第22話 お披露目とそれぞれの思惑
作者のお気に入りの一人はカーラです。
作品上、なかなか出番が無いのが残念です。
――― バルド王国 ―――
「天野様。そろそろお時間となりますが、ご準備は整いましたでしょうか?」
「今、行きます。」
天野 光牙が煌びやかな装飾のされた鎧をまとい、白いマントを翻し席を立つ。
傍らにはパーティメンバーだろうか、5人の姿がある。
「やっとお披露目となりますね。」
清楚な青と金の装飾のされた白のローブを羽織った女性当代の聖女アンフルール・ギルツ・イフェルナがほんのり頬を染め、天野を見つめる。腰まで伸ばした金髪の髪は真っ直ぐに伸ばされ、その姿は聖女らしく清らかに映る。
「魔王討伐のための大々的なパレードとなりますから。」
白い鎧を着込み大きな盾を背中に背負った重騎士姿のクレア。兜を脇に抱えているがその顔は青い髪を短めに刈上げ、精悍な顔つきの女性。
「私としては、早く討伐の旅に出たいがな。」
恰好は聖女と同じだが燃えるような紅く長い髪は、波打つようにウェーブしていて攻撃的な印象だ。手には身の丈ほどもある杖を携えている、魔法使いのミレア。
「「憎き魔王を倒すには民衆の力が必要です」」
声を揃えて語るのは双子の姉妹、斥候と使役使いのカノンとネオン。二人とも浅黒い肌に対称的な白を基調としたハーフプレートと呼ばれる簡易鎧を身につけている。二人とも暗めの茶色に肩までの髪をひっつめ、邪魔にならないようにしている。
「午後からパレードで王都を一巡して、夕方から各国のお偉いさんを集めての晩餐会だっけ?」
「そのようにお聞きしています。魔王に苦しめられている国民を思えば、早く討伐へと向かいたいのですが、バルドのみならず、各国が一致団結することが第一。そのための晩餐会なのですから、逸る気持ちは置いておき、各国の協力を仰げますよう晩餐会に臨みましょう。」
天野を含め6人が王城の門へ向かった。
華やかなムードのパレードは、豪華なオープンタイプの馬車に乗り、王城から途中イフェルナ教の神殿で祝福の祝詞を受け、さらに王都を一巡する。
6人の姿は、勇者とその一行として、国民に周知されることになった。本来は玲子・響子・芽衣に田口がその場にいるはずだったのだが。
たった1人の勇者ではインパクトも少ないため、まずイフェルナ教より当代の聖女が紹介され、勇者自らが選考し集められた勇者パーティー。決して突出した能力を持っているワケではないが、見た目の華やかさを加え、ある程度の実力を持つ者で構成されている。
ヒト族中心に集められたのは、バルド王国にヒト族以外の住人が少ないのもあるが、王国やイフェルナ教が口を挟んだからだ。ヒト族中心に集められたメンバーで魔王を討伐することによって他国やヒト族以外の各国への牽制と、討伐後の展開を有利にするための目論見がある。
こうした思いが暗躍する中、玲子達を連れ戻す事も検討されたが、天野と玲子達の関係が良くないことも相まって、また既に他国へと行ってしまったため、表だって連れ戻すことが出来ず、とりあえず監視のみとなっていた
パレードも特に滞りなく終わり、王都では勇者の登場に人々は歓喜に包まれ、前途を祝して盛大に盛り上がっていた。そんな王都の城下町を眺め、王城で溜息をつく姿が。
「カーラ様、そんなため息をつかれてはせっかくの「どーなつ」の美味しさも半減してしまいますよ?」
「…リベラ。そんなことで田口様の教えて下さった「どーなつ」の美味しさは半減したりしません。むしろ、このような気持ちの時こそ、「どーなつ」が必要なのです。」
「私には良く理解出来ませんが。」
と言いながら、紅茶を継ぎ足すリベラ。田口が王城から去って、何とも無気力になってしまったものですねと心の中で呟きながら、そっとカーラを見つめた。
「お父様も田口様の『知識』を軽んじているのよ。異世界の知識というモノは、この世界≪バーハフェルト≫の何百年、何千年と先の叡智が詰まっていたというのに…」
「それであれば、天野様にも同じことが言えるのでは?」
「ただ異世界に居ただけの男では意味がないわ。リベラも分かっていてそんなこと言わないで。」
「失礼致しました。」
「百歩譲って、おやつのことは置いておいても、あの用心深さと物事の考え方、そして異世界の知識を活用できるだけの実行力…。真に必要なのは何なのかが分からないおバカさん達には田口様のスゴさが理解できないのよ。」
おやつを百歩も譲らないと置いておけないのか?と思いつつも、田口達を監視させていた密偵より、ゴーレムの馬や振動の少ない不可思議な馬車などの情報を集めていたリベラは、戦場にも使用できる利便性など、田口のスゴさをカーラと同じく正確に理解していた。もっとも胃袋を掴まれたカーラにとっては8対2の割合でおやつのスゴさであったが。
「そろそろ晩餐会の準備に入りませんと。カーラ様のお気持ちはともかく、王国として各国の重鎮を持て成さなければいけない立場なのですから。」
「分かっているわ。」
溜息を1つ落として、カーラも晩餐会へと準備に入った。
◇
会場では明るいテンポの曲が流れ、煌びやかな衣装をまとった人々で溢れていた。昼のパレードでのお披露目を見ていた者は、その雄姿を褒め称え、また他国の商人などはどのルートで魔大陸へと行くのかなど商機を逃さないよう、目敏く情報収集している者も多い。
そんな中、集団に囲まれた天野の姿があった。そのほとんどが貴族の令嬢や有力な商家の女性達だ。本人は気付いてないが当然下心を持っているものばかり。ここで既知を得て今後を有利に進めようという者ばかりである。
ある者は勇者メンバーに取り入って魔王討伐の関係者として名を馳せたいと娘を送り込み、商家の者などは勇者を通じて王家とも懇意にしたいなど、様々な思惑にて勇者を取り囲んでいた。
そんな中、冷めた目で見る者もいる。
「どうじゃ?あの召喚に応じたという勇者とやらは?」
「レベルの割には各数値が高めですし、聖魔法のスキルを持っているようですが、実際どうなんでしょう?そこまで使えるようには見えませんが。」
「お主もそう思うか。外見は兎も角、内に秘め足るモノはそこまで『脅威』も感じん。」
「それに他のパーティメンバーも、数年鍛えれば使い物になるやも知れませんが、せいぜいD+~C-ランクの者ばかり。本気で魔大陸を攻め込もうとしているとは思えません。」
「やはり本命はここには居らぬ勇者かの?」
「情報通りであれば、その通りかと。」
「ミーバの冒険者育成の学校に通う3人の堅実さは評価に値するが、実力の程はどうなのじゃ?」
「通い始めたばかりだそうですが、編入試験ではその片鱗をみせ、模擬戦闘では既にトップクラスの実力とか。」
「なるほどのう。して、最後の1人は?」
「Dランク3人と、元B-の冒険者だったギルドの長を含めた4対1で決闘を行い、手も足も出ず敗北したそうです。」
「剛毅というか、無謀というか。」
「もちろん、敗北したのはギルドの長とDランクの3人がです。」
「なんと!そこまでの実力を持っているのか?」
「少なくともA-の実力はあるのではないでしょうか?」
「こんな茶番のお披露目よりもそっちに興味が沸くのう。」
「馬鹿なこと考えないで下さいよ?」
「馬鹿とはなんだ。ちぃーとばかり遊んでみたいだけじゃ。」
「それを馬鹿なことと言っているのです。あとで処理する私の立場を考えて下さい。」
「つれないのう。」
「以前もいきなりドラゴン退治に出かけて這う這うの体で逃げ帰ってきたのをお忘れですか?」
「うむ、あれは30人で攻めても敵わなんだ。1人も死ななかったのが奇跡じゃった。」
「ドラゴンも呆れて手を抜いてくれたに決まってます!」
「まぁドラゴンはともかく、その男の行方は見張っておくのじゃぞ。」
「言われなくとも。貴女様が変な気を起こさなよう双方に見張りを立てておきます。」
「信用無いのう。」
「せめて獣人国を背負っている自覚をお持ち下さい。女王陛下!」
「さて、頃合いじゃ。晩餐会にも出席したことだし義理は果たした。帰るぞ。」
「承知しました。」
そんな会話が為されていた事を、召喚された5人は知らぬままであった。
◇
「陛下。この度の勇者のお披露目の成功、おめでとうございます。」
「うむ。して、勇者アマノの様子はどうだ?」
「慣れない場での振る舞いは、些か品格に乏しさを感じましたが、概ね好意的に受け入れられたようです。」
「まぁお主のところの聖女も居ったのだから問題あるまい。」
「確かに。…しかし獣臭い者どもも来ていたようですが。」
「獣人の国にも招待状を送ったからの。後々、魔王討伐後には勇者召喚に関わらなかった事を後悔させるためにも必要な処置であった。」
「そうでしたか。陛下の御心の深さに感服致します。」
「うむ。それと今後の予定であるが、どのように考えておる?」
「まずはレベルを上げるためにしばらくは魔大陸に向かいつつ、各地での勇者としての知名度を上げるために魔物の駆逐と云ったところですか。」
「そうなるか。では西周りにて魔大陸を目指す形でレベルが上がってきたら、
魔大陸に行く前に獣人の国をいくつか侵攻出来れば理想的だな。」
「そうですな。目障りな獣臭い土地ごと浄化してしまいたいものです。」
「それでは聖女に逐一、勇者のレベルや動向を報告させるのだ。」
「承知いたしました。」
それぞれの思惑の中、謀略の渦に巻き込まれていく。
お読みいただきありがとうございます。




