第10話 お買物とギルド登録
何とか午前中に王都から一番近い町のバルンバルンに着いた4人は、通門料(銅貨2枚)を払い、町へ入る。どうやら王国での指名手配等はされていないようだ。
「問診とか身分証明の提示とか無いの?」
「お約束の「ようこそバルンバルンへ」は?」
「ここは王都側の門ですからね。それに同じ領内ですから。」
「王都に近いから関所としての役割はあんまり必要無いんだろうなぁ」
門に立つ衛兵と話していたが、響子は「お約束が…」とつぶやいていた。
ついでに手頃な値段の宿屋を聞き、4人は歩き始める。
通りの露天や店を冷やかしつつ宿に到着。
「いらっしゃい。泊まりかね?それとも食事かい?」
「1泊の泊まりで。4人なんですが部屋は空いていますか?それと食事もお願いしたい」
「ちょうど4人部屋が空いてるよ。1人銀貨5枚だ。食事は翌朝は無料。昼と夜は宿泊客は料金マイナス銅貨1枚で良いよ。昼は酒無しで銅貨5枚から。夜は銅貨10枚から。」
「分りました。荷物を整理したら食べに伺います。食事は適当に4人分で。」
と宿代銀貨5枚と食事代を多めの銅貨20枚を支払い、部屋へ。2階の階段を上がった右側の部屋だ(宿泊代は個人で出してもらった)
「ベッドと小さいテーブルしかないね。」
「マイ・ルームがあるから関係ないけどな。宿も確保したし、まずはご飯でも食べよう。」
ズタ袋の中身をアイテムストレージに入れ替え、空になった袋を持って1階に下りる。
宿主にご飯をお願いすると、すでに作っていたのか、香しい匂いがしている。
「早く適当に空いてる席に着きな!もう料理が出てくるぜ!」
とすでに両手に料理をもって出てくる家主。早すぎだろ!
料理はホロホロ鳥と野菜の肉炒めとコンソメ系のスープにパン。
「そろそろ固いパンにも慣れてきたわね。」
「でも食文化の違いは意外とストレスになるからね。お米の情報を手に入れたらぜひ買いに行きたいね。」
「作るのは俺だろうが」
「「「さーせんm(_ _)m」」」
食事も終わり、宿主に防具屋の場所を聞くと、なんと【冒険者ギルド】の隣の店舗とのこと。金稼ぎのためには冒険者も選択肢に入っていたため3人に聞くと
芽衣「舐められないように、ある程度装備を固めた方が良いですね。」
響子「お約束の「初心者イジメ」があるのかな♪」
玲子「どちらにしても先に必要な防具を見てからですね」
とりあえず防具屋から行くことになった。
宿屋から歩いて5分もしないうちに盾のマークの看板が目に入る。この世界は識字率が低いようで、分かりやすいマークの看板が特徴になっている。
結構大きな店の様で、入り口にも鎧や甲冑の存在が目立つ。流石にあんな鉄の塊を身につけてたら、重くて動きも遅くなるし長距離の移動には不向きではないだろうか?
3人が「お邪魔しまーす」と先に入っていく。やはり買い物というのは女性にとって楽しみの1つなのだろう。俺も置いてかれまいとすぐに後を追って店に入る。
「いらっしゃいませ。今日はどのような装備をお求めでしょうか?」
店員が3人に予算と装備の傾向を聞いている。俺はその横を通り過ぎ、「異世界って実感するわー」と商品を見ていた。もちろん【解析】しながらだ。
基本、近接戦闘は“しないつもり”なので軽くてそこそこの防具であれば問題ない。
3人はデザインが気に入らないのか店員に色々注文を伝え、時間が掛かりそうな予感。
ふと店の奥に、コートの売り場があるのが見えた。
所謂『騎士風コート』が目に入る。よくゲームやアニメで、コートの裾をひるがえし動く姿を想像するが…、うん。俺も中二病だったようだ。カッコ良く見える。
儀礼用ではなく、一応実用性があるのか肩当てや肘当ても付いている。【解析】で見てみると、素材も厚手のものを使ってあるが…見た目だけだな。デザイン重視でアームホールも狭めだし、動きを阻害してる。勿体ない。
デザイン美と機能美の両立したものだったら思わず買ってしまうところだ。
いつの間にか3人がニヤニヤしながら俺の後ろに立っていた。
「たぐっちはこういうのがお好みですか。」
「趣味は人それぞれですけどね。」
「…中二病(笑)」
芽衣!ストレート過ぎるだろ!肉体年齢22歳なんだし、少しくらい良いじゃないか。
「今の格好より洗練されていますし、良いんじゃないですか?」
玲子よ。今更言ってもフォローになってないぞ。
「どうせならみんなでお揃いのコートにしません?中二病全開で(笑)」
「お前ら、ゲームじゃないんだから機能性とかで選べよ。」
「もう選びましたよ。あとは田口さんだけです。」
「無難な革製品ですけどね。」
「そっか。じゃあ俺もすぐに選ばないとな。」
ちなみに騎士風コートは金貨7枚だった。コートで70万円って…。
俺も所持金と相談しながら、動きを阻害しない肩と胸の装甲のついた革の鎧を購入しようとしたが、以外に脇が擦れるので、フード付きの肩当てがついたこげ茶色のレザーコートと膝当ての付いたロングブーツを購入した。騎士風コートの庶民版って感じ。やっぱり中二病は抑えきれなかった…
ちなみに3人の装備は
玲子
ライダースーツのようなフォルムで肩や背中・胸部に鉄板の入った黒いジャケットと俺と同じ、膝当ての付いた黒のロングブーツにフード付きのマントみたいな布を羽織っている。
響子
玲子とほぼ同じで、違う所は肘まで覆った手っ甲を付けている。
芽衣
弓を引くのに邪魔にならないような右だけ肩当てを付け、左の胸を覆った変形の革の鎧。
マントが肩当てに装着してあり体型をすっぽりと隠している。黒っぽいマントは邪魔にならないよう引っかけて前が開くようになっていて、なかなか様になっている。
「やっぱりマントがあると熱いわ。」
「日差しのこと考えるとあった方が良いって勧められたけど。」
「防水加工してあるって言ってたから通気性は良くないよね。」
確かに今は夏っぽいから暑さもあって、歩くとすぐにバテそうだな。しかし値段の高いローブとか鎧には、重さ軽減や温度調節の刻印がされていたのを【解析】で見ていたので、夜にでも装備に刻印を転写しておこう。どこか魔石が売ってる所を聞かないとな。
「じゃあ、防具も新調したし、ギルドで登録でもするか?」
本当は他に行きたい所もあったが、最初にギルドの話をしていたからな。それにこの時間帯だったらギルドも空いているだろうし。
ギルドの入り口はウェスタン・ドアになっていて中の様子もある程度見えるようになっていた。
「やっぱ、この時間帯は人が少ないみたいだ。中へ入って登録を済まそう。」
ギルドに入ると、正面にカウンターがあり右には軽食もとれる酒場があって逆側には買取窓口と書かれたカウンターがある。今は時間帯的に暇なのか、一人の職員しかいない。
とりあえず、正面のカウンターにいる男性の職員のところへ進むと、職員から声が掛かる。後ろで「女性の職員の方へ行かないの?」とか「恥ずかしがってるのよ」とか「私達3人がいるからですよ」とか聞こえた気がするが気のせいだ。
「ようこそバルンバルンギルドへ。本日はご依頼ですか?」
丁寧なあいさつをしてくれる男性職員。
「いえ、登録をお願いしたくて。」
「分りました。それではこちらの申請書類に必要事項を記入して、条項を良くお読みいただき、ご納得いただけましたらサインをして提出して下さい。記入に関してはあちらのテーブルにてお願いします。代読が必要な場合はお伝え下さい。」
識字率が低いからだろうか?代読してもらえるらしい。別室にて講義のように説明してくれるようだ。もっとも銅貨5枚と少々金が掛かる。代読は必要ない旨を伝え近くのテーブルへ。
「まるっきり役所みたいだね。」
「カウンターにつきっきりじゃ人数を捌けないからだろうな。」
申請書類には
名前:
年齢:
出身:
レベル:
スタイル(剣士・魔法使いなど):
スキル:
簡単なプロフィールを書く紙のようだ。最低限必要なのは、名前・年齢・スタイルのみのため、名前と年齢・スタイルのみ記入した。
「スタイルは何にしたの?」と響子が覗いてくる。
名前:ユウ・タグチ
年齢:22
出身:
レベル:10
スタイル:後方支援
スキル:
「後方支援だよ。」と俺は紙を見せながら言う。
属性魔法は使えないし、まともに剣で戦ったことも無いのだから、こんなもんだろう。一方、響子のスタイルは「近接格闘」と書いてあった。
「撲殺娘」らしいな(笑)と思うが口には出さない。
「出身やスキルはどうします?」
「あえて必要以上の情報は書かなくても良いだろ。」
そして条項の書かれた書類を読み始める。
長々と書かれているが、簡単に要約すると
・冒険者は個人事業主みたいなもの
・税金は依頼料から差し引かれる(~20%)
・ギルド内ランク(G・F・E・D・C・B・A・S それぞれに-、+)があり
登録時、成人はF+から(例え貴族以上の者でも例外なし)。
依頼達成ポイントの累積によってランクアップする
・B以上のランクについては昇格試験がある。
・B以上のランクについては指名依頼が発生する。
・依頼には期限を設けている物と、していない物がある。
・依頼については自己責任であり、推奨ランクは記載してあるが、
下位ランクでも受けることは出来る。
・ギルド内での口論を超えるの戦闘行為は原則として禁止。
双方に納得できない場合は決闘にて決着をつける
(言い掛かりもあるため決闘を拒否することもできる。)
決闘には己の尊厳だけでなく、所有物(財産)も賭けて行う場合もあり、
ギルドとしては推奨しない。
・決闘を行う場合、第3者の立会いを付ける。
他にも依頼不達成の場合や買い取りの方法などが書かれていた。
「想像してた範囲内だしサインして提出しよう。」
あらためてギルドの男性職員に書類を手渡すと「少々お待ち下さい。」と何やらカウンターの下でゴソゴソしている。
「それではギルド証の発行となります。こちらのカードの紋章部分にお手を触れてください。魔力波長を読み取ります。
尚、このカードは魔力波長、すなわち個人の特定をしますので偽造や複製などはできません。身分証明証にもなりますので紛失しないようお願いします。」
と鉄のカードを4人に手渡した。
紋章の部分に触れると、波紋のように波立ち名前などの文字が浮かぶ。
「無事、登録が出来たようですね。こちらのギルドカードには魔物の討伐ログ機能も付いておりますので依頼後の、討伐証明や魔石の提示は必要ありません。依頼達成後はカードの提示のみお願いします。」
魔物には魔素だけで産まれるモノもいるため、討伐部位が存在しない物もあるので、そういった時の措置なのだろう。色々と考えてあるな。
「依頼を受ける場合は買い取りカウンターの横にあります、掲示板をご覧ください。
それでは最後に、冒険者ギルドはあなた方のご活躍の来訪を心より歓迎いたします。」
「早速、依頼受けてみる?」
「受けるかどうかは別にして、どのような依頼があるか見てみたいわ。」
「田口さんも一緒に見ます?」
「俺はとりあえず、食糧とか買い物に行きたい。正直、予定より人数が増えたから色々と心許無い。依頼を見るのも良いけど、ミーバ共和国に向かう間の魔物の分布とか調べて貰えると嬉しい。」
「じゃあ二手に分かれましょう!」
近接戦闘を得意としている玲子と響子が依頼と魔物の分布を調べることとなり、芽衣と俺が買い出しに行くことになった。
◇
ギルドを離れ、通りを散策していると、食材を売っている露店や店の前で商品を出して売っている商人など、見ていて飽きない。
「流石に王都に近い町だけあって、色々と物が揃ってる感じだな。」
「意外と掘り出し物があるかも知れませんね。」
食材を怪しまれない程度に買ってズタ袋に入れながら歩いていると、前方に奇妙な人形が動いて客引きをしている露店が目に付いた。
「ちょっと覗いてみようか。」
「アクセサリーも置いてありますね。」
商品を見てみると装飾品や人形といったお土産のようなものを売っている店の様で、店の前で動いている人形と同じものもいくつか置いてある。
「いらっしゃい。王都にも売ってない商品がほとんどだよ。お連れさんに似合う商品もいっぱいあるから男の甲斐性で買ってってくれよな。」
はた迷惑な売り文句である。
「それよりこの人形はどうやって動いてるんだ?」
芽衣が「それよりって…」ショックを受けているようだが気にしない。露天商の主も苦笑いしながら
「これは魔石で動く人形さ。ずいぶんと前に仕入れたものだが、客引きにはなかなかの効果があってな。ほかにも動く馬車引きの馬とかあるぞ。」
と言って見せてくれた。中々精巧に作られており、本物の様にカッポカッポと動いている。
「これって操作できるの?」と芽衣が露天商の主に聞いている。
「簡単な命令だけだが…」と止まらしたり、右に左にと移動を始めた。
「ゴーレムに近いのか?なんか面白いな。」
「基本的にはゴーレムに近いけど、大きさ的にはこれが限界って仕入れ元の魔道具屋は言ってたな。」
「これって魔道具なんだぁ。」
「金貨3枚と少しばかり値は張るが、魔道具としては他に使い道も無いし買ってくれるなら少しおまけしとくよ。」
「よし、買おう。芽衣も何か気になる物はあったか?」
と、3人用にお揃いの髪留めといくつか属性の付いた魔石を一緒に購入した。
いったんギルドに戻ろうと、ギルドに向かって歩いていると、何やら争ってる喧噪が聞こえてきた。
どこかで聞いたことのある声である。
そこには、響子と玲子が見知らぬ男たちと言い争っている姿だった。
テンプレの予感。。。
テンプレって必要ですよね。