7月31日 邪霊と浄化とお風呂とルナと
「ねぇ、ミゾレ知らない?」
夕食の席でルナが口を開く。
「さぁ・・・昨日から見かけてないけど」
そういえば、ミゾレが1日以上家を空けるのは珍しいかもしれない。
「もしかして・・・」
ルナが珍しく真面目な表情で考え込む。・・・明日は雨かな?
「レイ、ちょっと大事な話があるんだけど・・・」
いつになく真剣な表情なルナ。・・・嫌な予感が・・・
「後で、部屋に来て。そこで話すから。・・・命に関わるような話だから、真面目に聞いてね」
そう残して部屋に戻るルナ。ルナ、いつもボクの部屋で寝てるし自分の部屋に戻るのって珍しいんじゃないかな・・・なんて軽く現実逃避しつつ、大事な話なら、とメモ帳を取りに自分の部屋に向かう。命に関わる、なんて言われても実感がないよ・・・もしかして、体質とかそう言う話なのかな?
部屋の前に立ち、そこで違和感を感じる。部屋から感じる、寒気。なぜか、この扉を開けてはいけないような、そんな気がする。・・・ルナが変なこと言うからそんな気がするだけかな、と一息に扉を開け・・・
「・・・ッ!?」
部屋の中心の黒い影に身が竦んだ。よく見ると、こちらに背を向ける形で猫が佇んでいる。なんだ猫か、と部屋に踏み入り、猫を部屋からだそうと手を伸ばしたとき、猫がこちらに気付いて振り向く。
「ぅえ!?」
振り向いた猫の、首から上は・・・頭蓋骨。さっきまであったはずの耳や毛が消失し、白い骨だけになっている。落ち窪んだ目の部分、赤い光がこっちを捉え、カタカタとどこか喜んでいるような様子で歯を鳴らし、こちらにヨロヨロと歩いてくる。
「・・・ひっ・・・」
逃げなくては、と本能が全力で警報を鳴らしているが恐怖に竦んだ体は動かない。必死に後退するものの、足がもつれて尻餅をつく。それを見て骸骨猫がニタァと笑い、飛びかかってきて・・・
「フギャゥッ!?」
「え・・・?」
いつの間にかボクの体を覆っていた白い靄のようなものに触れた、バチィッと派手な音がして弾かれる。今のは・・・?
__レイ、下がってて!
直後、部屋に飛び込んできた白銀の毛玉が骸骨猫に飛びかかる。
「・・・ルナ!?」
骸骨猫とルナはしばらくもつれ合っていたが、ルナが骸骨猫の上に乗る形で動きが止まる。
__レイ、コイツを”浄化”して!
骸骨猫の頭を前足で押さえたルナが鋭く叫ぶ。
「えっ?」
浄化、と言われてもなんのことだか・・・
__何か武器になる物を想像して!強く念じれば、形になるから!
武器・・・武器?想像って言われても・・・武器と言えば、銃?細かい形はわからないけど、無理矢理それらしい形を念じる。すると、手元にずっしりとした感覚がして・・・
「・・・なんで手に銃が?」
__後で説明するから、今はとにかくコイツを”浄化”して!
「浄化って・・・どうやって?」
もう、なにがなんだか・・・
__聖気・・・レイの周りにある靄とか、手に持ってる銃を作ってるモノをコイツにぶつけて!
「えと、えと・・・わかった!」
ルナに言われてよくわからないながらも、すべきことを理解する。ボクは手に持った銃を構え、しっかりと狙いを定めて・・・
「どぅおりゃぁああああああっ!!!」
気合い一投、手に持った銃を全力で投げた
__ちょっ・・・投げるの!?
骸骨猫に乗っていたルナがあわてて跳び退く。渾身の力を込めて投げた銃は、ルナから解放されて起きあがった猫の額に鈍い音を立てて命中した。
「ストライク!」
__女の子が上げるような声じゃなかった気がする・・・
思わずガッツポーズ!・・・の、直後に目眩がして、倒れこむ。薄れる意識の中、ルナの声と硝子の砕けるような音が聞こえた気がした
「うぅ・・・あれ?ボク、なにしてたっけ・・・?」
「あっ、起きた!レイ、体の調子は?」
目が覚めると、目の前、数センチのところにルナ(人型)の顔。
「ルナ、顔が近いって・・・」
少し顔が熱くなる。ルナの見た目は美少女で・・・って、今はボクもそれとそっくりの見た目なんだっけ・・・
「あっ、ゴメン・・・」
ルナが離れて落ち着いたところで状況整理。・・・ええと、ボクはなにしてたんだっけ・・・。そうだ、骸骨猫に襲われて・・・
周囲を見回して状況確認。骸骨猫の姿はなく、いつも通りのボクの部屋に茶色と水色、2個のビー玉のようなモノが転がっている。
「ええと・・・さっきの猫は?」
「レイが投げた銃?で浄化されたよ。ほら、そこの玉が邪霊だったやつだよ」
「ええと・・・とりあえず、さっきのが邪霊っていうんだよね?邪霊ってなんなの?」
まだ頭が混乱してる気がする・・・とりあえず、状況説明を求めるっ!
「ええと・・・邪霊っていうのは、精霊が変化したもので・・・精霊を閉じこめるような感じで邪気って言うモノでできた殻に包まれてるんだ。で、レイの使える聖気って力でその殻を壊して、中の玉だけにしたわけ。玉の中には精霊が入っていて・・・普通は一つなんだけど、なんで2個あるんだろ?」
と、いうことはこの玉の中には精霊が入ってると・・・。
「ええと、どうすれば精霊を出せるのかな?」
片方、水色の方を拾い上げて透かしてみる。中でキラキラと光っててちょっときれいだな、と思ったり
「レイなら普通に壊せるはずだよ。こう、壁とかに叩きつけて・・・」
以外と雑な感じが・・・まぁいいや
「どぅりゃぁっ!!」
おもいっきり壁にぶつけると、パキン・・・と澄んだ音がしてあっさり砕けた。中から光の粉が出て、ちいさい人の形を作り・・・
「「ってミゾレ!?」」
あ、ルナとハモった・・・と、それより、何でミゾレが邪霊の中から!?
__ぅ・・・ん・・・。あれ?私はなにをしていたのでしょう・・・
「ミゾレ、邪霊に食べられてたの!?」
邪霊って精霊を食べるんだ・・・?
__はい、どうやらそのようですね・・・。レイが浄化したのですか?
「まぁ、そういうことになるのかな・・・。ミゾレ、怪我とかはない?」
__はい、大丈夫です。
ミゾレの姿は前と変わらず、どこにも以上話さそうに見える。・・・昨日から見かけないと思ったら、食べられてたって・・・
「あ、もう一個の方も砕いた方がいいよね」
「うん、お願い。それ、精霊憑きしか干渉できないからボク達は壊せないんだ・・・」
「へぇ、そうなの?・・・どぅりゃぁっ!!」
__レイ、それは女の子が出す声としてはどうかと思いますよ・・・
「いいじゃん、元々男だし・・・」
砕けた玉からは、さっきと同じく光が出て、猫のような姿を作り・・・
__ふぅ~・・・やっと出られたぜ、オイ!
焦げ茶色の猫になった。・・・なんか目つきが悪いな・・・
__てめぇらが助けてくれたのか?一応、感謝しとくぜ
「なんか偉そうなやつ・・・」
ルナがぼそっとつぶやく。たしかに、ちょっと偉そう・・・
__文句あんのか、あぁ?
「む、やるの?なら手加減はしないよ!」
「ルナ、喧嘩腰にならないの!」
__けっ・・・。一応名乗っとくが、オレ様はクレイだ。助けてもらったことにゃ感謝するが、なれ合う気はないからな。
それだけいってこっちの名前も聞かずに消えるクレイ。
「・・・なんだったんだろ」
ボクに聞かれても・・・。あ、そうだ。
「ルナ、さっき大事な話があるって言ってたけど、結局なんだったの?」
「え?あ、そういえばそう言ったっけ。ええとね・・・大事な話って言うのは、邪霊のことだったんだ・・・」
「えぇ!?なにそれ・・・もうちょっと早く話してほしかったよ・・・」
事前に説明を受けてればパニックになることも・・・あった気がする。知ってても怖いモノは怖いよね・・・
「はぁ・・・なんか一気に疲れたよ・・・」
__では、お布団を敷きますのでレイとルナはお風呂に入ってきてください。
ミゾレがぺこりとお辞儀しながらボクとルナを部屋から押し出す。
「ねぇ、レイ・・・」
「ぅん?」
お風呂はルナの後でいいかな、なんて考えつつリビングに行く途中、ルナに声をかけられる
「お風呂、一緒に入らない?」
「へっ?」
よく聞こえなかったな・・・聞き間違いかな?
「だから、お風呂一緒に入ろうよ!って」
言葉の意味を理解して、一気に顔が熱くなる。
「えぇっ!?ボク、今はこんな姿だけど元々男だからね!?ルナは女の子でしょ!?なんで一緒にお風呂に・・・」
「えぇ・・・女の子って言ってもレイと姿はほとんど変わんないじゃん。レイ、一人でお風呂入るときは平気なんでしょ?」
それは・・・たしかに、この体になって最初こそ戸惑ったけど、今では自分の体をみても何とも思わない。・・・それはそれで精神まで今の体に順応してるみたいでちょっと嫌だけど・・・
「だから、ボクとは言っても平気だよね!ほら、お風呂場に行こうよ~っ!」
「むぅ・・・仕方ないな・・・」
嬉しそうに背中を押すルナをみて、渋々、渋々ながらも一緒にお風呂にはいることに。・・・ほんとに嫌々だからね?
「レイ、ボクが体洗ってあげるよ!」
手をワキワキと動かしながら迫ってくるルナ。嫌な予感が・・・
「えっ、いや、自分で洗えるから・・・」
後ずさるものの、狭いお風呂場では逃げ場も限られている。すぐに追いつめられ・・・
「遠慮しないで、しっかり洗ってあげるから♪」
「ちょっ、まっ・・・みぎゃぁあああああ!?」
ルナに隅々まで洗われることになった・・・
「♪~」
機嫌の良さそうなルナと、色々と失った気分になってソファに倒れこむボク。
「うぅ・・・もうお嫁にいけない・・・」
元々お嫁にいこうなんて気は全く無いけどね!・・・はぁ・・・もう二度とルナとはお風呂に入らないでおこう・・・
こんなゆる~いお話ですが楽しく読んでいただけていれば幸いです~。色々詰め込みすぎちゃったような感じが・・・