小説未満「束縛」
「 貴方は、とても美しい。とても自由で、とても優雅で。
だから何人たりとも貴方を縛ることは許されない。
だから何であろうとも貴方を縛ることは許されない。
前に貴方は言ってくれたよね。私が好きだって。
嬉しかった。私も貴方が好きだったから。
傍目から見て歪んだ愛情かもしれないけれど、確かに私たちは互いを好きあっていたよね。
けれど、私、気づいちゃったの。気づきたくなかった事実に。
貴方は、とても美しい。とても自由で、とても優雅で。
だから何人たりとも貴方を縛ることは許されない。
そう。私も、貴方を縛り付けてはいけない。
楔に鎖。貴方の足に繋がった枷。それは貴方の自由を殺すの。
誰も鎖にも楔にもなってはいけない。私もなってはいけない。
だからさようならよ。もう二度と貴方とは会えないわ。
思い違わないで欲しいのだけれど、私、貴方が好きよ。
別に貴方が嫌いになったから貴方の元を離れたい訳じゃないの。
貴方が好きで大好きだから、私は貴方の側を離れます。
さようなら。どうか、貴方は縛られないで。」
そう言って彼女は、締め括った。
誰かを縛るって、とても傲慢なことよね。それが彼女の口癖だった。そんな彼女は今、自分自身を縛り付けていた。
なんて傲慢なのか。
そして、彼女はなんて最低なのか。
私を縛らないだなんて言って、ホントは私をがんじがらめに縛り付けたいのだ。
彼女が欲しかったのは、何者にも縛られない私ではないのだ。
本当に欲しいのは、彼女に縛り付けられて、動けなくなった私。
何者にも縛られる余地のないほどに縛り付けられ、何者にも解くことはできないほどに縛り付けられた私。彼女が求めていたのは、絶対に彼女のものである私なのだ。
だから、彼女はこんな手紙を遺していった。目の前で締め括った。私に鎖を巻き付けた。
きっと私は、一生涯彼女のことを忘れられない。絡めとられた蝶はもがいても逃げられない……
あぁ、彼女の愛が、私の首を絞めつける。
私はもう、何者にも縛られることを許されない。
未完