ハンター狩りへ
「ギリー、行こう!」
ギリーはその言葉を聞くと俺に近づき、俺を背中に乗せるため脚を曲げ態勢を低くした。
俺はそのまま背中に乗り、ギリーはその場から両翼を広げ、離陸する。
空へ舞い上がった俺たちの目的地は、サガン都だ。仕留め損ねた4人のハンター達を見つけるためだ。多くのモンスターにとって、目の前で獲物を逃がすことなど考えられない。ギリーも例外ではない。俺はギリーから伝わってくる並々ならぬ殺気を肌で感じ取り、鳥肌がたつ。この殺気だけで人の命を奪えそうなほどである。
ギリーの今の心境を天候が示しているのか、辺りは黒い雲で覆われ、遠くからは雷鳴が響く。一粒一粒が大きい雨が、地上へと容赦無く降りかかり、とどまることを知らない。雨に当たり痛みを感じる程であり、まさに、台風といったような天候である。
そして雨に打たれながら飛翔すること、10分。目の前にサガン都が見えてきた。一昨日来たばかりなのだが、その頃とは目的が多いに異なる。これは、狩猟。ハンターへの明確な攻撃なのである。
俺たちは、上空からサガン都を一望する。この豪雨、強風のためか、市場が開かれている様子はない。人が外出しているはずもなく、ただ、立派な建物が建ち並んでいる。
「奴らはこの都にいるはずだ。建物の外部を破壊し、奴らを見つけよう。」
「ギャオオオオオオオオオッ」
雷鳴に劣らぬ咆哮を上げ、ギリーは急降下する。降っている雨より速く降下するギリーは、その勢いを殺さぬまま酒場の建物に突進した。
ーードンッ、ドゴゴゴッ
大きく重たい衝突音を響かせ、ギリーは酒場に着陸する。そして間髪入れずに、屈強な脚の力と鋭利な爪で酒場の壁を崩していく。
ーーガガッ、ドゴゴ
酒場の立派な壁は力なく崩れ去り、酒場の内部が見える程の大きな穴が空いた。そしてギリーはその穴から酒場の中へと意図も簡単に侵入した。たくさんのテーブルが並ぶ酒場の床にギリーは四肢の爪を食い込ませ、辺りを見渡す。
だが、酒場に人のいる気配は無かった。静まり返っている酒場を見たギリーと俺は、その場の光景が理解できなかった。
「酒場に人がいない?店の主人、店員さえも。どういう、ことだ?何が起きている!?」
そして次の瞬間、大きな揺れを感じる。そして周りの壁が一つ、二つと破壊され、瓦礫が吹き飛んできた。
「まさか、、読まれていた!?」
俺はふと、その結論に辿り着いた。その間にも、酒場は着々と壊されていく。
「ギリー!あの穴から逃げろ!外へ出るんだ!」
ギリーは、翼を広げその場から飛び去る。侵入した穴から俺たちは脱出する。そして脱出し空へ舞い上がった瞬間に無数の砲弾が目に入った。
「砲撃ッ!?」
四方八方から迫ってくる無数の砲弾に俺たちは飲み込まれた。飲み込まれる瞬間、俺の身体はギリーに振り落とされた。
ーー終わった。
俺は、このまま砲撃に巻き込まれ死ぬ。
ーーちくしょう。
こんなところで。
俺は、目を瞑るしかなかった。その目に涙は流れず、悔しさの念が俺の身体を襲った。
ーードドドドドドドドドッ
砲弾が弾け、内部の火薬が爆発を起こした音が俺の耳に入ってくる。痛みなどない、感じるはずもないほどの攻撃を受けているのが分かった。
そして、音が鳴り止む。辺りは一気に静寂に包まれた。
あぁ、死んだ。何ももう聞こえない。俺はそう悟った。
しかし、ある希望が俺を照らした。
「ギャオオオオオオオオ」
テリー。お前も死んで、俺の隣にいるのか。お前がいれば死後の世界も安心だ。良かった。
次に、俺の顔に冷たい感覚が染み込んで来た。
水?いやこれは、雨か。
雨?
俺は静かに目を開けた。そしてそこに信じられない光景が飛び込んできた。
俺を守るように両翼で俺を包んでいるギリーの姿が目に入って来た。
「ギャオオオオオオ」
ギリーの咆哮がはっきりと聞こえる。
そして俺は今わかった。ギリーが俺を体を張って守ってくれたのだと。
「ぎ、ギリー!」
俺はすぐに立ち上がり、ギリーの身体に目を向ける。ギリーの身体は、無傷であった。その漆黒の身体に傷は一つも無く、一つ一つの鱗が雨に濡れて綺麗に輝いている。
「ギリー、、なんてやつだ、お前は。ありがとうギリー!」
俺はギリーが無事だということに確認し、ギリーが守ってくれた事にただただ感謝する。
「ギャオオッ」
ギリーは態勢を低くし、俺が背中に乗ることを促した。俺は迷わず背中に飛び乗り、頭を切り替える。死にはしなかったが、状況が良くなったわけではない。砲弾の装填に時間が掛かるのか、次の砲撃はまだ来ない。
「ギリー、空高く飛ぶんだ。空に舞い上がれば、砲弾は無意味だ。」
ギリーは、空へと飛翔する。猛烈な雨が身体に当たり、痛みを感じる。そして俺たちは十分な高さの場所からサガン都を見下ろす。
「あの場所か。ギリー見ろ。あそこに多くの大砲が置かれている。あの4人のハンターの仕業に違いない。俺たちが現れた事をサガン都の兵士達に伝え、迎撃体制を整えたのか。」
「ギャオオオオオオッギャオオオオオオ」
ギリーは、2回の咆哮を続けサガン都を睨み付ける。大層ご立腹なようだ。
俺はギリーに反撃をさせようと思ったが、どうにも気が乗らない。このまま反撃をして良いのか、俺たちはやつらの罠にはまってしまった。あの砲撃だけとは思わない。まだ何か対策をしているに違いない。
「ギリー、少し待ってくれ。まだ何かありそうだ。」
さぁ、どうする?
俺が1人で都へ出向き、内部の様子を確認するか?危険か?いや、それしかない。
俺はギリーにサガン都のすこし近くの広場で降ろしてもらう。
「ギリー、上空で待機しといてくれ。俺は内部の事情を探ってくる。」
「ギャウッ」
ギリーは、了解を示すかのように小さく声を上げ、頷いた。
俺は早速、サガン都へと入る。旅人を装い、誰かと接触しなければ。
豪雨は未だ降り続いている。宿を探していると言えば、信頼してくれるだろう。
だが、驚くことに民家にも人の気配がない。住民を避難させたのか。なかなか手が回っている。あの4人のハンター、都全体を動かせる権力を持っているのか?やはり、ただのハンターではないのか。
俺は雨に打たれながらこの都にそびえ立つ宮殿へと向かう。兵士やハンターがいるなら、そこだ。
そして向かう途中、この都の住人と思われる少女が民家の扉の前に立っていることが確認できた。
「ねぇ、そこで何してるの?」
扉の前に立つ少女は唐突に質問をしてきた。
「雨がいきなり降って来たから、宿を探してるんだ。」
俺は普段優しい口調で他人と話したりはしないが、相手が少女なため、精一杯の優し目の口調で少女に答えた。
「今日は外へ出ちゃダメなんだよ。危ないんだよ。」
「どうして危ないの?」
「人を食べちゃうモンスターが襲って来るんだって。」
「君は外にいて大丈夫なの?」
「つまんないから出て来たの。」
「そ、そう。怖くないの?」
「大丈夫!強いハンターさん達がこの都にいるから!」
少女の顔がパッと明るくなった。
「その人たちはどこにいるの?」
「この都のどこか!」
「、、ありがとう。君は家に入った方がいいよ。じゃあね。」
この少女に有益な情報を求めている俺が馬鹿だった。俺は少女に別れを告げ、宮殿へと向かった。そして、宮殿の入り口が見えて来たところで足を止め、様子を確認する。
入り口に人はいないな。中まで入っていくしかないか。
俺は、宮殿の入り口からゆっくりと中に入る。大きな柱に支えられたこの宮殿はかなり巨大な建物だと見て感じ取れる。そんな感想を抱いていると後ろに何者かの気配が感じ取れた。俺は後ろを振り向く。
「おい!貴様何者だ!この宮殿は一般人が入ることは許されていない。しかも、現在は外出禁止命令が出ているんだぞ、はやく戻れ!」
銀色の鎧を身につけ、長い槍を持った兵士が俺に命令する。
「いや、俺は今日ここに訪れた者だ。一体ここで何が起きてるのか分からないから宮殿へ来た。」
「旅の者か。今、この都は忌々しいモンスターの襲来に備え厳戒態勢を敷いている。つい先ほど、モンスター、喰人竜に襲撃を受けたが、追い払うことができた。だが、命を取るまでには至っていない。だから現在も厳戒態勢が続いているのだ。」
「そんなことが。なんというタイミングで来てしまったんだ。俺はどうすればいい?」
「外は危険極まりない。あの喰人竜が徘徊している可能性もある。お前はここで待機していろ。ここの宮殿には大勢の兵士が待機している。安心であろう。」
「ここに、全ての兵士が集まっているのか?」
「あぁ、そうだ!ここから大勢の兵士による砲撃部隊が構えている。万が一、接近を許したとしても、フォースエレメント率いるハンター軍団が対応する。」
フォースエレメント?
あの4人のハンターのことらしいな。
そして兵力はすべてこの宮殿へ集まっているのか。それにしてもこいつ、こんなにペラペラ喋るのとは兵士失格だな。




