第34話 武闘大会 個人戦予戦2
無双って聞こえは良いけど、すぐに終わっちゃうんですね。
なので次回予定の勇者の予戦も合わせての投稿です。
最初の予戦ブロックの戦いも終わり、観覧席にいるユミンの所に戻った。マイアはすでに闘技場に向かったようだ。ユミンの祝福の言葉をもらい、席に座り膝の上で甘えてくるエルを撫で、次の予戦ブロックの対戦を考えながら、闘技場に集まる参加選手を見る。
マイアはまだ闘技場には出てきていないようだ。迷ってたりしてないだろうな?ぞくぞくと集まる選手をみながら内心ヒヤヒヤする。
しかし対戦までのこの間を飽きさせないように実況を続けるこの司会者?は凄いな。情報量も然る事ながら、どこでプライベートな情報を入手してくるのか気になってしまう。
「さあ、次のD・E・Fブロックも見どころが目白押しだ!まずはDブロック!『勇者コウガ・アマノ』と『鉄壁の重騎士クレア』!本戦出場の切符を手にすればユウ選手との直接対決もあり得るぞ!」
そう言えば天野のステータスは見てなかったな。ちゃんと訓練はしていたのだろうか?王宮での訓練とかの動きを見てると、何らかの格闘系を地球ではしていたようには見えなかったし。あとで覗いてみよう。
あ、マイアが出てきた。良かった。迷ってたワケじゃなかったようだ。
「次にEブロックでは先程のユウ選手のパーティメンバーの一人、マイア選手の登場だ!背中に背負った2対の破壊鎚のごとく物騒な武器は、その可憐な容姿に全然似合ってないぞぉ、どこまで使いこなせるのかが見物だ!
そしてFブロックには―――」
その後も選手が集まるまで実況が、活躍のしそうな有力選手の紹介を続ける。
「ユウ様、マイアはどうでしょう?やり過ぎ無ければ良いのですが…」
先ほどの予戦の戦いを見て、大体のレベルを知ってしまったからだろう。今更ながら予戦のレベルの低さに、マイアが手加減しながら戦う事が出来るのか心配しているようだ。
「即死級の攻撃じゃなけりゃ、たぶん大丈夫じゃないか?」
「だからこそ心配なのですが。」
「否定出来ないところがツラい…けど、マイアも俺達以外の対人戦は久しぶりだから様子見しながら戦うんじゃないか?」
「だと良いのですが…、心配です。」
◇
「光牙様、予戦ブロックで一緒になるとはラッキーでしたね。」
「日頃の行いの賜物でしょ。2人で本戦出場して、あのユウ達をコテンパンにしてやらないと。」
実際はカリス達、運営サイドの策略なのだが、そんなことは露ほどにも考えないご都合主義の天野は、クレアと呑気に話をしていた。
「それにしても隣のブロックにクレアさんがいるね。」
「…あのユウとか言う獣人のパーティメンバーの1人ですね。ですが、光牙様がそこまで気にされるのは何故なのですか?それほどの逸材とは…正直思えないのですが。」
「そうだね。正直、即戦力とは考えては無いんだけど…、強いて言うなら勇者のカンかな?」
「光牙様がおっしゃるくらいですから、何か感じるものがあるのでしょう。」
「ま、あくまでカンだけどね。さて、そろそろ始まりそうだ。集中しよう。クレア!打ち合わせ通りに頼むよ!」
「はい!」
あくまでも上から目線で、実力も分かっていない天野達であった。
「野郎ども!そろそろ準備はいいかぁぁぁ!それではD・E・Fブロック!試合開始だぁぁ!」
開始早々、マイアが2対のメイスを振り回した。一瞬の静寂。マイアを中心に対戦相手がいきなり消えた。
そしてそれに反応出来たのは観客を含め、僅かだった。
その中でも素晴らしい反応したのが運営スタッフ。ピンクとブルーの目立つ格好が場外付近で一斉にジャンプし、何かをキャッチしていた。それはマイアによって吹き飛ばされた選手だった。
「おおっとEブロック!!いきなり10名近くの選手が戦闘不能で場外だ!
一振りするごとに場外へ吹き飛ばされて行くぅぅぅ!
マイア選手を中心に吹きすさぶ光景は、まさに今大会の台風の目だぁぁぁ!」
選手がマイアのメイスによって吹き飛ばされるたびに、運営スタッフが闘技場の端で受け止める。
「あれに反応できるだけ、スタッフの方が大会に出場したほうが面白い展開になるんじゃないか?」
「あのスタッフは獣人国の戦士たちみたいですよ?連携といい素晴らしいですね。
それにしてもユウ様、DとFの闘技場ではマイアの騒ぎになっていないようですが、隣の様子は見れないのですか?」
「そう言えば、さっき闘っていた時には試合が始まった途端、隣の様子は見れなくなってたな。より戦いに集中して出来る様にってことだろうけど。」
この闘技場も怪我の面だけじゃなく、色々な仕掛けがあるようだ。
ユミンと喋っている間にもマイアの「暴風撃」とも言うべき攻撃が続く。
「凄い!!マイア選手が飛び込む度に、何人もの選手が宙を舞うぅぅ!
これは、大会史上最短の決着が着きそうだぁぁぁ!
あと、10人、あと6人、あと2人…最後の選手も吹き飛んで終了!!
Eブロックの本戦出場はマイア選手!!残り1名は同時に吹き飛ばされてしまったため、審議が必要です!
が、しかし!凄過ぎる!!試合時間は驚きの1分21秒!!!大会史上最短での本戦出場を決めたぁぁぁ!」
観客も大盛況の盛り上がりだ。やはり派手なものは特に盛り上がる。個人的には玄人好みの試合も好きなのだが。マイアも無表情ながら武器を振ったりして観客に応えている。
「ユミンも派手に行ってみるか?」
「あの実況の前では大人しくしてても意味が無いですよね…。」
「確かに、何かにつけて実況しそうな悪意も感じるが。」
「でもマイアさんと違って派手にはならないと思いますよ?」
いや、それフラグだから。と思いつつ、天野の試合を確認する。
◇
時間は少し戻って、試合開始のDブロック
「クレア!いくよ!」
「はい!」
開始早々、【聖魔法】ホーリーレインをクレアの頭越しに放つ。このために天野とクレアは闘技場の端の方で陣取っていた。
上手くいったとニヤリと笑いながらクレアの前方を見つめる。天野の放ったホーリーレインは、持続力もあるのか闘技場の半分を埋め尽くすように10秒ほど降り注いでいた。
「さすが光牙様!これで約1/3が膝を着いています!」
「良し!この調子でガンガン行こう!詠唱中の守りは頼んだよ、クレア!」
広範囲魔法は詠唱時間が長めというデメリットはあるが、決まればデカい。特に範囲が決められた闘技場内での戦いでは放つことが出来たのならば効果も大きい。もっとも天野の場合、クレアと云う防御専門の盾役がいるからこそ成り立つのだが。
「クレア!次行くよ!…フラッシュ・バン!」
天野が叫ぶと、手のひらから光の玉が飛び出ししばらく浮遊する。特に何も起こらないと他の選手たちが「?」と思った瞬間、強烈な光が辺りを照らした。
「ぎゃあ!」「眩しい!」と、直接見てしまった選手達は悲鳴にもにも似た声を上げ目元を抑えてうずくまる者もいる。
「今だ!」
天野の掛け声でクレアと天野が近くにいる選手たちを次々に剣で殴りつけ戦闘不能へ追い込んでいった。
「卑怯だぞ!」
「頭が良いと言って欲しいね!」
「獣の頭では到底思いつかないであろう!そこが光牙様の勇者の片鱗と思い知れ!」
本気なのかワザとなのかは分からないが、剣筋が立っていないため、結果的に致命傷を負わせることなく気絶させていく天野達。
「さて、あと10人くらいだね。一気にいっちゃおうか。ライト・エッジ!」
天野が振った剣先から光の刃が飛び出し、1人を吹き飛ばして威力を誇示する。その間の防御は、全てクレアが大盾で防ぎながらシールドバッシュを行い、牽制している。
「続いて、光・縛・陣だ!」
天野がポケットからキラキラと光る紙のような物を紙吹雪のようにばら撒く。風で闘技場全体に舞う姿はある意味綺麗だ。
闘技場に舞った紙が落ちない内に、天野の手から光の筋が放たれる。それは紙吹雪に反射し、幾筋もの光が生み出されて選手達は手足を打ち抜かれ、まるでクモの巣に捕まった様相だ。
「クレア!」
「承知した!」
天野が光・縛・陣で動きを止めている間に、クレアの大剣で打ち据えて行く。
吹きすさぶ大剣は、紙吹雪を吹き飛ばして天野の光縛陣もその本数が減って行く。そして…光の筋が消えた時、立っている者は天野とクレアだった。
「ここで決着ぅぅぅ!Dブロック本戦出場を決めたのは『勇者コウガ・アマノ』と『鉄壁の重騎士クレア』だぁぁぁ!」
◇
「勇者らしくない、「卑怯」と呼ばれても仕方がない戦い方だったな。まぁ天野らしいと言えば、天野らしいけど。」
しかし天野って、英語あんまり出来ないってことが、さっきの中二病特有の魔法の名前で良く分かった。
「まあ派手好きと云うのは分かりました。」
「身も蓋も無い言い方だな。」
そこで、実況とは別の声で、「次の予戦の出場選手の方は―――」と呼びだしのアナウンスが入った。
「アナウンスでも次の予選の呼びだしが始まりましたね。そろそろ行ってきます。」
「無理しないようにな。」
「みゃうううん!」
「分かりました。エルさんも。行ってきます!」
ユミンが次のHブロックの予戦のために席を立つ。
そこで、まだ闘技場に居る天野のステータスを確認してみた。
■名前 :天野 光牙(16歳)
■レベル:32
■状態 :ヒト族 健康
■体力 :580/880
■疲労度:64/100
■力 :790/1000
■敏捷性:580/720
■魔力 :80/480
■スキル:
身体操作
光魔法
聖魔法
剣術(初級)
■固有(血統)スキル
魅了
スキルに【剣術(初級)】が増えてるし、レベルの割には数値も高い気がするけど…、
あれからマトモに訓練していたのか?
俺達と比べるのはおかしい気もするけど、あまりにも低すぎる。
勇者としての訓練や、討伐の旅に出て半年以上経って、この程度?それが当り前なのか?
バルド王国で魔王討伐に、どれだけ時間の余裕があると思っているのか知らないが、あまりにも低すぎないか?
見た目が派手な魔法で目先が狂って怠慢になったか?死に物狂いになれとは言わないが、王国も、何故手緩い育て方をしている?実は、王国やイフェルナ教は…
いや、憶測で半断するのは良くない。とりあえずは武闘大会が終わったら、勇者との関わりが無いよう、遠くへ行くのが無難だ。
ただ、ここはバルド王国でも無いし、そこまで心配する必要は無いか。
一抹の不安を抱え武闘大会は進んでいく。
お読みいただきありがとうございます。