第8話 決別と脱出
やっと次話から旅に出ます。
早々に自室に戻った田口は、荷物をまとめ、出て行く準備をする。最も荷物と言ってもほとんどはアイテムストレージやマイ・ルームへ入れてあるから、先ほどの金貨の入った袋をアイテムストレージに入れるくらい。袋に入った金貨を1枚取り出すと残りをアイテムストレージに入れる。そして何故かプリンを1つ取り出す。
そして、1週間の間に用意しておいた擬装用のリュックのようなズタ袋を背負い、その場にいないはずのリベラに声を掛けた。
「リベラさんはどうするの?」
「・・・最後まで、何でもお見通しなんですね。」
「引止めに?それとも足止めかな。」
「強いて言えば両方かと。」
リベラは王女からは王城へ残るようにと。また玲子たち3人にはしばらく待ってもらえるようリベラに頼んでいた。
「へえ。王女は(主にお菓子的に)分かる気がするけど、3人は予想がつかないな…」
「カーラ王女より手紙を預かっております。」
と1枚のそれほど質の良くない折りたたまれた手紙を渡される。
内容は、と言うと・・・
『田口様、
この手紙を読んでいると言うことは旅立ちの時、と言うことなのでしょう。本当はこの王城もしくは王都に残り、安全の中暮らしていただければと思っておりました。
回転の速い田口様のこと、きっと討伐の拒否を表明すれば、国王や貴族達が、どのような手段を講じて来るかも想像が出来るはず。私も王族の一員として、拒否できない立場であり、良心の呵責に耐えない状況です。
国王や貴族達の既得権益を得るため、田口様には困難な未来しか待っていないでしょう。ひょっとしたら、魔王討伐に役立たずであれば国民に知らせる前に「暗殺」といった手段も考えられます。
信じられないかと思いますが、田口様を守りたくこの王城から安全に外部に出るルートをお教えいたします。』
最後に、「「落ち着いたら、お菓子のレシピをまた贈って欲しい」」と書いてあった。
最後の1文で色々と台無しだよ。王女様!
「吉と出るか邪と出るか…」
はっきり言ってカーラのことは信用していない。だが、お菓子への愛情?は本物だと思っている。「まあ最悪、待ち伏せだったとしても転移して逃げれば良いか。」と思いながら、逃げる算段をつけることにした。
「それでリベラさんはこれからどうするの?」
「私は本来、カーラ王女様の御付きでございます。もっとも、1人残ることになった光牙様のお世話をすることも考えられますが。」
「そっか。それじゃ、1つ頼まれ事をお願いしても良いかな?報酬はこれ。」
と、田口はプリンをリベラに手渡すと、小声で何やら囁く。
話を聞きながら、リベラは「本当は田口様について行きたかったんですけどね。お菓子ももらえるし」などと思っていた。
◇
時を同じくして、玲子達3人と天野は、玲子の部屋にいた。
「どうしてなんだい?僕達は協力し合って魔王を倒すんじゃなかったんじゃなかったの?
僕に相談も無しに決めちゃうなんて酷いじゃないか。」
先ほどから、言い訳やらなんやらワケの分からない文句を並べ、玲子たちの邪魔をしている。玲子達は3部屋用意された場所のうち、玲子の自室で一緒に寝泊りしていたため、私物などの荷物も全て玲子の部屋に置いてあった。
「…そうか、田口さんが何か玲子達に吹き込んだんだろ?そうに決まってる!…そうじゃなきゃ…」
ガタンっ!とテーブルから勢い良く立ち上がり、光牙が最後まで言い終わる前に玲子が光牙を睨み付ける。
「田口さんは関係ないわ!」
「だって、そうじゃなきゃ玲子達がそんなこと思う訳無いじゃないか!きっと田口さん…いや、田口 裕に騙されてるんだよ!」
「だから田口さんは関係ないって言ってるでしょ。貴方に私達の何を知ってるって言うの?それに止めてくれない?その見つめるヤツ。」
「え?!」
昨夜、3人が話し合っている時に、光牙への話し合いをする内容も決めていた。
「本当に私たちが何も知らないと思ってるの?この世界に来るときに貴方だけが【5つの願い】を聞いてもらったわけじゃないのよ?私たち3人に、貴方の【魅了】は効かないわ。」
玲子達3人は、光牙の行い(異世界へ道連れ召喚されたこと)に怒りを感じていた。しかし、田口の言っていた言葉が全て本当かどうかも信じられずにいた。
〔光〕に会うことも出来ない3人には確かめる術も無い。だから3人は光牙に直接言わせるよう考えた。
決して3人は〔光〕に【5つの願い】を叶えてもらったワケではない。あくまでも光牙と田口だけだ。しかし言い方を変えて言葉を発すれば、勘違いさせることも可能だ。
先ほど言った『この世界に来るときに貴方だけが【5つの願い】を聞いてもらったわけじゃない』は、自分達も【5つの願い】を叶えてもらったと聞こえるが、実際は光牙と田口の2名。あくまでも「光牙」だけではないと。決して嘘ではないが、勘違いさせるのには成功した。
そして光牙のその姿を見て3人は、田口の言っていたことが本当だと改めて思った。
「貴方がどんな【5つの願い】を叶えてもらったのかは聞きたくもないわ。でも私達を騙した貴方には一緒に居たくない。その【魅了】で心を縛り付ける行いにもね。」
「玲子、着替えとかの荷物は一応まとめたわ。」
「わかった。行きましょう」と1人うな垂れる光牙を置いて3人は部屋を出た。
そこには、光牙がぶつぶつと「きっと田口に違いない。あの3人を僕から引き離そうと画策したに決まってる。[主人公]の僕に・・・」と呪詛のようにつぶやく光牙の姿があった。
◇
お願いをされたリベラが席を外し、窓辺でタバコを吹かしていると「コンコン」と扉をノックする音が。「どうぞー」と声を掛けると、玲子達3人が荷物を抱え入ってきた。
「どうしたの?荷物抱えて?」
「田口さんはここから出て行かれるのでしょ?私たちもここから出ようと思いまして。」
天野がここに居ないと言う事は、一応「決着」が付いたって事かな?と思いながら、3人の荷物を眺め、流石に風呂敷のような布で荷物を抱えた姿は不便だろう、とズタ袋から取り出した様に見せかけ、【創造具現化】を行いズタ袋と同じものを作成し3人に渡す。
「どこで用意したの?」と3人はお礼を言いつつも不思議に思って聞いてきた。
「3人と違って最初から逃げる…ここから出ることを視野に考えていたからね。」と誤魔化しながら次の言葉を発す。
「この後はどうするんだい?3人にとってはここで安全に暮らすって選択肢もあったでしょ?出て行くにしても、ただ挨拶しに来たワケじゃないんだろ?」
リベラに「足止めして欲しい」と言われたと聞いた時から、嫌な予感がしていた田口は思い切って聞いてみた。3人は互いの顔を見て誰から言い出すのかアイコンタクトでやり取りしてたみたいだが、玲子が根負けしたように、代表して口を開く。
「…実は、田口さんがここを出ると言う話を聞いて、私達も一緒に連れて行っていただければと・・・」
田口は嫌な予感が当たったと、とても嫌そうな顔をして3人を眺める。
「そんなに嫌そうな顔しなくても良いじゃん!こんな若くてピチピチな美少女3人と一緒に行動出来るなんて幸せ者だぞ君!それに一緒に行動してれば『ラッキースケベ☆イベント』に遭遇することだってあるかもしれないぞ♪」
響子が言う「ピチピチ」って今日日聞かないなぁと思いつつも、嫌そうな顔のまま。
「それに外に出れば危険なこともいっぱいありますでしょ?戦闘が不得手な田口さんを守る護衛にもなれますし!」
「そうです!私たち3人がいれば、田口さんに至らないところがあったとしても、きっと補いながら出来るはずです!」
自分達と一緒にいれば何かと心強いと、3人で色々言っているが…
「…お前ら、料理出来ないじゃん。」
「「「・・・」」」
ボソッと田口がつぶやくと3人は黙ってしまった。しばらく無言の時間が経過するが、3人の見つめる瞳に根負けして
「ま、しょうがないか。こんな同郷の居ない世界に一緒に来てしまったのも何かの縁だ。お前達の目的が見つかるまでは、とりあえず一緒に行動するか。」
しかたがないと思いながら、田口は3人と一緒に行動することに決める。
そこに「コンコン」と扉をノックする音が聞こえ「失礼します」とリベラが入ってきた。
「おや?皆さんお揃いですか。田口様、先ほどの件は無事終了致しました。」
「ありがとう、それじゃ、そろそろ出発しますか!リベラ、よろしく頼む。」
◇
一方、時は少し戻り、5人が居なくなった国王達がいる部屋では、
「国王!いかがなさるつもりですか?田口だけならともかく、あの3人まで魔王討伐に参加しないなどと!」
「そうですぞ。このままでは魔王討伐にも影響が出てきますぞ!」
「それに勇者のお披露目の問題もありますぞ。国民に勇者という希望を与え新たに税を搾り取る計画にも支障が出てきます。」
貴族達が喚きだし、場は騒然としていた。さらに
「あの3人をこちら側に引き込む役目だった騎士団団長どもの責任ではないか?」
「然り!この責任は重大ですぞ!」
「それならば、3人の訓練の後も毎日のように「執拗」に迫っていた方が何人もお見かけしましたな?」
「あれはまさに「見苦しい」としか。貴族足るもの優雅に接するのがマナーですからな。愛想をつかれてしまっても仕方がありますまい。」
「見苦しいなどと!あれはこちら側に引き込むための手段であって…」
などと、責任の擦り付けが始まった。
「静かに!!」
大司教が大声で一喝すると、貴族達も一旦、口を閉じる。
「今は責任の問題ではなく、この後どのように動くかを検討すべき。幸い3人は魔王討伐に参加しないと言っただけだ。別にここから出て行くと言ったワケではないのだから、残った天野殿を出汁に使えば、簡単に【隷属魔法】か【隷属の首輪】で奴隷化してしまえるであろう。」
「流石は大司教。」
「我らの意に沿わなければ仕方ありませんな。」
「早速、お抱えの奴隷商人に【隷属の首輪】を手配させましょう。」
「そうなると残った天野も?」
「あれは単純で操りやすい。敢えて隷属化せんでも問題あるまい。それにいざとなったら…」
といった悪意ある話し合いがなされていた。
そこにリベラが何やら封書と箱のような物を持って入室してきた。
「国王様、田口様よりこれをと。」と言って近くにいた近衛兵に封書と箱のような物を手渡し、そそくさと退室する。
近衛兵より渡された封書を開き、中身を読むと眉間に皺をよせ、手紙をテーブルに叩き付けた。
「どうしたのですか?国王?」
周りにいた貴族や大司教も手紙の内容が分からず国王の反応に戸惑う。
「やってくれよるわ。あの小僧!至急この手紙の内容を分析し本当に可能か調べ上げよ!」
封書の内容は
『国王陛下へ
先ほどの話し合いでも、最後までお待ちしていましたが、謝罪の言葉を頂くことはありませんでした。
この度の補償の件での結果は、それも影響しているのではないでしょうか?
他の3人は知りませんが、少なくとも私はそうです。
この先、そのようなシコリが残ったままでは良好な関係は難しいと思われ、また国王ではなくとも思慮の浅い輩がどんな事をしてくるかも分かりません。
そう、例えば【隷属魔法】や【隷属の首輪】などを使った、強制的な手段です。
これにはいくつか“抜け道”がございましたので、一応バカな考えを起こさないよう記載させて頂きます。
・重複した【隷属魔法】・【隷属の首輪】は使えない。
・【隷属魔法】や【隷属の首輪】を防ぐ魔道具を身につける。
この1週間で確認しましたが、前者についてはご承知されているかと思います。
が、後者の【隷属の首輪】を防ぐ魔道具に関しましては、その存在を確認はされていないとの事。
しかし世の中には、探せばあるものですね。
証拠として1つ差し上げます。
くれぐれもバカなことは致しません様、部下のものに言い聞かせて置いて下さいね。
暴挙にでられた場合、周辺各国にこの度の勇者召還の裏側も知られることとお思いください。』
と書かれてあった。
実は、カーラ王女の講義にて奴隷の存在を知った後、その術式を【アカシックレコード・アクセス】で調べ、防御術式を組み込んだ腕輪を作っていた。
もっとも、これには術式の理解に【解析】の力を使っても(スキルと同じ“理”が必要のため)スキルの無い地球にいた田口では理解出来なく断念し【索敵】を用いて隷属魔法を感知したら【転移】にて魔法や首輪を弾き飛ばす術式の腕輪を作成した。しかし腕輪に魔法を付与するスキルのない田口は、(お菓子のレシピの代金の金貨で手に入れた)小さな魔石に、魔方陣の刻み込む多大な労力を必要としたため(購入した20個の魔石の内、19個目で成功)結局1個しか作れなかった。
(実は転移魔法で魔石に直接魔方陣を刻み付けることが出来る方法があったのだが、それを知ったのはだいぶ後)
「そのような魔道具をどこで手に入れられたのでしょう?」
「どうせ眉唾に決まっておる!」
「そのような魔道具など見たことも聞いたこともありませぬ。」
貴族達も手紙の内容を聞き驚くも、すぐにデマカセだと反論し始めた。
「この手紙の内容がデマカセかどうかは実物もあることですし、すぐに分かるでしょう。
ですが、この魔道具が本物である場合も考えるとすぐに行動に移すのは早計かと。」
「うむ。事の次第が判明するまでは手を出さん方が良かろう。とりあえず4人には監視を付け、所在が分かるようにしておけ。皆の者!分かったな!!」
「「「「はっ」」」」
◇
4人はリベラに連れられ、王城の隠し通路を歩いていた。
「やっぱりお城って隠し通路があるんだね~」
「隠し通路って、ジメジメした雰囲気があったけど、それ程でもないようです。」
「玲子の火魔法で明るいから余計に不安が少なくなってるのかもね。」
「田口君!感謝するように(笑)」
どうやら王女は純粋に好意で抜け道を教えてくれたようで、罠も待ち伏せも無く順調に進めていた。
「そろそろ出口です。」
梯子を上り、外に出られた4人は盛大に伸びをして、息苦しい隠し通路から出られた開放感を味わった。
「リベラさんありがとう。無事王城から抜け出すことが出来た。」
「いいえ。カーラ王女の配慮があってこそでございます。」
「でもこれって、王への裏切り行為じゃないの?」
「バレなければ問題ないことでございます。」
小声で「お菓子のためなら…」とか本音が聞こえちゃってるよ!
「それでは皆様お怪我の無い様、御身体をご自愛くださいませ。」
「リベラさんも気をつけて」
リベラと別れた4人は、王都の門を問題なく潜り抜け、まだ見ぬ世界に期待を膨らませながら、王都をあとにする。
ちなみに魔石に魔方陣を刻印出来たのは、自分の持っているスキルだから理解出来、刻印出来たと考えてください。