英雄の街ヘイサム、襲撃
空から見下す人間の街は最高だ。
今日はどの街で暴れてやろうか。
「ギリー、どんな人間を喰らいたい?」
大空を飛行する、俺の唯一のパートナーに聞いてみる。
「ギャオ」
短い返事が帰ってきた。
だが、俺にはそれで十分伝わる。
「強い人間‥か。分かった。今日の目的地は英雄の街ヘイサムだ。そこには、日々地上のモンスターと戦っているハンターと呼ばれる輩が集う。」
「ギャオス」
俺の言葉もギリーは理解できる。
こいつと俺は血が繋がっている。
根拠はないが俺の脳味噌がそう告げる。
「あそこを見ろ。でかい塔が建っているだろう。あそこがヘイサムだ。でかい街だから人間はたくさんいる。おまけに強い奴らもな。」
「ギャオオオン」
「‥‥いつも以上に張り切ってるじゃねえか、ギリー。今日は良い悲鳴が聞けそうだ。」
俺は、いつも以上の期待と共にギリーを急降下させる。俺の重心の移動でギリーは移動する。言葉は無くても、俺たちは一心同体のように動きをリンクさせることができる。
さぁ、狩りの始まりだーー。
ーー英雄の街、ヘイサムーー
「あー今日も疲れたぜー。だが今回の討伐報酬はなかなか高い。いい依頼だったぜ。」
「そうだな。だが、報酬が目当てじゃないんだぞ?俺たちはこの世界の人々を守るハンターだ!それは忘れるなよ?」
「あぁーあ、またこりゃ熱心だね。わーかってるよ!俺たちはハンターだ、ハンター。」
ドコオオオオオン
大きな音と共に地響きが起こる。
「うぉ、なんだ!?」
「喰人竜だ!ギリアスが襲ってきたぞおおお!建物の中へ隠れろ!はやく、はやく!」
「喰人竜!?あの噂に聞く竜のことか!?」
ドゴオオオオオン
また大きな音が聞こえてきた。
「ギャオオオオオオオオ」
先ほど2人で喋っていたハンターは急いで外に出る。
すると、頭上には一匹の漆黒の身体を持った竜がこちらを見下ろしていた。
ーーギリアスーー
「見つけた。ギリー、あれがハンターだ。」
ギリーは、俺の言葉を聞き、ハンターに目を向ける。
「喰らえ!」
楽しいショーの始まりだ。
ギリーの背中をしっかりと掴む。人を狙う時のギリーは制御不能、俺は振り落とされないように、背中に乗るだけだ。
「こっちへ来たぞ!」
ギリーは、武器を構えたハンターのもとへ急降下し、大きな牙の生えた口を大きく開ける。
「ギャオ、グルゥ、ガアァア」
ギリーは興奮を抑えきれず、何という意味かも分からない声をあげ、ハンターに噛み付いた。
「うがあああ!」
噛みつかれたハンターが大きな悲鳴をあげる。
いい悲鳴だーー。
俺は思わずにやけてしまう。
もっとだギリー、喰いちぎれ!
ギリーは俺の心の中を理解したかのようにハンターの右足を勢い良く噛みちぎる。
「うあああああああ!」
「レオーーーンッ!!」
ギリーはそのまま右足を呑み込み、近くにいたハンターに目を向ける。
ギリーは一気にハンターとの距離を詰め、右前脚の爪で斬り刻んだ。
「うぐああああ!」
ハンターの力のない悲鳴が、響き渡る。
「もっとだ、もっとだ!もっと悲鳴を上げろ、人間共がぁ!」
俺は感情を抑えきれず、言葉でギリーの勢いを倍増させる。
ギリーは、息絶えたハンターをゆっくりと味わいながら食べ干した。
そして次の標的を探し出す。
俺も周りを見渡したが、人の気配が無かった。
遠くに逃げたかー。
ドン、ドン、ドン、ドン。
だが、そう思った瞬間、周りから大きな音が鳴り響いた。
そして、俺たちの周りに爆発を起こす。
これは、砲弾。
この街のハンターが反撃を仕掛けてきたようだ。
「ギャオオ」
ギリーが砲弾の一発を受け、態勢を崩す。
「飛べ、ギリー!」
俺の掛け声とともにギリーは両翼を広げ、上空に飛ぶ。
空にいれば、砲弾など怖くない。
まだ、俺は満足していない。
悲鳴を聞かせろ、人間ども。
俺は、建物の上で砲弾を撃つハンターを見つけた。ハンターと目が合う。ハンターの目は絶望に犯されているのがよく確認できた。
「あの建物の上だ!」
ギリーは、その建物に目を向け急加速した。
そして、両前脚で建物の上にいた兵士を掴んだ。
「うわぁ!た、た、すけてくれえええ!」
ギリーに掴まれたハンターは、絶望の悲鳴を上げる。
ギリーはそのまま飛び続ける。
「お、おい!竜の上に乗っているのは人間だろ!?なぜ同じ人間を、う、うわぁぁぁあ!」
ギリーはハンターを頭上に放り投げ、落ちてきたハンターをそのまま大きな口で呑み込んだ。
「ギャアアアアアアア」
ギリーの喜びの雄叫びがヘイサムの街に突き刺さる。
空にいるため、砲弾は無意味となり、音も止んだ。俺たちの独壇場だ。
ギリーは大きく旋回すると、建物の上を探し出した。
そして、建物の上に隠れている3人のハンターを捉えたーー。
「ギャオオオオオ」
「見つかった!建物の中へ入れ、はやくしろ!」
もう遅いーー。
「うわぁぁぁああ!」
「たすけてえええ」
「ばけものめえええ」
ギリーは建物の上に強引に着陸し、3人を食いちぎり、細かく刻んだ後、口に運んだ。
建物はギリーの着陸の衝撃に耐えきれず崩れ去っていった。
「ギャオオオオオオオン」
ギリーの満足そうな様子がうかがえる。
「俺も大満足だ。ハンターの無力さってやつを教えることができただろう。悲鳴も十分聞こえた。いい夢を見れそうだな、ギリー!」
「ギャオオオオ、ギャオオオオオ」
そして、俺たちは英雄の街ヘイサムを後にした。
ーーグルーン荒野ーー
ギリーは地上にゆっくりと舞い降りた。
俺はギリーの背中から飛び降り、地面に着地する。
ここは、グルーン荒野。
俺たちの寝床である。ここには一軒家があり、俺はここで、ギリーはこの一軒家の周りで夜を過ごす。
「ギリー、撃たれた所は大丈夫か?」
俺はギリーの横腹を確認する。
「ギャオスッ」
「ギリーが傷を負うはずかない、か。」
余計な心配をした。ギリーの体躯には傷ひとつ無かった。
「明日、俺は街に出掛ける。ギリーのために良い情報を持ってこよう。」
「ギャオッ」
ギリーはその言葉を聞き、嬉しそうに返事をした。
そして俺は家に入った。
ここの家には誰も来ない。だから好都合。
俺が喰人竜の背中に乗っているなんて、誰も知らないし、思わない。
だから、俺は安心して街に出掛けられる。
明日は、色々と調べたい事を調べに行く予定だ。ギリーも今日の一件で飢えの心配は無いだろう。
今日も極上の悲鳴が聞けた。
俺の人生はギリーと悲鳴で成り立っている。
幸せな人生だ。
次は、どこをーー。




