討伐、そして邪魔者
ーーグルーン荒野ーー
「ギャオッ」
ギリーが帰りを出迎えてくれる。
「良い情報が手に入ったぞギリー。お前の大好きな戦争が始まるかもくしれない。」
「ギャオオオッ」
「あぁそうだ、強い奴ら、兵士が集まる。けど、まだ始まりそうにない。だからその間、別のターゲットを見つけた。」
俺は、サガン都から持ち帰ってきた1冊の本を開き、あるページを見せる。
「ギャオ?」
ギリーは、目の前に描かれたある一体のモンスターを見る。
「これがサガン都の近くに出没したらしい。牛に酷似しているモンスター、名前はカウラスだ。俺はこいつの悲鳴が聞きたい。さらに、こいつの頭から生えている2本の角をサガン都に持ち帰れば報酬がもらえる。」
「ガウゥゥ」
「ははっ、人にしか興味のないギリーには、面白くない話かもしれないな。だけど協力してくれよな。未だ見たことのないモンスターには興味があるんだ。新しい悲鳴だって聞ける。」
「ギャオスッ」
ギリーが俺の言うことを聞かなかったことは一度も無い。相手は人でないにしろ、ギリーはやる気を見せてくれた。
「今日はもう遅い。明日の朝にサガン都の近くにあるオフレイン森林に向かおう。」
ギリーに明日の予定を話し、家に入った。
俺は、ある一つの試みを考えていた。それは、ギリーと同じように俺と意思疎通ができるモンスターを探し出すことだ。今回のカウラス討伐は、その第一歩だ。
俺はすこし胸が高ぶった。俺の最高のパートナーはギリーの他に考えられないが、仲間が増えればさらに恐怖を与えられる。そう考えると、一刻もはやく、意思疎通のできるモンスターを見つけだしたいと考えていた。
ーーサガン都•酒場ーー
ギリアスが家でゆっくりしている頃。
サガン都の酒場は大きく賑わっていた。
「おい、聞いたか?あの有名な4人のハンター、《フォースエレメント》達が酒場にいるってよ!」
酒場近くにいた1人の男が、その場にいた住民に伝える。
「やっと来てくれたか!あの凶悪なモンスターもこれでお終いだな!」
「これで被害も少なくなるわ。安心して外出できるのは嬉しいわね。」
フォースエレメントと呼ばれふハンター達の来訪を聞いた住民は歓喜の声を挙げる。
酒場では、4人のハンター達が明日の計画を練っていた。
「オフレイン森林にカウラスが出没、か。通常、ここには生息しないはすだが。本来の生息地であるマヒュード森林で何かあったのか?」
背丈190cmにものぼる大柄な男が、浮かない顔で話し出す。
「グラウス隊長、原因追求はカウラスを倒した後です。」
メガネをかけ凛とした表情の女性がグラウスに注意する。
「あぁ、そうだなエミリ。討伐は明日の朝だ。カウラスは、体格に似合わない素早さと、太い腕を利用した攻撃を行なーー」
「わかーってますって隊長。その情報は出発する前に皆で調べたでしょうよ。」
グラウスが再度話を始めたが、今度は隣にいた若く、少しチャラチャラした青年に遮られる。
「今回も、いつも通り戦う、ですよね隊長。」
お次は、見るからに優等生でありそうな青年が話しだした。
「はぁ。これじゃあ作戦会議にならないな。まぁダレンの言うとおりいつも通り怪我無く終えてくれればそれでいい。」
グラウスは、呆れた表情を見せるが、このやり取りは毎度のことである。
「じゃあ、これで終わりですね。私は宿で休息を取ります。」
エミリは、そう言うとその場を後にした。
「なら俺はーっと、お酒でも堪能しちゃおっかな。」
「よせバイレルト。明日は早い。全員、宿に戻って休息だ。準備を怠るなよ。」
「隊長の言うとおりだバイレルト。少しは大人しくしていろ。」
「うるせぇよ、ダレン!お前が偉そうに言うな。」
「なんだと?」
「やめろ、二人とも。さぁ、宿へいくぞ。」
グラウスは、バイレルトとダレンの間に入り、宿へ向かう。
「《剛腕の戦士》グラウス、《冷徹の魔道士》エミリ、《神速の双剣使い》バイレルト、《高貴な槍使い》ダレン!本物のフォースエレメントだ!すげええ。」
1人の少年が目を輝かせながら、4人の姿を見送る。周りの住民も、それぞれ尊敬の眼差しで見ている。サガン都は、一日中フォースエレメントの話題で持ちきりだった。
次の日の朝ーー。
ーーオフレイン森林ーー
調べた情報ではこの辺りだが。
木が邪魔で見えないな。
あそこの少し開けた場所で一旦降りよう。
ギリーは、俺を乗せその場所へ向かう。
ギリーから降り、辺りを見渡すが、カウラスがいる様子はない。
「こんな広い場所で探すのは一苦労だな。」
ここでカウラスを見つけるのは大変そうだが、カウラスの噂が広まった今、この地に足を踏み入れる者がいない今がチャンスだ。ハンターも相当実力がある者以外はここに立ち入らないだろう。
まぁ、見つかっても構わん。
ギリーのおやつになるだけだ。
そう考えていると、遠くの方から何か音が聞こえてきた。
耳を澄まして聞いてみる。
「ゥォォォォォ」
これは、モンスターの咆哮?
カウラスかもしれない。
「ギリー、あっちだ。」
ギリーの背中に乗り咆哮が聞こえてきた場所へと移動する。
ギリーと俺は上空からカウラスを探す。
そして木々が次々となぎ倒されていく様子が確認できた。ギリーは、両翼を力強く使いその場所へ近づいていく。
ん?あれは、間違いなくカウラス!
だが、嬉しくないな。
4人のハンターらしき奴らと戦っている。
だが戦いはまだ始まったばかりに見える。
「ギリー、お前の好きな、人の肉がある。だが、そいつらは後だ。まずは、カウラスだ。」
「ギャオオオオオオオッ」
ギリーの咆哮は、森林全体の木々や揺らし、鳥達を一斉に空へ飛び立たせる。カウラスと4人のハンターがギリーの咆哮を聞き、上空を見上げる。
そして、俺たちは4人のハンターとカウラスの丁度真ん中に降り立った。ギリーはカウラスを睨みつけ、大きく両翼を広げ威嚇をはじめる。
「あれはッ、喰人竜ッッ!?」
4人のハンターの中で1番大柄な男がそう叫んでいる。
「俺達の獲物だ。邪魔をするな。」
「なんだと!?先に見つけたのは俺達だぞ!邪魔をするな!」
ほーぅ、ギリーを見ても怖じ気づかず対抗するか。命知らずな奴らだ。カウラスと共に食いちぎってやろう!
だが、この状況ではカウラスとの意思疎通を図る余裕がないな。仕方が無い、今回は諦めるか。
俺は今日やろうとしていた試みを断念しなければいけないことに落胆したが、問題ない。こいつらの悲鳴を聞かせてもらおう。
まずはカウラス、お前からだ。
ギリーは威嚇をやめ、カウラスに襲い掛かる。低空飛行で一気に近づき、右の前脚から伸びている大きな爪でカウラスの胸を切り裂いた。
「ウゴオオオオオ、ウゴォォオ」
カウラスは悲鳴に似た雄叫びをあげ、後ろに大きく後退した。胸には大きな傷がつけられ、赤い血が噴き出している。これで死ななかったカウラスはやはり化け物、モンスターだ。だが、ギリーにしてみれば、ただの案山子同然だ。ギリーは、距離を詰め、カウラスの喉元にかぶりつき、カウラスを押し倒す。身動きの取れないカウラスは反撃することも許されず、すぐにボロボロになって絶命した。
見るも無残な光景に後ろでただ見ることしかできなかった4人のハンター達の顔は蒼白だった。
「喰人竜がなぜ、モンスターを!?」
「食べないだけで、襲いはするものだ。世の中弱肉強食なんだよ。さぁ、次はお前達の悲鳴を聞かせてくれよ。」
ギリーの目の色が変わり、翼を大きく広げる。この翼を大きく広げる動作はギリーがやる気に満ち溢れている証拠である。人の肉に目がないギリーは、一気に襲い掛かる。地についた四肢で地面を抉りながら駆け、ハンター達に近づいていく。背中に乗っている俺は、この勝敗が見えている戦闘を見ているだけでいい。
4人のハンター達は素早くその場所を離れ、ギリーの突撃をかわした。ギリーは、周りを見渡し1人の男に狙いを定める。双剣を持った男だ。俺とも同じくらいの年齢だろうか、若くは見える。
そう考えている内に、ギリーは双剣使いと距離を詰めていた。前脚から絶え間ない引っ掻き攻撃を繰り出し、双剣使いを追い込む。
ーーだが、たいしたものだ。双剣使いはギリーの攻撃を見極め、ギリギリのタイミングで避けていた。しかし、こうして避けていられるのも時間の問題だろう。
「くっ!化け物がっ!」
双剣使いは、反撃の隙さえ見せないギリーの攻撃に困惑する。だが、腹の立つことに諦める姿勢を見せない。まだ目には光が残っている。
「そこまでよ!」
後方から女の声が聞こえる。俺は振り返るとローブを身につけた女が、手に炎の塊を生み出している。
魔法を使える人間か。これは驚いた。この世界で魔法を使える人間など噂でしか聞いたことないし、実際に目にしたのは始めてだ。だが、そんなことで感心してはいられない。
「ギリー、後ろだ!」
その言葉と同時に、女は炎の塊を放った。赤く輝いている球状の炎の塊はギリーの身体にめがけて真っ直ぐ飛来してくる。ギリーは、俺の言葉を聞き、後ろに方向転換する。炎の塊を見たギリーは驚くべき反射神経で右の前脚を使い、炎の塊を受け止めた。炎の塊はその場で小さな爆発を起こし、周りは明るく光った。だが、ギリーは平気なようだ。
ギリーの強さには常に驚かされる。竜だから当然とも言うべきなのだろうか。ギリーには、そこらにいるモンスターや人間などは塵に等しく感じるのだろう。
ギリーは炎の塊を防いだ後、次の標的を女に変える。それに気が付いた女はその場から離れた距離を取った。だが、その距離などなんの意味も持たない。一瞬で間を詰められた女は、目の前に氷の壁を生成した。だが、魔法で生み出した氷の壁はギリーの前脚で簡単に砕け散る。
「お前に喰われた人々の恨みを俺が晴らしてくれる!」
次は、やけに優等生っぽい槍を持った男か。こいつも若いな。
槍使いは、ギリーの死角をつき、槍で尻尾を突き刺した。だがギリーは見向きもしない。女が次々に作る様々な属性の壁、盾を破壊し女を襲う。女は後ろに後退を続け、時には木を盾に距離を取ろうと必死のようだ。だが、ギリーは大きな木をもなぎ倒し、スピードを緩めることなく突き進んでいるため、距離など開かない。遂に目の前まで近づいたギリーは、両前脚で容赦のない引っ掻き攻撃を繰り出す。女がかろうじて避ける度に、ビュンッという空を切る音が響く。そしてギリーは不意に尻尾で後方にいた槍使いを叩き飛ばした。
「ダレンッ!」
吹き飛ばした槍使いの様子も確認すること無くギリーは女への攻撃をやめない。右、左、右、左、女を切り刻むまで決して止みそうにない攻撃はハンター達に絶望を教え込む。
「諦めろ、ハンター!4人掛かりでも何人掛かりでも敵いはしない!」
自分たちの圧倒的劣勢を感じているハンターをさらに追い込む。
そして遂に、回避をし続けていた女が転び地面に倒れ込んみ、ギリーにとっては絶好の機会が訪れた。ギリーは左の前脚を大きく振り上げトドメに掛かる。
ーーよく粘ったな、女よ。
俺は悲鳴を聞くため、目を閉じた。
「そうは、、させないッ!」
俺はその声を聞き目を開ける。そしてそこには、ギリーが振り下ろした左の前脚を大剣で防いだ大柄な男がいた。だが、次の瞬間、ギリーの右の前脚に薙ぎ払われ、横に吹き飛んでいた。
「隊長ッ!くっ、覚えていろ喰人竜ッ!いつか必ずお前に闇を見せてやる!」
地面に腰をついた女は、俺達を睨みつけ言い放った。ギリーは、大きく口を開け、女を呑みこもうとする。
その時、目も開けられないほどの光が女を包んだ。いや、他の3人のハンターも包まれている。そして物の見事に消え去った。
「ギャオオ?ガルルルッ」
ギリーは悔しそうにな唸り声を上げる。人を食せなかったことを悔いているのだろう。
「あの女の魔法、か?」
俺はあれが魔法だと確信した。それ以外考えられない。にしても、あいつらめ。あいつらに先を越されてカウラスを倒されていれば、何もかも最悪だった。まぁ、ギリーにしてみれば目の前で獲物を逃がしたことは最悪だろうが。
俺たちはカウラスを倒した場所からだいぶ離れた場所にいた。それもそうだろう。あのハンターは逃げてばかりいたんだ。
俺はギリーの背中に乗り、カウラスの角を剥ぎ取りに行く。そして、カウラスの立派な双角を頂いてオフレイン森林を後にした。
ギリーは最後まで納得がいっていなかったが、この怒りは明日にでも晴らしにいこう、と言い聞かせなんとか収めることができた。
明日にでもあのハンターどもを見つけ、ギリーを満足させたい。そしてあいつらの悲鳴も聞きたい。あいつらはおそらく普通のそこらにいるハンターではない事は明確だ。だからこそ、価値がある。
ーー早く会いたいものだ。




