7月30日 異変の前兆?
深夜、一匹の猫が町を歩く。常人には”見えない”その猫は、見えない者にも感じられるほどの異質な気配を纏い、目は妖しげに赤く光る。彼は混濁した意識の中、精霊憑きを抹消すべく、あるいは精霊憑きを探し、あるいは精霊憑きを求め、フラフラと町をさまよう。
ふと、彼が空を見上げる。空洞の中に赤い光が灯るだけの目には何も映らないが、彼はたしかに感じた。・・・獲物であり天敵であり救いでもある、精霊憑きの気配を。半ば自我を失い、目的、存在、時間さえもわからない彼だがその存在を感じたとき、言いしれぬ喜びを感じ、その口をニィッと不気味につり上げる。そして再び歩を進め・・・
「___ッ!」
目を覚まし、周囲を見回す。いつもの部屋、同じベッドの上にルナの姿。・・・ん?
「レイ、うなされてたみたいだけど大丈夫?」
「うん、怖い夢を見てた気がするけど・・・何でルナが隣で寝てるの?」
何か、すごく怖い夢を見ていた気がする・・・なんだったかは思い出せないけど。
「それは・・・えへへへへ・・・」
「笑ってごまかすなっ!」
「いいじゃん、レイの近くって落ち着くし」
「理由になってないよ・・・」
まぁ、ボクもルナが近くにいると落ち着くというか、安心したりするけど、ちょっと気恥ずかしいからそれは言わないでおこうっと。
ふと視線を向けた窓の外、塀に乗った猫と視線が合う。猫はこちらに気づくと、ニイッと口をつり上げ・・・
「レイ?さっきから顔色が悪いみたいだけど・・・」
「え?あ、大丈夫だよ」
さっき見た夢、猫と関係あるのかな・・・・・・夢は夢、気にしても仕方ないよね。
「それならさ、レイ、海に行こうよ~。ほら、この前のコンテスト用に水着買ったでしょ。せっかくだからさ、海行こうよ~」
「え~・・・暑いじゃん・・・」
ルナは相変わらずのんきだな~・・・
「暑いからこそ海に行くの!水に入ってれば涼しいよ?」
「う~・・・じゃあ、また今度ね?今日は準備とか何もしてないし・・・8月に入ったあたりにしようよ」
海に行くならいろいろ準備した方がよさそう・・・あ、パラソルとかは貸し出ししてたっけ。
「仕方ないな・・・忘れないでよ?」
「はいはい・・・」
忘れてても連れ出される気しかしないんだけど・・・。
「あ、夕飯の材料買いに行かなきゃ」
今日の夕飯は何にしようかな・・・
「ボクもついてく!」
「じゃあ、準備してから行こうかな」
今日の服はホットパンツにシャツ。この前ルナが着てたらしいから、(無理矢理)借りたんだ。男だったときのものほどではないけど動きやすいし、スカートよりはましに思える。
「レイって何着ても似合うよね~」
「そうかな?」
たしかに、自分で言うのも変だけどこの身体は美少女といえるものだと思う。どうせなら美男子がよかったけど。美ってつかなくても男がよかったと思うけど。
「何着ても似合うなら男物を着たいな・・・」
「それはダメ!もったいないじゃん!」
「えぇ~・・・」
何着ても似合うって言ったのはルナのほうじゃん・・・それに、もったいないってなんなんだろ?
ルナと手を繋ぎ、買い物に行く。・・・手を繋いでるのはルナに頼まれたからであって仕方なくだからね?
買い物から帰る頃には夢のことはすっかり忘れていた。家の周りを徘徊する猫にも気付かず、ミゾレの姿が見えないことも、精霊は気まぐれなものだから、と気にとめなかった。
・・・彼は満足げに笑う。昨晩、精霊を一人排除することに成功したからだ。これで、精霊憑きに一歩近づいた・・・と、満足しつつ、じっと機を待つ。日中ではダメだ。力の大半が使えない状態では、精霊は相手にできない。夜であれば、力を使える。故に、精霊であっても単体なら勝てる、と彼は確信していた。だから、日中は寝ていよう。力を蓄えるため、精霊憑きを守る精霊を確実に排除するため・・・
なにやら不穏な気配ですがレイ君は平常運行です