表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色譚録  作者: 花咲詠香
紅と銀
3/9

王女と世話係 1

     Ⅱ:王女と世話係



        1



 くるくると市場を楽しげに駆け回りながら、子どもたちはそれを唄う。

 

  ――黒い色は正義の証。白い色は知恵の訪れ。

  ――二色は偉大な誇るべき色。相対しながら調和を保つ。

  ――茶の色は汚染の象徴。金の色は欲望あらわす。

  ――二色は穢れたいかがわしき色。人の心を弄ぶ。

 

 言葉の意味も、あやふやなまま、しかしそれを、唄う。

 

  ――最後に残るはもっとも醜い、誰にも望まれない色。

 

唄って。踊って。嗤って。


  ――紅い色は醜い悪魔。そこにいるだけで災いを呼び、戦火の炎に油を注ぐ。

  ――この色だけは、あってはならぬ。


 くるくると市場を楽しげに駆け回りながら、子どもたちは唄い続ける。

 唄いながら、子どもたちの中の一人が茶色い髪の男の子を、たまたま通りかかっただけのその彼を、勢いをつけて蹴り飛ばした。


 『きゃはははっ! 茶色だ! きったねぇーっ!』


 ころころと楽しげに笑い合いながら、彼らは駆けてゆく。

 踏みつぶされた無残なりんごを、拾う人なんていなかった。




     ****




 風が羽織ったフード付きのローブをふわりと撫でる。ある一枚のチラシを片手に、青年はゆっくりと人気のない道を歩いていた。

 『紅髪の姫の世話係 引き受けるものには相応の褒美を与える。なお、髪色は黒に限定する。 以上 ※詳細は王城へ訪ねて参るべし』

 おおよそ、そのようなことが書いてあった。報酬の額は莫大も莫大。人生ならば、何度遊んで暮らせるだろうか。

 青年は、にやりとその口角を引き上げた。

 「なるほど、これは手間が省ける………」

 見上げた先には、黒く浮かび上がるアレミス城のシルエット。その壮大さはきらきらと光る朝日を受けて、より際立って見えた。………しかし、青年の視線は、城の中心から外れたところにポツンと寂しく立っている、一つの塔に注がれていた。

 「………今度こそ、」

 突然、ひときわ強い風が吹く。

 風は、青年の言葉の続きと、深く被られたフードを一緒にさらっていった。

 朝焼けの中。取り去られたフードの下で、ぎらりと金色の光がきらめく。

それは、青年の瞳だった。

 風はそのまま、青年の髪を舞い上げる。


 それは、朝日に照らされキラキラときらめく、美しく見事な『銀髪』だった………。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ