第31話 邂逅の後
少し少なめですが、よろしくお願いします。
「申し訳ありません!!」
久々にユミンの土下座姿見た。一緒になってマイアも土下座してる。ほぉっておいたらいつまででも土下座のままっぽいから、とりあえずソファに座らせ事情を聞く。俺もエルとの災難と照らし合わせ、その中でも気になった点がいくつか。
・勇者達一行は女性ばかりで構成されている。
・勇者のメンバーは5人もいるのに、近接タイプを求めている。
・勇者の一行はカリス女王に表敬訪問はしていない。
女性ばかりというのは天野の性格的に問題は無いか。
しかしメンバーが5人いて、近接タイプをなお求めている?つまり今の状態は中・後衛タイプでバランスが悪いのか?
それと、俺がネオンと争っている時のカリス女王の態度。…あれは顔も見たこと無いと考えても良いだろう。戦力を求めているのならば、助力を求めているのならば何故最初に女王のところへ行かない?…考えても仕方がないことだが、気にとめて置こう。
そして、勇者とのイザコザの話を最後まで聞いて、エルと一緒に溜息を一つ。
「そっか。そっちも災難だったな。」
「…も?」
俺もエルの事で勇者一行の1人に絡まれたこと、カリス女王に助けられたことを伝える。何故かエルが必死に身振り手振りでその時の状況を臨場感溢れる説明をしているのが、雰囲気を和らげる。…しかし意外と分かりやすいな。【主従の誓い】で繋がっているせいか、俺の説明に合わせた立ち回りで動いている。
「そうでしたか。エルさんもお疲れ様。それで、武闘大会までどうされます?下手に外に出ても厄介事が舞い込んできそうです。」
「そうだな。予戦のブロック表が貼り出したら見に行かなきゃいけないだろうけど、静かにしておいた方が良いよな、厄介事に巻き込まれるのはイヤだし。」
皆も賛成し、予戦のブロック表が貼り出すまでは大人しく、倉庫に居ることにした。空間の位相もズラしてあるし、襲撃されることもない。勇者達だけでなく、女王たちの一行も中を覗き見ることも出来ないから安心だ。
◇
「そっか。そんなことがあったんだ。ネオンも大変だったね。」
ネオンが光牙に、女王との遭遇したあらましを、主観的な経緯で伝えていた。
「光牙さまの苦労に比べれば…。しかしここがバルド王国でしたら問題などにはならなかったのですが、申し訳ございませんでした。」
「いや、それは良いんだけど、…虎の獣人と白い魔物ねぇ。」
「やはり獣には教育が必要という事ですわ!」
聖女が悪態をついていた時、ネオンそっくりの姿をしたカノンがやってきた。
「光牙様、失礼します。お気に掛けられていた女の件ですが、商業ギルドに確認して、やっと足取りが分かりました。どうやら、虎の獣人と白い従魔の仲間がいるようです。それ以外は確認が取れませんでしたので、3人と一匹があの女の一味全員と考えられます。」
「虎の獣人と白い魔物って!」
タイムリーな話題とも相まって、ネオンと光牙が反応する。
「お姉さま!その虎の獣人が私の邪魔をしたんです!」
「ん?どういう事?私が離れてる間に何があったの?」
元々、カノンは斥候の特性も生かし、情報収集のために王都ベイガーに着いた後すぐに別行動をしていた。
今後の仲間と成りえる(ほぼヒト族に関してだが)情報を集めて戻ってみると勇者より、2人組の女性の詳しい情報が欲しいと頼まれ、情報を収集し再度戻ってみれば、妹のネオンより2人組の仲間から邪魔を受けた話を聞く。一回情報を時系列にまとめないと理解が出来ないと、ネオンに詳しく話を聞いた。
「…なるほど、大体の流れは把握出来たわ。
それでどう対処なさいますか?光牙様のお考えを察するに、借宿である倉庫に行くよりも予戦のブロック表が貼り出されたところを待ち伏せし、民衆の前で「宣戦布告」を改めてするのが効果的かと思いますが?」
カノンの考えに聖女もうなずく。
「そうですわ!勇者の威光を民衆にアピールするにはその方が良いと思います!」
「言い逃れできない様、民衆の前で宣言し、武闘大会で減らず口ごと叩き潰すということだな。光牙殿?」
「うん、それがいいよね。じゃあ4日後に備えておかなくちゃね。」
そうメンバーに伝えた後、天野は「その虎の獣人があの2人に【魅了】のことを吹き込んだのかな?いや、そうに決まってる。きっと僕のハーレムパーティへの“やっかみ”だろう。
そう、偶然に【魅了】スキルを言い当てたに決まってる。固有スキルは、鑑定スキルを使ったって、見ることは出来ないんだから。」と心の中でつぶやいていた。
都合の悪いことは勝手に都合良く解釈してしまうのは、生来のものか、後付けされたものかは別として。
◇
「それで、カリス様。実際にお会いになられてどうでした?」
「うむ。正直、あの漏れ出した魔力がもう少し長引いていたら、大混乱に陥っていたであろうな。」
「それほどですか?」
「実際の戦闘力は武闘大会が始まってみないと分からないが、装備を見ると近接タイプじゃから、魔力ゴリ押しの後衛タイプとも違うようだ。もっともブラフの場合もあるがな。」
「まぁ個人戦は魔法特化の者には勝ち抜きづらいものですからね。個人戦にも出場するようですし近接も出来ると見て良いのでは?」
「パーティメンバー全員が出場でか?」
「小々不可解ですが、メンバーが少ないですから全員がマルチに戦えるのでしょう。」
「かも知れぬな。どちらにせよ、武闘大会が楽しみじゃ!」
「私としてはこれ以上、勇者と問題を起こさなければ嬉しいのですがね。」
「それは無理じゃろ。向こうから揉め事を起こしとるんじゃから。」
「ほんとに傍迷惑なヒト達です。」
「全くじゃ。」
「それに、協力を仰ぐとか言いながら王宮にも打診も、未だありませんし。」
「どうせ獣臭いからじゃないのか?」
「ヒト族至上主義の塊ですからね。無理もありません。」
「…いっその事、勇者共どもバルド王国を潰してしまうか。」
獣人特有の牙を光らせながら、不穏な言葉を簡単に紡ぐ。
「背後にはイフェルナ教もいますので、そう簡単に行かないでしょう。」
「まったく忌々しい。」
ヒト族自体は、正直言って“数”以外の脅威は少ない。身体的能力は獣人よりも低いし、魔法も獣人よりは多彩に使えると言っても、妖精族たちに比べれば圧倒的に低い。
しかしイフェルナ教がバックについているとなれば話は別。ヒト族至上主義に加え、1000年以上の歴史を持ち、謎が多く残されている集団だ。
そもそも【イフェルナ】という教団はバーハフェルトの世界に置いて唯一神を崇め、それ以外の神を否定することから始まっている。この世界の成り立ちにおいても、明らかにおかしい論理の教団だ。
その狂気にも似た性質は、本来あるべき魔法形態も歪めた形で進化し、在り得ない方向性と、外見からは想像もできない歪められた魔法も作りだされていると言われている。
「あそこは謎が多くて。ある程度、明らかになるまで、手を出すのは止めた方が良いでしょうね。」
「…悔しいが、そうそうするしかあるまい。」
◇
大会申請も締め切られ、個人戦の予戦ブロックの開示がされる。個人戦には毎年1000名以上の参加者がいるらしく、今年も1000名を超すメンバーが10ブロックに分けられ名を連ねていた。
もっとも同姓同名の者もいるので、名前と番号によって振り分けられているが、去年の上位選手などは本戦のシード選手として、予戦とは別に名前が大きく張り出されている。
予戦の上位2位までの選手20名と去年の上位8位までの選手、招待選手4名の合計32名で決勝トーナメントとなっているようだ。
ちなみに団体戦と従魔戦は今年も参加人数が少なかったらしく、それぞれ32チームになった段階で締め切ったそうだ。
「それじゃ見に行くか。」
軽く昼食を食べ、俺達が倉庫から出るといくつかの気配がある。どうせ中での出来事は見聞き出来なかったからしょうがないかと思い、そのまま表が貼り出されている会場前へ歩いて行く。
会場前に近づくと大勢の集団が目の前に広がっている。賭けも始まっているのか受付をしたテントの前も中々の人集りだ。どのブロックに入っているのか分からないので、とりあえず表の前へ。受付をした際にもらった番号札の番号を見ながらそれぞれの予戦ブロックを確認する。どうやら、全員バラバラのブロックのようだ。
「ユミンはH、マイアはE、俺はBだな。団体戦と従魔戦は…」
団体戦と従魔戦を確認しようと場所を移動しようとした時、白い鎧を身につけた天野達、勇者一行がゆく手を塞いだ。
お読みいただき、ありがとうございます。