王女と世話係 1
Ⅱ:王女と世話係
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くるくると市場を楽しげに駆け回りながら、子どもたちはそれを唄う。
――黒い色は正義の証。白い色は知恵の訪れ。
――二色は偉大な誇るべき色。相対しながら調和を保つ。
――茶の色は汚染の象徴。金の色は欲望あらわす。
――二色は穢れたいかがわしき色。人の心を弄ぶ。
言葉の意味も、あやふやなまま、しかしそれを、唄う。
――最後に残るはもっとも醜い、誰にも望まれない色。
唄って。踊って。嗤って。
――紅い色は醜い悪魔。そこにいるだけで災いを呼び、戦火の炎に油を注ぐ。
――この色だけは、あってはならぬ。
くるくると市場を楽しげに駆け回りながら、子どもたちは唄い続ける。
唄いながら、子どもたちの中の一人が茶色い髪の男の子を、たまたま通りかかっただけのその彼を、勢いをつけて蹴り飛ばした。
『きゃはははっ! 茶色だ! きったねぇーっ!』
ころころと楽しげに笑い合いながら、彼らは駆けてゆく。
踏みつぶされた無残なりんごを、拾う人なんていなかった。
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風が羽織ったフード付きのローブをふわりと撫でる。ある一枚のチラシを片手に、青年はゆっくりと人気のない道を歩いていた。
『紅髪の姫の世話係 引き受けるものには相応の褒美を与える。なお、髪色は黒に限定する。 以上 ※詳細は王城へ訪ねて参るべし』
おおよそ、そのようなことが書いてあった。報酬の額は莫大も莫大。人生ならば、何度遊んで暮らせるだろうか。
青年は、にやりとその口角を引き上げた。
「なるほど、これは手間が省ける………」
見上げた先には、黒く浮かび上がるアレミス城のシルエット。その壮大さはきらきらと光る朝日を受けて、より際立って見えた。………しかし、青年の視線は、城の中心から外れたところにポツンと寂しく立っている、一つの塔に注がれていた。
「………今度こそ、」
突然、ひときわ強い風が吹く。
風は、青年の言葉の続きと、深く被られたフードを一緒にさらっていった。
朝焼けの中。取り去られたフードの下で、ぎらりと金色の光がきらめく。
それは、青年の瞳だった。
風はそのまま、青年の髪を舞い上げる。
それは、朝日に照らされキラキラときらめく、美しく見事な『銀髪』だった………。