第9話 旅で困らないように
無事に王都を出た4人は、バルド王国を抜けるため街道を南下していた。
幸い、連れ戻すような追手もいないようで、特に警戒もすることなく街道を歩いて行く。
「王都から近いだけあって魔物もいないし、この調子で目的の町に着ければいいなぁ。」
「…フラグ建てちゃった?(笑)」
「変なこと言うなよ…」
「そう言えば、次の町ってどのくらいで着くの?」
「歩いて行けばあと1日半かな。だいたい20~30kmって感じ?」
「結構あるんだね。」
「王都に近すぎても、人がみんな王都へ行っちゃうだろ?だから王都へ向かう最後の休憩場所としてはちょうど良い距離なんじゃないかな?」
地図を見ながら説明する。
「もう少し歩けば、小さいが川も流れているみたいだから、そこで休憩するか。」
やがて30分ほど歩くと、川幅3mほどの川にたどり着いた。
「水は…、安全みたいだな。」と【解析】した上で、水筒に紐をくくり橋の上から垂らして水を汲む。そんな時、響子が大きい声を上げる。
「どうしよう!」
残りの2人とボソボソと話をして、辺りを見渡している。
何となく理由は分かったが…、どうしよう?助け舟を出すと自分のスキルを教えることになる。ま、少し苛めてから助けてやろう(笑)
「どうした?」
「・・・えっと。異世界風にいうと、お花摘みに行きたいんだけど…。」
そう、見晴らしの良い街道沿いには遮蔽物も無いので、丸わかりなのだ。
「響子は土魔法が使えるんだから壁とか作れば良いんじゃないか?」
「その手があったか!」
早速、土魔法で囲いを作るが、しばらくして3人が俺のところへ来る。
「王都から出る時、紙を持ってこなくて…あったら貸して欲しいんだけど。」
「お前ら、ほんと計画性が無いなぁ。って言いながら俺も手元には持ってないけど。」
「どうしよう」と3人が困り果ててる姿を堪能しようかと思ったが、変態と思われたくないので早々に助け舟を出してやる。
「しょうがないか。お前ら内緒にするなら助けてやるぞ。」
と言って街道沿いから少し脇に離れたところにマイ・ルームの入り口を展開する。もちろん他人には見えない様に【時空魔法】で空間の位相をズラすことも忘れない。
「いきなり扉?が出てきたんだけど?」
「洩らす前に早く来い。」
扉を開け3人を中に招き入れる。
入り口を開けると無駄に広い玄関ホール。
「そこをまっすぐ行った左側にあるから。」と言って俺はすぐ右側にあるリビングのソファに腰掛ける。響子は飛ぶように走りトイレに駆け込み、あとの2人は「お邪魔しまーす」と俺のいるリビングの方へやってきた。
「田口さん、これって…?」
「俺の能力?まあスキルの力だけど。ま、とりあえず座って。お茶でも淹れるから。」
「そう言えば田口さんのステータスって見せてくれなかったから、誰も知らないんですよね。」
「たぶん空間系のスキルなんだろうけど、出鱈目だわ。こんなスキル持ってたら、そりゃ外に出て旅したいって思うワケよねー。」
「正直、【5つの願い】甘く見てたわ。規格外過ぎるもん。」
と2人でぶつぶつ言ってるが無視してると、響子がスゴイ!スゴイ!と言いながら走ってきた。
「玲ちゃん!芽衣ちゃん!スゴイよ!トイレウォ○ュレット付きだった!」
「「えっ!」」
そう、俺のお尻は繊細なのでウォ○ュレット対応のトイレを作ったのだ。
そして響子は部屋の設備を確かめるように色んな扉を開けまくっていた。
「初めて「ラブホ」に入ったみたいに家探しするな!興奮しすぎだろ。」
「「「・・・(ジト目)」」」
「何故に、そんな目で見る?」
「「「私達、「ラブホ」なんて入ったこと無いもーん!」」」
「ハモるな!」
全員がトイレに行ったあと、お茶を飲みながら3人に断りを入れてタバコに火を入れる。
「田口さんのスキルって教えて貰えないんですか?」
「…必要があればね。」
「…今は必要無いと、」
「安心してトイレに行けるってだけで満足しろよ。俺にとってはお前らと一緒にいるメリットなんてあんまり無いし。ってか、デメリットばかり?(笑)」
「「「ヒドイ!」」」
「まあ冗談は(半分以上本気だが)置いておいて、お前らどこか行きたい所ってあるか?」
俺は地図を広げ、簡単に説明する。
「今いるのがバルド王国のここら辺。バルド王国を南下してるからこの先進むと、同じヒト属のミーバ共和国に向かうことになる。ここはバルドと違って差別があんまり無いから、色んな種族がいるみたいだな。」
「ケモ耳!モフモフ♪」
「…響子。確かに獣人族もいるらしいが、断りもなく触ったら、確実に犯罪者だぞ?」
「流石に犯罪者とはお友達ではいられませんわ」
女子2人がジト目で響子を見ている。だが玲子に芽衣よ、お前らも同類なのを俺は知ってるぞ!
「金も有限だから稼ぐ手段も見つけなくちゃいけないし、とりあえずミーバ共和国に着いてから細かいことは考えるか。」
3人も異存はないらしく、休憩もそこそこに「ミーバ共和国」に向けて、次の町へ向かう。
◇
休憩を挿みながら、辺りが薄暗くなるまで歩き、また街道を少し避けた所にマイ・ルームの入り口を展開して中に入る。
「メシはスープ系とパンになるが構わないか?」
「「「よろしくお願いします」」」
カウンターキッチン越しに問い掛け手早く調理を始める。
クックバードのガラを煮込んでスープの素を作る。簡単に灰汁取りをしながら、隣では根菜類の皮を剝き、鍋に放り込んでいく。灰汁取りしたスープの素を隣の鍋に移し替え塩・コショウで味を整えていく。簡単なポトフの出来上がり。
煮込んでる最中にまたもやクックバード様(笑)を適当な大きさに切り、(創造具現化で作成した)醤油大3・酒大3・みりん大3を入れ20分ほど馴染ませておく。
その間に、葉物を適当な大きさに切りながらサラダを作る。タマネギみたいな野菜をすりおろし、塩・コショウ・お酢・オリーブオイル(みたいな油)を入れて、手作りドレッシングを完成させる。
20分経ったら馴染ませたクックバードの肉に片栗粉を万遍無くまぶす。ここでは肉についた下味のたれは切らずに片栗粉を付け、片栗粉は叩かないのがコツ。
そして油で揚げていく。竜田揚げの完成。本当は4~5品作りたいのだが人数的に量が多いので面倒臭い。あとはパンで良いだろう。
基本、30分くらいで作るのが俺流の料理だ。
「言っとくが、お前らも練習して料理くらい作れるようになれよ?」
「「「…善処します」」」
「政治家か!」
ツッコミのスキルが上がっても嬉しくないからな!
『食事はやっぱり大勢で食べると美味しいよね』って思っていた時期もありました。
…お前らうるせえ(怒)
「でもドレッシングって手作りで作れるものなんですね。」
「市販のもので済ます時もあるけど、基本手作りドレッシングが多いかな。最近はクッ○パット見ながら作ったりするけど。」
「男の人が料理するのって素敵よねー(棒)」
「気持ちこもって無いだろ(怒)」
「でもスゴいと思います!うちの父親なんて作りもしないのに文句ばっかりですもん。」
「芽衣のお父さんって亭主関白だったの?」
「そこまでではなかったと思う。でも私が芸能界に入る時なんか猛反対でスゴかった。でも私が出演するTVは全て録画してたけど(笑)」
「うちもそうだった!「芸能界と空手、どっちが大事だ!!」って」
「私は「剣菱家から嫁に出す時、知名度があった方が良いが、低俗な番組には出ないようにプロダクションには言っておく。」って言われたくらいかな。」
「「ビミョー」」
そして食後のプリンを食べた後は、『ラッキー☆イベント』も(脱衣所&お風呂が2箇所あるからね!)も特に無く、俺はリビングのソファにもたれタバコを吹かしている。
すると、玲子が不思議そうな顔でタバコの煙を見つめている。
「どうした?」
「何というか、…この煙、魔力で浄化してるんです?」
俺はゆっくりと紫煙を吸い込み、口から煙で輪っかを、ぽっ・ぽっと作り出す。しばらく辺りを彷徨いながらやがて薄れるように消えていく。
「臭いが付かないのは嬉しいですが、ほんと出鱈目ですね。どれだけ無駄に魔力を消費してるんでしょう?」
このマイ・ルームは空気の清浄化だけでなく、部屋に入ったもの全てにクリーンの魔法が掛かるようになっている。つまりお風呂にも入らなくても清潔は保てるのだが、そこは気分の問題だ。日本人にはお風呂が欠かせないアイテムだからな。それに、ちり・ほこり、抜け毛だって清浄化で消し去るので掃除もいらない。クリーンルームよりも清潔かも知れない。
「受動喫煙に気を使わなくて良いんだから、良しとしておけ。」
まだ納得してないようだが。それよりコーヒーが飲みたい…
◇
翌朝、簡単に朝食を食べ(メニューは昨日のポトフの残りとクックバードの卵を使った目玉焼き&パン)4人は簡単な支度をしてマイ・ルームを出る。
「それにしても…俺らの格好って、旅する衣装じゃないよな。」
次の街を目指し歩きながら、4人の格好を見てみる。
俺は、この暑い中、頭までかぶれる(スター・○ォーズに出てくる○ーダみたいな)ローブ。
3人はと言うと、
玲子 ―― 生地の厚めの白いシャツに紺のズボンを履き、訓練時に使っていた胴衣。
腰には細みの両刃の剣。
芽衣 ―― 同じく生地の厚めの白いシャツにサーコートのような布をかぶっている。
背中に弓を背負ってる。
響子 ―― 玲子と同じ格好(なんか扱いがヒドイ(泣):本人談)
籠手と脚絆のようなレガースを付けてる。
「町に着いたら装備を整えた方が良いな。」
「そうですね。あまりにも貧素だと、怖い物があります。」
「前衛の2人は特にね。」
「王都を出る前に揃えれば良かったね。」
「もたもたしてたら、王都を出られなくなるかも知れないからってすぐに飛び出しちゃったもんね。」
「よし!町に着いたら防具屋さんに行こう!」
「その前に宿を見つけてからな。」
「「「えっ?」」」
「マイ・ルームがあるのに他に泊まるの?」
「アホたれ。仮に泊まるだけだ。町に滞在しながら宿に泊まらないのは不自然だろ。俺の能力はあんまり知られたくない。」
「なるほど。田口さんの特殊なスキルは、旅するには反則的な能力ですからね。」
「商人とかも羨ましがるどころじゃないですもん。通常の何倍もの荷物を運べますもんね。」
「いずれ、ある程度は開示するつもりだけど、面倒事は少ない方が波風立たないからな。」
重くも無い擬装用のズタ袋を背負い直し、歩き続ける。
段々、町に近付いているのか馬車とすれ違う頻度が高くなる。中には護衛を伴って進む集団もいる。護衛がいない馬車は、王都までは危険が少ないからなのか、護衛がいる集団に寄生してるのか?
そうして関係無いことを考えながら、冒頭のフラグも華麗にスルーして、4人は王都から1番近い町、バルンバルンに着くことになる。
男女で旅をする時、一番困るのは、やっぱりトイレ。