プロローグ1
欲望、願望、叶わぬ想い。それがもし、自分に都合の良いように出来たなら…
異世界を舞台に、己の欲望を得んがために。
「…ここは?」
少年がつぶやく。何も無い、白い空間。地に足が着いている安定感もなく、上を向いているのか下を向いているのかも分らない。
そんな時ふと、前方に〔光〕が見えた。その〔光〕は決して眩しいわけではなく、心を包み込むような優しさを持った〔光〕。
『目覚めましたか?』
「…これって、ひょっとして?!」
『クスクス。その通りですよ。』
少年が期待通りの反応だった為か、笑いながら〔光〕が答える。
「やっぱり!」
『理解が早くて助かります。私が管理している世界にて時空を超えた召喚魔法が行われました。』
「異世界召喚きた―――!」
『そうです。もちろん、貴方が想像しているような、剣と魔法の世界ですよ。今から貴方達が存在していた世界とは異なる異世界≪バーハフェルト≫へ行って頂くことになります。…ただ、正直なところ今の貴方が召喚されても…』
「もちろんお約束のチートを頂けるんですよね?」
『…そうですね。貴方の【望む願い】を5つ。』
興奮状態のまま、言葉を遮るように言うため、〔光〕が呆れながらも話を進める。
「やった!しかもスキルとかの選択制じゃないってことは…」
小説にありがちな“スキル選択”。お約束ではあるが、常日頃から妄想している少年にとっては意外と選択肢は狭いものなのだ。だからこそ、〔光〕が言う【望む願い】は少年にとって都合が良い。異世界に行ける上に【望む願い】を5つも叶えてくれるのだから。〔光〕の話も聞かずに没頭し、5つの願いを考える少年。
〔光〕が叶えてくれるという5つの【望む願い】。どこまでの範囲で、どれだけのことを叶えてもらえるのかは不明だが、下手なことを聞いて返答が【望む願い】となってしまったらと考えた少年。
実際はそんなことは無いのだが、下手に異世界物の小説を読み、考えが歪んでしまっているため、自身の中で勝手に思い込んでしまう。
「決めました」
『それでは願いの1つ目を。』
「まずは僕を、僕の思うイケメンにして下さい!」
少年が、まず初めに願ったのは変身願望だった。
少年は平凡な普通高校に通う16歳。身長も低く、控えめに言っても社交的とは正反対の根暗なオタクである。そんな少年がいつも思い描いているものは[主人公]。
隣接する、お嬢様や金持ちが通う私立高校の制服を見る度に、いつも妄想を膨らませていた。
もっと勉強が出来ていれば。
もっと運動神経があれば。
もっと背が高ければ。
そしてもっとイケメンだったなら。
きっと華やかな高校生活を送りながら青春を謳歌できていただろうと。
しかし現実は、勉強も運動も顔も平均以下。
背も低く、内向的な性格のため友達も出来ずに、いつイジメに合うかとビクビクしながら過ごす毎日。
だからと言って、自分から積極的に努力をし、自身を変えようともせずに言い訳ばかりを言って逃げている現実。
だからこそ、選択制の“スキル選択”では成し得ない、自分を都合よく変身させるための願い。
『…分りました。確かに人間個人の価値観によって好みも変わってきますものね。最初の願いは貴方の思うイケメンでよろしいでしょうか?』
「ええ。それでお願いします。」
少年は頭を下げながらほくそ笑む。
なぜなら、一つの願いと言いながら、複数の願いをしていたからだ。
…この少年の思うイケメンの定義は何も顔だけではない。【僕の思うイケメン】
それは、爽やかな甘いマスクで背が高く、細マッチョ系の運動も万能にこなせるハイスペックな肉体。
つまり顔だけでなく、身長・体型・運動神経までを含む複数の願いをしたにも拘らず、一つの願いとして聞き入れて貰えたからだった。
柔らかな光が少年を包み、そのコンプレックスだった身体が願い通りの容姿へと変化する。その変化に満足を感じながら、次の【望む願い】を口にする。
「次は…」
少年は考えた望みを〔光〕に伝える。それは過去の改竄だった。
何故、異世界に行こうというのに今までの過去を改竄、いや改変しようというのか?それは、その次の【望む願い】にも関わることのため。
『どのように?』
「剣菱 玲子・皐月野 芽衣・小山内 響子の3人の幼馴染になりたいんだ。もちろん小中高も同じ学校に通ってる設定で。」
少年が上げた名前の3人は、少年の通う高校に隣接する私立聖ファリス女学園の女生徒達だ。3人ともアイドルに負けない容姿を持ち、学園内ではファンクラブまで存在する。しかも各々が剣道・アーチェリー・空手の有段者であり(アーチェリーは段ではないが)全国大会でも好成績をおさめている。少年にとっては高嶺の存在。
「やっぱりテンプレって言ったら幼馴染でしょ。それで次の【願い】が、その3人も僕と一緒に召喚して欲しい。最初に『貴方達が』って言ってたから複数なんでしょ?その中に入れ込んで欲しいんだ。」
『確かに今回行われた召喚は、複数の人間を召致するのですが…、良いのですか?貴方の居た世界よりも遙かに人の命が軽い異世界≪バーハフェルト≫へ関係のない少女達を送っても?』
確かに〔光〕は『今から貴方達が存在していた世界とは異なる異世界≪バーハフェルト≫へ』と言っていた。だがしかし、己の欲望のために無関係の赤の他人を異世界に巻き込むことに、躊躇もなく言い放つ少年に〔光〕は悲しみの念を禁じ得ない。
「大丈夫だよ。」と何が大丈夫なのかは分らないが少年は笑顔で応える。
「ホームシックになっても幼馴染の僕が居れば問題ないしね。」
『…分かりました。過去の改竄については、これから異世界≪バーハフェルト≫に行くワケですから、記憶の改竄で十分でしょう。』
「まあ、それで構わないかな。」
『それでは次の【願い】を』
「そうだな。…イケメン、幼馴染…それだけじゃ弱いから、《魅了》をお願い。異世界って言ったらイケメン率高そうだから心配だしね。それに目指すのはやっぱりハーレムでしょ。」
『残りの【願い】はあと1つですが、よろしいですか?』
「うん。あとは魔法だよね。主人公の僕にピッタリな魔法をお願い!ほんとは強奪系の魔法や闇系統の魔法も捨てがたいんだけど、王道のテンプレを行くなら聖属性の魔法だよね。」
『聖属性ですか。…聖属性の魔法は特殊上位属性となりますので、下位の光系統も使えないと問題があります。光属性の才能も付与する形となりますが、よろしいですか?』
「おぅぅ。それは嬉しいな。」
『分りました。…それでは以上で異世界≪バーハフェルト≫へ行って頂きます。』
〔光〕が段々と光量を増し、少年は眼を開けていられなくなる。そして少年は白い空間から姿を消した。
『…あれで大丈夫でしょうか?生きていく分には問題ないでしょうが、今回の召喚した王国は、小説やゲーム感覚ではかなり難しいでしょうね。。。』
〔光〕は、ぽつりとつぶやくと次の召喚者の元へ向かう。
「「ようこそ、勇者様方!」」




