第14話 決着とやりすぎ
やっとメインヒロインの登場です♪
老婆が突き立てた剣により、奴隷の主である盗賊は一瞬にして命を刈られた。
しかし契約主を殺害したことにより、老婆の【隷属の首輪】の契約が発動し、老婆の命をうばおうとし始める。
「なんでこんなことを…」
「…だって貴方様は、…殺せないのでしょう?」
と息絶え絶え言葉にすると、限界だったのか倒れ込む。俺は【隷属の首輪】を【高速思考】を使いながら【解析】で展開させ、一か八か【隷属の首輪】を魔力で覆いながら【短距離転移】で移動させた。
転移した【隷属の首輪】は魔力を禍々しくうねりながら、『ピキッ』と音をたてて壊れて地面に落ちた。…老婆は浅く息をしている。どうやら成功したようだ。
気を失った老婆を抱え、他の【隷属の首輪】をしている女性達が、奴隷紋が発動していないことを確認すると、女性達1人1人に布を渡し、「【隷属の首輪】を外す」と言い、後ろに回って女性達に見えないように転移させ首輪を外した。
◇
老婆を背負い、女性達を連れて牢屋の所に戻ると、縛り付けていた見張りの男達は死んでいた。気持ちは分かるが殺してしまうとは…。
「盗賊達は無力化した。とりあえず外に出よう。」
全員を伴って外に出ると、最初に助けた男2人が馬車の傍から飛び出してきて、片膝をつく。どうやらまだ馬車の中身は運び出されていなかったようで、着替えはあったようだ。
「お嬢様方、ご無事で何より。そこの御仁も、お嬢様を助けていただき感謝する。」
「お嬢様方、とりあえずお着替えを」
と挨拶を簡単にし、馬車の中へ連れて行く。お伴の4人ほどの女性が一緒に馬車の中へ入って行った。残りの2グループと気を失った老婆の8人は、馬車も無いので仕方がなく俺の馬車へ。馬車を遠隔操作で呼ぶとすぐにこちらにやってきた。
気を失った老婆をソファに寝かせ、残りの女性達を招きいれようと振り向くと、外から馬車の中をみて唖然としていた。空間拡張してるの忘れてた。
とりあえず、魔道具と説明しながら無理やり呼び入れ、玲子達に簡単な事情を話し、温かい飲み物を出すように伝えると、ついでに簡単なワンピースを人数分作成し手渡す。
捕まっていた女性達は埃にまみれ、かなり汚れているようだったから(もっともマイ・ルームに入った時点でクリーンの魔法が掛かっているのだが)馬車の室内に別室を作りお風呂を作成すると、一息つけたらお風呂に入るよう玲子達に伝える。
外に出て馬車を洞窟の入口まで移動すると、助けた男達に見つからないように檻の形をした馬車を洞窟の中側に【創造具現化】で作り出すと、無力化した盗賊達を檻の中へ転移させる。自害されるのもイヤなので時間は掛かるが口を開かせ、1人1人に猿ぐつわをはめる。
そして【索敵】で再度、洞窟内を探索して盗賊達の奪ってきたであろうお宝の置いてある小部屋に入る。かなりの量の武具や金貨などの入った袋・食糧を見つけ、大八車を部屋の外に作成して転移で積み込む。
かなりの重さだったがなんとか【身体強化】で運び、檻の馬車の後ろに連結すると、前に回り、馬車を少し前へ移動すると、ちょうど着替え終わったのか、馬車で着替えていたお嬢様達が挨拶に来た。
「改めて礼を言わせていただきますわ。私はミーバ共和国、ワークド子爵が娘、メルビー・ワークドと申します。この度はありがとうございました。」
と助けられた面々が挨拶をしていく。俺達も同じように挨拶を交わす。
「それで相談なのですが…」
メルビーが代表して話を切り出す。どうやら奪われた護衛達の武具を返却、いや買い取りしたいらしい。
「それは構わないのですが…、その前にお聞きしても?」
と俺は牢屋での一件の話す。見張り2人をなぜ殺したのか?それと誰が指示したのかを。
すると護衛の女性の内1人がさも当然といった感じで答えた。
「お嬢様を危険に合わせた者を生かしておけるものか!当然の報いだ。」
語気荒く言い放っているが、どうやら自分の置かれていた立場が分かっていなかったようだ。ま、気持ちは分かるんだけど。でもここで心情を汲むのは別問題だ。
「…その理屈だと、役立たずの護衛もお嬢様とやらを危険に合わせたんだから、殺しても構わないってことか。」
と侮蔑の眼差しを向ける。護衛の女性は顔を真っ赤にして反論しようとするが機先を制して
「俺は見張ってろって言ったよな?お嬢様を危険に合わせた役立たずの護衛さんよ?」
と有無を言わせず護衛を黙らせ、お嬢様に向き条件を出す。
「武具をお渡しするのは構いませんが、相場が分からないので。それに盗賊達は生きていれば奴隷として売ることも出来ましたが殺されてしまったので、その分も上乗せしていただければ構いませんよ。」
と言っておく。護衛はともかく、このお嬢様には恨みも無いしな。とりあえず目録だけ作り、後日支払うこととなった。
馬車に乗せたお嬢様一行以外の8人は、商人のグループや攫われた女性達だったらしく、盗賊の移送のついでに町へ送って行くことになった。ワークド子爵のお嬢様達も護衛が何人も殺され、ミルドの王都へ行くには難しいと断念したそうだ。
行き先もミーバ共和国と同じのため、何故か付いてくることに。俺達を護衛代わりにしてるのバレバレなんだけど…。
一番近くの村は少し方向がズレるが半日ほどで着くが、ギルドや奴隷を引き取るところがないため、2日ほど馬車で行ったところにある町に向けて移動を始めることにした。
進む方向が、一番近くの村でないのが分かったのか、見張りを殺した護衛が近くの村に行かないことに文句を言ってきた。
「おい!何故一番近い村へ向かわない?とりあえずお嬢様には休息が必要だ。それに村に着いたらワークド様に事の次第を、伝聞をすぐにでも出さなければならんのだ。」
やっぱりバカだな、こいつら。貴族様っていうのは自分たちの都合しか考えられないのだろうか?まぁ環境がそうさせたんだろうけど、はっきり言うしかないか。
「何を勘違いしているんだ?俺たちはあんたらの護衛をしてるわけではない。あんたらが勝手に付いてきてるだから文句を言われる筋合いは無いと思うんだが?」
「…」
どうやら己の立場が理解できたようだ。渋々自分の馬車に戻って行った。
日も暮れてきたので、馬車を停めて野営の準備をする。人数がいきなり増えたから食事の準備も大変だ。野外用のテーブルと人数分のイスを(お嬢様達に見えないように)取り出し。設営の準備をしていく。
まずは余っているカゥカゥというどう見ても牛にしか見えない動物の肉を、少し小さめに切り炒めた後、寸胴鍋に移した後、続いて炒めた人参や玉ねぎなどの野菜を一緒に投入していく。グツグツと煮立ってきたらアクを取り、ジャガイモの様な食感の根菜を入れ、10分ほど煮込んだら【創造具現化】で作りだしたカレーのルーを入れ、少し甘めのカレーもどきを作ると、パンを添えて女性陣を呼ぶ。
捕らわれていた女性達も落ち着いてきたのか、馬車から出てきた8人は馴染みの無い匂いに興味津々のようだ。玲子たち3人は地球に居た頃に食べた故郷の香りに、早くも食べたそうにスプーンを持って待ち構えている。玲子に気を失った老婆は?と尋ねると、まだ意識も戻らず、横になっているとのこと。後で様子を見に行かないとな。
「これは俺達の故郷の料理でカレーと言う。食べ慣れない味だと思うから、無理するなよ。」
初めて口にする料理に女性達は「辛い!?」「でも癖になる味です!」と元気に食べている。すると同じように近くで野営の準備をしていたお嬢様達一行が、こちらを羨ましそうに見つめている。匂いがあちらまで届いて何とも可哀そうになってきた。
通常こちらの世界では、野営をする際の食事は干し肉や乾燥野菜を軽く煮込んだスープ位が普通らしい。日持ちして嵩張らず、軽くした携帯食料にするのは当たり前と言えば当たり前。
あまりにも物欲しそうな顔をしていたので、玲子達におすそ分けしてあげるように声を掛けさせると、とても喜んでいた。
そして俺は気を失ったままの老婆の元へ行く。特に異常もなく、ただ眠っているだけのようだ。やがてタイミングを見計らったように老婆が目を覚ました。
「目が覚めたか?どこか身体の違和感があったら教えてくれ。」
「私は…」と首に手を当てる。首輪が無い事に気づいたようだ。
「勝手にだが【隷属の首輪】は外させてもらった。それと礼を言う。俺の代わりに盗賊を殺してくれて。」
老婆はいきなりソファから降り床に正座をしながら
「こちらこそありがとうございます!その上、死ぬところだった【隷属の首輪】を外して、助けてくれたんですよね?」
「首輪が発動する寸前だったから、時間が無くてかなり強引な外し方をしたから心配していたんだが、どうやら大丈夫そうだな。でも無茶はあんまりしないでくれよ。心臓に悪い。」
いくら俺が躊躇していたとはいえ、自分の命と引き換えに他の【隷属の首輪】をしていた女性を助けると云うのは、個人的に好きではない。
「申し訳ありませんでした。ご主人様が躊躇されてたものですから思わず…」
「ちょっと待て。今、何と?言った??」
「…?」
老婆は可愛らしく首を傾げる。
「ご主人さまって何だ?」
「…あぁ!それは前の主が亡くなったからです。【隷属の首輪】は外れましたが、貴方様が私のご主人様となります。」
「ちょっと待て。もう【隷属の首輪】は外れているんだぞ?だからお前はもう奴隷ではない。自由の身なんだよ。」
「私にはもう、帰る場所もありません。幼き頃に攫われて何年も盗賊の奴隷として生きてきました。」
と老婆は身の上を話し始めた。老婆は名前をユミンと言い、年齢は19歳だと言う。老婆だなんて失礼なことを思ってしまった。【解析】で詳しく見てなかったので改めて見てみると、本当に19歳だった。
おそらく、ロクな食べ物を食べさせてもらって無かったのだろう。栄養不足と精神的な不安定の状態で成長が妨げられ、肌もボロボロの老婆にしか見えない身体になっていた。それに白髪だと思っていたが、どうやら銀髪だったようだ。汚れててボサボサだったから白髪にしか見えなかったのも勘違いの原因か。
ユミンは商人の娘で、10歳のころに一家を殺された。ユミンは貞操帯をしていたため奴隷としても価値が低く、家族も皆殺しにされたため身代金も要求できず、そのまま殺されそうになったが、商人の娘だけあって読み書き・計算も出来、使い勝手が良かったのか、今まで殺されずに生きてこられた。
しかし、このまま自由だと言われても、何の伝手も無いユミンにとっては、この世界を1人で生きていくのはまず無理だ。
しかも栄養失調の状態で年を重ね、精神的にも苛酷な労働条件で育ったためか、骨も何回も折られ、歪んだ形でくっついていたりした、どこを見てもボロボロな身体は、もはや通常の手段では正常な身体に戻すことは難しいだろう。田口は1つの決断をする。
「ユミン。俺と一緒に旅をするには、その身体では難しいと思う。」
ユミンは俺とは一緒に居られないと言われ、涙をぽろぽろと流しながら懇願してくる。
「何でも致します。ですから捨てないで下さい!」
「…どうしても一緒に居たいと言うのならば、その身体を何とかしなければならない。1つだけ手段はあるが、正直俺にもどうなるか分からない方法だ。それでも構わないか?」
「はい!元々この命は、あの洞窟で果てていたはずのもの。ご主人様にお任せいたします!」
「それじゃ、最初に「ご主人様」と呼ぶのは止めてくれ。ご主人様って柄じゃないから。」
ユミンは嫌がったが何とか説得し、名前の候補を上げていく。結局、俺の名前の『ユウ』に様を付けることで落ち着いた。
「それでは、俺のスキルをお前に見せることになるが他言は無用。決して俺のスキルを口外しないと誓ってくれ。」
「もちろんです!」
「それでは、始めるぞ。」
俺は、ユミンを正面に立たせ【時空魔法】を発動する。ユミンの身体は徐々に10歳の頃まで時を遡って行く。ユミンの身体は段々と痩せ細った歪な身体ではなく、少女特有の体形にまで戻ってきた。
「さあここからだ。」
今度はユミンの魔力の波長に合わせ違和感が無いように身体を包み込み【時空魔法】で今度は元の19歳にまで、時間を戻していく。そのまま時を進行させたら栄養も無く、すぐにミイラ化してしまうので、その際に成長で必要なものを魔力で補いながらゆっくりと、本来19歳のユミンに向けて成長を促進させる。体感的にはかなり時間を掛けたつもりだったが、実際にはそれほどでもなかったか?そしてユミンは本来の姿を取り戻した。
「終わったぞ。」と声を掛けると、ユミンはつぶっていた眼を開き、おずおずと、自分の手を見、視点の変わった背の伸びた周りの景色に驚いている。部屋に立てかけてある姿見まで連れて行き改めてその姿を見せると、涙を流し俺の前で土下座をして「ありがとうございます。ありがとうございます。」感謝してくる。
何とかユミンを立たせ、容姿をあらためて確認する。
身長は玲子と芽衣の間くらいであろうか?168cmほど。体形はワンピースを着ているので定かではないが、少し大きめの双丘はワンピースを押し上げ、自己主張をしている。
銀色の長く伸びた髪は白い肌に合い、切れ長の目と高めの鼻梁、薄い唇は地球に居た時でも見たことのない、モデル以上の造形。
しかし【解析】で見てみると少々マズいことになっていた。
■名前 :ユミン(19歳)
■レベル:3
■状態 :ヒト族?(魔力身体) 健康
■体力 :40/40
■疲労度:97/100
■力 :50/50
■敏捷性:198/198
■魔力 :398000/398000
■スキル:
計算
料理
物理攻撃耐性
主従の誓い
■固有(血統)スキル
反射速度・高速思考強化
身体魔力融合
…なんだよ、「魔力身体」って。人間ヤメちゃってるじゃん…
それに(他人のこと言えないけど)398000の魔力って(汗)
たぶん、成長に必要な要素を魔力で充填したからだろうなぁ・・・
「姿は、本来の姿に戻っただけだ。別に感謝することではない。」
「そんなことありません!これからユウ様と歩んで行ける身体にして頂けたのですから!」
重いよ、ユミン。
「それと、…その、申し訳ないんだが姿は、本来のユミンに戻ったのかも知れないが、…スペック的に、人間ヤメちゃってるわ。」
「…えっ?」
「・・・すまん。」
祝!人間卒業!!