今の僕にできること
冬の季節にぴったりな雪の日の物語です。
会社帰り、僕は鼓動が速くなるのを聴きながらバスに乗っていた。
スマホが震え、一呼吸おいてからメールを開く。
彼女からの、もうレストランに着いたという内容だった。すぐに、あと少しで自分も着くと返した。
送信完了の画面を確認し、コートのポケットにそっとしまって何気なく窓の外を見た。
バスに乗っているうちに、いつの間にか雪がちらつきはじめていたようだ。
僕は自然と幼かったときの、あの雪の日を思い出していた。
放課後、公園に差し掛かったとき、一人の女の子がいることに気づいた。
すると、向こうもこっちに気づいて、ベンチから立ち上がると駆け寄ってきた。
「ねぇ、約束してた友達が遊べなくなっちゃったから、遊ぼ!」
「う、うん…。いいよ」
「やった!何して遊ぶ?」
とっさにそう答えちゃったけど、彼女が嬉しそうにしてたから断れなかった。
たぶん、このとき彼女に一目惚れしてたのかもしれない。
それ以来、一緒に遊ぶことが増えて、公園にもよく行くようになった。
放課後、家にいることが多かった僕にとって、君と遊ぶ時間は楽しくて仕方なかった。
いつものように公園に行くと、君は草むらをガサガサと漁っていた。
「何してるの?」
駆け寄って声をかけた。
「あのね、ないの…」
振り返った君は、目に涙を浮かべ、嗚咽の混じった途切れ途切れの言葉で僕に訴えかけてきた。
僕は驚いたが、ハンカチを出して彼女の涙をふいてあげた。
改めて話を聞くと、どうやらお母さんからもらった指輪を僕に見せようと付けてたら、遊んでるうちに無くしちゃったみたいだ。
僕は涙ぐむ君を一生懸命励まして、遊ぼうと誘ったが、
「今日は帰る…」
君は浮かない顔のまま、とぼとぼと帰っちゃった。
公園に一人残された僕は、草むらの前にしゃがみ込み、指輪を探し始めた。
君の泣き顔を見たくなくて、笑顔にしてあげたくて、無我夢中に探した。
週末、やたら寒いと思ってカーテンを開けると、外は一面の銀世界だった。
「ねぇ、知ってる?雪が降るのって、雪の妖精がいるからなんだって!」
以前、君が目を輝かせながら僕にそう言ったのを君は今でも覚えてるのかな。
僕はすぐに公園へと走り出した。公園に足を踏み入れると、顔に雪玉を当てられた。
雪をはらって前を見ると、雪玉を持っていたずらな笑みを浮かべる君がいた。
僕は、足元の雪を軽く丸めて君に投げ返した。
僕らは雪まみれになりながら、疲れるまで遊んだ。
雪合戦のあと、僕は小さな雪だるまをつくって君にあげた。
君の大切な宝物を飲み込んだ、いたずら雪だるまを。
君は笑って、僕に雪うさぎをくれた。
楽しい時間はあっという間で、午後4時半を告げる音楽が聴こえる。名残惜しく思いながらも僕は君と別れて、家に帰った。
翌日、起きて外を見ると、雲一つない青空で雪はほとんど溶けていた。
少しだけ寂しくなった外を眺めてると、走ってくる君を見つけて、僕は家を出た。
走ってきた君は、深呼吸をして息を整えると、キラキラ輝く指輪を僕に見せた。
「無くした指輪がね、家の前にあったの!」
「見つかったんだ。よかったね」
「でもね…、雪だるまさんがいなくなっちゃったの…」
君の声のトーンが下がって、さっきまでの嬉しそうな表情が曇ってしまった。
「きっと、雪だるまが指輪を見つけてくれて、妖精になって雪の世界に帰ったんだよ」
僕が明るくそう言うと、君は可笑しそうに笑って、
「そうだね。雪だるまさんにお礼言わなきゃ」
隣を見ると、空へ"ありがとう"と大きな声で言う君。
僕は、そんな彼女を見て微笑ましく思った。
バスを降り、レストランに向かって歩き出す。もうすぐ彼女に想いを伝えると思うと、なぜか歩くのが遅くなった。
彼女の前で素直になれるだろうか。
僕の気持ちを受け取ってくれるだろうか。
そんな不安に押しつぶされて足を止めてしまいそうになるけど、彼女を笑顔にしてあげたいという思いに突き動かされていた。
頭で葛藤している間に店の前まで来ていた。
僕はコートの上から箱があることを確認すると、大きく深呼吸をし、扉に手をかけ、彼女のもとに向かって足を踏み出した。
END
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