第21話 忌避感
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鎧姿の騎士たちに囲まれ、「いったい何?」状態。その中で、一際目立つ煌びやかな鎧姿の男が1歩前に出て、勝手に話をし始める。
「ユウ タグチならびにパーティメンバーのユミン・マイアに相違無いな?この度、この領地を治める「カララン男爵」より貴公ら3名の召致の命が下されておる。ご足労願えるか?」
何、偉そうな態度。慇懃な言葉遣いで言いながら、命令口調。それに「召致の命」って?
「いったいどういう事ですか?」
「来れば分かる。」
取り次ぐ暇も無い。朝食も食べてないのでマイアやエルもご機嫌斜めだ。もしやミーバ王国絡みか?それとも昨日のリンクサーペント絡みか?流れ的にリンクサーペントっぽいが…。
脅威について詳しく聞きたい、もしくはリンクサーペントの素材についてだろうな。ほんと面倒臭い。特に権力を嵩に物事を推し進めようとするのは気に食わない。
しかし…ギルドから情報が漏れた?でも脅威について領主に話をするのは当り前か。しかしどうしようかな。とりあえず、とぼけるか。
「理由も答えて貰えず、召致と言われても。それにこちらは「カララン男爵」様の領民ではありません。ただの冒険者です、ご用があればギルドを通して頂くのが筋かと思いますが?
それに召致の命と言いながら召致の書面も提示されておりませんし、拘束力はありませんよね。」
なんとか正論に見せかけた屁理屈で乗り切れるか?
「えぇい!貴公等は素直に言う事を聞いておれば良いのだ。領主であるカララン男爵に楯突くつもりか!」
話にならん。どうしたものかと考えていると、入口からギルド長と受付の職員が宿の店主と共に入ってきた。どうやら宿の店主が機転を利かせてくれたようだ。
「いったい何の騒ぎですか?そちらはカララン領の護衛騎士団とお見受けしますが?」
「如何にも。この度、カララン男爵よりこちらのユウ タグチならびに2名の召致の命が下され、迎えに参った。」
「それにしては物騒な物腰でしたな。如何なる理由で?犯罪の関連があるならともかく、こちらのユウ タグチさんが先ほど言った通り、カララン領の領民ではない、冒険者の皆さまです。如何なる理由かも分からずに召致するなど冒険者の権利を蔑ろにし過ぎる。ここはギルドの法を優先し、まずはギルドを通してからにしていただきましょうか。」
基本的に冒険者ギルドは中立の立場。権力に流されない立場というのは、頼もしさを感じる。どこぞのギルドとは大違いだ。それに冒険者が期日のある依頼を受けていた場合もあるため、犯罪に関わる案件も含め、ギルドに話を通すのが通例だ。
ギルド長の有無を言わさぬ物言いに、さすがの騎士たちもこのままではマズいと思ったのか、
「正式にギルドを通して召致する。待っておれ。」
と捨て台詞を残して帰って行った。
「間にあって良かった。」とギルド長が険しい表情から、安堵の表情に変わる。
「宿の店主。呼びに行ってくれてありがとう。助かったよ。」
「なぁに。俺らはここの領民だが、あの領主の男爵様は正直、好きじゃねぇ。」
相当嫌われているのか?何にしても、面倒臭いのに目を付けられた。
「ユウ タグチさま。一度ギルドへお越しいただいても宜しいでしょうか?朝食がまだでしたらギルドにてお出ししますので。」
領主の事もあるし、行った方が良いか。
「分かりました。」俺達はギルドへと向かう。
「この度はご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。
今回のリンクサーペントの件、本当に脅威が過ぎ去ったのかを確認する必要があると判断し、領主に村での経緯と偵察部隊の要請をお願いしたのですが、…どうもカララン男爵はリンクサーペントに興味を持ったようでして。ユウさまの素性を詳しく聞いてきたようです。
話が見えてきた。俺はギルドではただのEランク冒険者。それが伝説級の魔物の素材を討伐ではなく、棚ぼたで得ていたとしたら?
…難癖をつけて徴収するって感じか。
「【鑑定】した職員も正直に素材の価値を言ってしまったようでして。」
まあ聞かれれば普通に答えるよな。それは良いとして
「ちなみに討伐していない魔物の素材を入手した場合、誰のものとなりますか?」
「基本的には、入手された方のものになります。盗賊などから得たもので、持ち主が明らかであっても所有権はその方にあるのが良い例ですね。」
「例外は?」
「…盗んだ者が所有を主張し、それが明らかに認められない場合。盗んだ者には当然、所有権などありませんから。」
「なるほど。それで今回のリンクサーペントの場合は?」
「もちろんユウ タグチさんに所有権がありますね。ただし、領主がどんな手を使って来るか分かりません。」
「領主とかがちょっかい出してきたら?」
「…一応、貴族ですからね。正面から争うのは得策とは思えません。仮に対抗するだけの力をお持ちだとするならば、別ですが。」
「分かった。ちなみに鑑定に貸した魔石とウロコは?」
「ここに。」とバレーボールほどの大きさの魔石と3枚のウロコを差し出してくる。
「てっきり領主に盗られたかと思ったが。」
「そこまでドジでは無いですよ。それより、この町にいつまでも居る様なら領主が何かを仕掛けてくるかも知れません。早めに領外へ出た方が良いかも知れませんね。」
ギルド長の勧めで、とりあえず町を出ることにする。騎士団の男に「待っておれ」と言われたがギルド長自身が街を出るように言ったのだ。問題ないだろう。
急いで行くのも、なんか負けたような気がするので堂々といつも通りに。
そして、カララン男爵率いる護衛騎士団御一行様と鉢合わせとなる(棒)
「どこへ行くつもりだ。」
「ここは行く先を言わなきゃ余所へも行かせてくれない法律でもあるのか?」
ここはいつも通り煽って行こう。
「そんな話をしているのではない!先ほど「待っておれ」と言ったであろう!貴公等は領主であるカララン男爵領の所有物を横領した嫌疑が掛かっておるのだ。」
「へぇ。それは知らなかった。して、何の横領だ?証拠はあるのか?」
「我らが領主、カララン男爵の家宝であるその馬車とリンクサーペントの素材だ!」
この馬車も狙ってきたか。考えたな。ゴーレム馬2頭にいかにも揺れの少ない馬車だからな。Eランクの冒険者が持つには不相応と言われたらその通りだからな。しかし…もう少し煽るか。
「この馬車が?何を証拠に?カララン男爵の家宝と言うのならば何か証明できる証があるのですか?」
「小賢しい貴公等の事だ。証拠につながるような家章など取り外しておるのだろう?だがな、リンクサーペントの素材は大きい。そこの馬車の荷台に入っておるのだろう。扉を開ければすぐに分かることだ。」
外見は装飾など外せばどうとでもなるみたいなこと言ってるけど、仮にも「家宝」って言うくらいなら、もう少しひねりを利かせてくれても良いのに。
「じゃあこの馬車の特徴など、他の誰も知り得ないことでも言えるのか?そもそも盗られたリンクサーペントの素材ってどんなのだ?家宝と云うからには目録があるんだろ?全部言ってみろ。どんな色・形状・大きさ・数・種類全て言えるものならな!」
言えるワケないから、顔を真っ赤にしてワケの分からん事を言い始めたな。全く話にならん。と思っていたら、でっぷりした男、カララン男爵が前に出てきた。
「なかなか弁が立つじゃないか。」
「そこのお偉いさんよりは高等な教育を受けてるからな(笑)」
護衛騎士団の男が怒り心頭で抜剣しそうになるも、カララン男爵が手で横に出し抑える。
「こちらもグダグダと論じるつもりは無い。ここは私の領土だ。貴公等はリンクサーペントを討伐したのではなく、たまたま居合わせて、素材を入手したと聞く。
であれば、その素材は我が領土の財産だ。貴公等が手にすることもそうだが、領土外へ持ち出すことは即ち、損失である。領主として見過ごすワケにもいかん。
素直に差し出せ。ついでにそこの馬と馬車、横にいる女・妖精族のチビと珍しい魔物も一緒に差し出せば命は助けても良い。せいぜい女どもは可愛がってやるから心配はいらんぞ。」
ようは全て献上しろと。俺はともかく、ユミンやマイア・エルにまで手を出そうとするのか。フザケンナヨ。ドウシテクレヨウカ…
俺はどす黒い感情が渦巻き、無表情となってカララン男爵一行を見つめるが、それを権力に屈したと勘違いして、気分良く饒舌に喋り出す。
「ヒトにはそれぞれ相応の持ち物というモノがある。貴公はそれだけの持ち物は不相応というものだ。しかし貴公は運が良いぞ。何故なら我がカララン家が居ったからだ。貴公の持ち物・随伴の者、全てが手で・・・」
「…さい!」
話に夢中で俺の言葉が耳に入らなかったのか。それとも貴族である自分の話を中断させたことが気に障ったのか。
「…今、何と言った?」
気分を害したようだ。だが、気分良く喋っていたのだろうが俺には関係無い。
「うるさいと言ったのが理解できなかったか?難癖ばかり言いやがって。お前らの道理をこっちが受け入れるワケねぇだろ。これ以上、グダグダぬかすんじゃねぇ!」
俺は感情に任せ、身体から魔力が溢れ出す。放出された濃密な魔力は、護衛騎士団まで及んで誰もが身じろぎ一つ出来ない。
「…で、誰が俺の仲間を可愛がるって?」
一歩一歩カララン男爵に近づく。男爵は眼を見開き、呼吸も儘ならない状態で俺を見つめている。
「…そう言えば、お前。『横領』とか言ってたな」
護衛騎士団の偉そうな奴に向き合い、静かに言葉を並べる。
「実力も測れない、その程度のレベルの分際で偉そうに色々言ってくれたが、そんなんで勤まる護衛団なんて必要あると思うか?」
剣を抜きゆっくりと鎧を撫でて行く。撫でたところは【空間魔法】の空間断裂が起こり、鎧が音もなく裂かれ、地面に落ちて行く。上半身が露わになった段階で
「必要無いなら、こんな武具も必要ないよな。ついでに手足もいらないか?」
ゆっくりと護衛団の面々を見回してからゆっくりと剣の腹でペチペチ頬を叩いてみる。気絶することも出来ない状態では、さぞ恐怖だろう。
少しだけ魔力を弱め、カララン男爵を見る。
「俺が横領だの、リンクサーペントの素材を横取りしたようなこと言ってたが…、改めて聞く。あれは誰のモノだ?」
魔力を弱めたおかげでしゃべることが出来るようになった男爵は
「私が悪かった!全て貴公の物だ。許してくれ!」
当たり前だとばかりに、俺は満足そうに頷き・・・
カララン男爵以外の首を刎ねた。
「じゃあ、俺のモノを盗ろうとした盗賊と一緒だ。しかも俺の仲間にまで手を出そうとする極悪人。殺しても賞罰には問題ないな。
いきなり領主が居なくなるのは問題あるかも知れんが、俺には関係無いし。仲間にまで手を出そうとする奴には、殺しも厭わない。
…あぁ。何で今まで殺しに躊躇していたんだろう?
仲間の為になら、ここまで嫌っていた『殺し』さえも躊躇しないなんて。
あぁ、悪い。只の独り言だ。お前には関係無い。死に逝くお前にはな。俺の仲間に手を出そうとした事を悔やみながら逝け。」
剣を振ることさえ億劫な態度で、男爵の首を空間断裂させ飛ばす。辺り一面が血の海と化し、凄惨な場面となるも一瞬にして血の海も、首なしの死体も消えた。
もっとも、転移で領主の館へ強制転移させたため、後日問題となるのだがそれは別の話。
「お疲れさまでした。」
「因果応報。」
「みゃん!」
2人の1匹が俺を労うかのように応えてくれる。
「感情的になり過ぎたか?」
「いえ、むしろ私どものために忌避していた『殺し』までも厭わない姿に、感銘致しました。」
段々と、こちらの命の軽い世界に順応してきたのだろうか?
ただ、力に溺れないようにしなくちゃな。
「さて、そろそろ行くか。」
何事も無かったように、御者の席に座りタバコを吹かしながら『深淵の森』を目指し馬車を走らせた。
お読みいただきありがとうございます。