第35話 武闘大会 個人戦予戦3
やっと改稿前に追い付きました。
ユミン回です。
「さぁて予戦も後半戦に突入したぞ!
G・H・Iブロックの見どころは何と言ってもHブロック!
何と今回、招待選手の巨人族ロイザー選手!
本来、招待選手とのことで本戦枠を獲得しているにも拘らず、予戦から出場したいと敢えてこの予戦バトルロワイヤルに出場するという傑物だ!これが吉と出るか凶と出るかは不明だが、これだけは言えることがある!予戦から本戦並の盛り上がりが期待できるぞぉぉ!」
Hブロックに一際デカい選手が登場し、観客が大いに歓声を上げている。身の丈は3mを大きく超えている。この選手が巨人族のロイザー選手か。
「手元の資料によるとロイザー選手の身長は3m78cm。手に持つ大剣は刃先だけで2mを超えているそうです。
そして、このHブロックにはあのユウ選手のパーティメンバーである1人、ユミン選手が出場しているぞ!
先ほどのマイア選手の戦いを見ていたお前たちなら、このユミン選手にも期待しないワケないよな!俺は期待してるぞ!きっと期待通りの素晴らしい戦いを俺達に見せてくれるはずだ!」
まぁ本戦に残れるのは2人だけだ。潰し合いをしなければ本戦に残れるはずだが…?他にも有力な選手もいるかも知れんが実力的に、このHブロックはユミンとロイザーで決まりだろう。潰し合いをしなければだけど。
◇
「お?あんたの得物もデッカいなぁ。」
腹から響く声に振り向くと、ユミンは思わず見上げてしまった。
「その身体に見合わぬ大きさの剣。見せかけだけではないようだな。それにかなりの業物と見た。ワシの武器も修理に出してて、今日は予備の武器だが、打ち合える時を楽しみにしとるぞ。」
ユウに作ってもらった武器の良さを正確に見抜き、おまけに褒めて貰って悪い気はしないユミン。
「こちらこそ。期待に添えるように頑張ります。」
「本戦で邪魔も無しに戦いたいが、バトルロワイヤルもまた一興。大いに楽しもうぞ!」
「よろしくお願いします。」
「野郎ども!そろそろ準備はいいかぁぁぁ!それではG・H・Iブロック!試合開始だぁぁ!」
ユミンとロイザーが対峙するが、その周りの選手達は誰も邪魔はしない。勝手に潰しあってくれるのは有難いからだ。あちらこちらで剣戟が聞こえてくるも、ユミンとロイザーは静かに剣を構えて向かい合う。
ユミンは俗に言う正眼の構え。対するロイザーは左手を前に出し、右手大剣を斜に構えている。
「それでは行かせて貰う!」
ロイザーの声を皮切りに、互いが踏み込み剣が交叉する。4m近いロイザーの振り下ろす剣に打ち負けないユミンの膂力に驚きの声が上がる。
「なかなかやるのう!武器も然る事ながら、ワシの剣戟に打ち負けない膂力!やはりワシの見立て通り!」
「期待に添えているのなら良いのですがっ!」
鍔迫り合いから1合、2合と、ロイザーの打ち下ろしの剣に合わせ、ユミンが正面から上段の受けをしているが、いつまでも防御ばかりでは埒が明かないと、ユミンがロイザーの1撃の威力を利用し後ろに飛ぶ。
運悪くその場にいた他の選手を大剣の一振りで吹き飛ばし、周りを巻き込みながらの展開に持ち込んだ。ロイザーも近くの選手を吹き飛ばしながらユミンに向かい、右手に持った大剣を横薙ぎに振るう。
「甘いです!」
横薙ぎの1撃をしゃがむ様に避け、ロイザーの喉に向けて飛ぶように剣を突き出す。
「お主もな!」
ロイザーが剣を持っていない左手でユミンの剣を叩きつけ、飛ぶように近づいてきたユミンの顔面に、剣の柄で殴りつける。
ユミンの左手がロイザーの右手を薙いだ。ロイザーの半分にも満たない小さな身体で、どこにこんな力があるのだろうと思われる力で、ロイザーの右手を退けると、ユミンの膝蹴りがロイザーの顎を打ち抜いた。
「ユミン選手はホントにヒト族なのかぁぁぁ?!ロイザー選手の顎まで3mをゆうに超えるその高さに、なんとひざ蹴りをぶち込んだ!ぁぁぁ!
そのままロイザー選手の肩を踏み台にして遥か前方の集団に向け勢いよく飛んで行く!
空中で剣を支点に、右の回し蹴り!吹き飛ばされた選手は一気に場外へすっ飛んだ!
ユミン選手の膝蹴りで片膝を着いていたロイザー選手に群がった選手達も、ロイザー選手の振り回した1撃で3人の選手が吹き飛ばされたぞぉぉぉ!」
残りが4名になり、一旦、睨みあいの膠着状態になる。
「先ほどの膝蹴りは効いたのぉ。」
「それなりの1撃だったんですけど…、タフですね。」
「こんな楽しい戦いは、すぐに終わってしまっては勿体ないでな。」
「…本戦に残らないと、ここで終わってしまいますよ?」
「それも勿体ないが…、今を楽しみたいしのぉ。」
「…戦 闘 狂ですか。」
「なぁに、ただ滾る戦いが好きなだけじゃ。」
「それを戦 闘 狂っていうんですよ。」
ロイザーと睨み合っていると、横から口を出してくるネズミの獣人と犬の獣人達がいた。
「おい、あんたら。潰し合いはもう終わりかい?出来れば潰し合ってくれた方が、こっちとしては嬉しいんだがな。」
「そうだな。本戦出場クラスの潰し合いは是非、続けて貰いたいもんだ。」
「…ふむ。何か勘違いしておらんか、お前たち?」
「何がだよ!」
「ワシはこの時間を楽しみたいからこそ、お前たちを残しておるだけだ。少なくとも3人以上おらんと終わってしまうからのぉ。」
「お情けってことかい?バカにすんなよ、巨人族さんよ!」
プライドを傷つけられたとロイザーに切りかかるネズミの獣人。素早い動きで足元を切りつけ、一気に遠ざかって余裕そうに言い放つ。
「デカい奴は、足元がお留守になりがちなんだよ。」
ロイザーは切りつけられた箇所を一瞥するだけで特に気にせず、ネズミの獣人を睨みつける。
「別にあんたとやったって構わないんだぜ?ただ、本戦に手の内を晒したくなかっただけだしな。」
「…では、手の内を晒さず、消えよ!」
無表情となったロイザーがネズミの獣人に言い放つと、剣の刃を立てず、団扇のように剣を振り抜く。ロイザーと比べれば、十分小柄なネズミの獣人は、振り抜かれた風圧に吹き飛ばされそうになった。
ロイザーはその一瞬の隙を逃さず、先ほどのネズミの獣人よりも素早く後ろに回り込むと、左手でネズミの獣人の頭を掴み、宙づり状態でゆっくりと握り始めた。
メキメキと音を立てながらロイザーは残った犬の獣人を見ると、ユミンがちょうど、頭だけを残して凍らせていた。
「ワシとしてはもう少し楽しみたかったのじゃがのぉ?お主と本戦で当たるとは限らんし。」
「本戦での巡り合わせも、醍醐味の一つではありませんか?」
「そうは言わず、もう少し楽しませてくれ。」
ロイザーがネズミの獣人を放り投げ、ユミンに勢いよく迫ると、ユミンは凍った犬の獣人をロイザー目掛けて放り投げ、間合いを保つように対峙する。
ロイザーが飛んできた犬の獣人を無造作に叩き、ユミンと向き合うと、ジリジリと互いの剣が触れ合う距離まですり足で近づいて行く。
「ロイザー選手、ユミン選手にジリジリと寄っていますが、明らかに「本戦出場など関係無い!俺は今が楽しければ関係無いんだ」とばかりに戦いを求めております!
闘技場にはロイザー選手・ユミン選手の他に、ネズミの獣人レンダー選手が生き残っています。もっともレンダー選手は、先ほどのロイザー選手の攻撃でしばらく戦線復帰は難しそうですが、大会のルール上
・意識も失っていない。
・四肢の欠損も無く深刻な怪我の状態でも無い。
・本人の戦闘意欲も無くなっていない。
・場外に落ちてない。
以上の理由から運営サイドとしてはルール上は問題無しと判断し、続行OKとしております!」
明らかにカリス女王の刹那的な意思を感じるが、観客は本戦ばりの戦いが見れると大盛り上がりだ。
「手段と目的を履き違えているとしか思えませんが。ロイザーさん、私は運営側の人間ではありません。正直、盛り上がりのために戦うつもりもありませんし、必要も感じておりません。
貴方や運営の都合で振り回されるのは、気分がよくありません。早々に終わらせていただきます。」
ユミンが両手持ちの大剣を片手で持ち、身体から濃密な魔力が一瞬溢れ出したが周りに溶け込む様に消えたかと思うと、1歩ロイザーへと近付いた。
「やっと本来の構えになったか?
ワシの都合で振り回してすまんとは思うが、もうしばらく相手をしてもらおうかの。」
余裕の表情のロイザーだったが、次の瞬間、驚愕のそれに変わる。
ユミンがいきなり消えたようにその場から居なくなったかと思うと、ロイザーの身体が真横に吹き飛ばされた。
「なんとっっ!」
ユミンが驚異的なスピードで移動したことは理解できるが、方向転換や空中での移動が、観客にも目で追うことが難しいほどだった。
「ユミン怒ってるな。本戦までは使わない約束だった業まで使って仕留めに掛かってる。」
ユミンの移動方法は、本来の力で移動すると踏み込んだ拍子に、床は爆散してクレーター化するし、すぐに場外へ落ちてしまうだろう。そうならないための業。
それは、空気や床などの固定化。熱魔法などの原理を利用して、分子・原子の振動を固める。もちろんユミンの圧倒的な魔力を周囲に溶け込ませ、魔力でも空間を固定化させたり色々な要素を絡め合わせているのだが、それゆえに【スキル】ではなく業と言えるのかも知れない。
「おぉっとユミン選手!目にも止まらぬ速さとはこのことを言うのでしょうか?
闘技場を縦横無尽に移動してロイザー選手を翻弄している!
いったいどんなスキルを使用しているのか分かりませんが、空中でも方向転換の利くその立体移動法は、もはや場外失格はあり得ない!ユミン選手、これは大きなアドバンテージだ!」
ロイザーは一切の余裕を無くしていた。今回の予戦はメイン武器を修理に出していたため、本来の実力は出せていない。しかしそれを差し引いたとしてもあり得ないと思った。
ロイザーは冒険者ギルドではA+ランク。それも、もうすぐSランクに届こうかというレベルだ。そのロイザーを追い詰めようとしているユミン。最初は余裕を持って相対していたが、ユミンが本気になってからはその余裕も既に吹き飛び、目では追えない攻撃にカンで防御しているのが精いっぱいの状況だ。
「まさかここまでとはっ!
これは、完全に目測を誤ったっ!」
一瞬、攻撃が止んだ。そこにはロイザーの前方の空中に、まるで地面を踏みしめているかのように浮く、ユミンの姿があった。
「そろそろ終わりにしましょうか。」
「本来のメイン武器であれば、もう少し持ち堪えられたかも知れぬが…いい訳にしかならんか。」
若干の悔しさを滲ませ、ユミンを睨むロイザー。明らかに格下だと思っていた相手が、まさか自身よりも遙かな高みにいる相手と知る。それは自身の審美眼の低さだけでなく、己の怠慢が招いたことと単純に理解するも、納得するには程遠い。
「大会的には、本戦で再戦という流れが好ましいのでしょうけど。私は運営サイドの人間ではありませんので、盛り上がりなど関係無く終わらせていただきます。」
“世界顕現”
=氷原世界=
ユミンの、周囲に溶け込んだ魔力が一気に、あらゆるモノの活動を止め、凍った世界を作り始める。それは空中に漂う塵芥がダイヤモンドダストと変わり、キラキラと舞い始める幻想的な世界。観客も思わず息を飲み、その光景に目を奪われる。
闘技場が白銀の世界と変わり、ロイザーの身体も氷に包まれ動きを阻害し始め、誰もがこれでロイザーの敗北する姿を確信した状況の中、冷静な者の1人が声を発する。
「決着ぅぅ――!」
「「はぁ??」」
いざ、ロイザーに対して攻撃に入ろうとしたユミンだったが、実況の叫ぶような声に思わず攻撃を止めてしまった。
「Hブロックの本戦出場はユミン選手とロイザー選手に決定です!理由と致しましては、ユミン選手による氷の魔法が、レンダー選手の戦闘継続が難しい状況に陥ったと判断いたします!よって闘技場に戦闘行為可能な選手が両選手のみとし、Hブロックの予戦を終了いたします!」
見ると、ネズミの獣人であるレンダーが氷漬けになり、運営スタッフが運び出そうとしているところだった。
「ユミン選手とロイザー選手は至急、戦闘行為を中断し、闘技場から降りるようお願いします!!」
「しまらぬ結末となってしまったな。」
「なんか申し訳ありません。その代わり、本戦で対戦する際には、最初から全力で向かわせていただきます。」
「それはそれで、怖ろしいモノがあるが…、もし今度があるのなら、ワシも本来のメイン武器で相対することで、この借りを返させていただこう。」
2人がかなりの身長差がありつつも握手をし、共に闘技場を後にした。
ちなみにユミンは魔法は使っていますが素の状態です。