第33話 武闘大会 個人戦予戦
武闘大会初日、個人戦の予戦が始まった。10ブロックからなる予戦は、1ブロック100人程度のバトルロワイヤル。最後まで立っていた2人が本戦出場となる。
1日で予戦を全て消化するためにサクサク進められるが、選手の移動だけでも結構な時間が掛かる。会場はそこまで敷地面積はなさそうだが、中に入るとかなりの広さの面積を有している。森林族の秘術の一つの空間魔術が施されているとのこと。
闘技場は3面あり、1辺が100mほどの広さが、観客にとっては観戦しづらい広さだが、スクリーンの様な投影するものが四方にあり、細かい戦闘を見ることができるようだ。
「さて、俺はBブロックだからユミン、エルを頼む。」
「はい!頑張ってくださいね。」
「みゃうん!」
「マイアは次だからな。あんまり派手にやらないようにな。」
「善処、する。」
「まあ、ほどほどに。それじゃ行って来る!」
◇
「さあ!この日を待ちに待っていた!今年も伝説を作る最初の予戦会が始まるぜ!」
武闘大会を盛り上げる?アナウンスが響き渡る。
「さあ、最初のA・B・Cブロックでの見どころは、何と言ってもBブロック!勇者と揉め事を起こして一触即発!このまま本戦になだれ込めば、直接対決もあり得るぞ!虎独特の、眼光鋭く睨みつけてる姿が印象の、ユウ選手だ!」
全く余計なことを。予戦ではあんまり目立ちたくなかったのだが、ちらほらとこちらを伺う視線が感じられる。
「さあ、その他のブロックではAブロック!先々回の大会で本戦出場を果たした龍人族のロウ選手!去年は奥さんにの出産立会いのために出場を断念した愛妻家だぁ!
おっと、奥さんが愛息と一緒に手を振ってるぞ!決して羨ましくなんかないんだからな!少し照れてる姿がなんか台無しだ!でも実力は折り紙つき!本戦への大本命どころか本戦優勝候補の1人だ!」
この実況「悪意」を感じるのは俺だけか?なんか、辛辣なコメントというか私情が入り過ぎな感じがする。
それにしても俺達のパーティは全員バラバラ。周りに居るのは敵ばかり。腕試しも兼ねているので、予戦では出来ればスキルを封印して戦う「縛りプレイ」で行けるとこまで行くつもりだが、負けては意味無いのでヤバそうなら、ある程度は使おう。
その他の有力選手の説明も終わり、A・B・Cブロックは開始の合図を待つばかり。すでに戦闘態勢に入っている選手達の耳に実況の合図が掛かった。
「選手も観客も準備は良いか?…それでは予戦会の開始だぁぁぁぁ!」
血の気の多い選手は合図と共に、近くの選手へと襲いかかる。
「おぉっと!」
様子見しようと思ってたけど、周りが許してくれない。大振りの斧がしゃがんで避けた頭上を通り過ぎる。
俺は刀をひっくり返し峰打ち状態にして、斧を振り回してきた獣人の足元を、しゃがんだ状態で刀を振り抜いた。
「ギャアッ!」と声とともにひっくり返った獣人の腹を踏み抜き、次の相手を見回す。辺りは乱戦模様だが、派手に立ち回りをしている者、たまたま仲間が一緒のブロックだったのか共闘している者、様々な戦いを繰り広げられている。
中でも面白いのが、倒された者たちだ。運営スタッフ?と思われる者が素早く場外に連れ出している。もちろん戦いで場外へ吹き飛ばされたりする場合もあるようだが、それにしても、出場選手よりもあきらかにレベルが高い。
攻撃対象から外れるためにピンクとブルーの目立つ格好で、闘技場を駆け回っている。説明だけは始まる前に聞いてはいたが、実際に目にする姿は驚きを隠せない。
怪我については森林族の秘術が何とかしてくれているようだが、倒れた者を闘技場から場外へ【転移】させる技術は確立されてない。しかし“ヤラれた振り”をしてその場を凌いでいる者の防止にはなっているようだ。
「だいぶ減ってきたな。」
闘技場には残り半数といったところか。弱き者、強き者も戦いに敗れた者は場外へ運び出されていく。さあここからが本番って感じで、気持ちを引き締め襲いかかってくる相手を切り伏せる。
「なかなかやるじゃねえか。」
牛の獣人か?両手に大きなバトルアックスを抱えた筋肉隆々の男が、近くの選手と戦いながら話しかけてきた。
「それほどでもっ!」
「あんた、勇者と揉めてるんだってなっ!」
「半分以上、言い掛かりだけどなっ」
「あのヒト族至上主義の奴らには、俺も頭にキてんだ!」
「あの押し付けがましい思想には辟易するよな。」
「あんな奴らに負けないでくれよ!」
「まずは本戦に勝ち残らないといけないけどなっ!」
「それもそうだ!お互いに生き残れるように頑張ろうぜ!」
「あぁ!」
そう言って俺から離れて行く。潰し合いをするつもりは無いようだ。
それぞれのブロックで、残り10名ほどが残っている。これまで何とかスキルも使わずに勝ち残ってこれたが、この調子なら、大丈夫そうだ。まぁレベルが違い過ぎるから当たり前と言えば当たり前だが。
旅立ってから、今日まで安全にレベルは上げていたつもりだが、決して楽をしていたワケではない。スキルに頼らず、基礎から身体能力を上げてきた。
もっとも一緒に居るユミンやマイアのおかげで化け物レベルの魔物とばかり相手にしていた過去も思い出すが。
「さて、次は誰が相手だ?」
残り10名となった闘技場。お互いがお互いを牽制しながらも、油断なく見定める。しかしこのまま膠着状態も、時間が過ぎるだけだ。
「おぉっとBブロックではそろそろ決着が着きそうかぁ?
残っている選手の中では「勇者と揉めてる」ユウ選手と、今回初参加の牛の獣人カウバーン選手が頭一つ抜け出してるようだぞ!」
実況の声に、2人を先に倒そうとする気配が。多人数の場合、強いものをその他大勢で倒していくのは常套手段の一つだ。
10人の内、3人がカウバーンに。残りの5人が俺に向かってきた。普通逆だろ?と思いながら、一旦逃げに徹する。逃げ回りながら刀を振り、牽制しながらも囲まれないように注意しながら、近くに居た1人に的を絞って、刀を振り抜いた勢いで飛び蹴りを繰り出す。
縦横無尽に走るが、徐々に闘技場の隅に追いやられる。背中には場外。5人は俺を追い詰めたと、若干余裕を持って取り囲む。両端の2人が同時に剣を振り上げ、飛び込んできた。
「でりゃあぁぁぁ!」
俺は飛び込んできた2人の剣を刀で弾かせ、バランスの崩した1人の手を掴み後ろの場外へ放りだす。勢いあまって突っ込み過ぎるから少し押し出すだけで良い。もう1人も刀で突いてからバランスを崩して最後は足を引っ掛け転ばしてから場外に蹴飛ばす。残り3人だ。
ここからはレベルの高い3人が残っている。刀を峰打ちの状態から元の状態に戻す。つまり振り抜きの速度も増すし、握りの問題や重心の問題も良くなる。
「さあ来い!」
と言いつつも真ん中の男に上段から切りかかり、返す刀で右側の相手を牽制。そのまま右足に力を込め、地面を蹴りつけ左にいる男に飛び蹴りをする。肉薄する相手に刀を押し付け鍔迫り合いに持ち込み、あとの2人を相手に背を向けないように肉壁として利用する。
鍔迫り合いしてる相手共々、切り伏せようとしてくる男に、刀で吹き飛ばすようにして鍔迫り合いしていた相手を向かってきた相手に突き飛ばす。慌てて避けようとして隙が出来たチャンスを逃さず、逆に2人を鎧ごと叩き伏せる。残り1人。
ちらりとカウバーンの方を見るとバトルアックスを振り回し2人を吹き飛ばしていた。お互い、あと1人だがカウバーンは左腕を負傷しているようだ。
別に仲間では無いが、あんまり無理しないでもらいたい。助けるワケではないが、対峙している相手を威圧しながらカウバーンの方へ追いやる。カウバーンと挟むようにして2人を俺達を囲んだ状態だ。
「ここでBブロックに動きがあったぞぉ!残り4人の状態でユウ選手とカウバーン選手が2人を挟むように対峙しているぞ!このまま共闘して本戦出場の切符を手に入れるのかぁぁぁ!」
おおっと、ここでカウバーン選手がバトルアックスを大きく振り抜いたぁ!対するスウチ選手大きく後ろへ下がるも、ユウ選手と対峙していたヤーブ選手にぶつかった!これはチャンスだ。ユウ選手が俊足で駆け寄り下から振り上げた武器に兜が吹き飛んだ!ヤーブ選手も上手く避けたがユウ選手の突き出した剣にスウチ選手共々ヤーブ選手を突きさして決着!!
Bブロックの本戦出場はユウ選手・カウバーン選手の2名で決定だぁぁぁ!」
運営スタッフがスウチ、ヤーブを場外に連れ出している間に、カウバーンへ近寄る。
「大丈夫か?何とか本戦出場を決めれたな。」
「あぁ、闘技場を出れば怪我は治るらしいからな。それにしても、ユウだったか?俺はカウバーンだ。」
握手をして互いに自己紹介をしながら場外へと歩く。
「しかし珍しい武器だな。そんな細い武器で大剣と切り結ぶことが出来てることが不思議だ。」
腰に付けている刀を見ながらカウバーンが問い掛ける。まあ、秘密にしてるワケではないので刀を引き抜いて、実物をカウバーンに持たせる。
「なんだ、この重さ!」
カウバーンがあまりの重さに驚く。空間圧縮を掛け重さも50kgを超える刀の重さに両手で慌てて支える。
「それにあれだけ闘っていて刃毀れ一つ無い…相当な業物だな。ここら辺では見たことも無い形状の剣だが、レイピアやエストックの様に突くのに特化したものでも無い。どこか異国の出か?
それに一見、獣人に見えるその顔も…、いやこれも詮索してはいけないのだろうな。」
刀を俺に返しながら、立ちいった事を聞かないよう察してくれるカウバーンに好感を持つ。だが、獣人からしてみれば、マスクであるのもバレてしまっているようだ。
「察してくれると嬉しいよ。それじゃ、今日はお疲れ様。本戦ではお互い頑張ろう。」
ちょうど闘技場を降りたところで、改めて健闘を称え別れる。
◇
「実力を隠したままで本戦の切符を手に入れたようですね。」
貴賓室と思われる一室で、カリス女王の傍に立つスービがつぶやく。
「そうじゃの、見たところスキルも使用してないようじゃ。本戦ではどういった形になるかの?
それにしても、あの体格からは考えられない『力』があるようじゃ。獣人に負けない身体能力に
まだ隠しておるスキル…本命のバーツも今年は危ないかも知れんな。」
「一応、我が国の師団長の1人なんですから、応援して下さいね。拗ねてしまいますよ?」
「一応と言ってる時点でお主も同罪じゃ。去年の優勝者と言っても、去年は竜人族のロウも居なかったしの。迫力に欠けた大会じゃった。何よりわらわより弱いし。」
「…言いたい放題ですね。ま、今年はロウ選手を始め、話題性に富んだ出場選手が多いことは、嬉しい限りですけど。」
「さて、Aブロックは順当にロウが勝ったようじゃ。Cブロックもそろそろ終わりそうだし、次の予戦の見どころは誰じゃ?」
「Dブロックに勇者パーティが出場しますね。1人づつでは本戦に出場するレベルではありませんでしたので『勇者コウガ・アマノ』と『鉄壁の重騎士クレア』をセットにしました。」
「…それはイジメじゃろ?」
「はい。私も頭にキていますので。」
予選をわざと有利にさせるような発言に「イジメ」と答える女王。
「仮に、本戦出場できたとしても――」
「実力も伴わずに本戦出場となると、惨めな戦いになりそうじゃの。」
「せいぜい、醜態を晒して貰いましょう。」
女王も女王だがスービもかなりの腹黒である。それだけ頭にキているのだろう。
「ほかには?」
「Eブロックで、ユウ・タグチのパーティメンバーの『マイア』選手が出場しますね。」
「当初の報告では確か、妖精族だったはずじゃが…、サイズが大きくなっておるの?」
「現在、調査中ですが、何らかのスキルの影響かも知れませんね。」
「何にしても、楽しみじゃ。」
「Cブロックも終了したようです。それでは勇者の力も見せて頂きましょうか。」
貴賓室と思われる王族専用の観覧席でこんな内容の話が話されてることも知らず、予戦会は続いて行く。
人が増えると収集がつかなくなる。。。