第三話 手紙
家に帰ってきても、
誰もいない。
そっか……みんな、忙しいもんね。
両親は夜にならないと帰らない。
一日中いない日だってある。
兄弟もいないから、家には私一人だった。
……私は自分の部屋へと向かった。
すると、「カサッ…」という音が聞こえた。
そして次の瞬間、「バサッ!!」という音が家に
響いた。
(私の部屋からだっ!!)
直感的にそう思った。急いでドアを開けると、
そこには何一つ変わっていない、自分の部屋があった。
(……物が落ちたのかと思ったのに……)
少し不思議に思いつつ、重たいバッグを下ろし、
何気に机のほうを見る。
すると机の上には……
手紙と、白い羽が置いてあった───……
机の上にあった手紙には、
『小林晴香様』と書いてあるだけだった。
「誰からだろう……?」
私は手紙の封を開け、便せんにしきつめられた文字を読む。
『晴香と会うのは初めてだね。
僕のこと知ってるかな?僕は───』
私は次の言葉に疑いをもってしまった。
『君の兄だよ。』
その言葉に────……
どうしてお兄ちゃんから手紙がくるの……?
お兄ちゃんはもういないんじゃないの?
お兄ちゃんは…お兄ちゃんは────
『きっと信じられないだろう。
だって、もう死んでいるんだから。
でもね、兄ちゃんは死んでから天国に行くことができたんだ。
しばらく天国で暮らしているとある一人の人にだけ、
手紙をだすことができる。
その一人を晴香、お前にしたんだ。
晴香に会いたい、そう思っていたからね…。
晴香、お前と話すことができてうれしいよ。』
最後には、兄の名前である
『小林隼人』
の文字が書いてあった。
私は手紙と一緒に置いてあった羽を見た。
真っ白で光り輝いていた。
まるで…天使の羽のように……
私は兄が書いた字を、必死に探した。
そうすれば本当に兄が書いたのか、それとも家族が書いたのか、
わかるから……
「あった……」
それは、兄が書いたノートだった。
まだ一年生のときの字で少し幼いが、
便せんに書いてあった文字と、くせが同じだった。
文字と文字の間が等間隔であくこと。
筆圧が強いところもあれば、弱いところもあって……
そして、何よりも兄らしかったのが、
やさしい雰囲気を放つ、綺麗な文字。
「お兄ちゃん…だぁ……」
私の目に、涙が溢れてきた。
私は兄のノートと、私宛てにきた手紙を胸に抱きしめた。
すごく…うれしかった……
私はすぐに返事を書いた。
『私もお兄ちゃんに会いたかった…。
会ってたくさん話したかったよ。
まるで夢みたい!
すっごくうれしい!!
お手紙、本当にありがとう!
お兄ちゃんのことは、パパやママから聞いてたよ。
だから会いたかったんだ。
ずっと、ずっと────……
本当に会えてうれしい!
…これからも手紙…できるよね?』
私は手紙を通して、兄と会っている気分になっていた。
空の遥か上にいるはずの兄と、
会っている気分に……
この手紙がこれからもできるなら、毎日が楽しみなる。
どんなに寂しくても、辛くても、この手紙一つで、幸せな気持ちになる。
だから…だからこれからも、続けたい……
私はそんな思いを手紙にたくし、机の上に置いた───……




