第25話 海の魔物
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だいぶ沖の方だが魔物が争っている気配が感じる。かなりの大物が暴れているようだ。ここからでは姿は見えないが、時折「水柱」が立つ光景やら沖の周囲に暗雲が立ち込めているのが分かる。
だからと言ってどうするつもりも無い。俺は勇者でも無いし、直接被害を被ってるワケでもないからな。ここから沖までは遠いし、敢えて厄介事に首を突っ込みたくないと思い、とりあえず、町を目指すことにした。
1時間ほどで漁師の町トントに着くと、船着き場には多くの船が並んでいる。きっとさっきの魔物が暴れて海に出られないからだろうか?町の様子もどこかしら元気がないように見える。海の町というと、どちらかとしては活気がある印象だった為、違和感がある。
ギルドで情報を得られるかと寄ってみると、かなり殺伐とした雰囲気だ。魔石を換金するついでにギルドの職員に尋ねてみることにした。
「なんかあったんですか?ここに着いたばかりで良く分からないですけど、他のギルドと比べても活気がないというか、なんというか。」
換金のために魔石をカウンターに出しながら聞いてみると、ギルド職員も困ったように現状を答えてくれた。
「この町トントは海から得られる食材や海の魔物を討伐することで成り立っている町です。トントで採られる食材は北西にある獣人の国や周辺の町に輸送されているのですが、最近海で暴れる魔物のせいで漁獲量が激減してしまって。討伐しようにもランクの高い魔物らしくて冒険者達も手が出なく、お手上げ状態なんですよ。もうすぐ獣人の国の王都で武闘大会もあるってのに…」
「魔物を倒す生業の冒険者達がお手上げ状態ですか。…町の住人や漁師たちとも関係が悪化してしまっているってところですかね?」
「そうなんです。魔物が現れてから1週間ほど経っているのですが、その間ろくに漁にも出ることが出来ず、なんのために冒険者やってんだ!って絡む人たちも出てきてしまって。まぁあの魔物達が港まで来ないのがせめてもの救いですが。このままでは武闘大会までに必要な食材も調達できなくなる恐れもあるので、獣人の国から高ランクの指名依頼も検討しているところなんです。」
「ちなみにどんな魔物なんです?」
「一応、討伐依頼も出ていますので、情報は掲示板もご覧ください。と言っても誰も見たことのない魔物ですのでほとんど情報はありませんが。」
換金を終え、掲示板を見に行くと、デカデカと討伐依頼が貼ってある。
『
討伐依頼
ランクB+以上のパーティ推奨
またはレイド
討伐対象
・正体不明α―――3体
・正体不明β―――1体
正体不明の魔物について
α
白色で大きさが10m超
触手と思われるものが10本が確認されている。
墨を吐く(暗闇効果)その他特殊なスキルは確認されず。
β
青と金色 大きさ 2~30m超
蛇のような胴体
雷系・水流系のスキルを保持している。
討伐金額
α 1体につき金貨 50枚
β 1体 金貨200枚 』
…これって、テンプレ的に、クラーケンと東洋系の龍だよな。
個人的に某玉を集めると見ることができる龍は見てみたい。でも仲間が危険に晒されるのはなぁ。
「クラーケンで作るイカフライとかイカリングって味はともかく、大きさはマイアやエルは満足するだろうか?」
「ユウ様、イカリングって?」
「酒のつまみだけじゃなく、誰もが好きになる料理の1つ、かな。」
「マイア、食べたい!」
「みゃうぅ!」
「いやいや、かなり危険な魔物だよ?決して興味半分で近寄って良いレベルじゃないから。」
とマイアとエルを宥めながら
「それに海じゃ足場がな。船が大破したらマイアは空飛べるけど…ユミンは泳げないし、逃げ場がない。」
「申し訳ありません!」
「ユミンが悪いワケじゃないから!こんなとこで土下座しないで!周りの目が辛い(汗)」
ユミンは未だに土下座癖があるから人目も憚らず自分に非があると思ったら所構わず土下座するのは悪い癖だ。
「とりあえず、外に出よう。」
食べ物を提供する店も、食材不足なのか、干物系を使った料理しか置いてない。当初の目的の、海産物を使った料理が無いとなると、楽しみが減ってしまった気分だ。
「少し考えさせられる状況だな。」
干物を使った煮込み料理を食べながら、少し考え込む。
「ユウ様、あの海の魔物って倒すことは難しいのですか?」
「脅威としては、リンクサーペントよりはレベルは低いかも知れないけど、『海』という普段闘う事のないフィールドがネックかな。」
「確かに地の着く場所じゃないと難しいですよね…」
「まぁそれについては、考えがあるけど。」
考えていたのは、ユミンの【熱魔法】だ。魔力でゴリ押しすれば、かなりの広さの海を凍らせて足場を作れば、何とかなると思っている。ついでに魔物も氷漬けに出来れば楽なのだが。そこまで楽には行かないだろう。
まぁ、あれからレベルも上がり、使えそうなスキルもいくつか習得しているから何とかなるかな?
「とりあえず、海への移動の方法を考えて、明日にでも確かめに行こう。」
夜にでも船でも作成するかと思いつつ、一旦町を離れ馬車で釣りをした入り江に戻った。
夜に船の形状を何となく模型にして考えてみたが、良い案が浮かばない。魔物が暴れているから転覆しないように、球体にしてしまった方が良いだろうか?
ロマンを追い求めるなら水陸両用のバトルシップも作ってみたいのだが、未来系の科学知識に乏しいから難しいな。
結局、こちらの世界の住人に見られても特別怪しまれないように、2漕の連結タイプにした。動力はゴリ押し系の魔力噴出。エンジンとか魔力で代用させて動かす知識は【アカシックレコード・アクセス】で調べてみても理解できなかった。かと言って燃料を作るのも面倒だったので。
マイ・ルームの作業場を拡張してドックを作り出す。かなり大きめの100m級の船も入りそうな150m四方の広さにした。【アカシックレコード・アクセス】で船の構造を調べ、揺れにある程度抵抗出来る様に25m級の大きさにする。2漕の船の間に橋を渡す感じで連結し、前側には広場的な甲板を設置。
外部は鉄板を魔力で魔鉱石に変質させて覆い、強度を保持しつつ重さにも配慮する。俺以外のメンバーでも動かせるくらいにしないとな。
居住区を簡単に作成して全体に魔力コーティングを施して完成。明日の戦闘に備え、いくつか戦い方を考えていたら、いつの間にか寝てしまった。
朝、作業ドックにユミンが来て起こしてくれた。
「ユウ様、おはようございます。」
「…あぁ。いつの間にか寝ちゃってた。流石に甲板の固い所で寝てたら節々が痛いや。」
「海に出るのは翌日に伸ばしますか?」
「いや、体力的には問題ない。朝食を食べたら、海に出よう。」
マイ・ルームで朝食を食べた後、昨日考えてたユミンの熱魔法で海を凍らせてもらい、水深がある程度深い処まで歩いて行く。このまま沖まで行っても良いんじゃないか?と思ったが、せっかく船を作成したので、船をドックから転移で浮かべてみた。
かなりの大きさだったので取り出した時に、水しぶきが盛大に起こったのだが、エルとマイアは水しぶきでビショビショになりながら喜んでいる。俺とユミンは魔力を身体に纏って逃れていたが。【身体強化】を使い、難なく船に飛び乗ると、ユミンが凍った海を元に戻す。
「さあ、出発だ!」
居住区にある操舵室で趣味で取り付けた舵を回し、魔物がいるであろう沖を目指し船を前進させる。そこそこのスピードで進む船は馬車とはまた違った、波の揺れ具合にマイアとエルは大興奮だ。船に酔わなきゃ良いけど。
沖に向けて船を進めて行くと、段々雲行きが悪くなって波も荒くなってくる。魔物たちも何百時間戦い続けているのだろう?戦いの場に近づいてくると魔物の姿が見えてきた。
とりあえずイカの魔物で後ろにいる奴のステータスを【解析】で見てみる。
■名前 :―――[クラーケン](102歳)
■レベル:173
■状態 :深海種 開眼目族 健康
■体力 :6300/11200
■疲労度:32/100
■力 :6920/9820
■敏捷性:9200/2980(水中)
■魔力 :1220/12700
■スキル:
水弾
統率
指揮
■固有(血統)スキル
暗闇(墨吐き)
吸引
どうやら【統率】【指揮】スキルで2体を操っているのか。仮にリーダーとしよう。レベルは高めだが、単体なら特に問題なさそうだ。あとの2体もリーダーに比べると一段落ちる。
さて問題の龍のステータスは…
■名前 :―――[雷龍](3302歳)
■レベル:393
■状態 :海皇種 海龍族 健康(半封印状態)
■体力 :10920/30920
■疲労度:29/100
■力 :9620/17820
■敏捷性:7200/11280
■魔力 :9220/29800
■スキル:
水砲
水流操作
飛翔
人語理解
■固有(血統)スキル
雷雲召喚
嵐魔法
半封印状態か。それがこの膠着の原因かもな。それにしても人語理解か…話が通じるのは良いが、どちらに味方に着くか、それとも両方ヤッちゃうか。その時、雷龍が腹に響くような声でこちらに話しかけてきた。
『ヒト族の者よ!ここは危険だ。早々に立ち去れ!このままでは戦いに巻き込んでしまう!』
うん。良い人(龍)っぽい。クラーケンをヤッつけるか。
「ユミン!クラーケンの周りごと、凍りつけろ!」
「はい!」
ユミンがクラーケンの周囲の原子の活動エネルギーを一気に奪い去って行く。流石にクラーケン達は魔力で凍らないよう抵抗している。そう簡単には行かないか。
「マイアとエルで、奥のクラーケンを。手前の奴は雷龍に任せておこう右側のリーダーは俺が相手する。ユミンは無理しないようにそれぞれのサポート!」
「行く!」
「うみゃ!」
「はい!」
いきなりの展開に戸惑う雷龍を余所に、マイアとエルが飛び出す。手前のクラーケンのムチのようにしなる脚を飛び越えるように避け、マイアは飛んで上空へ、エルは魔力で足場を形成し、空を駆けて行く。ユミンは氷の維持をしながら、大気中の水分を固め『雹弾』をクラーケンに当てて牽制に努めている。
マイアがクラーケンの脚を掴んで浮き上がらせて氷の地面に叩きつけ、エルが前足に魔力で巨大な爪のようなものをまとってクラーケンの胴体を切り裂いていく。たまらずクラーケンが周りに墨を吐き辺りの視界が悪くなった。魔力阻害の効果もあるのか?様子がよく把握出来ない。ただクラーケンの叫び声だけが響いている。
俺はリンクサーペントのウロコを5枚ほど出し、手裏剣のように投げつける。一気に2本の脚を切り飛ばせたようだ。恐ろしいほどの叫び声をあげながら、氷に埋もれた身体を残った脚で引き抜き自由を手にするも、致命的な隙となって俺の接近を許してしまう。
空間断裂で一気に決めても良いが、そこまで危険な相手でも無い。軽く跳躍してクラーケンのしなるムチのような攻撃を避けて頭上まで行くと、剣を真下のクラーケンに向け、魔力を剣の延長線上に瞬間的に何回も伸ばし、串刺しにしていく。
あ、やり過ぎた。氷も一緒に貫きすぎて割れてしまった。凍える海に落ちてしまった。冷たい。何とか這い出した時にはエルとマイアも無事倒していた。どうやって倒したんだろ?
残り1体と対峙していた雷龍は流石に危なげなくクラーケンに捲きつき無力化して雷魔法でトドメをさした。
『ヒト族の小さき者よ。助力に感謝する。』
「こちらが勝手に割り込んだ形。むしろ謝るのはこっちです。申し訳ありませんでした。」
『ヒト族はそんな殊勝な感じだったか?最近ヒト族と接してないから分からなんだ。それに瞳狼族に妖精族…いや神霊種か。珍しい組み合わせだな。』
「よく分かりますね。」
『伊達に長生きしとらんわ。それにしても先ほどの戦い、見事だった。』
そりゃ3302歳だもんな。色々知っていそうだ。それにしても…
「何が原因で争っていたんです?」
『最近、海底でも魔力溜まりが多くてな。その影響で、あ奴らみたいに調子に乗ってくる者もおる。自分の力を過信してる奴らは気も大きくてな、ワシのような古参の魔物を倒して「箔」をつけようとしたのかも知れぬ。
それにしても「妙なスキル」を持っているものがいて、中々攻めあぐねておったところにお主らが来たと言ったところじゃ。』
「妙なスキル…確かに魔物で【統率】や【指揮】は初めて見たな。」
『あのような連携を持つスキルはヒト族以外は普通は持たぬ。1000年前の大氾濫の時はあったようだが、…その時が近づいておるやも知れぬ。』
「魔力溜まりといい、魔物の活性化や妙なスキル…。何かが起こりかけているのかも知れないですね。」
『だが、この度は助かった。本気が出せない状態では小々不味かったのも事実。この借りはいづれ返させてくれ。』
雷龍は手元から1枚のウロコを毟り取ると、俺に差し出してきた。
『これに想いを念じれば余ほど遠くても我に届く。すぐに駆けつけよう。』
「じゃあ、困ったことがあれば頼らせていただきますね。」
俺は懐にウロコを大事にしまい、礼を言う。エルは氷に接している肉球が冷たいのか、爪を立てて冷たさを凌いでいる。さっきの戦いの勇ましさとは違い過ぎて、なんか和む。
俺達は再び船に乗り込み、海面を元に戻すと、雷龍も雷雲を無くし青空が見えだした。プカプカ浮かぶクラーケンの死体をアイテムストレージにしまい、雷龍にあいさつをすると、港へ向けて船を出発させて、戦いの場をあとにした。
お読みいただきありがとうございます。