 それだけは守れ」

「……りょーかい」



 まるで根っこのような言い草だな。

 いやでも、そんなようなものでもあるのか。


 ただ観光して眺めてる分には、価値観としては非文明的に感じてしまう部分こそあれ、美しいし素晴らしい都だ。

 だがここが国の中枢部だからこその影が存在していて、そういう裏でのやり取りが存在しながら王国が回ってしまっている。



 強い光を受けるほどに影が濃くなる――なんて感じかも知れない。

 だからその影を暴けば、光は弱まる。



 ディオニスメリア王国という巨木を支えている根を引っこ抜けば、倒れかねない。


 俺とイアニス先輩の仲は極めて曖昧な、いわゆる戦友と書いてトモと読むようなもんだろう。

 別にドラマチックなあれこれがあったわけではないが、ただの先輩と後輩でもなけりゃ、気の知れた友達同士ってわけでもない。認め合った仲とでも言ったら格好がつくか。


 だから先輩は俺が何をしてどうなろうが、知ったこっちゃないだろう。

 俺も先輩が何かをやらかしちゃっても、あーらららとリアクションを取って終わり。


 だからこそ、先輩は殉じると決めているこの国のために、やりすぎるなという忠告だけに留めてきた。

 俺程度で国が揺らぐはずもないが――まあ保険の感覚だろう。ついでに俺の心配でもしてくれたかも知れない。



「何かがあっても表立って庇ってやることはしないぞ」

「分かってるって」

「…………」

「何その顔? イアニスせんぱーい、そんなに俺って信用ない?」

「逆だ」

「は?」

「キミは本当に……人の気というやつを知っているのか、知らないのか……」


 何かすっげえ呆れられてる。

 別に何も悪いこととかした覚えはねえんだけどな。



「カノヴァスなんかは、今は一緒にいないようだな」

「ああ……あいつらは俺をハブって、ヴェッカースターム大陸を冒険中」

「……で、キミはひとりか」

「リュカいるからひとりじゃねえよ。

 あ、そうそう、こいつ、俺と一緒な上に、魔法まで使えるからそれなりに強いぜ」

「穴空きではないレオンハルト――だとしたら、恐ろしいな」

「つっても先輩にはこいつも負けるだろうけど」

「負けないよ、俺」

「まあそれは置いておこう」

「負けないかんなっ!?」

「イアニス先輩、俺ちょっと持病で満足にこいつにつきあってやれないから良かったら……ちょっと稽古つけてやってくれない?」

「絶対負けないぞっ!!」

「……いいだろう」


 負けん気だけは人の2、3倍あるリュカだが、実力者にやられるとめちゃくちゃ懐いて教えを請いまくる。イアニス先輩はファビオほどじゃないにしろ、リュカのいい刺激にはなりそうだ。



「それでレオンハルト」

「ん?」


 そうそう、何か言いたげなんだよな。

 一体何を言いたいんだか、よく分かんないが察しろというものは感じ取れている。


 マティアスだったら俺のことをよく分かってるから、こういう時はストレートに言ってくれたりするがイアニス先輩は察してくれオーラでどうにかこうにか、何かを伝えたいっぽい。まどろっこしいのは苦手なんだよなあ。

 何となく思考回路の似てるやつとか、単純なやつなら察してやれるけど貴族とはあんまりってのが正直なとこだ。



「キミは今、ひとりでやらかそうとしている」

「だな」

「何すんの?」

「リュカは黙ってろ。今は」

「ちぇっ……」

「で? 何よ、イアニス先輩」

「……やれるのかい? やるのかい?」

「やるつもり」

「ひとりで?」

「だからリュカもその気になりゃ……まあ、ちょっと頼りにはしないものの――」



 うん?

 じろーっとイアニス先輩が俺を見ている。


 何かやたらに、ひとりかとか言われてる気がする。

 ひとりでやるつもりなんだから、そりゃひとりだよ。そんくらい言ってるし、分かってる……よな?


 それでもこうも強調してきてるっていうことは?

 いやでも、思い上がりとかだったら恥ずかしくもねえ?




「イアニス先輩……もしかして、けっこう俺のこと心配してくれちゃってたり?」



 深くて重たいため息を漏らしてから、イアニス先輩は肩をすくめる。



「そこまで良好な仲だとは思っていなかったが、それにしてもキミは色々と甘く――いや、軽く見すぎじゃないか?」

「地に足着いてない性分なもんで」

「キミの性分じゃない」

「えっ」

「……キミは他人を信用しない人間なんだな」



 そんなことねえよ?

 言おうかとも思ったが、軽蔑されかけのイアニス先輩の目を見ると口をつぐんだ。


 要するに、あれだ。

 俺が思ってたよりずっとイアニス先輩は情に厚いやつで、一枚噛ませろと――心配だから何かしら協力をさせろと――言っていたわけだった。



「たのもしいなぁー」

「その気持ちのこもってない返事は何だい?」

「照れ隠しってやつ」



 巻き込むのは気が引けるものの、嬉しくないと言えば嘘になる。

 イアニス先輩はそれでいい、とばかりに頷いてからリュカへ目を向け、表へ出ろと告げた。




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