第七話 兄
教室に戻ると、みんなはいつも通り、
自分の好きなことをやっていた。
そんな中、一人の少女がやってくる……
「小林さん。宿題のノート、見せてくれない?」
「……………」
私は、聞こえていないフリをした。
こんなやつと話したって、意味がない。
「あんた…無視してんじゃねぇよっ!!」
すると、その少女に急に腕をつかまれ引っ張られた。
少女に連れてこられたのは、人通りの少ない視聴覚室。
そこには、彼女以外に数人の女子がいた。
「やれ」
次の瞬間、私の体に激痛が走った。
お腹をものすごい勢いで殴られたのだ。
私はその場に倒れ込む。
そして、体のあちこちを蹴られ続けた。
意識がもうろうとする中で、頭に浮かんだのは……
そう、兄の言葉───
『つらくなったら兄ちゃんの名前を、心の中でもいいから、
呼びなさい。必ず、助けに行くから。』
私は口にする。
兄の名前を……
泣きながら……
「お兄…ちゃん…。」
そして目を閉じる。
───その時だった。
一筋の光が通ったのは───…
ガッシャン!!!───…
大きな音とともに、視聴覚室の机が倒れた。
「え…?」
私を殴っていた手は止まり、私を蹴っていた足も止まった。
そして女子たちは、音のしたほうを見た。
その時───
一人の女子が悲鳴とともに倒れ込んだ───…
「どうしたの?!」
「誰かに…おされた…。───すごく…冷たかった……」
私を苦しめ続けた、あの気の強い女子たちは顔を見合わせると、
必死に視聴覚室から逃げ出した。
カサッ…
私はゆっくりと、音のしたほうを見る。
…手紙だ。
私は封を開け、便せんに書かれた文字を読む。
そこには───…
『助けに行くって、言っただろ?』
私は目を見開いた。
ゆっくり顔をあげると───
「お兄ちゃん…?」
「うん、そうだよ。」
そう言うと私に近づき、その大きな手を自分の妹の頭にのせるとこう言った……
「よく、頑張ったな。」
そして、優しく微笑む。
「お兄ちゃん…ありがとう…。」
…───気づくと、もう兄はいなくなっていた。
でも、体にはまだ残っていた。
あの、兄の温もりが……
そして、決して忘れることはないだろう。
兄の、優しい微笑みを───…
…───目を開けると、そこはベッドの中だった。
そう、保健室のベッドに……
あの出来事は…夢…?
「目が覚めたのね!小林さん!!」
保健室の先生が駆け寄ってきた。
「心配したのよ。視聴覚室で倒れていたのを連れてきてくれなかったら、
今頃どうなっていたことやら…。」
私は先生の話に疑問をもった。
「あの…誰が連れてきてくれたんですか?」
「誰かしら?見たことない顔だったけど…」
「男?女?」
「男の子よ。」
男?あの場所に男子なんて…
───いた。兄が……
私は自分の手を頭にのせる───……
「その人はどこに行きました?!」
「さあ…どこに行ったのかしら……」
私は時計を見る。
「ありがとうございました!」
そう言い残して、保健室を出て行った。




