第5話 修練場にて
5人は休憩のあと、王城の中を見学するため、外周にある修錬場に来ていた。
「こちらは主に騎士団の訓練をする場所ですわ。」
とカーラがキョロキョロとしている5人に紹介する。第1修錬場には第1騎士団と第2騎士団の50名ほどが訓練していた。
第1騎士団は平民からでも登用される、言わば叩き上げの精鋭部隊。
一方、第2騎士団は貴族の次男三男などが中心として成り立っている。
当然、両騎士団の仲は良くない。だが同じ場所で訓練することで、互いを刺激し良い効果を生み出している。今は剣を中心とした訓練のようだ。
「中々の錬度ですね。」
訓練風景を見ながら玲子がつぶやく。確か、部活が剣道部って言ってたかと田口は思いながらも周囲を観察する。
「そう言えば、剣菱様は剣術系のスキルを所持していましたね。どうです、騎士団の訓練を見て?」
「素晴らしい技量の方々ばかりですね。私達の居た世界ではスキルや魔法といった物がありませんでしたので、その妙技と言いますか独特の「動き」に圧倒されてしまいます。」
確かに、ゲームで見るような素早い動きや錬度の高い攻撃は、地球では見たことのない動きだ。
「隣の第2修錬場では魔法の訓練も行っておりますので、次はそちらに伺いましょう。」
5人プラス王女とリベラは、第2修錬場へ向かう。そこでは奥側に土嚢のように盛り上がった土がありその手前には人型の案山子のようなものを目掛けて火や水の魔法を打っている姿が見えた。
「直接魔法をみると、本当に異世界に来たんだと実感するわね。」
と芽衣。個人的には、中二病のように詠唱している姿に恥ずかしさを覚える田口であった。
しばらく訓練風景を見学していると、ローブを着た妙齢の女性が近付いてきた。
「カーラ王女ならびに勇者様方。ご挨拶が遅れ申し訳ありません。近衛騎士団・魔術顧問のアリアと申します。」
赤い髪をなびかせ、優雅に挨拶をするアリア。
「アリアは私の魔術の先生でもあるんですのよ。」
カーラ王女がアリアを5人に紹介する。
「魔術?魔法とは違うのですか?」
「厳密には違うのですが、簡単に言えば魔法は事象そのもの。魔術はその行使の術といったところでしょうか。」
火の魔法は、火そのものを出し、魔術はその目的によって形状など指向性を与え行使するといった感じか。
「基本と応用って感じ?」
「そうですね、スキルでは表れない動きを、スキルのように顕現させる感じですか。」
とアリアはまず手のひらに火を浮かべた。
「これそのものは火の魔法スキルで顕現させますが、魔術では…」
アリアは一旦手のひらの火を案山子にぶつけ、今度は詠唱を唱える。
「我が内にある原初の火よ、その御力を矢とし、彼の敵を打ち抜かん。ファイアアロー」
アリアの詠唱が終ると先ほどの火の塊ではなく、細長くなった火が現れ、先ほどの火の塊よりも、かなりの速さで案山子を打ち抜いた。
「このように火そのものに威力やスピード・形状などといった指向性を与え行使するのが魔術です。」
「でも今の詠唱に形状の文句はあったけど威力やスピードの文言は無かったわよね?」
芽衣が疑問に思った事を聞く。
「中々良いところに気付きましたね。本来、より細かく詠唱することで、術者の思い描いた術に近づくのですが、慣れてくると詠唱を短縮し行使することが出来ます。」
「イメージを明確に描けば、より詠唱を短縮できるってことか。」
「皆さん、理解が早いですね、その通りです。
イメージが明確に描くことが出来れば・・・」
今度は詠唱もせずに、先ほどと同じ火の矢を作り案山子にぶつけた。
「このようなことも出来るようになります。実際はかなりの集中力が必要ですので、戦いとなれば明確にイメージするのは難しくなります。そのための訓練といったところですか。」
「僕もやってみたい!」
天野が興奮しているのか魔法を見てはしゃいでいる。
誰でだって子供の頃に夢見た事があると思う。まさにアニメの世界。
「焦らなくても大丈夫ですよ。お昼をいただいた後は、特に用事もありませんので、修錬場の一角を借りて魔法の適性を見ながら練習してみましょうか?」
「そうしよう!」
天野が勢いよく返事をして、「それに僕には光と聖のスキルがあるからね。カッコいいところを見せるにはもってこいの状況だ」などとぶつぶつ言っている。本音が駄々漏れだよ。
昼食は朝・夕食と違い、簡単な(質素)料理だった。
そもそも昼食は王族や貴族以上の高貴な人達だけで、平民などの一般の人達は食べないらしい(昼から酒を飲む人は多いらしいが)
昼食が終わり、早速(主に天野の)待望の魔法の訓練に。
「皆、流石だねぇ」と田口は修錬場の休憩所で4人の練習風景を眺めていた。
皆、魔法適性のある属性魔法はすぐに要領を掴めたのか、今では詠唱も短く魔法を案山子に打ち込んでいる。
田口はというと、魔力自体は(ほぼ無限に)あるのだが、属性に変換するのが難しいようで、長々と詠唱を唱えても初歩の魔法でさえも顕現しなかったため、早々に休憩所で涼んでいた。
もっとも本人曰く(恥ずかしい)詠唱を唱えるのが嫌だからと言い訳していたが。
「練習しないと上達しませんよ?」
休憩しにきた玲子は田口にそう言うと、隣に座った。
「10代を過ぎると中二病のような詠唱は(主に精神的に)クるものがあるからね。」
「確かに最初は恥ずかしかったわ。」と玲子も苦笑しながら3人の様子を眺めた。
「それに、どうやら俺には属性魔法の素質は無いらしい。」と〔光〕に3つのスキルを取得する際に他のスキルの習得は出来なくなると言われたことを思い出していた。
「田口さんにも不得手なことがあるんですね。」
クスッと笑いながら玲子は、そんな田口の「普通」の一面を面白気げにからかう。
田口も理解しているのか、
「そういう剣菱さんも、財閥のご令嬢とは思えないはしゃぎっぷりだったぞ。」
と意趣返し。玲子も少し顔を赤らめながら
「…それは、家では絶えず誰かの目がありましたし、聖ファリス女学園でも、財閥家として品格のある態度で居ましたから、今くらいハメを外して年相応な・・・」
「…ちょっと待て。今何て言った?」
「えっ?」
「今、聖ファリス女学園って言わなかったか?」
「…言いましたけど?」
「確かお前ら4人は幼馴染で「小中高」と一緒の学校だったって言ってなかったか?」
「そうですけど?」
「天野はどう見ても男だよな?聖ファリス学園は女子高だろ?おかしくないか?」
「・・・」
明らかに矛盾している。〔光〕に記憶の改竄をしたと見るのが妥当か?
それに3人共、天野の固有スキル【魅了】にもあんまり影響を受けている様子はない。おそらく3人の固有スキル【状態異常耐性(小)】の加減であろう。
〔光〕が道連れ召喚された3人に、天野の【魅了】に対する対抗策として【状態異常耐性(小)】を授けた可能性も否定できない。
余計なこと言っちゃったなと、波風立たすつもりは無かったが天野に良い印象が無いだけに、思わず疑問を口にしてしまったことに、田口も気まずい雰囲気に口を噤んでしまった。そんな時に休憩に来たのか響子が近づいてきた。
「[たぐっち]はボクの魔法見てた?」
「誰が[たぐっち]じゃ」とツッコミをいれると
「[たぐっち]が嫌なら[ぐっさん]だね」と、あだ名を勝手に決め玲子の隣に座る。
響子の属性魔法は土。最初は【ストーンバレット】と呼ばれる石の礫を案山子にぶつけていたが、元々空手をやっていた加減か、最後の方ではグローブのように拳を岩で包み込むようにして、案山子を殴りつけていた。
「どっちもイヤじゃ」と言いつつも場の雰囲気を良い意味でぶち壊してくれたことに感謝する。
「それにしても岩の塊で案山子を殴りつける姿は凄かったぞ
[撲殺娘(笑)]」
「変なあだ名付けるな[才能無し男]」
魔法を発現しなかった事に対してか。かなり辛辣な言い方である。
事実ではあるが。
もっとも基本の属性魔法が発現しなかっただけで、才能ある術者でも得られない特殊上位魔法を使えることは言わない。
「響子もそのくらいにしておきなさい。田口さんも16歳と無理して張り合わなくて良いから。」
「「申し訳ない。」」
◇
「僕、魔物と戦ってみたい!」
と休憩でお茶を飲んでいる時に、天野が王女に言い寄っていた。
「流石にまだ早いだろ。」と思うが、なんせファンタジーの世界だ。中二病が疼くのだろう。さっきの訓練も、独自の詠唱を使いながら魔法を打っていたような気がする。
「そうですねぇ。天野様の魔法の腕は確かなものがあるとは思います。
ですが、身を守る術を確認しておりませんので、最低限戦える・身を守れることを確認してからの方が良いでしょう。
騎士団の訓練も終わっていると思いますので、騎士団に頼んで近接戦闘の訓練でも受けてみますか?
騎士団の予定を確認しなければなりませんが、問題無ければ団長直々に薫陶を受けてもらうことも可能かも知れません。」
「ってことは、剣を使った訓練だね?是非やりたい!」
「分りました。早速、問い合わせてみましょう。」
◇
訓練の申し込み自体は問題なく(誰が訓練を見るかで一悶着があったらしいが)結果的には、修錬場に近衛騎士団・第1騎士団・第2騎士団の団長と副団長が集まっていた。
近衛騎士団団長 ミヒャエル・クローベット
近衛騎士団副団長 フェリクス・ブルーメン
第1騎士団団長 アッガス・ロブロス
第2騎士団団長 ローガン・アルフレット
第2騎士団副団長 メイフェス・ガードナー
そして何故か、戦務相のガロット・ボーエルンまでもがその場にいた。
「この度は近接戦闘の訓練ということで我ら第2騎士団をご指名頂きありがとうございます。」と気障ったらしく第2騎士団のローガンが恭しく、大仰な挨拶をしてくる。
誰も「第2騎士団なんか指名してないよ」と思いながらも5人はそれぞれに挨拶を交わす。
「それではどなたに訓練をお願いしますか?」と王女が騎士団の面々に問い掛け、以下のように決まった。
天野 ―― 近衛騎士団団長 ミヒャエル
芽衣 ―― 近衛騎士団副団長 フェリクス・ブルーメン
響子 ―― 第1騎士団団長 アッガス・ロブロス
玲子 ―― 第2騎士団団長 ローガン・アルフレット
第2騎士団副団長 メイフェス・ガードナー
田口 ―― 見学
理由
玲子は貴族クラスという事もあり、第2騎士団の2人が粗相があってはいけないと2人で見ることになった。
芽衣はアーチェリーをしていたこともあり、弓術の得意な近衛騎士団副団長フェリクスが。
響子は空手を得意としていたため、格闘術も出来る第1騎士団団長アッガスが。
天野は主人公属性だからと訳の分からない理屈で一番偉そうな近衛騎士団団長ミヒャエルが受け持つこととなり。
・・・田口はアブれて一人見学となった。
流石に地球にいた際に部活とはいえ、ほぼ毎日体を動かしていただけあって、女性陣の動きはかなり洗練されている。
天野は初撃こそ鋭くミヒャエルを驚かせていたが、防御に回ると早さに目がついて行かないのか、かなり苦戦しているようだ。
王女は、唯一ステータスを見ることが出来なかった田口を確認できると思っていたが、まさか第2騎士団が2人で玲子を受け持つとは思わず、頭を抱えたくなっていた。
そこにもう1人適任者がいたと戦務相のガロットに小声で耳打ちするとニヤリとして田口に声を掛けた。
「勇者の坊主、俺と訓練でもするか?」
「誰が坊主じゃ」と思いつつも見た目は20代前半と思いだし、溜息をつきつつ「いいですよ」と返事をする。
「ただあの3人みたいに武道を嗜んでるワケではないので素振りからお願いします。」
「お主は慎重派だのう。」
模擬剣の中から1m20㎝ほどの両刃の剣を選び、ガロットに構えを教えて貰いながら剣を振りかぶる。
何回か、構えから素振りに入り、剣の重さに振り回されるように素振りを行っていたが、ステータスのおかげか、【身体強化】のスキルを使わなくても、ある程度重さに流されることなく振れるようになる。
実際には【身体強化】の【身体魔力操作】スキルの上位スキルのため、半パッシブスキルであり、体の動きや体重移動など勝手に補正されているのだ。
「流石は勇者だの。動きが見る間に洗練されてきている。」
刃先を立てて剣を振るように指摘されてから、ゆっくりとではあるが一振り一振りを丁寧に振る。
段々と素振りの音が変わってきていることに自分でも気付き始めた。
「刃を立てると音が違いますね。」
「そこに気付くか。当たり前のことだが、ただ振れば良いワケではない。ミヒャエルが相手をしている勇者(天野)のように、ただ我武者羅に振れば良いというわけでもない。あれでは力も分散してしまって、鉄の棒で殴っているのと変わらんわい。
剣も消耗品ではあるが、一度の戦闘で使い物にならなくなっては金も掛かり過ぎるでな。」
なるほど、天野の訓練を見ながら納得していると、玲子がチラチラとこちらを見てくることに気づく。
「?」と思いながら素振りを続ける田口。しばらくして一旦休憩となる。
「田口さんは剣道か何か武道の心得があるのですか?」と玲子が傍にきて聞きにきた。
「いや。特に何もやってないよ。何でそんなことを?」
「途中からですが、田口さんの素振りを見まして、とても素人の素振りとは思えなかったものですから」
「褒めてもお菓子は作らないぞ」と冗談を言いながら
「剣道やってた人に褒められるなんて光栄だね。」とおどけて見せる。
「でも剣術スキルは持ってないから、きっと教えてくれる人が上手いんだよ。」とガロットのおかげだと言っておく。
「そういうレベルじゃないんだけど・・・」と玲子が呟いていると天野が玲子の傍までやってくる。
「どぉ調子は、二人とも?もっとも田口さんは素振りしかしてなかったみたいだけど(笑)」
「ちょっと!光牙君!!」
玲子が天野に怒ろうとしたところを「確かに素振りしか、してなかったからな。」と言いながら、雰囲気の悪くなった場を後にすることにする。
「ちょっとお花摘みに言って来るわ(笑)」
その言葉を聞いて芽衣と響子が
「行っトイレ~♪」
「お便器で~♪」
「「にょ~い ドン(笑)」」
と響子と芽衣がバカを言っていたのは無視をする。ツッコミなんて決してしない。
心の中では「どこのゲイバーやスナックだ」とツッコんでいたが。
ゲイバーでのオヤジギャグって、酔ってテンション高くないと辛い時もあります。
そもそも、そんな時にはお店には行かないですけど。。。