情報、真実を求めて
ーーサガン都ーー
なかなか賑わっている。
大規模な市場が開かれ、商業が発展しているのが一目でわかる。
賑やかで楽しそうな雰囲気はすぐに壊してしまいたくなる。いまこの場にいる人々に恐怖を与え悲鳴を上げさせたい。
だが、今日ここへ足を運んだ理由はそのためじゃない。
俺は、この世界の現状がどのようなものなのかを調べにきた。
どこの国が争い、どこで戦いが起こり、この世にいるモンスターと呼ばれる獣の様子はどのようなものなのか。
まずは、戦場を調べたい。
酒場に行けば色々な情報が聞けるだろう。
人々は俺の道具でしかない。
ーーサガン都•酒場ーー
ここにもたくさんの人がいる。
ギリーが見れば、目を光らせて喰らうだろう。食べ物の宝庫だ。
なるべく1人の役にたちそうな人間を選ぶ。
若者などには聞かない。へらへらした奴らばかりだ。
俺は1人で座り、酒を飲んでいる男を見つけた。早速近づき話を聞こう。
「すまないが、少し聞きたいことがある。」
「ん?あ、あぁ、なんだ?」
酒には酔ってない、話は通じそうだ。
「俺は、あまり戦場について詳しく知らないから教えてほしい。」
「戦場?君がなぜそんなことを?」
「興味がある。こうして落ち着いて暮らせる生活が長く続くか心配だ。」
「はっはっはっ。面白い青年だ。安心しろ、ここは他の国から攻められる心配はない。心配なのは、この近くに潜んでいるモンスターだけだ。」
「モンスター?」
「あぁ、最近モンスターによる被害が増えてな。毎日数十人は怪我をして治療のためこの都にくる。」
「どんなモンスターなんだ?」
「なかなか好奇心に満ち溢れた若者だな。いいぞ、教えてやろう。私は1度見たことがある。」
この男は当たりだ。知っていることなら話してくれそうだ。
「そのモンスターは、牛に似ている。牛と決定的に違うのは、二足歩行ということだ。私も見た時は驚いたよ。普段、私たちが世話をしている牛が二足歩行で歩き回っていたんだからね。」
「無事だったのか?」
「あぁ、私かね?私はすぐに逃げたよ。目が完全に獣だったし、大きさも牛の2倍くらいはあったからね。あんなのに襲われたら怪我だけじゃすまないよ。」
牛に似たモンスターか。そいつの悲鳴も聞きたいところだな。
人間以外の悲鳴も味があってなかなか良い。
「おいおい、その化け物に会いたそうな顔をしてるな?やめとけ、やめとけ。死ぬぞ。」
「大丈夫だ、会わない。そいつに会ったら迷わず逃げよう。で、この都のハンター達は何か対策を取らないのか?」
この世界では、モンスターを狩るものの事をハンター、人間と戦う者を兵士と呼んでいる。人間も忙しいものだ。時にはモンスターと争い、時には人間同士で争う。
「最近やっとハンター達が討伐に向かうようになった。今まではこの地は平和だったもんだからハンターが来ること自体が少なかったからな。」
「被害は少なくなっているのか?」
「いや、ハンター達までもが大怪我して帰ってくる。最近ではハンターに対する不満があちこちから聞こえてくるよ。」
「そうなのか。大変なもんだな。他にも聞きたいんだが、この都以外で戦争をしている国とかあるのか?」
「うーん、あまり詳しくは知らないが。ヤンバル民族とグルニール国が領地の問題で関係が悪化したらしい。」
ヤンバル民族か、野蛮な民族だと聞くが、大国グルニール国にまで喧嘩を売るとは。
「そうか。色々助かった。」
「君、へんな好奇心を抱くんじゃないぞ?命を大切にするんだ、いいな?」
「心配ない。もう子供じゃないからこういうことを知っておきたいだけだ。」
あの男のおかげで知りたいことはほとんど聞けた気がする。
さて、どうしようか?
この場所で更に聞き込みをするか、他の場所で調べるか。
ん、あの人集りはなんだ?
前方にやけに人が集まっているのが見える。
行ってみよう。
「おい、なにかあったのか?」
近くの男に話しかける。
「いや、さっきこの酒場の掲示板に兵士とハンターの招集に関する張り紙が貼られたんだよ。あれだ、あれ。」
男が指差した方向に1枚の貼り紙があった。
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大人数の兵士、求める!
兵士経験、ハンター経験のない者でも志願可能。貢献したものには大きな報酬を与え、地位も授けることにする。
喰人竜の襲撃が増加。
他国との戦争の恐れあり。
グルニール国王、グリムエル
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貼り紙にはそう書かれている。
喰人竜、まさにギリーのことだ。昨日の襲撃も合わせてすでに5回は襲撃したからな。
グルニール国が警戒するのも無理はない。
で、他国との戦争の恐れありか。
なかなか忙しいようだな。
だが、他国ということはヤンバル民族が相手じゃないのか?
「君は志願するのかい?大きな成功をおさめるチャンスだぞ?」
「俺は兵士に向いていない。この街で様子を見ることにする。」
「そうかい、残念だ。ハンター仲間ができまと思ったのに。」
「ハンターになりたいのか?」
「そうさ!俺はこの都を襲うモンスターを倒すのが夢なんだ!はやく1人前のハンターになってこの都に貢献する!」
「そうか。」
なかなか良い情報だ。
これからグルニール国の動向には注目しないといけないな。
よし、ここでの情報収集は終わりだ。
少し、牛に似たモンスターが気になる。
そして、俺は一つ、僅かな希望を抱いている。
俺は人間、ギリーは竜だ。
他の種族というのは共存できないと伝えられているが、実際俺たちは共に暮らし、共存し、共闘している。そして、常に俺の脳はギリーと一緒の血が流れていると告げてくる。この感覚は無視できない。俺は本当にギリーと同じ血が俺にも流れていると確信している。そして、もしかすると、俺とギリーの他に、俺たちと血縁関係を持つ何者かがいると考えている。
この考えが正しいかは分からない。調べようがないが、俺とギリーの血縁関係は必ずだ。そしてもし、同じ血縁関係が居たとすれば、俺たちはさらに、世界を恐怖に陥れることができる。世界の悲鳴を聞けるのだ。
俺にこの考えが備わって以来、俺の好奇心は収まらない。
そしてこの都へ来たのもその手がかりを掴めるかもしれないと思ったからだ。
次は、この都の図書館へ行こう。
ーーサガン都•図書館ーー
立派な作りだ。見渡す限り、本で埋め尽くされている。綺麗に並べられた本が目の前に広がる。
目当ての本を探すのには少し時間が掛かりそうだ。
そして、数十分後。
俺は興味深いタイトルの本を見つけた。
《異種血縁関係について》
俺が知りたい事が書かれてありそうである。
早速、俺はページをめくる。
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この本は、私が長年研究してきた成果を記すものだ。信じるか、信じないかは、読者次第。興味がある者のみ、読みたまへ。
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俺は、どんどん本に目を通して行く。
そして俺が知りたかった事に遂に辿り着いた。
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異種族でありながらも、同じ血を引くということは、あり得る話である。私は実際にその証拠を見た。この本に載せれないのが残念だが。‥私が見たのはある少年と竜だった。彼らは互いに尊重しあい、常に一緒だった。私は目を疑った。最初はあり得ないと思った。しかし、目に映る光景が私の疑念を振り払った。私は、彼らに血をくれないか、とおかしな要求をした。彼らは、すぐに承諾してくれ、私は血を授かった。そして私はその血を、医者である友人に見てもらった。その結果、その血は同一の血だと判明した。
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これだ、この事実だ。
まさか、本当に、こんか事実が得られるなんて。俺たちは血縁関係だったんだ。この少年と竜と俺たちは一致する。
他のページを読んだが、この本の少年と竜は俺たちにあまりに似ていた。一瞬、俺たちの事を書いてるいるのかと疑ったが、そんな記憶もないし、彼らは人を襲ったりしていなかった。
俺たちの先祖、なのだろうか。
様々な考えが頭をよぎるが、いまはこの事実を知れただけで嬉しい。
後は、俺たちの他に血縁関係の者はいるのか、ということ。
このことについて書かれている本は見つからなかった。




