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タイムカプセル  作者:
十二歳
4/6

3 少年

三人は噂の調査の為神社裏手に流れる川に沿う道に来ていた。


 そろそろ、日も随分沈んできて神社側から覗く柳の木と、それを照らす蛍光灯が切れ掛かった街路灯が少し不気味な雰囲気を醸し出していた。といってもその向こうでは獅子や神輿、振り手による威勢の良い声が聞こえてくるので〈いかにもでそうなスッポットですぜ、おこちゃまたち〉と言わんばかりの通りの雰囲気でも翔は恐怖心は感じなかった。


 しかし、横にいる結いはそうでもないらしくオドオドとしている。


 翔は結がぶつぶつ良いながらも付いてきてくれるのが嬉しかった。


 思わず怖がっている女の子を、もっと怖がらせてやろうかと頭の中であれや、これやと考えるが、今の結の顔を横目で見ると本当に泣き出すか、怒って帰ってしまうんじゃないかと思い結局何もしないことにしたのだった。



 例の幽霊が出たというこの通りは大地が言っていた通りにしばらく曲がり道の無い道だった。神社の反対側に流れる川は緩やかにカーブをつけながら流れていて、それに合わせて周囲に土手が設けられ、その上にガードレールと道路が作られている。七百メートルほど向こうに行った所に反対側に渡る小さな橋が架かっており、翔たちの立っている所からそこまで一直線なのだ。



「なんか、神社の裏だけ気温が低い気がするな」


 翔が身震いをする仕草を取った。まだ、暑さが残る日にTシャツ一枚なのは少し薄着すぎたかと思ったが、昼間の気温を考えると仕方が無い。


「気のせいだろ、日が落ちてから気温が下がってるだけだよ。真夏は少し過ぎたんだからそれなりの格好をしてこない翔が悪い」


 ふっと木々の隙間から吹いてくる緩やかな風が翔の腕を撫でた。


「ところで、噂の幽霊さんだけどさ、同じ所に出てくるものなのかね」

「どうなんだろうなぁ、でも、幽霊ってさ、イメージだけだけど、その土地に取り付いて離れられないってのが通例ではないか?」

「確かにそう言われればそうかな・・・、でも、ここだけで目撃されたわけじゃないんだし、そんな都合よく発見出来るわけないよなぁ」


 翔は一息ついて詰まらなさそうに後頭部に手を組んで見せた。



 三人が橋に向かって歩いていると結が何かに気が付いたようだった。


「え、ちょっと何あれ、やだ」


 翔はその一言を聞いて幽霊か?という期待を映し出した瞳で結の指差した先の土手の下に目をやった。


 もう、随分暗くなっていたので土手の下の地形はぱっと見では把握しずらかったが、橋の下で何人か人影が動いているのが見えた。


 そのままじっと見つめていると暗がりに目が慣れてくるにつれてボヤけていた視界が少しだけ明瞭になっていった。どうやら三人の男子が一人を囲んで何やら言い争いをしているように見えた。


「ちょっと、あれは放置しては置けないな」


 大地が翔の目を見て言い、翔はそれに顔を縦にうなずいて答えた。



「おいてめぇ、今何つったんだよ!オイ!聞こえてんだぞ!」


 ボリュームを徐々に上げながら声を発している一人の男子が翔たちに気が付いたらしい。


「よう、翔じゃねぇか。お前達もきてたのかよ、何か用か?」


 目を血走らせながら喋っていたのは隣クラスの陣川だった。


 陣川はいつも同じクラスの餓鬼大将である藤中と一緒につるんでいる奴だ。しかし、藤中とつるんでいるといっても似た者通しというわけではなく、喧嘩っ早く、周りに迷惑をかけるタイプで翔には正直苦手な部類だった。


 上に中学生の兄弟がいるのだが、そいつも随分曲者らしく学校には行くもののグループを校内で作り、喧嘩に明け暮れているらしい。小学生の俺達には関係の無い事だが、大人達の中で話題が上がる度に、人様には迷惑掛けて生きるなだとか、まわりの人間は陣川は中学があがると、そのグループに入るのではないかと噂されている。


 何がそんなに二人の気を合わせているのか、はたまた若しくは陣川が金魚の糞をしているのか。然程興味は無いので二人の関係は詳しくない。



「いやぁ、そうなんだけどさ。ちょっと用事があってそこを歩いていたら見えたもんだからさ」

「なら、さっさとどっか行けよ」


 ふん、っと陣川は顎を向こう側に向けた。


「いやいや、陣川、この状況はいったいなんなんだよ。三人でそいつを囲んでさ」

「おめぇには関係ぇねぇよ」

「関係無くても見ちまったもんだからよ」


 翔が頭を掻いて言った。


「どっかに行けっていってんだ。俺は今苛立ってんだよ、糞が」


 陣川が興奮しながら右のポケットに手を入れて何か握っていて、何かはハッキリ判別は出来ない。中でから布を引っ張って浮き手出ている形は掌の長さ位の棒の様な、板の様なものの形が浮き上がっている。



 あれは・・・ナイフだ。翔は直感的に思った。


 時々陣川は学校に十五センチほどの折りたたみ式のバタフライナイフを持ってきて、昼休みや放課後で見せびらかしていた事があった。


 小学生が持つには手に余って似つかわしくない物を陣川が持っているのも不思議ではない。入手経路の推測は極めて簡単だった。


 もし、あのポケットに入ってるのが予想通りバタフライナイフだったとしたら、この後この現場はどうなるのだろうか、本当に陣川はその乾いた刃を付きたて俺か、その目の前にいる奴の体に付き立てるのか?いや、きっとそんな度胸は無いはずだ。喧嘩っぱやくて馬鹿なあいつでもたったこんな事でナイフ片手に暴れたりしないだろう。


 手の中の汗をぎゅっと握り締め、陣川の目を凝視した。



 橋の柱を背にして陣川達に囲まれている少年が口を開いた。


「あのさ、ちょっと、そろそろ行かせてくれないかな」


 彼は今陣川が右ポッケットの中にナイフが入ってるのを気づいていないのか、それとも度胸が据わっているだけなのか、冷静に落ち着いた様子だった。


「んだと、てめぇ、自分の言った事の落とし前付けずに話してもらえると思うなよ」

「なんにしても、ここで喧嘩しても君にとっていいことは無いだろう?」

「いいことも悪いもどうでもいいんだよ。俺のきがおさまらねぇんだってつってんだよ」


 陣川の苛立ちは募っていくのが目に見えた、マズイぞ、本気でこいつは行動に移しかねん、と危惧して翔は言った。


「とにかく落ち着け、な?いったい何があったんだよ」

「こいつ俺の事を見て笑いやがったんだよ」

「だから、何をだよ」


 陣川は口から音にならない声を発し、唇をパクパクさせていた。

 


 と、その時土手の上から大人の声が聞こえてきた。


「おい、お前ら、何やってんだ!」


 陣川は舌打ちをすると、取り巻きに小さな声で行くぞ。と言うと急いで土手を回り橋を駆けて逃げていった。暗い中ではわからなかったが、半分壊れた街路灯に照らされて陣川の頭には手拭いが巻かれていた。御祭りの仲間入りでもしたかったのだろうか。


 大人が来たのは俺達が陣川に近づく前に、結に誰か呼びに行くよう頼んでおいたのだ。馬鹿な陣川に喧嘩をしたとしても負ける気はしないが、そっちのほうが手っ取り早い事は明確だったからだ。


 勢いだったとはいえ、ぱっと見リンチが始まりそうな現場に飛び込んだのだ。しかも、ナイフを持っているであろう相手に。緊張していた集中力を緩まるかのように、翔は深呼吸した。



「君、大丈夫?」


 翔は彼に近づき顔が見えた。


 そこに立っていたのは俺達と同い年ぐらいの少年。背丈は翔と同じぐらいだろうか。髪の毛は男の子としては長めで前髪は真ん中で分けられ、後ろ髪は首の付け根まですっと伸びている。


前髪から覗く顔は整っており、切れ目気味の目に眉間から綺麗にラインが見て取れる鼻はバランスが取れていて美しい。同学年の少しませてアイドルがどうだ、恋がどうだとかいう話題を好んで上げる女子が彼を見たなら彼女達の心を鷲づかみにするに違いない。


 しかし、ぱっと見た時俺の中に違和感があった。それは見た目には釣り合わない大人びいた立ち振る舞いと声があったのだ。そのせいもあってか同年代の子供よりキリっとした顔立ちをさらに際だ出せている。



「大丈夫、彼が暴力を振るおうとしても大事にはならなかったよ」

「馬鹿やろう、あいつ・・・ナイフ持っていたぜ」

「それでも、大丈夫。俺はあんな餓鬼には負けないよ」


 見た目の年齢より随分大人びたトーンで少年はそういう。


 翔は陣川の事を餓鬼と言う彼も自分たちと然程年齢の違いがあるとは思えなかった。


「でも、まぁ、お互いなんともなくてよかった。しかし、君は陣川に何を言ったんだい?

 少年はあぁ、そういえばそんな事もあったな。という様な顔をして答える。


「手拭いの下のモヒカン似合ってるぞ、って言ったんだよ」

「モヒカン???」


 後から聞いた話だが、陣川はこの日御祭りで騒ぐ兄集団の中に混じり行動をしていたらしいのだが、兄集団の所謂不良達は大人達の目を盗み酒をかっぱらい、神社の近くの取り巻きの一人であろう家で酒を廻し飲みをしていたらしい。


 そして、所詮子供の飲む酒だ。とても多いとは言えないアルコールの量であっても、彼らの場の空気がどんどん悪乗りに向かわせるのには十分だった。


 その場で陣川は兄とその取り巻きの玩具にされたらしい。最初は陣川の髪の毛は真っ赤に染められ、パンツ一丁にされ踊らされるなど、苦痛以外何物でもない事を要求されたらしい、ついには何処から登場したかもわからないバリカンで半泣きにある陣川を無理やり・・・左右の髪の毛を剃り落とされたという話だ。



「そうか・・・あいつなら顔を真っ赤にして怒るのも無理もないかな・・・」


 大地は少し引きつた様子で言った。


「しかし、まぁ、なんにしても、助けてくれてありがとう。礼を言うよ」


 また、見た目にしては不釣合いな言葉を使って少年は頭を軽く下げた。



「ところでさ、君名前は?まだ聞いて無かったよな」

「そうか、君と会うのは初めてだったかな、僕は・・・」


 その不思議な少年は何かを迷うように一呼吸して続けた。


「・・・芳朗・・・、うん芳朗だ。よろしく」

「こちらこそよろしく、俺は翔、こっちのデカイメガネが大地。そして、後にいるのが結。しかし、このあたりでは見ない顔だね」

「それは無理も無いね。・・・うん・・・そう、僕はこの連休に祖父の家に遊びに来ただけだからさ」

「そっか、このあたりに来るのは初めて?」

「えぇっと、うん、そうだよ」

「よかったら案内しながらこのあたりを一緒にまわるかい?」

「そうだな・・・」


 芳朗は一瞬考えるように一呼吸おいて続けた。


「じゃぁ、頼もうかな、みんなで回ったほうが楽しいだろうしね」

「もちろんだとも、俺らに任せてくれ」


 翔は親指を立てて芳朗に向けて見せた。


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