―Ⅰ―
その昼下がり、亜奴田は都会の雑踏を歩いていた。人々は彼に奇異の眼差しを向ける。なぜならば彼は手から足まで泥だらけの汚れたスーツで、ふらふらと歩いていたからである。
彼の脳裏に未来の光景がちらついていた。といっても、今の所は黄色く目映いこの街の光景しか見えなかった。じろりじろりと睨む人々も自分が強い光に照らされている事に気づいてない。
亜奴田は、人々の中のこじゃれた鞄を持ったごく普通の女性と目が合う。その時、彼に一つの明確な光景が飛び込んだ。世界を焼き尽くすような強い黄金の光に照らされたさっきの女性は、まるで神々しく変化していた。無機質な白い地面の上に立ち、クリーム色の絹の服を纏い、こちらを静かに見下げるように一瞥しながら右腕から鳩を離す。
「あなたが、救世主ですか!」
と彼は叫ぶ。女性は驚く。彼は駆け寄り、名刺を右手に押し付けながら早口でまくしたてる。
「あなたが救世主なのですか、一体あなたは何者でしょう、私は亜奴田 辰彦と申します、しがない社員ですが、うちゅうじん、うちゅうじんを見まして、まもなくこの世界は滅びる、しかし私は未来が見える、あなた、あなたは救世主なのです、あなたは一体何者何者でしょうあなた」
女性は即座に後ろを振り向いて走り出す。
「待ってください!あなたが重要なのです!ぜひあなたから聞きたい!あなた」
「おいいい加減にしろ。」
亜奴田の目の前を男性が立ちはだかる。そうしてる間も女性はかなり遠くに逃げてしまった。亜奴田は叫ぶ。
「もし心当たりがもしありましたら、是非名刺からご連絡をご連絡を」