第五話 求めた言葉
学校が終わると、すぐに私は走って家に帰った。
家に着くと私の体には、
自分がいじめにあっていることを物語っている、
たくさんの傷とあざがあった。
しかし私は、そんなことなど気にもとめず、自分の部屋へと向かった。
────手紙がある。
そう思ったから。
私はたった一通の手紙に、
『救い』を求めていたのだ。
私は走ってきた勢いのまま、
『奇跡』へと通じるドアを開けた───
「───あった…」
机の上には、私と兄を繋げる一通の手紙と、
一枚の羽があった。
私はその手紙に走り寄り、封を開ける───
『晴香へ
もちろんだよ。
そんなに喜んでくれるとは思わなかったな。
ありがとう。
───兄ちゃんは、いつでも空から晴香のこと見守ってるよ。
なにかつらいことがあるのなら、
なんでも相談しなさい。
兄ちゃんは、どんなときでも晴香の味方だよ。
兄・隼人 』
自然と涙がこぼれた。
私はこの言葉を求めていたのかも知れない。
ずっと、待っていた……
この言葉を───…
頬を伝う涙を拭うこともせず、
私は兄からの手紙を胸に、そっとつぶやいた───
「ありがとう……」
私は、本当のことは言わなかった。
だって、お兄ちゃんに心配かけたくなかったから……
『お兄ちゃんへ
ありがとう。
でも心配しないで。
私、皆と仲良くしてるよ。
毎日が楽しいもんっ!
だから平気っ!
それに、お兄ちゃんからの手紙さえあれば、
なにがあっても大丈夫だから。
じゃ、次の手紙を楽しみに待ってるね!
晴香 』
そう書いた手紙を机の上におき、一人寂しく行動をする。
全ての行動が一人だった。
でも私の心の中は、いつもと違い、
色とりどりの花々で埋め尽くされていた。
ベッドの中で、私は明日を楽しみにして目を閉じた。
その時、気づかなかったことがある。
光の閉ざされた私の目から、
一筋の涙がながれていたことに……
……───
「この光はなんだろう…?」
光の閉ざされた瞳に宿る、一つの光───…
とても優しく、あたたかかった。
ゆっくりと重い瞼を開ける。
すると、さっと通った一筋の光が瞳にうつった。
「えっ?!」
私は急いでベッドから飛び起きた。
しかし、そこには何もなかった。
あったのは、一枚の羽と一通の手紙だけ……
私は手紙の封を開ける───…
『晴香へ
晴香が大丈夫ならいいんだ。
つらくなったら、兄ちゃんの名前を心の中でもいいから、
呼びなさい。
必ず、助けに行くから。
わかったね?
兄・隼人 』
私は思わず笑ってしまった。
お兄ちゃんらしいなって。
だって、できるわけない……
天国にいるはずのお兄ちゃんが、この世界に戻ってくるなんて……
なのに、『助けに行く』って言ってくれた。
そんな優しいところが、
とてもお兄ちゃんらしい、と思った。
私はすぐに返事の手紙を書いた。
『お兄ちゃんへ
うん、わかった!
ありがとう。
でも、ムリはしなくていいよ。
私は大丈夫だから。
前も言ったでしょ?
お兄ちゃんからの手紙さえあれば、平気だって。
だからこれからも手紙、よろしくね。
晴香 』
私は手紙を机の上に置き、学校へと向かった。




