2/7
―Ⅱ―
逃げた女性の名は佐易である。今日は田中と食事に行くつもりであった。 「どうした。」
田中は佐易に訊ねた。佐易が思い詰めたような表情をしていたからである。佐易はボソリと言う。
「…怖い事があった。」
*
「…なるほど」
レストランにて、田中は佐易から先程起きた出来事の一部始終を聞いた。
「そりゃヤバい奴だな。妄想に狂っちゃてるな。そいつに何があったか知らんが、怖いな。」
「一応会社員みたいなの。名刺を受け取っちゃったんだけど…」
田中は名刺を眺めた。
「第八株式会社?」
「知ってるの?」
「友達が勤めてる。」
「そう…」
しばし沈黙が漂い、レストランの中学生の話し声が聴こえてくる。「なあ、おまえ彼女いるの」「いねえよー!」「うそだ!あの時」
やがて、田中は口を開く。
「なあ。」
「何?」
「友達に訊こうか?彼の事。」
「え、いいの。」
「それくらい、何て事ないさ。久しく彼とは飲んでなかったし。」
田中は名刺を財布にしまう。