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利己の風【改訂版】  作者: メイシン
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第17話 心に刻んだ言葉と名もなき迷宮




名も無き迷宮5層目。


 あれから俺とユミンはレベル上げと戦闘の連携を確かめるため、夜になると名も無い迷宮に挑んでいた。

初っ端、ユミンのスキル【身体魔力融合】によってゴブリンが爆散(・・)したが、制御が難しい(魔力の分配がしにくい)らしく、必要以上の魔力を融合させてしまうため、しばらく封印してもらう事にした。なんせ、【身体魔力融合】を使うたびに敵は爆散するし、壁にめり込むわ(その度にお尻フリフリ揺れるのがけしからん。もっとやれー!(笑))連携もあったもんじゃないから。

 その後は、ユミンの近接戦闘をメインに俺が後衛・中衛、ともに前衛で戦いつつ互いの間合いを確かめながら進んだ。


「今日はこの辺で戻ろうか。」


「はい!」


敵が定期的に表れる迷宮は、ユミンにとっても俺にとっても、連携を確かめたり複数の敵と戦うにも経験値を積むには丁度良い。しかし安全面のマージンは確保しておきたい。今はまだ、リスクを背負い込むのは必要ないのだから。




馬車に戻って2人は、汗ばんだ身体を風呂でさっぱりさせようと、マイ・ルームの脱衣所で風呂に入るため服を脱いでいた。


「…で、なんでユミンも一緒に服脱いでるんだ?」


「奴隷…いえ、従者ですから!ユウ様のお背中流します!」


「いや、色々問題あるだろう。」


「大丈夫です!」


「何がだ!」


「だって私貞操帯してますし、大事なところは隠れていますから///」


 ユミンは奴隷時代、貞操帯をしていたため身を穢されることも無かったようだが、9年以上も着けっぱなしってのもなぁ…


「ちなみに、その貞操帯って外せないのか?」


「外せますよ?この貞操帯は私の魔力で解錠設定されてますので。…ほら。」


ガシャンと音が鳴り、貞操帯が外れ床に落ちた。


「最も、1度外したら再度付けるには専用の魔道具が必要なんですけど、盗賊に捕まった際に紛失してしまって、もう装着することは出来ないんですよね。」


下半身を露にしながら、語るユミン。気づいてないのか?


「今外す意味あったのか?…ってか、下半身丸出しで…色々台無しだ。」


「はっ?! 申し訳ありません!!」


と裸で土下座するユミン。なんか俺が悪いみたいな雰囲気じゃん・・・






 風呂にゆっくりと浸かり「ふぅ~♪」と一息つく。左隣にはユミンがいる。

土下座を止めるように言ったら一緒に入るまでは止めないと頑なに拒んだからだ。

 まだ理性は保っていられるから良いんだけどさ。…身体はしっかりと反応してしまいますが。健全な22歳の身体だもん。仕方がないよね!




「ユウ様の左肩は…魔術用語が描かれているのですか?」


ユミンは、俺の左肩から背中にかけて書かれている、文字のタトゥーを指でなぞりながら聞いてくる。ユミンは魔紋と勘違いしているようだが


「これか?これは昔の彼女さんの口癖を彫ったタトゥーだよ。俺の居た世界では、昔風に刺青(いれずみ)とも言うけど。」


「何と描かれているのですか?」


「However , I`m just keep quiet since become bitches speaking

 (ただ、黙ってるだけなんだよ、言えば愚痴になるから)」


「…彼女さんの言葉ですか。大事にされてるんですね。少し妬けてしまいます。…それで、その彼女さんはあちらの世界に?」


「いや、ここにいる。」


 と今度は右胸の、拝むような女性のタトゥーを触る。地球にいた頃は、ファッションとしても徐々に認知されてきたタトゥーだが、20年以上前の父が倒れる前に彫ったタトゥーは、心に刻むだけでは足りない『想い』を紡ぐ決意の表れだった。


「いきなりだったんだけどな。」


 と重い口を開きゆっくりと切り出す。「田口 裕」と付き合っていた女性「井上 りん」は、それほど身体の丈夫な人ではなかったが、両親の事業の失敗で借金のあった彼女は、昼は事務で働き、夜はキャバクラで飲めないお酒と客を相手に、睡眠も削り休みなく働いた。

 両親のために自分の時間を削り、遊びたい盛りに働かなければならない。それでも両親には愚痴一つ洩らさずに頑張っている女性だった。

 そんな彼女が寂しく笑いながら、田口 裕に漏らす唯一の言葉が


「However , I`m just keep quiet since become bitches speaking

(ただ、黙ってるだけなんだよ、言えば愚痴になるから)」


その彼女も今は傍にいない。決して、地球に残してきたワケでなない。


 それは一通のメールだった。それも本人からではなく、彼女の友人からの。





『To:いきなりごめんね。


驚かないでね。


りんがね、会社の帰りに、

トラックに轢かれて病院に運ばれたんだけど、

間に合わなかったって。

「ユウちゃん家で待ってるから」

って会社出る前、楽しそうにしてたんだけどね。


私もさっき着いたところ。

包帯ぐるぐるで、りんじゃないみたい。

こんな姿ユウちゃんには見られたくないだろうな。


お医者さんがね、最後の最後まで


「ユウちゃんごめんね。

お父さんお母さんごめんね。」


って言ってたって。

りんが運ばれた病院は

****病院だよ。』





 それからは、どうやって病院に行ったかも覚えてない。病室に着いた時、りんの左手の指輪の輝きだけが、やけに印象的だった。


 両親のために頑張っていたりんが、なぜ死ななくてはならなかったのだろう。

トラックを運転していた加害者を殺そうとも思った。

 当時、交通刑務所にたった2年の刑期で済まされたことにも、怒りを覚えた。

法治国家であるために、法律で裁かれる以外何もできない。

殺意を持っても実行できないもどかしさ。


色んな想いが田口 裕の心を蝕んだ。

失ったりんはもう生き返らない。

そして想いは時間と共に風化していく。怒りも悲しみも…


いくら心に刻み込んでも。


だから胸に、左肩に一生消えることのない『証』を刻んだ。





「特別な方だったのですね。」


「そうだな、20年経っても。あれだけ取り乱したの、りんと母親の2人だけだよ。」


「…私には、その方の代わりは出来ませんが、隣に立つことを許していただけますか?」


俺はその言葉には答えず、軽くユミンの頭を撫でた。


「こんな状況なのにしんみりとさせてしまったな。のぼせないうちに上がろう。」


そう言って俺は風呂から上がった。







「あれがミーバ共和国の首都かぁ」


 砦から2週間ほどでミーバ共和国の首都「グランカナ」へと着いた。首都を含め、様々な種族が街にいて、ミルド王国とは違う印象が強い。最も、イフェルナ教も迷宮近くに教会を建て、回復役として助っ人をする教徒や、怪我をした冒険者相手に(高いお金を取って)治療を行っているらしい。まぁ関わらなければ問題ないか。

 首都の門を潜りメルビー達と俺達は、一度ワークド子爵の別宅へと移動する。玲子達は冒険者学校に入学までワークド家でお世話になるそうだ。俺は盗賊の討伐の後の、武具の代金を受け取りに。


 ワークド家の本宅は自身の収める地域にあるのだが、首都でも仕事が多いらしく別宅を持っているようだ。たまたま子爵も仕事で首都に来ていたらしく、盗賊での一件で首都に戻ることになったメルビーの報告を聞き、俺に対して大層感謝をして相場よりも多めの金貨を渡してくれた。

 俺とユミンも、好きなだけ泊まってくれて良いと言ってくれたが、丁重に辞退し子爵家を後にした。


「ユウさま、この後はどうなさいます?」


「…そうだな。マイ・ルームもあるし宿に泊まる意味も無い。玲子達も預けたことだし、先に迷宮を踏破しちゃうか?」






名も無き迷宮8層


ミーバの首都を離れ、迷宮を戻ってきた2人は探索を続け、下層へ通じる階段の前までやってきた。


「どうやら次の9層へと通じる階段みたいだ。一旦ここで休憩かな。」


「私はまだ大丈夫ですよ!」


そりゃ半分人間辞めてるユミンは疲れも無いかも知れないが俺が疲れるんだよ!

俺は階段前の広い空間の一角に空間を固定してからマイ・ルームの扉を展開する。中へ入り、休憩する。

 ユミンがキッチンから飲み物を入れ、持ってきてくれた。


「ありがとう。」


ユミンも対面のソファーに座り、先ほどまでの戦闘を振り返る様に


「段々、敵も強くなってきましたね。今の状態でも戦えはしますが2人ですと、何かと手が回らなくなってきました。やっぱり数が多いのは脅威です。」


「洞窟の中だからデカイ魔法も使いづらいし、やっぱ2人だと難しいかなぁ」


純粋にスペック的には【索敵】もあるから斥候もいらないし2人とも近・中・遠とマルチにこなせるが、物量で攻められると、戦いに慣れていない2人には少し荷が重かった。結局は経験だと。

 ヤバくなったら転移で逃げれば良いしと経験を優先することにする。






名も無き迷宮9層目


「はあぁぁっ!」


両手で握った剣を左から袈裟切りにすると、最後の魔物を切り伏せる。ブラックハウンドと呼ばれる狼のような魔物は壁や天井を蹴りながらの多角攻撃が厄介だった。縦横無尽に素早く駆け回る攻撃、2人の死角を攻める執拗さに、疲れを感じていた。


「油断してるつもりはないけど、敵も連携して攻めてくるから中々厳しいな。」


「どうしても剣の間合いの関係上、あまり傍にも寄れない隙間を攻められますね。」


「一度攻め込まれると防戦一方になるから悪循環だ。力のゴリ押しでも何とかなるのはここまでだな。」


「ここからは技術と経験が必要ってことですね。」


2人のステータスは以下の通り。


■名前 :ユミン(19歳)

■レベル:15

■状態 :ヒト族?(魔力身体) 健康

■体力 :130/260

■疲労度:67/100

■力  :290/290

■敏捷性:400/423

■魔力 :499000/591000


■スキル:

計算

料理

短剣術

熱魔法

主従の誓い


■固有(血統)スキル

反射速度・高速思考強化

身体魔力融合

本質への理



 ちなみに俺のステータスは



■名前 :田口 裕(22歳)

■レベル:29

■状態 :ヒト族 健康

■体力 :272/430

■疲労度:54/100

■力  :390/490

■敏捷性:531/552

■魔力 :――――――


■スキル:

身体強化

解析

索敵

■固有(血統)スキル

反射速度強化・高速思考

時空魔法

創造具現化

アカシックレコード・アクセス



ユミンは【短剣術】スキルを取得していた。レベルも相応に上がり、順調と言えば順調だ。

単にレベルを上げるだけなら空間魔法で首チョンパすれば良いので簡単なんだが、それでは連携も意味がないし、俺のためにもユミンのためにもならない。そもそもレベルだけ上がっても身体のスペックに着いていけなくなる。やっぱり地道に上げるのが一番だ。

 しかし迷宮での戦いは、時間の感覚がマヒしてくる。やっぱり太陽がないと身体の感覚も鈍ってくるのかも知れない。


「10層の入り口まで行ったら今日は休もう。」とユミンに声を掛け、もうひと踏ん張りしようと思う。

とここで、大型の人型の魔物が2体現れた。この階層では狼系が多かったため、少し新鮮味がある。


「まずは俺から攻める。ユミンは後ろの魔物をけん制しながら邪魔しないようにしてくれ。」


「はい!」


俺はこの階層に来て、初めて【身体強化】を行う。連携もそうだが素の身体能力の向上が俺の課題だったからだ。しかし大型の魔物は体格通りなら力も強いだろう。死んでは意味も無いので、スキルに慣れる訓練に切り替える。


大型の魔物はオーガの亜種。

手には大剣。小枝のように片手で振り回しながら近づく姿は、大剣の振り回す音もスゴく『恐怖』しか覚えない。


「いくら身体スペックが高くても動体視力や反射速度・高速思考が高くなきゃ一瞬でヤラれちゃう、ぞと!」


大剣を振るうオーガの間合いは広い。定番の末端から攻めるとしよう。危険を冒して懐に入る必要は無い。大剣を握る手の甲や身体の末端部分を中心に攻め込む。

 チクチク攻める攻撃にオーガも嫌がり、大振りで俺を引き離そうとする。「チャンス!」

大剣をしゃがむように避けた後、勇気を出して一歩踏み込むと、振りぬいてスキの出来たオーガの左脇を差し込むように剣を突き出す!


「グウォオオオオ!」


隣ではユミンがもう1体のオーガの周りを邪魔するように剣を避け、無理をしない戦い方をしている。このままでもしばらくは大丈夫そうだ。

オーガは痛みに苦しみながら、剣を頭上に振り上げ勢いよく振り下ろすも、俺は身体を横にズラして大剣を避けると、握り手の指を剣で切りつける。親指を切り落とした!

オーガは大剣落とし、左手で取ろうと屈みこんだ時、やっと俺の剣にオーガの頭が手に届く距離に来た。


「しっ!」


俺は剣で振り抜き、オーガの首の首が宙を舞った。さて、残りの1体だ。ユミンがオーガに攻撃が集中しないよう左右に分かれ、俺が武器を封じている隙にユミンが手首の内側や皮膚の弱いところを確実に傷つけ、出血を増やしていく。ここら辺は人間と同じ弱点なんだろうか?俺が剣を搔い潜りながら膝裏を切りつけるとオーガは地面へ膝をつき、頭が下がったところでユミンの短剣が、オーガの首筋を刺した。


「油断するな!まだ死んてないぞ!」


首筋に短剣を深々と刺されているオーガだが、大剣をユミンに投げつける。ユミンも分かっていたようで壁を蹴り三角跳びの要領でオーガの頭上に躍り出ると、もう一つの短剣はオーガの頭頂部に吸い込まれるように刺さって行った。しかもご丁寧に刺さったままの短剣を左足で踏み、寄り深く刺し込んでいた。


「何とか、倒せたな。」


「複数の魔物も脅威ですが単純に力のある魔物も、こちらの攻撃が効かないので怖いですね。」


「闘っている間に増援が来たら結構危ないかもな。それにしても、1人で良く凌いだな。」


とユミンを褒める。単体ならば、ユミンもオーガを倒せる技量はあるが敢えて無茶をせず、俺のサポートに徹してくれるのは有難い。


さて、【索敵】だともうすぐ次の階層の階段が近い。10層を拝んでから今日は休むとしよう。

俺とユミンはゆっくりと階段に向かい、最下層の10層を目指した。






階段を下りている最中【索敵】には魔物の気配は無い。普通ガーディアンみたいなダンジョンの主とか居そうなものだが…

 階段を降り切ると、それほど広くない空間だ。そして俺とユミンが異常な光景に目を奪われる。











そこには、部屋の中心にあるダンジョンコアと思われる大きな魔水晶の中、胎児のように膝を抱えた女性の姿があった。







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