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ノーリグレット!  作者: 田中一義
#14 王都と親子とオッサンと
133/522

喋るオッサン




「レオン、明後日はパレードだって」

「……ムリ」

「……やっぱり?」



 体調が戻らない。

 ただの風邪じゃない。


 毒でも盛られたかも知れないとは、呻き続けて2日ほど経ったころに思い至った。

 謎の暗殺者は武器に変な液体を仕込んでいたし、何が目的かは分からないがころっと騙して殺しにかかってくるほどなんだから毒を盛ってきても不思議じゃない。だが、いつまで経っても毒の効果は消えないし、ぽっくり死ぬような毒とも思えない。


 症状は発熱、吐き気、頭痛とベーシックな体調不良のものばかりだ。

 あんまり長引くんなら魔法で毒を消すこともできなくはないらしいが、俺は穴空きの魔力中毒者だから、それこそ死んでしまう。まったくもって面倒臭い。



「行きたきゃ、ひとりで行ったっていいぞ……」

「……そこまでじゃないから別にいいし」


 寝込んでしまってからずっと、リュカはそばにいる。

 甲斐甲斐しく看病をしてくれている。こういう時はひとりでなくて良かったと思う。


 だがリュカは活動的なタイプだから俺の看病ばかりでは退屈だろう。

 楽しみにもしていたようだし、パレードくらい見に行かせてやりたいが……生憎とすぐに治りそうな感じもしない。鏡とか見たら、俺の顔はさぞ酷くなっているだろう。少なくともリュカが言いつけるまでもなく、気をつけて声を大きくしないよう努める程度には。



 ミシェーラのことがずっと気がかりになっている。

 俺を呼び出す口実に彼女の名前が使われた。俺とミシェーラの関係を知っている何者かがいて、そいつはリュカのことや、オッサンのことまで知っていることになる。


 巻き込まれているのが俺なのか、ミシェーラ姉ちゃんなのか。

 無事を確かめたくて近況報告めいた手紙を出したが、その返事には何もキナ臭いことはなかった。少なくとも今は無事だし、物騒なことがミシェーラの周辺で起きているということはなさそうだ。

 あえてミシェーラが隠しているという線もあるが、そこまで考えたらどうにもならない。俺だって寝込んでしまっている現状については触れなかったのだから。



 今までは何かがあれば、それについて知っていたり、きちんと考えられる相手に頼ってきた。

 マティアスや、バリオス卿のような相手に。だが今回ばかりは、自分でどうにかするしかない。


 しかし考えようとしても、熱と頭痛のせいでまともに頭が動かない。

 食欲もめっきりで、どんどん体が弱ってきてしまっているのを感じる。良くない感じだ。



「レオン、レオンのって……ほんとに風邪?」


 よっぽど、パレードに行きたいんだろう。

 何度も何度も寝返りを打ちながら、どうにか頭を動かそうとしている俺にリュカがようやくそんなことを尋ねてくる。


「どうだろうな……」

「病気? また医者呼ぶ?」

「……意味なさそうだからやめとけ。寝てれば治るから……」

「治らないじゃん」

「……もうすぐだよ、多分」



 医者とか、病院とか、どうも嫌いだ。

 あと薬とか注射も大っ嫌いだ。


 子どもじみてたっていいじゃないか、体はお子様なんだから。



 そんな言い訳は思いつくが、やっぱダメっぽい。

 そう言えばレオンハルトになってからは病気らしい病気とかしてこなかったな。


 たまにはかかったりもしたけど、寝てれば大概治ったし、免疫力を信じて安静にやり過ごしてきた。

 だけど今回のはやっぱり別物だし、どうしたって寝てれば治る類には思えなくなってきている。


 毒。

 毒か……。

 さっぱり何も分からねえや。


 早く気づいてれば、あの死体をまさぐって解毒剤くらい見つけられたかも知れないけど後悔先に立たずだ。綺麗に片づけられてたし。


 でもどうして、あたかも、何もなかったかのように片づけたんだ?

 もしも、俺をハメたり、陥れたりしたいんならあの現場を残して、胡散臭い第一発見者でも寄越してくればブタ箱にぶち込まれたはずだ。それをしなかった、ってことは……大事にはしたくなくて、こうやって俺を寝込ませるのが目的だったとか?


 どうして俺にそんなことをする?

 普通に生きてる、一般市民の子どもだぞ。


 それに暗殺者の方は殺しにかかってきてたはずなのに、何で生殺しにしてるんだ。

 途中で事情が変わったとかなのか? 分からねえ。ダメだ、頭が痛い。マジでやめてほしい。




「あいあいあーい、オッサンのお出ましですよー」

「しーっ、レオン寝込んでるんだからおっきい声出すなよっ!」

「そういうリュカ少年のが声おっきい気がするんだけどね……」


 ぼけっとしてたらそんな声がした。いつの間にかオッサンが来ている。

 ここのところ、夢を見てるのか、目が覚めてるのか、ひどく曖昧になっている。



「何でオッサンいるんだ……?」

「外にいた」

「あれからどうなったかと思って、ちょっと様子見に来ただけよ。

 案の定、あんまり良くないみたいね。……だいじょーび?」

「ダメ……」


 死にそう。

 いっそ殺してー。


 なんて言いはしないけども、ダメなのは確かだ。



「ふうーん……リュカ少年、ちょいと宿の人にこいつを用意してもらってきてくれるかい?」

「何これ?」

「いーからいーから、よろしく」


 メモ書きのようなものをリュカへ渡して、オッサンが部屋から追い払ってしまった。

 それからバルコニーへ続くガラス戸を開け、その近くで煙草に火を点ける。



「灰皿ねーぞ」

「だーいじょうぶだって。丁度こいつが空っぽになるから」


 蓋の開いたシガレットケースを俺へ見せてオッサンが軽く言う。


「そいでね、少年」

「ん……?」

「カヤヴァっていう名前に聞き覚えはある?」

「……知らないけど」

「あ、そう……。ふむふむ……」

「何だよ?」

「いやね、カヤヴァっていうのは暗殺者集団なのよ」


 ん?

 いきなり、このオッサンは何を言ってんだ?



「先日、少年を襲ったのも、そのカヤヴァだったわけ。

 オッサン、ちょいとそこに話つけに行ってみたんだけど目的は教えてくれなかったのよね」

「待てって……何? いきなり何言ってんだ?」

「あら、もしかしてすっぽりそういうの忘れてる?」

「違う、そうじゃなくて……オッサンがどうしてそんなこと知ってんだ……?」

「……そりゃ、オッサン、騎士だから」

「いやいやいやいや……」

「まあ、多分、カヤヴァの方もプロだから依頼主のことは吐かなかっただけでしょうよ。

 んじゃあ、どこのどいつがレオンハルト少年にちょっかい出したのかなんだけど、まーだ情報足りんのよね。

 ちょっと詳しく教えてくんない? あっ、リュカ少年はしばらく戻らないと思うから安心してていいよ」



 ふぅーっと口から煙を吐き出したオッサンが半目のまま俺を見てくる。


「……何者なんだよ、オッサン……」

「騎士だってば」

「胡散臭いぞ……」

「んんー、ま、それもそうね……。

 オッサンはね、いわゆる騎士団の……何、暗部?

 黒ーい部分を担当してる内のひとりなわけだよ、だから事情通なの」

「オッサンが?」

「そっ、意外だった? 信じられないんなら、色々と信じてもらう材料をお喋りしちゃうよ?」

「……試しにひとつ」

「火天フェオドールを倒しちゃったのはレオンハルト少年なんだろう?」

「っ……」

「知ってるのはバリオス卿、レヴェルト卿、それにあのカハール・ポートの一件で、ビバール・バリオスをハメるのに荷担したごくごく一部の貴族だけ。

 ……って、思ったりしてなかった? 実はちゃんと知ってる人は知ってるのよね。

 他にもレオンハルト少年は学院を出てから、だったかな?

 魔物退治に、山賊退治、奴隷商までやっつけてたっしょ?

 ちょいとオッサンがその気になって調べりゃあ、すぐに分かったよ」



 このオッサン――どこが税金泥棒なんだよ。

 サボりまくってる姿しか知らないけど、そんだけ色々と掴めてるってことはそれなりの立場なんじゃねえか?



「ちなみにね、ヴィクトル・デューイってのもオッサンの本名じゃあないの。

 ヴィクトルっていうのは……うーん、まあ、役職みたいなもんでね。

 別に大したことないから詳しくは言わないどくけども、色々とあんのよね。あー、面倒臭い」


 そう言えばオッサンに背負われて宿に帰ってる途中、ヴィクトルって呼ばれてたな。

 でもその相手はオッサンに遮られてばっかだったけど敬語を使ってたような気がしないでもない。



「とまあ……オッサンについては、そんなくらいでいいかね?

 自分語りは好きじゃないのよ、ほんとにこき使われるだけの使いっぱだから」



 信じても、いいのか?

 このオッサンは悪いやつに見えない。


 だけどどこか怖くもある。

 何でそんなに俺に深入りしてこようとしている?

 今オッサンが言ったのはでっち上げで、俺を襲ってきた連中の仲間だったりして、さらに何かを企んでいるって可能性だってあるはずだ。



「信用なんない?」

「…………」

「困っちゃうねえ……。でも、オッサンが敵じゃないって証明も難しいし……」

「オッサンは何で、そんなに俺を助けようとしてんだ?」

「ちっちっち、別に助けようとしてるんじゃないのよ。

 ただね、レオンハルト少年、キミが今巻き込まれつつある闇に用事があんの。

 だからさ、偶然の手がかりなのよ、これは。オッサンがサボってて偶然に少年らと会ったのはほんとのこと。

 でもってこれをしてこいって言われたことと、ちょいと少年が関わりを持っちゃってるなって分かっちゃったから協力をしてほしいの。

 本当は騎士なんだから当然でしょーって言うのが正しいかも知れんけども、オッサン、そこまでマジメでもないのよね」



 吸いきった煙草の火種をシガレットケースに押しつけ、こすりながら消した。

 パタンと音を立てながら蓋を閉め、それをオッサンが懐へしまい込む。



「教えてくれる?

 でなきゃオッサン、クビきられちゃうからさ。ほんと頼むよ」


 両手を合わせて懇願される。

 信じるも何もないが、このままでもマズいとは思う。


 ミシェーラ姉ちゃんとの本当の関係は伏せて、話した。

 全部聞いてからオッサンは無精髭の生えている頬を手でさする。



「何となーくは見えてきたかもね……。

 そいじゃあ、お薬飲んでお大事にしときなさいな」

「お薬?」

「リュカ少年が戻ってきたら、全部すり潰してぬるま湯と一緒に飲みな」



 そう言ってオッサンは出ていく。

 戻ってきたリュカは色々と腕に抱えていて、市場を走り回ってわざわざ探してきたと言った。



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