第7話 補償内容
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翌日、朝食を食べに行くと、女性陣3人の姿はなかった。メイドにそれとなく話を聞くと、昨夜は3人が玲子の部屋に泊まるから、朝食は部屋に届けるようにとお願いされたと。
今朝、天野が部屋に訪問しようとしても、鍵を掛けられ入ることも返事さえも無かったそうだ。朝食を運び入れる際も徹底していて、天野がトイレか何かに居ない時間帯に運び込まれたようだ。
「田口様は何かお聞きしていますか?」とメイドのリベラから聞かれる。
「そういうの探るの、リベラの方が得意でしょ?」とイヤミを言うと、どうやら玲子の【気配察知】で近づくことも出来なかったらしい。
そして時は過ぎ、補償の件で「王」との話し合いの時間になった。
王との話し合いの場には3人も参加するようだ。きっと、さっきまで泣いていたのだろうか?その目元は赤く腫れていた。
天野がしつこく今朝の事を聞いていたが、玲子ははぐらかすように曖昧な笑みを浮かべ困った顔を時折、こちらに向けてくる。面倒臭いことをこっちに振るな。
その視線に気付いた天野がこちらを睨み付けてくる。ほら、面倒臭い。
天野が言いがかりをつけにこちらへ来ようとした時、タイミング良く扉が開き最初に話し合いをした面々が入室してきた。
「お待たせ致しました。この度の勇者召還の件の補償について基本的な草案が組みあがりましたのでご承知願いたく、またこの場を設けて頂いたことに深く感謝いたします。」
まずは代表してカーラ王女。お菓子に魅了された時とのギャップが激しいぞ(笑)
「補償の骨子についてですが…」
簡単に纏めると以下の通り。
召喚に対する迷惑料
・金貨100枚(玲子) ← 貴族クラスのため
・金貨 10枚(俺・天野・芽衣・響子)← 平民クラスのため
送還に関して
・召喚情報に伴う開示の約束
補償内容
・王都での市民権の発行(玲子は貴族待遇)
・王城での入居(住む)権利 又は王都内の住居の無償提供
・それに伴うメイドの給金もしくは奴隷購入の金銭の提供
・家具購入代金の提供
・今後10年間の生活費(年/金貨50枚)
・職業斡旋(討伐に参加しない場合・討伐成功後、この世界に残る場合も含む)
続いて魔王討伐に参加する場合。
・活動資金の提供(月/金貨5枚)
・必要情報の提供と報告
・必要武具の提供
・訓練場の提供
・パーティー斡旋の補助
※討伐成功に関する褒賞は別途提示する。
まあ出来ることと言ったら、そんなとこだろうな
「まずは玲子様、いかがでしょうか?」
やはり身分を考慮して、最初に確認する相手は玲子だよな。
「良いのではないでしょうか?強いて言えば
『継続して現状の送還方法以外での情報(方法)を模索する』と追記していただければ。」
「続いて・・・」
順々に聞いていく王女。
天野
「僕はそれでいいよ。」
芽衣
「死んだときのことに関して。『討伐中に、全員が死亡した場合であっても送還魔法を必ず成功させ、私たちの親に事の顛末・謝罪をする』と明記していただければ問題ないわ。」
響子
「死んだときにも補償金を親に払うって明記して。」
「分かりました。そんなことは無いようバックアップは致しますが、念のため追記しておきます。最後に・・・田口 裕様。何かございますか?」
「今言われた内容については問題も無く、良いのではないでしょうか?ただ…」
一番の問題を言われると思っていた面々は安堵するもこれで終わるワケが無い。
「あと2つ追加して貰わないとマズいよね。今言っていた内容には穴がある。
まずひとつ目。
・魔王討伐を拒否する権限を与える。それに伴い拒否した者に自由を与え束縛しない。
これは最初の話し合いの時に、王が確約してくれたことだから。これが内容に反映してもらわないと困る。次に、
・種族間の対立に勇者を巻き込まない。
要は、魔王討伐に関する戦争以外に勇者を使わないと確約が欲しい。これは魔王討伐中も、それ以後もだ。」
やはりそこの問題に触れてきたかと、国王側は内心で悪態をつく。しかし田口以外の内容も看過できない。吟味する必要があると判断したのか
「一旦、休憩として、しばらくお時間をいただいてもよろしいでしょうか。」
「別に構いませんよ。」
一旦、バルド王国の重鎮及びイフェルナ教の面々が退席すると、4人が俺のところに集まってきた。
「田口さん、最初のひとつ目の文言は理解できますけど、2つ目についてはどういうことですか?」
「あれは、多分だけど・・・最初に王女から色々と講義できた中に、『ヒト属至上主義』の話があったよな?それに関してどう思う?」
「差別については悲しいことですけど、存在していることについては事実なんでしょうね。」
「だからこそ魔王を討伐できるだけの力を持った「勇者の力」を、自分たちの正義のためと勝手に解釈して兵器、いや戦争の道具として使われたくないと思ったからだよ。
それに伴って、最初の文言がより生きてくる。」
4人とも考えが及ばないのか、キョトンとした顔をしている。
「この世界は奴隷制度があるのは知ってるよな?もし拒否したとして、無理矢理『奴隷契約』をしたらどうなる?」
「それで『自由を与え、束縛しない』に繋がって来るのですね。」
これから魔王討伐には参加せずに、束縛されず自由にこの世界を満喫しようと思っている田口にはどうしても必要なことだった。
◇
「やはり田口は危険ですな。こちらの真意をまるで知っていたかの様子。
この2つを認めてしまい、もし全員が討伐を拒否したりされたらどうなることやら。
無理矢理『奴隷契約』も行えず、戦力としての意味が無いではないか!」
「それに、田口以外の勇者たちの追記内容も問題だぞ。送還なぞ、時間と金の無駄だ!
国庫の金を無駄には出来ん!」
貴族たちは元から勇者達を送り返すつもりが無いようだ。
「国王、これは容易ではありませんぞ。」
王を始め、既得権益に群がる者たちは補償の内容に紛糾していた。
当初の、魔王討伐後の目論見を全て否定する内容だったからだ。
皆が頭を悩ませているところに、追記の内容を凝視していたイフェルナ教の大司教が妙案とも言うべき発言を出した。
「この追記内容には穴がある。頭が回るといっても所詮は若造といったところですかな。」
「大司教?どういったことで?」
「ふむ。まずは田口以外の追記内容についてじゃが、
玲子様については、現状提示した内容以外の方法の模索。これは形だけでもしておけば契約違反にはなるまい。
続いて芽衣様と響子様については、あくまでも『討伐中に全員が死んだ場合』の話じゃ。1人でも死ななければ良いだけのこと。おそらく田口は討伐に参加はせんのじゃろう?あとの4人が、万が一死亡したとしても、田口が生き残っておれば問題ない。
最後に田口の追記内容であるが、
・魔王討伐を拒否する権限を与える。それに伴い拒否した者に自由を与え束縛しない。
拒否するのが田口一人であれば問題は無い。仮に何人居たとしても、期限が書かれていない以上、1日でも守れば問題は無い。その者には、ゆっくりと信用を勝ち取ったあとにでも奴隷契約を行えばよかろう。。
・種族間の対立に勇者を巻き込まない。
これは期限も書かれている以上、一見穴は無いように思われるが、『魔王討伐に関する』戦争であれば、問題ないということとも解釈できる。我等ヒト族にとって、それ以外は魔物と同じ穢れた下等生物じゃからの。我らの正義の解釈であれば魔王討伐と変わらん。領土を侵害する下等生物の討伐として行えば問題ないであろ。」
「流石は大司教。素晴らしい解釈ですな。」
「よし、それでは勇者どもの言い分を全て認め、契約の書を作成せよ。」
「「「「はっ!」」」」
◇
「お待たせ致しました。先ほどの勇者様方全員の意見を全面的に取り入れ、この度の補償に関する契約の書を作成いたしました。問題ないか確認していただきたいと思います。
5人は、1つ1つ契約内容を確かめ、内容を噛みしめるように読んでいく。
「問題がないようでしたら、契約魔法を行使し、これに関わる全ての方々にサインを頂きます。なお、この契約魔法は、契約の履行に伴い、もし契約を破るようなことがありましたら、たとえ王であっても罪人となり終身奴隷、もしくは死を以って償う形となりますが、皆さんよろしいですか?」
全員が了承し、サインを1人1人行う。そこに【契約魔法】のスキルを持った文官が契約魔法を行う。書類に魔方陣が浮かび上がると、段々と光が強くなり、やがて収まると書類に魔方陣がうっすらと輝いていた。
「これで契約を終わりたいと思います。皆さんお疲れ様でした。」
とりあえず、メイド達が補償のお金を各自に配った。俺は玲子の金貨100枚を見て、思わず「持ち歩くのも大変だな」とつぶやく。
場の緊張感が、ふっと和らいだ。
「それで…、今後についてもお話したいのですが、よろしいでしょうか?」
王を始め、誰も退席する気配も無く、王女が話を切り出す。
「今回の私どもの勝手なお願いとはいえ、皆さんのお考えを改めて、お聞きしたいと思いまして。」
「もちろん契約魔法により、こちらとしては一切の強制は致しません。ですが、魔王による王国、いえ世界の危機を救っていただきたい気持ちは変わっておりません。是非とも皆様のお気持ちをお聞かせください。」
「もちろん、最初に言った通り、魔王討伐に参加致します。カーラ王女、ならびに国王陛下。安心してください。僕たちが必ず魔王を倒して見せます!」
だから勝手に巻き込むなって。何、皆が討伐するって決め付けてんだよ!
騎士団の面々や貴族たちはこぞって天野や玲子達を褒め称え、賛美の言葉を口にしている。
特に貴族連中は女性陣に対してだが。
「天野様。ありがとうございます。それでは、ほかの皆さんも同じでよろしいのでしょうか?」
と一瞬、俺の方を見た。俺には戦う力が無いと思われているのか、それとも城に残ってお菓子を作り続けろと言った感じか(笑)
「ちょっと待って!」
「私達3人は行きません!」
一気にその場が静寂に包まれる。誰も予期していなかったのだろう。国王も王女も驚いた顔をし、何故?と言った感じだ。
「玲子?良く理解できなかったんだけど…何言ってるんだい??」
「…出来れば理由を伺っても?」
天野と王女は、何かの聞き間違いと3人(主に玲子)に問いかける。
「だから私達は魔王討伐には参加しないって言ったのよ。」と玲子の代わりに響子が言った。
「…どうして?この世界のの人たちは魔王によって困っているんだよ?
そして僕達には力がある!力がある人間が助けるのは当たり前じゃないか!」
「じゃあ光牙さんは、その力で、是非「魔王」を退治してくださいな。
…ゲームや遊びじゃないんだよ?傷つけば痛いし、死ぬかも知れないんだよ?
そんな危険なところに遊び感覚で巻き込まないでよ!」
「・・・困ってる人たちを見捨てるつもりかい?」
「あんたの都合で勝手に召喚に巻き込んどいてよく言うよ!
私は絶対に、あんたを許さない。」
「っ!」
何で知ってるの?といった驚いた表情で3人を見つめる天野。
「響子、抑えて。今はそのことを言う場所ではないわ。」
「と言うことで、私達3人は魔王討伐には参加しませんので。」
3人は失礼しますと言って席を立つと、金貨の入った袋を持って早々に自分の部屋へと退席してしまった。
一瞬遅れて、天野も「ちょっと待ってくれ」と3人を追いかけて出て行ってしまう。
「「「「・・・」」」」
微妙な雰囲気の中、1人残った俺は、
「なんかとても気まずい雰囲気だけど、俺も不参加でお願いします。」
とそそくさと退席した。
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