プロローグ
三篇構成で書き上げる予定ですが、初めて書く小説なので至らない部分はあると思いますがてきとーに読んでもらえれば嬉しいです。
久しぶりにこの町の地に足をつくと、十数年前の景色とさほど変わらない町並みが俺の視界に広がった。
例年より少し暑さが残る初秋、バス鉄道制服が長袖に衣替えされたばかりであろう運転手が首の襟を少しつまみパタパタとしている。
俺は彼に簡単にお礼を言ってバス停の看板に目を向けた。そこには芳賀神社前、と書かれた丸いサインが立ってる。横には古びたトタンにで組み上げられているオープン型の待ち合い所と三人がけのベンチがある。今までバスを待っていた人を日差しや雨から守り、腰を休ませていたのだろう。
しかし、設置されてから何年経ったのかわからないが塗装はほとんどハゲ落ち、その代わりに錆の赤が所々それらの下から浮き出ている。誰も掃除する人がいないのか、柱や設置型のベンチの端々には緑色のコケが生育している。
町並みの大部分は変わらずとも、時間の経過を感じざるをえないバス停のベンチに手を触れて俺は、大人になったんだなぁ、と一人呟いた。
道路を挟んだ反対側には鳥居があり、その奥には石段が延びている。左右には木々が囲み、まだ紅葉の気配を感じさせず青々としている。近くに中学校舎があるせいか運動部の生徒たちがこの神社の石段を走り込みのトレーニングに使っている。この日も土曜日だというのに部活動に精を出す生徒が「ファイオーファイオー」と声をかけながら走り込みを続けていた。
神社自体は何時頃からこの地に構えているのか詳しくは知らないが、本家からそれほど離れていない分家の筋の家元らしく、何百年も前からこの地にあったらしい。
そのせいもあってかこの石段が曲者で、かなり急な作りになっている。見た目より登るのが辛く息を切らしながら、なるほど、これは運動部の基礎トレーニングには持って来いだな。などと考えながら登った。
石段の天辺まで着くと道路に面したのものよりひとまわり大きな鳥居があらわれ、その真ん中には「芳賀神社」と書かれた看板が掛けられている。これをくぐると正面に神社本殿が見え、左手に手を清めるための水場がある。右手には樹齢何年か想像できない神木がしめ縄をこしらえどっしりと構えている。
子供の頃はなにも感じなかったがこの年になってみると、なにやら不思議な神々しさが見てとれる。誰かに見られているような。しかし、それは嫌な視線では決してなく、見守られて安心できる。そんなようなものに。
毎秋、この神社では御神輿を担ぐお祭りが行われる。しかし、小学校を卒業して以来この土地に戻ってきていないので、当然、それ以来行ってはいない。それでも、花火大会などで出ている露店は今でも好きで、自分とは関係の無いお祭りでも、見かける度に何か購入し、昔を思い出しながら口に運ぶのだ。
約束の時間を確認するために、多少古いながらも小学生の時から着けている機械式の腕時計に目をやると、五分ほど残っている。
俺は今日、何年ぶりかに会う幼馴染に合うために芳賀神社に来ているのだ。小学校の時にすごした団地はここから十五分ほど歩いた所にあるのだが、その時はこの道のりが何故だか遠くにあるように感じたものだ。
本殿の入り口階段で座っていると二つの人影が鳥居の境界線を跨ぐのを見た。自分がよく知った顔・・・のはずだが記憶にある物とは随分違った。
それはそうだ、十年ぶりに会う幼馴染なのだから、俺の記憶の中にある二人は中学に上がる前の、つまり、小学生の姿なのだ。
「翔、久しぶり、今日は遅刻せずに来れたみたいだな」
少し小柄な男は鳥居から早足でこちらに歩み、右腕でオッスのポーズをしながら近づいて来た。髪の毛は短髪にし、清潔感がある。それに対して不釣合いとは言わないが、長袖のTシャツにノースリーブのベスト、そしてカラフルなネクタイにチノパン。豚鼻のついたリュックを背中に担ぎ、いかにも大学生を代表するコーディネートに身を包んでいる。
「いつの話をしているんだよ、お互いもう成人式をとっくに過ぎた大人だぜ。大地」
「確かに。何年ぶりだ?小学校卒業以来会ってないから十一年も経つのか」
今年で二十四歳、翔と呼ばれたのは俺の名前だ。そして目の前にいるのが大地。昔の友人を目の前にして薄らいでいた記憶が徐々に蘇っていく。
「しかし、あれだ。ゆーちゃん美人になったもんだな」
俺は大地の後ろに一歩遅れてこちらについた女の子に向けて言った。
「久しぶり、そう言ってもらえて嬉しいわ。それに、そのゆーちゃんって言われるの、すごく懐かしい」
ふふ、と笑う俺がゆーちゃんと呼んだた女の子は結。
彼女はすこし栗色がかった肩までかかるセミロングの髪の毛の端を触りながら言った。彼女の爪は清潔に切りそろえられている。この世代の女の子には珍しくマネキュアも塗られておらず、清潔に保たれている。透き通った肌にくりくりとした目、ほほにはチークだろうか、ほんのりピンク色がのっている。首にはよく手入れをされているのだろう、ブランド物かどうかは俺には判断つかないが、小さな輝きを放つ小さなダイヤがはめ込まれているネックレスだ。
俺の記憶の小学生のゆーちゃんには、化粧をしているゆーちゃんは居ない。だから、美人になったなっていう一言は本心から出た言葉である。しかし、このふふって笑いかたは、外見は大人に変わったとしても、昔のままでひどく懐かしい気持ちにさせてくれる。
それから三人は思い出話と簡単な近況を交えつつ立場話を続けた。いかにも大学生ルックな割りに、このバッサリと清潔感がある大地の髪型は、今年大学院を卒業するので就職活動中なのだとか。結は今の職場は楽しいながらも大変なんだよー。とナースの仕事に追われながら過ごしている事だとか。俺の知らない二人の事を聞くと余計に十数年の時間は確かに過ぎているのだなと思わされる。
そして、大地が話を切り出した。
「ところでさ、スコップは持ってきた?」
「あぁ、もちろん持って来たぜ」
予めに準備しておいた園芸用の片手スコップを鞄から取り出し、大地に手渡した。
「サンキュ、じゃぁ、始めようか」
俺たちが今からしようとしている事。それは小学生の時に三人で埋めたタイムカプセルなるものを掘り起こす事だ。
俺は記憶の良いほうではなく、あの時に何を中に入れたか覚えていない。この三人で集まってから少しずつ記憶が戻っているようなきがするのだが・・・中身の内容は一向に思い出せない。いや、思い出してしまっては、タイムカプセルの意味が全く無くなってしまう。十数年前に俺たちが仕掛けた物が二十四歳になる俺たちにしっかり働きかけ、本来の目的を果たす為には俺の脳が十数年かけて選択した「忘れる」という行為は正解なのだろう。
そんなことを考えていると、結が神木に近づき幹の根元をなにやら確認し、地面を指しながら俺たち二人を呼ぶ。
なにやら目印なるものを俺たちはあの時につけておいたのだろうか。
そこは、勉強の成績がよかった結が覚えていたのだろう。大地と俺は結のいる所に向かう。
「確かにここなんだな」
「うん、神社の縁側の柱と母屋の扉の交わるところ。そこから神木向かって十歩のところ、ここのはずよ」
「わかった、ひとまず掘り起こしてみよう」
大地が園芸用シャベルを地面に突き刺しは砂を横にやるも、なかなか目当てのものは出てこない。場所が違うのか。それとも思った以上に深い所に埋めてあったのか。
三人の目にすこし不安の色が出てきた時に大地のシャベルに石か、それとも金属かなにか硬い物が当たった音がした。
三人は掘り起こした穴を覗き込むと、そこには埋まっていたのはステンレス製の容器で、タイムカプセルだ。と三人は確信した。
何を俺達は入れたのだろう。どうせ小学生のやる事なのだから、たいそうなものは入ってはいまい。しかし、当時はものすごく大切にしていたものだろう。もしくは、メッセージか何かを残して入れたのか。
おぼろげな記憶に期待しつつ、俺たちは円柱形の容器に本体と蓋の間にボロボロになったテープで止めてある箱を土の中から引っ張り出した。
「ふふ、なんだかお粗末な封の仕方ね」
結はそのタイムカプセルに目をやり笑った。
蓋には随分消えかかっているが何か文字が書いてある。しかし、読めない事は無い。三人が目を凝らしてみると
あけたら しけい !
の文字が読み取れる。
よくある小学生が書きそうな事だ。三人ともクスリと笑った。
大地がそのテープを剥がすと思っていたより硬いようだ。ステンレスとはいえ、砂利やら年数経過による劣化で本体とくっついているのだ。
俺と大地で何とか抉じ開けると中から四つの箱と何かメモ書きのような物が出てきた。
俺は何故四つ?と思いながら記憶を探りつつも二人に目をやると、二人も記憶に無い。といった顔で首を傾げている。
小箱はそれぞれ名前が書かれていた。さっきのステンレスの箱と同様に小学生らしき汚い字で「しょう」「だいち」「ゆい」と、そしてもう一つにも名前と思われる何かが書かれている、しかし、ほとんど消えかかり読めなかった。
大地がすこし湿っぽいメモ紙を手に取り広げる。
ちゅうい
この たいむかぷせるは ただの はこではない
じゅうねんご このはこ を きみたち さんにんが あける
のは きけんかも しれない よくかんがえろ !
ここに じょうけんを しるす!
いち やりなおしたいこと をきちんと かんがえろ
に いまから おこること を しんじろ
さん かぎを なくすな
×××
最後のこのメモ書きを残した人物の名前だと思われる部分は擦れて読み取れない。長い間地中に埋っていたのだ、きっとあんなお粗末な封しかされてないステンレスの箱では雨水が染み込んだで劣化した。と言う事も十分ありうる。
「なんだこれ、多分最後の三文字は誰かの名前だろうけどよく読み取れないなぁ、誰が入れたっけ」
大地が不思議そうにいう。
「私もこんなの入れた覚えはないし、それに、あれ、よく思い出せない・・・うーん」
結も同様に首を傾げている。
所詮は小学生のやる事だ、タイムカプセルに危険だとか気をつけろだとか適当な事を書いて楽しんでいただけじゃないか、とも思い。俺は自分の名前の書かれた箱を取り上げ、蓋に手を掛けた。