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利己の風【改訂版】  作者: メイシン
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第24話 初めての…


渓流釣りも良いけど、海釣りも良いよね!




 妖精族の郷を出発して、半年が経った。俺達は、あちこち寄り道をしながら、さらに南にへと進み、海へと足を向けている。

 半年の間には、カーラにおやつのレシピを(足取りを一応警戒して)転移魔法で何回か送ったり、妖精の郷に転移して住居の増設をしたり、レベルを上げたりしながら過ごしていた。


 近接戦闘もそれなりに(・・・・・)戦えるようになり、多数の魔物との戦いもマイアとエルの参加により、連携も含め満足できる展開で進めることが出来るようになった。もっとも魔力全開で戦えば個々人でも、魔力無双出来るだけの力を一人一人が持っているのだが。


 世間と言えば、ヒト族のバルド王国より、勇者一行が魔王討伐の旅に出たとか、冒険者学校に通っている玲子達が学年1位の実力を有し、期待の新人として注目を集めているとか、ミーバ共和国のカララン男爵が謎の失踪後、1ヶ月後に(・・・・・)領主の館にて護衛騎士団と共に、首を刎ねられた状態で発見されたりと、色々あったようだ。




 いつものように2頭のゴーレム馬の頭には、それぞれマイアとエルが座り、マイアが小枝を振りながら歌を口ずさみ、エルが「みゃおぅ♪みゃおぅ♪」と機嫌良さげに一緒に歌っている。しかし…


「なぁエルさんや」


「みゃぅ?」


 最近、エルの身体の大きさが不自然なくらい大きくなってきている。エルと出会ってから、最初は身体のサイズも最初子猫くらいの大きさだったものが、今では中型犬くらいになっていた。尻尾に関してはすでに1mを超えている。ゴーレム馬の頭に乗るのもそろそろ限界に近い。

 親が5mほどだったことを考えると、エルが大きくなるのも当たり前と思うのだが…、食糧はともかく、馬車の扉も改造しないとあと半年もしたら入れなくなる可能性も出てくるな。


「可愛さと、大きさって共存すると思うか?」


「みゃ、みゃぅ!?」


 エルは頭が良い。ヒトの言葉を理解するくらいに。大きくつぶらな瞳がこちらを見ている。うるうるした瞳がなんとも愛らしい。しかしこのまま大きくなれば町に入っても怖がられるかも知れない。

 こんなに可愛いのに怖がられるなんて忍びない。そしてヒトの言葉を理解出来るだけに、怖がれたりして傷つく姿を見たくない。

そして、俺はマイアに向いて相談を持ちかけた。


「マイアのスキル【身体変化】をエルに教えることは…覚えることは出来るだろうか?」


マイアがエルをマジマジと見つめ、ポツリと言った。


「マイア先生に、不可能は、…無い!」


かなり溜めて言ったね。それも自分で「先生」って…。


 その日からマイア先生による地獄の特訓が始まった(笑)

マイアの話によると、妖精族やユミンなどの身体構造が魔力で構成されている率が高ければ高いほど、変化させることが可能らしい。

 俺は新たにスキルを覚えられないので意味は無いが、このメンバーは総じて魔力が高い。魔力だけならばドラゴンにも匹敵しているのではなかろうか?

 何気にユミンが「このスキルを習得出来れば、もっとユウ様に可愛がってもらえるかも」とつぶやいていたのはスルーしておく。

 そしてエルも高い魔力を保持し、スキル習得の素養はあるようだがマイアの教え方に問題があるように思える。


「ここで、…『ギュッ』として、『グッ』とする!」


うん。擬音ばかりで全然理解できない。エルは必死に頷きながら「みゃぅん!」「みゃ!」

と掛声を発しているが、習得するには時間が掛かりそうだ。尻尾のフリフリが可愛過ぎる。

 そんな様子を微笑ましく見ながら、俺はタバコを肺いっぱいに吸い、紫煙をそっと吐き出した。






「今日はここで野営だな。」


 いつも通り馬車を道から少し外れた所に移動して、周囲の位相をズラして結界代わりとする。馬車の中に入ってからマイ・ルームへと移動する。今日も料理スキルを駆使して貰い、ユミンの手料理を頂くとしよう。

 あれからもちょくちょく地球の料理を教えたが、ユミンの興味を引いたのは和食料理。今日は魚の蒸し料理がメインのようだ。


 シャケのようなオレンジ色した魚の切り身に、大和イモのような粘り気のあるイモに卵白を混ぜ蒸し器で蒸した、結構シンプルな副食。お吸い物も魚をつみれにしてキノコも合わさった上品な仕上がりになっている。

 米はまだこの世界では見かけてないが【創造具現化】で米を作りだして、時々食卓に出してもらっていた。ちなみにエルには一抱えもある魚を、まるごと蒸した豪快な食事だ。それも10匹以上。皿にピラミッドのように積まれている。


 何気にエンゲル係数を気にしたらダメだ。うちの食費はマイアとエルによって跳ね上がっているが「良く食べ」「良く眠り」「良く遊ぶ」姿は、俺とユミンの心のオアシスになっているのだから。些細な事で気にしたりしない。もっともエルのサイズの問題も気にしてはいけない。


 食事も終わり、食後の一服をとタバコに火を入れ、ゆっくりと肺にため込んだ紫煙を吹かしながら、何気なくユミンに問いかけた。


「最近、魔物と遭遇する率が多く感じるな。」


「そうですね。魔力溜まりが増えているのでしょうか?マイアさんが「地脈の流れが活発化してる」とおっしゃっていたので、その影響もあるのかも知れません。」


「この調子じゃ海に行っても荒れた感じかなぁ…」


「でも、私は『海』というものを見たことがありませんので、楽しみです!」


「そっか。俺以外は海を見たことあるのはいないのか。潮風が運んでくる独特な香りは、最初慣れないとキツいと思うかも知れんが、海の幸は好物が多いからな。大量に購入するぞ。食材を購入したらまた地球での料理もユミンに教えるから。」


「それは楽しみです!レパートリーをもっと増やして食卓に花を添えますわ。」



「マイアも、楽しみ!」


「みゃうみゃ!」


 マイアもエルも“食”にうるさくなったのか、新しい食材や料理に出会うと、美食評論家に変身することが多い(笑)

たんに食い意地が張ってるだけの気もするが。


「地球と同じ食材が多ければ良いんだけどな。こればっかりは同じ生態系で進化するとは思えないから分からないけど。見たことも食べたことも無い食材だと、どうやって調理したら良いか分からないし。同じ系統だと調理しやすいから楽だよなぁ。」


「町で料理を食べて参考にするのも良いかも知れませんね。」


「そうだな。何日か逗留して色々な料理を食べに行くか!」


「そうしましょう!」


こうして平和なひとときをを過ごしながら夜が更けていく。







「みゃぅ?みゃーぉぅ!」


 潮風が届く距離まで近付いてきたようだ。いつもと違う、磯の香りを含んだ風に、エルが反応している。


「これが海の…香りというものでしょうか?少し不思議な感じです。」


「この坂を登り切ったら、海が見えてくるぞ。」


 マイアは潮風が飛び辛いのか、ゴーレム馬の頭にちょこんと座っているが、初めて見る景色に期待してウキウキしているのが分かる。エル大人しく座っているが、今にも飛びだしたいのを我慢している様子。


 馬車が坂を登り切ると、目の前には一面の海が広がっていた。


「きれい…」


「みゃぅー…」


「…でっかい、水溜まり。」


マイアさん、表現がなんか違うぞ。


「ユウ様!何か白いものが見えますがあれは何ですか?」


「波が光に反射してるんだよ。」


「波?海とは生きているのですか?まるで鼓動のように息づいてる風に感じます!」


「生きてるかぁ。言い得て妙だな。別に海が1つの生命体というワケじゃないけど、惑星規模で考えれば息づいてるようにも思えるな。」


「ユウ様、何故「波」が起こるのですか?」


「えっと…地球の場合だと、確か月の引力の影響で水面が持ち上げられる際に起こる現象だけど、こっちでも同じなんだろうか?バーハフェルトの場合はどうなってるのか良く分からん。」


「ユウ様のいう「引力」がどういうものか分かりませんが、なんとも不思議な現象ですね。」


 しばらく俺達は海の景色を眺めながら馬車を進めていたが、町に行く前に入り江の近くで一旦停めることにした。近くに小さな砂浜もあったので、歩いて散歩する。エルは波にビクつきながらも、波打ち際で早速遊んでいる。ユミンとマイアは砂浜で貝殻を拾って集めている。


「久しぶりに釣りでもしたいな。さっきの入り江付近で釣りでもするか。」


 ユミン達に入り江で釣りをすると伝え、早速釣り具セットを【創造具現化】する。そこまで大物狙いではないが、どんな魚が釣れるか分からないので、5mほどの少し太めの竿を作り出す。餌は余っている魔物の肉を使おう。


 水深はそれほど深くないが入り組んでいるので潮の流れが面白い感じで色々な種類の魚がいるようだ。しかも普段から釣り人もいないのだろうか?警戒心も無く、面白いように釣れる。しかし南国の海のような色彩の魚は日本人の感性では、食べるには少し抵抗があるかも知れない。


 しばらく釣りに勤しんでいると、ユミン達がこっちへやってきた。エルが海に潜っていたのか?海藻まみれになっている。マイアもエルの身体についている海藻を頭に乗せてカツラのようにして飛び回っている。なかなか面白い。


「ユウ様!たくさん釣れてますね!」


エルは物欲しげに魚たちを見つめている。


「ユミンとマイアもやってみるか?俺はエルが食べたそうにしてるから、魚を焼く準備でもするし。」


「是非やらせて下さい!」


「マイアも、やる!」


マイアさん。小枝に糸を垂らしても針も餌も付けないと無理だと思うぞ。


 2人に釣り竿を渡し、簡単に教えると2人の様子を見ながら石を集め、枯れ木をアイテムストレージから取り出すと焚火の準備を始めた。

 テーブルとビーチパラソルを作成し、休憩場所も用意する。火を起こす前に、魚を簡単に下処理する。その間にエルは生で魚を食べている。あ、骨が喉に刺さったみたい。痛がってる。ガッつくから(苦笑)


 火を熾して魚を串で刺して立てかけるように並べる。エルはタコのような生き物と格闘している。あ、顔に張り付いて息が出来なさそうだ。

 俺はイスに座り、一服していると、早速ユミンに当たりが来たようだ。イシダイのような魚を釣り上げている。返しのついている針の取り方を教えると、また椅子に座りよだれをダラダラ流しているエルの頭を撫でながら魚を万遍無く火が当たる様にズラしていく。

 魚の焼ける匂いでエルの周りは涎が水溜りのようになってしまってる。どんだけ食い意地張ってるんですかエルさん。

 あ、マイアがタコ釣り上げた。タコを頭に乗せて遊んでる。エルはさっきのトラウマか?イヤそうに逃げだした。






 焼いた魚を昼食代わりに食べながら、午後は海に潜ってサザエとか取れたら良いなと思う。幸い、このあたりには海の魔物もいないようで、漁場としてもなかなか良いところだ。釣りがしたくなったら、ここに来よう。せっかくだからユミンにも水着でも作ってあげるか?




 食事も終わり、海に潜るためにユミンにも水着を作ったら、なぜかマイアとエルも水着を欲しがった。マイアは魔力で服を形成できるし、そもそも裸族でしょ。エルもさっきまで海に潜ってたから必要ないだろ。


 ユミンは泳いだことが無いのか、おっかなびっくりだ。器用に身体の周りに魔力で空気を纏い、潜り始めた。俺もマネしよう。でも水着の意味がない。眼福ではあるが。


 海の中は幻想的な風景だ。色とりどりの魚が列をなして泳いでいる。エルも尻尾を上手く使いかなりのスピードで魚を追い掛けている。マイアは髪の毛を後方に靡かせながら、エルの首元にしがみついている。楽しそうだ。後で俺もやらせてもらおう。


しばらく海中散歩をユミンと楽しみながら夕方近くまで貝を拾い、手に持ったカゴいっぱいに貯まったところで海を上がった。


 初めての海をそれぞれが堪能して、椅子に腰掛けながら、心地良い疲れに身をゆだねていると【索敵】に、何やら沖の方で魔物の反応があった。どうやら争っている感じだ。




遠くでは、遠雷が響き渡る音が鳴り響き始めていた。








ほのぼの回を挑戦しましたが戦闘回と同じくらい難しい。。。


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